西田宗千佳のRandomTracking

第520回

57,800円からの第3世代iPhone SE、その実力は!?

iPhone SE(第3世代)。色はミッドナイトだが、面からみるとどの機種も「黒」だ

3月18日に発売となる、iPhone SE(第3世代)のショートレビューをお届けする。

ハイエンドではないがより多くの人が日常的に使うiPhone、それが「SE」だ。これまでの例に倣うなら、商品寿命も「1年」ではなく2年以上になると考えられる。

すなわち当面のスタンダードとなるわけだが、どんな製品になっているか詳細をチェックしてみたい。なお、価格は、ストレージ64GBが57,800円、128GBが63,800円、256GBが76,800円だ。

デザインは同じだがカラーリングは変化

2020年発売の「第2世代」から、iPhone SEのデザインは変わった。今回もそのデザインを引き継いでいて、カラーバリエーションも「白」「黒」「赤」と同じに見える。

だが実際には、第2世代と第3世代ではそれぞれ色合いが異なる。ストレートな色から少し味わいをつけた色になった、というところだろうか。

アップルの公式ページより。左が第3世代で、右が第2世代。同じような色に見えて、色合いは変わっている

今回テストしているモデルは「ミッドナイト」だが、黒というよりは、名前通り「深夜の空」のような極めて濃い青だ。一方で、サイドやフロントは「黒」で、ガラス部のみ少し色が乗っている……という感じの仕上げになっている。

「ミッドナイト」。明るいところでみると、ガラス部分が非常に濃い青であることがわかる

iPhone 6(2014年)から続くデザインなので、ディスプレイ周りはさすがに「狭い」と感じるが、デザインを変えずにコストを下げた機種を長く提供する、というアップルの方針なのだろう。ここで画面デザインを変えると、解像度バリエーションがまた増えるので、開発への負担が上がる、という事情もある。

左から、iPhone 13 Pro Max、iPhone SE(第3世代)、iPhone 13。画面サイズはやはり小さく感じる

同じタイミングで、iPhone 13・13 Proシリーズの新色も貸し出されているので、並べてみてみよう。新色は「グリーン」系。13がストレートなグリーンで、13 Pro系はもう少し落ち着いた「アルパイングリーン」になっている。13 Proがより、あのアニメに出てきそうな色になった感じもする。

背面。左から、iPhone 13 Pro Maxの新色である「アルパイングリーン」、iPhone 13の新色「グリーン」、iPhone SE(第3世代)の「ミッドナイト」。アルパイングリーンのiPhone 13 Pro Maxはかなり「むせる」色合い

通信・動作速度の向上で「サクサク」動く

仕上げや使い勝手は、正直これまでのSEと大差ない。

サイド。この辺の仕上げは前モデルとあまり変わらない

ただ、通信速度・動作速度は上がっているので、全体的に「サクサク」動く感触を受ける。

ベンチマークソフト「GeekBench 5」のテスト結果をみると、同じ「A15 Bionic」を使っているだけあって、iPhone 13 Pro Maxと比較した場合、速度があまり変わらない。CPUのマルチコア性能とGPU性能では差があるものの、価格差を考えれば妥当なところかと思う。

GeekBench 5によるCPUテストの結果。上がiPhone SEで下が13 Pro Max。マルチコアの値では13の方が上だ
GeekBench 5によるGPUテストの結果。上がiPhone SEで下が13 Pro Max。Pro系とはGPUコア数が1つ違うため、Proの方が数値は上

ちなみに、同じくGeekBench 5のテスト結果をみると、第2世代と第3世代では、シングルコア性能が3割、マルチコア性能で5割、GPU性能も同じく5割程度向上している計算になる。

速度という意味では、通信速度も重要だろう。5Gに対応したので、エリア内では通信速度が上がる。

ただ、こちらは当方でのテスト環境の関係もあるのか、iPhone 13 Pro Maxと比較した場合、同じ場所での5Gでの通信速度が劣っていた。それが即座に問題になるような水準ではないが、プロセッサー性能同様、「SEは最高性能のiPhoneではない」ということだろうか。

東京・五反田で、ソフトバンク回線を使った5Gスピードテストの結果。何度か繰り返したが、同じようにSEの方が速度は下という結果が出た

プロセッサー変更でカメラ性能は上がったが「ハードの差」は埋まらず

カメラの機能はどうだろう?

残念ながら手元には、第2世代iPhone SEがないので、直接の比較はできていない。だが、iPhone 13 Pro Maxと第3世代を比較し、さらに、過去(2020年)に撮影した第2世代iPhoneの傾向を比較しつつ考えてみたい。

第2世代iPhone SEは同世代のiPhone 11シリーズに比べ、写真の解像感が多少甘く、色も暖色に傾く傾向にあった。

それに比べると、iPhone SE(第3世代)とiPhone 13 Pro Maxの差は小さい。やはり若干解像感が弱く、色が浅めかとは思うが、過去に比べ差が小さくなった印象はある。暗い場所の描写でも13 Pro Maxの方が忠実だが、好みレベルの違い、といってもいい。

iPhone 13 Pro Max
iPhone SE(第3世代)
iPhone 13 Pro Max
iPhone SE(第3世代)
iPhone 13 Pro Max
iPhone SE(第3世代)
iPhone 13 Pro Max
iPhone SE(第3世代)

第2世代と第3世代のiPhone SEは、レンズ・センサーともに変化していないようだ。そのため、A15 Bionicの採用とソフトウェアの進化によって「若干カメラ画質も上がっている」というのが妥当な見方ではないかと思う。

ただ、機能面は結構違う。

望遠・超広角などでの撮影はできないし、「ポートレート撮影」もiPhone SEはソフトウェアによる再現なので、人のシルエット以外では対応できない。iPhone 13シリーズのウリである「シネマティックモード」でのビデオ撮影もできないし、HDRでの動画撮影もできない。これらはカメラのハードウェア的な制約によるものだ。また、A15 Bionic搭載になったが、RAW撮影にも対応してない。

iPhone 13 Pro Max
第3世代iPhone SE。13 Pro Maxには光学望遠があるので遠くのものもシャッキリ写るが、SEはデジタルズームなので差が大きい
iPhone 13 Pro Max
第3世代iPhone SE。背景にボケを加えるポートレート撮影では、複数のカメラとLiDARを持つ13 Pro MaxとSEの差は大きい
SEのポートレートモードは、第2世代と同じく「人」のみが対象なので、それ以外だと働かない

カメラの付加価値部分はハイエンドのものであり、スタンダードモデルのSEには入らない……というわけだ。

そう考えると、やはりSEは「付加価値は小さいがその時にスタンダートと言える性能を備えているiPhone」であり、それで十分と考えるか否かが選択の分かれ目、ということになりそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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