西田宗千佳のRandomTracking
第468回
中身は“11世代”で“お値段以上”の価値、第二世代iPhone SE実機レビュー
2020年4月22日 22:00
第二世代iPhone SEのレビューをお届けする。iPhone SEは、初代モデルが2016年3月に発表されて以降、毎年発表される「メインストリーム」のiPhoneとは別の存在として扱われて来た。
では、第二世代はどうなるのだろうか? 実機で確かめてみた。
なお、新型コロナウィルスの感染拡大防止に伴う緊急事態宣言発令中につき、いつものiPhoneのレビューのように、方々で通信速度や写真撮影のテストを行なうことができていない。自宅近辺での、ごく限定的な環境でのテストとなっている点をご了承いただきたい。
iPhone 8のデザインを流用、通信速度の速さに驚き
すでにいくつもの記事が出ているように、第二世代iPhone SEは「iPhone 8世代のボディにiPhone 11の機能を入れた」ものである。実のところ、iPhone 8と第二世代iPhone SEはサイズ・デザインがまったく同じであり、iPhone 8用ケースがそのまま流用できる。
8世代といっても、大型で付加価値モデルだった「iPhone 8 Plus」の方のボディは利用されていない。よりスタンダードなサイズのものが採用された、ということだろうか。筆者は普段「iPhone 11 Pro Max」を使っており、久々にこの大きさのiPhoneを触ったが、やはり片手で持ちやすい。「初代SEから大きくなってしまった」という不満があるのも理解はできるが。
ただ、中身はまったく違う。
過去に本連載で初代iPhone SEのレビューも掲載しているので、そちらと比較していただけるとわかりやすい。
まず違うのはCPU……ではない。
一番違いを感じるのは「速度」だろう。今のスマホでは「キャリアアグリゲーション(CA)」を使った高速化が当たり前だ。スペックで大きくうたわれるのはカメラやSoCなので気にしていない人もいるかもしれないが、CAによる高速通信が、現在のスマホの快適さ向上を支えている。
2016年のレビューでは、通信速度が次の図のようになっていた。
CAのない初代SEで最高50Mbps前後、CAの導入が始まった頃のiPhone 6s Plusだと最高100Mbps前後、というところだろうか。
今回はご存知の通り都内を歩き回るわけにもいかないので、ピンポイントに自宅(東京都大田区)での速度を測った。結果は、iPhone SEが100Mbpsから130Mbps程度、iPhone 11 Pro Maxが同様に100Mbpsから150Mbps程度だった。最高値の違いはスペック差というより計測値のブレだろう。
過去と違い4Gのインフラ整備も進んでいる。地域によって速度は大きく異なるが、それでもCAによる高速化が進んでいるのは間違いない。「完成度の高い4Gモデルの最終形」として第二世代iPhone SEが長く売られ続けるとすれば、通信速度の改善は重要なポイントだ。
なお、Wi-Fiも最新の「Wi-Fi 6」仕様に変わった。自宅のアクセスポイントをWi-Fi 6に変えた人、変える事を検討している人には有用なことだと思う。
性能は「11譲り」、ポイントは「カメラをどう評価するのか」
ではSoC性能はどうか。
今回も、定番ベンチマークソフトの「GeekBench 5」で計測している。
結果はシンプル。iPhone 11 Pro Maxと第二世代iPhone SEの差はとても小さい。マルチコア性能・GPU性能で若干iPhone 11 Pro Maxの方が高性能になっているが、たいしたものではない。おそらく同じSoCで、動作クロックも同じではないか。
唯一のはっきりとした違いは搭載するメモリー量だ。iPhone 11 Pro Maxは4GBだが、第二世代iPhone SEは3GBとなっている。もちろん多いに越したことはないが、普段使う上で致命的な差にはならないだろう。
もうひとつ、大きな違いは「カメラ」だ。
これもまた難しい。
まずはサンプル写真をご覧いただきたい。iPhone SEとiPhone 11 Pro Maxが通常使うカメラでの画質には、大きな差が見受けられない。画角はiPhone SEの方が若干狭くなっているようだが、並べて比べないとわからない程度だ。iPhone 11シリーズのカメラは現在のスマホカメラの中でもトップクラスの出来。最上ではないが、確実に安心して使える高いクオリティだ。それを引き継いでいるなら、同様に第二世代iPhone SEのカメラ画質も安心できる。
サンプル写真をまとめたZIP(※HEIFファイル/19.8MB)
とはいえ、差はやっぱりある。「複眼」でないことが大きい。
超広角での撮影は出来ないし、ポートレートモードで人間以外を被写体に「ボケ」のある写真を撮影することもできない。夜景をキレイにする「ナイトモード」もない。
なければ「そんなものかな」と思ってしまうのだが、筆者は日常的にiPhone 11 Pro Maxを使っているため、「あ、このシーンは苦手なのか」と思ってしまう。この自由度の差が価格の差の一因、とも言える。
「マスク必須の時代」にTouch IDは向いているが……。お手軽でコスパの良い「長く売れるモデル」だ
第二世代iPhone SEは顔認証を持たず、指紋センサー付きホームボタンである「Touch ID」搭載製品だ。
現在はマスクをして外出することが多くなっているので、顔認証が使いづらい。そういう意味では「Touch IDは時代に合っている」ということもできる。できるが、正直それは偶然だし、言い過ぎだろう。
マスクをかけない自宅内で使っているなら、やっぱり顔認証の方がずっと便利だ。今の状況に合わせてスマホを選ぶのも一つの考え方だが、長い目で見れば、やはり「指紋認証よりも素早い顔認証」の方がいい。アップルの誤算は、いつまでも「顔認証と指紋認証を同居したモデル」を作れずにいることだろう。Androidにはそういうモデルがあるし、万能性が高いのは事実だ。
今回に関しては、「長く売る低価格モデル」を作るのが狙いであったため、まったく新しいデザインやボディ構造を導入しづらかったのだろう。
同様の課題は「サイズはこれでいいのか」ということだ。
おそらく、今のトレンドからいえば「世界的に多数売れるモデルとして、極端に小さなモデルを作る」のは難しい。ニーズとして「片手で使えることを重視したモデル」を求めているのは、文字入力にQWERTYを使う人が少ない日本の独自性であるし、またハードウエアスペックとしても、「性能を上げつつバッテリー動作時間を維持する」には、それなりに大きなバッテリーを積む必要がある。
それでいて低価格モデルを作るには、新しいボディデザインを起こすのではなく、既存のデザインと設計ノウハウの流用が必須になる。
そうした世知辛い現実も見えてしまうが、どちらにしろ、第二世代iPhone SEが「お手頃価格でいいモデル」であることは揺るがない。はっきりいえば「お値段以上」の価値がある。
スマートフォン市場で続く低価格指向に対抗し、Androidへ逃げる顧客を振り向かせるには、これだけのコストパフォーマンスが必要だった、ということではないか。「お値段以上にお買い得」であることからは、そうしたアップルにお家事情も透けて見える。