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第469回

マイクロソフトの完全ワイヤレス「Surface Earbuds」、第二世代ヘッドフォンも試す

「Surface Earbuds」(右下)と「Surface Headphones 2」

マイクロソフトがこの春に発売した2つのワイヤレスヘッドフォン、「Surface Earbuds」(21,800円)と「Surface Headphones 2」(29,480円)のレビューをお届けする。

オーディオメーカー以外、ITプラットフォーマーがヘッドフォンを手掛ける流れは、もはや珍しいものではない。マイクロソフトも、2018年末に初代「Surface Headphones」を発売して以降(日本市場への投入は2019年1月)、ブランド定着と定番化を模索している印象が強い。

昨年1月には、初代「Surface Headphones」のレビューをお届けしているが、今回の新製品も様々な他社製品との比較も含め、その実力を確かめてみよう。

大柄な「Surface Earbuds」、課題は「装着感」

まず、完全な新顔である「Surface Earbuds」から見ていこう。

Surface Earbudsは完全ワイヤレスで、タッチパッドを搭載したヘッドフォンだ。その性質上、スマホやPCとのアプリ連動が重要になっている。普通のヘッドフォンとして使うなら、Bluetoothで接続できる機器ならどれでも問題なく使える。ただし、後述するアプリ対応の観点から、Windows 10、Android、iOSでの利用が推奨される。

Surface Earbudsは、いわゆる完全ワイヤレス型ヘッドフォン。タッチパッドを備えた大柄なイヤピースが特徴的
Surface Earbudsの充電ケース。中央にはWindowsのロゴが
ペアリング用ボタンはケースの底面に

特徴を語る前に、パッケージを開けるところから始めよう。それが特徴的をもっともよく示しているからだ。

真四角なパッケージを開けると、当然そこにはSurface Earbudsがある。これを取り外すと、写真のような表示が。

「装着感を確認しましょう」

本体を取り出すと「装着感を確認しましょう」という文字が

さらに蓋になっている部分を外すと、中はこんな感じ。充電用のUSB Type-Cケーブルと、2種類のイヤーパッドが現れる。本体には最初から「M」のイヤーパッドが付いているので、S・M・Lの3種類があることになる。

箱の奥にはイヤーパッドとUSB Type-Cのケーブルが入っている

実は、取り外した紙は簡易マニュアルになっていて、接続方法や「耳への装着方法」などが書かれている。アプリのダウンロードURLが書かれたQRコードもある。

Surface EarBudsが「装着感」を強調するのには訳がある。一般的なインイヤー型のヘッドフォンとはちょっと違う作りになっており、それであるがゆえに「装着感」を強調する必要があるのだ。

Surface EarBudsは、他の多くのヘッドフォンとは異なり、耳の穴にヘッドフォンを突っ込むような構造にはなっていない。音導管は入り口くらいで止まり、ヘッドフォンのボディを耳の外側(耳介)のひだの部分にひっかけるような感じにして、「耳介全体で支える」ような感じで装着する。

穴の見える「音導管」を耳の穴に入れるが、奥までは入らないし、それでヘッドフォンが固定されるわけではない。ボディを耳のひだにひっかけて支えるような構造だ。

これがなかなか慣れない。ちゃんと固定されるには、「イヤーパッドが耳のサイズに合っている」、「装着のコツが分かっている」という2つのハードルがある。

耳の穴に入れるわけではないので、従来のヘッドフォンのイヤーチップのサイズとはまた関係していない。耳の穴のサイズは小さめでも、耳自体のサイズは大きめで「L」のパッドがいい人もいれば、真逆の人もいるだろう。左右で差があるかもしれない。意外と左右非対称であることも多いようだ。

つける時には、音導管の部分を下にして耳の穴に入れてから、耳介に引っかかるようちょっとひねる。うまくいくと、安定する位置が見つかるはずだ。

ただ、筆者はこれに難渋した。

どのイヤーパッドを使ってもなかなか安定しないのだ。イヤーパッドを使う場合、「L」にして、マニュアルの指示とは逆に「上」にひねり、耳介の上のほうのひだ(耳介輪)にひっかけるとなんとか安定した。マニュアル通りに装着する場合には、あえてイヤーパッドは外してつけた時が圧倒的に安定した。プラスチックのボディが直接耳にぶつかることになるが、耳へのあたりが強くなるわけでもなく、音的にもほとんど影響はなかった。イヤーパッドを使わないと、汚れが増える可能性もあるし、プラスチックの角が耳に当たることになるので、痛みを感じる人もいるかもしれない。推奨される方法とは言えないかもしれない。

と、このように難渋したのは事実なのだが、ひとたび安定する付け方がわかると、非常に快適であるのは間違いない。装着にも時間はかからないし、耳の穴への圧迫感はもちろんない。それでいて、AirPods Proよりもさらに安定性は高いように思う。自然さも同等だ。頭を振っても、音楽に合わせて踊っても落ちない。

この装着感が、ある意味で最大の価値だ。

逆に言えば、耳に合わないと価値が低くなる。「どうにも安定しない」、「装着に時間がかかる」場合には、正しく装着できていない、といっていいだろう。イヤーパッド周りの作りは、どうにもまだ「経験不足」感が否めない。

装着した写真をご覧いただきたい。サイズが大きいので、つけていると相当目立つ。耳にコインを入れているようだ。操作用のタッチパッドを重視したデザインであるが故のことだが。ライバル2機種と比べると相当に目立つ。これは好みが分かれるだろう。

順にSurface Earbuds、AirPods Pro、WF-1000XM3。耳をどのくらい覆うかが随分違う
それぞれの製品の大きさはこんな感じ。耳に入れる長さの分、WF-1000XM3が意外と大きく、次にタッチパッドが目立つSurface Earbuds、という感じだ

サイズという点では、充電用ケースにも注目しておこう。意外なことに、充電用ケースのサイズ自体はボディほど大きさが目立たない。というか、今回比較した機種の中では、ソニーのWF-1000XM3がちょっと大きすぎるのだ。Surface Earbudsのケースは、ポケットなどへの収まりもいい、ちょうどいいサイズだと思う。充電やアップデートには、付属のUSB Type-Cケーブルを使うようになっている。

それぞれの充電ケースを比較。やはりWF-1000XM3が大柄で、Surface Earbudsはこの種の製品としては標準的、というかコンパクト

ちょっと気になったのは、ケースの中へのヘッドフォンの収まりが良くないことだ。円形であるがゆえに上下の区別がつきにくく、慣れるまでキレイに「カチャッ」と収まりにくい。ズレていると充電も行なわれないので、ここは少しケースの形状を工夫して欲しかった。

実は「テレワーク」向き? 音楽以上にビデオ会議に向く

次は肝心の音質などについて比較していこう。

今回比較したのは、アップルの「AirPods Pro」とソニーの「WF-1000XM3」だ。どちらもベストセラーで価格帯も近く、比較対象としては妥当だと思う。

ひとつ、スペック上大きな違いがある点を指摘しておきたい。他の2つは「ノイズキャンセル付き」であるのに対し、Surface Earbudsはノイズキャンセルがない。いわゆる開放型に近い構成だ。このクラスだとノイズキャンセルを期待したくなるが、実はその辺、狙いが異なると言った方が適切である。

というのは、わりと周囲の音が聞こえやすいのだ。音漏れはそうでもないが、音量を絞って使っていると、人の話し声なども聞こえる。オフィスなどで「周りも気にしながら使う製品」なのかな、という印象だ。

だが、今のノイズキャンセル型ヘッドフォンだと、周囲の音を取り込んでわざと聞かせる「外音取り込み」系機能を備えているのが一般的で、それらを使うなら、周囲の音が聞こえる構成である必要もない。

というわけで、周囲の音をシャットアウトして使うには、Surface Earbudsは向かない。

では、純粋な音質はどうだろう?

実のところ、悪くない。「傾向が違う」と言った方が適切だろうか。AirPods ProやWF-1000XM3に比べると、音の解像感が足りない気はする。しかし、低音の出方はより好ましい。元気な音、と言ってもいいかもしれない。

Surface EarbudsはaptX HDにも対応しており、対応するPCやAndroidを使うと音質がアップする。とはいえ、それでも解像感も含めた音質の印象は、さほど変化しない。低遅延などを含めたトータルでのクオリティは上がっている感じなので、PCやAndroidでの利用に向いている、という印象は受ける。

面白いのは、マイクを使った「通話音声」は、他の2つより良好だと感じた点だ。電話やビデオ会議をやってみたが、その用途では他の2つより向いている。

音質だけでなく、バッテリー動作時間の点でも「会議向き」だ。耳に着けっぱなしで使った場合、Surface Earbudsのバッテリー動作時間は8時間。AirPods Proの4.5時間、WF-1000XM3の4時間(ノイズキャンセルオンの場合)に比べグッと長い。

自分の経験で言えば、AirPods ProやWF-1000XM3の場合、ビデオ会議を2つ連続でこなすと、バッテリーの持ちが気になってきた。だがSurface Earbudsの場合、ほぼ1日安心して使える。

こうした点を考えても、単純に「オーディオを集中して聴く」というより、「仕事しながら音楽を聴き、会議や通話にも使い続ける」用途に向いている。マイクロソフトでSurface製品の責任者を勉めるパノス・パネイ氏は、「Surfaceブランドであるのはプロダクティビティに集中するための製品、という意味」とコメントしていたが、まさにその通りの内容、と言って良さそうだ。

「Surface Headphones 2」は音質・使い勝手ともに大幅進化

一方、「オーディオ」という意味で明確に大きなジャンプアップがあった製品もある。オーバーヘッド型のノイズキャンセルヘッドフォンである「Surface Headphones 2」だ。第二世代になるわけだが、こちらはとにかく「音質の変化」が著しい。

Surface Headphones 2。テストしたのはブラックのモデルだが、ライトグレーのモデルもある
ライトグレーが初代モデル、ブラックが二代目の「Surface Headphones 2」
つけてみたところ。デザイン自体はシンプル。ブラックになってより落ち着いた印象に
付属のケース。中にはオーディオケーブルやUSB Type-Cケーブルなどを一緒に収納できる

初代のSurface Headphonesは、「初めての製品としてはがんばっている」と評価できる感じの音だった。解像感不足はあったし、ちょっと低音が強い印象もあった。だが、「使い勝手のいいワイヤレス・ノイズキャンセルヘッドフォン」としては十分おすすめできるレベルだったと思う。

それが、第二世代では音質面での改善が著しい。高音から中音にかけて、ベールがなくなったような「スッキリ感」が生まれた。低音が出なくなったわけでもなく、全体のバランスが良くなった印象だ。

Surface Headphonesは、左右のハウジングが「ボリューム式」になっているのが特徴だ。左のハウジングを“回す”とノイズキャンセルの効きと外音取り込みの調整が行なえて、右を回すと音量が調整できる。これが非常に直感的で使いやすいのだが、この点は第二世代でもそのまま引き継いでいる。

ハウジングの外周部分がボリュームになっている。左耳側を回すとノイズキャンセルの効きが、右耳側を回すと音量が変わる

初代モデルの場合、ボリューム式である点は非常に良かったのだが、他の部分でツメが甘かった。

例えば、電源ボタンがボディと「ツライチ」に加工されていて、どこにあるのかが指ではわからなかった。ペアリング以外では「電源ボタンの長押し」を排除し、ボタンを軽く押すだけで電源のオン/オフができたのは良かったのだが、電源を切る時にはわざわざ「目視」しないといけなかったので一手間かかった。

だが第二世代では、電源ボタンがちょっと出っ張った形になったので、指先の感覚で位置を把握し、電源が切れる。これはとても良い。

電源ボタンがほんの少し「出っ張る」ようになったので、指先の感覚だけでオンオフしやすくなった

初代モデルは、ハウジングが「反時計回りに180度」しか回らなかった。そのため、首にかけた時、イヤーパッドの「内側を外に向ける」状態でしか使えなかった。これも気になっていた。それが第二世代では、「時計回り・反時計回りにそれぞれ180度」回るようになったので、首にかける時にもイヤーパッドの「内側は体の側に向ける」かけ方ができた。細かいことだが、これもユーザーの声を聞いての変更ではないか、と思う。

初代モデルのもう1つの欠点としては、「コーデックとしてSBCしか使えない」ことがあった。だが第二世代では、Surface Earbuds同様、aptXにも対応した。これも、音質面ではプラスだ。

Surface Earbudsが「初代モデルの苦悩」を感じる一方、Surface Headphones 2は「二世代目の洗練」を強く感じる。手放しで多くの人に勧められるのはどちらかと言えば、やはりSurface Headphones 2だ。

アプリで使い勝手を工夫するのがSurface流か

これら2つのヘッドフォンは、PCやスマホに入れるソフトとの連携が重視されているのも特徴だ。単にペアリングして使うだけなら専用ソフトがなくても使えるが、ペアリングを簡便化する上でも、設定やアップデートを簡便化する上でも、インストールを強くお勧めする。

アプリは「Windows 10用」「Android用」「iOS用」の3種類が用意され、どれも名前は「Surface Audio」。以前は「Surface Headphone」という名前があったり、「コルタナ」アプリがその役割を担っていたりしたが、今回からアプリの関係も整理されたようだ。こちらの方がわかりやすい。

iOS用の「Surface Audio」アプリ
Windows 10用の「Surface Audio」アプリ。機能は、OSが違っても大差ない
機器登録などはアプリ経由で行うのが簡単。iOSのみ、OSが持つBluetooth接続設定の制約から、若干設定が面倒になっている

シンプルなアプリだが、イコライザーの設定やファームウエアのアップデートなどを行なえる。

ヘッドフォンのファームウエアアップデートは、アプリから行う。PCの場合、USBケーブルで接続して素早く行える
利用するコーデックの設定やタッチコントロール利用のオンオフなども、アプリで設定

また、アプリ内から「ヘッドフォンにペアリング設定している機器」を選び、その中から「実際につないで使いたい機器」を2つまで選んで使えるのもユニークだ。複数の機器を持っていて、ヘッドフォンをつなぐデバイスを切り替えるのは意外と面倒なもの。Surface Audioを使うと、各機器のBluetooth設定を呼び出すことなく、アプリ側から使うデバイスの切り替えができる。マニアックな点だが、良い目のつけどころだと感じる。

こうした部分も含め、「ソフト的に快適な使い勝手を目指す」のが、Surfaceのヘッドフォンの狙いではないか、と感じる。前出のように、Earbudsは未成熟な部分が目立つ製品だが、Headphonesが第二世代で洗練されたように、次の世代では改善される、と期待したい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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