ミニレビュー

日本発売決定! マイクロソフトの意欲作「Surface Headphones」が使いやすい

CES取材で訪れたラスベガスにて、マイクロソフトのノイズキャンセルヘッドフォン「Surface Headphones」を購入した。昨年10月に発表された製品で、アメリカなどの市場向けには11月に出荷を開始している。価格は349ドル。日本でも1月29日に発売予定で、直販価格は36,980円だ。

Surface Headphonesを装着
Surface Headphones

Surface Headphonesは、マイクロソフトが発売する初の本格的ヘッドフォン製品であり、ボリュームを使った、凝った操作性を特徴としている。どのくらいの使い勝手なのか? 日本上陸を前に検証してみた。 ちょうどソニーのフラッグシップ・ノイズキャンセルヘッドフォンである「WH-1000XM3」を持ち込んでいるので、それとの比較の形でお伝えする。

左がソニーのWH-1000XM3、右がSurface Headphones。サイズはWH-1000XM3の方がコンパクトだ

今回使ったのはアメリカで発売されたバージョンで、テストはすべてアメリカ国内で行なった。一部のアプリケーションについては、ベータ版として公開されているものを英語で利用している。ただし機能については、日本版発売時にも、ほぼ同じものが提供される可能性が高い。

メカニカルボリュームで「音量」「NCの効き」を調整

Surface Headphonesはいわゆるノイズキャンセル(NC)機能搭載のBluetoothヘッドフォンであり、PCはもちろん、iOS・Android・Macなどで利用できる。Windows PCとセットで使うことを想定して作られてはいるのだが、iOS・Androidでも、マイクロソフトの音声アシスタントアプリ「コルタナ」を入れ、連携させることですべての機能が使える。ただし現状では、アプリの言語設定を英語にした時のみ、Surface Headphonesと連携する。各種設定やバッテリー残量などを音声で利用者に伝える機能もあるが、現状では英語・フランス語などへの対応のみで、日本語には対応していない。日本語への対応を期待したい。

では、最大の特徴である操作方法から説明していこう。

一般的なヘッドフォンに見えるSurface Headphonesだが、操作にはかなりの工夫が施されている。左右のハウジングの部分が、メカニカルなボリュームになっているのだ。右が音量調整であり、左はNCの「効き」をチューニングするものになっている。

左右のハウジング部は回転する「ボリューム」になっている。右が音量調節、左がNCの調整に使う

ヘッドフォン側に音量調整の機能を持つヘッドフォンは少なくないが、たいていはボタンか、タッチパッドの上下などで操作する。WH-1000XM3も、右側のハウジング表面がタッチパッドになっていて、上下に指を滑らせることで音量が変わる。これはこれで便利だと思う。

だが、Surface Headphonesのボリュームによる操作はもっと直感的でわかりやすい。ハードウェアとして「動かす」ためにはかなり複雑な機構を組み込まねばならず、その分コストが高くなる。だがマイクロソフトは後発であるためか、こだわったようだ。

NCの効きを変更する機能もユニークだ。Surface Headphonesの左のハウジングのボリュームを前に回すと、NCの効きが3段階に「強く」なっていく。そして後ろへ回すと「弱く」なる。最弱の状態でさらに後ろへ回すと、NCではなく「外音取り込み」モードになる。電話での通話に使うマイクを使って周囲の音を拾い、あえて「ちょっと増幅する」ことで、周囲の状況を把握しやすくするのだ。といっても、すべての周波数帯をそのまま増幅しているわけではなく、人の声に近い周波数だけを大きめにしているようだ。イメージとしては「自分の世界に入り込む」=前に回す、「外に意識を広げる」=後ろに回す、という感じだろうか。

外音の取り込みやNCの効きを調整できるNCヘッドフォンは増え始めている。ソニーのWH-1000XM3の場合、右側のハウジングを手で覆うと音楽は聞こえなくなり、外音がそのまま聞こえる。また、スマホアプリの側からNCの機器と外音(特に人の声)の取り込み量を調整できるようになっている。スマホのセンサーを活かし、つけている人が止まっている・歩いている・走っている・乗り物に乗っているといった状況を把握し、自動的にNCの効きと外音取り込みの設定を変える「アダプティブサウンドコントロール」という機能もある。スマホと連携し、スマホ側から操作するという意味では、ソニーのアプローチの方が進んでいる、といえる。

だが、Surface Headphonesのアプローチも悪くない。スマホを開くことなく、誰もがわかりやすい「ボリュームを回す」というアプローチを使い、その場でNCの効きを変えられるからだ。

実のところ、飛行機に長時間乗っているようなシーンでは、NCの効きを変えたいと思うことは少ないだろう。CAさんの語りかけに答えたい時くらいだろうか。だからソニーは「ハウジングを覆うと外の音が聞こえる」という機能を搭載している。

一方で、オフィスや自宅でなにか作業をしている時ならば別だ。音量を少し抑えめにしておき、NCの効きを調整することで周囲の音を聴き取りやすくし、状況を把握したり、周囲からの問いかけに答えたり、といった使い方ができる。

米マイクロソフトでSurfaceシリーズ全体の開発責任者を務めるパノス・パネイ氏は、昨年筆者のインタビューにこう答えている。

「我々の働き方は多様化し、カフェやコワーキングスペース、オフィスなど、様々な場所で働くようになっている。ヘッドフォンをすることは『集中する』スイッチであり、外部から見て『彼は集中している』ことのアイコンでもある。ボリュームによるコントロールは、誰にでもわかる。なにかに集中する時、ボタンを押したり声で命令をしたりするのは不自然。集中したい時には、操作方法を『考える』ようではいけない」

日本のオフィスだと、ヘッドフォンをしながら作業することを許してくれるところは少数派だろう。だが、コワーキングスペースやカフェならば、音量やNCを細かく調整して使いたい、というニーズもわかるのではないか。実際長時間使ってみると、この操作の良さと、パネイ氏が言いたかったことがよく分かる。

なお、左右のハウジング面は、WH-1000XM3と同様にタッチパッドになっていて操作にも使える。ただし、WH-1000XM3などと違い、「スワイプ」操作は使えない。表面を「タップ」することで再生・停止をコントロールするなど、シンプルな操作に限定されている。これはこれで使いやすい。

音質とNCの品質は及第点、対応コーデックは「SBCのみ」

では、NCヘッドフォンの命である「音質」と「NCの効き」はどうだろう?

結論を言えば「最高ではないが悪くない」。

まず、音質について。同じようにiPhoneとAndroid(Pixel 3 XL)を使い、WH-1000XM3とSurface Headphonesで聞き比べを行なった。

高音部のきらめきやディテール感でいえば、WH-1000XM3の方が一歩上だ。だが、Surface Headphonesも善戦している印象をもつ。特になにかを強調したような味付けもなく、ストレートに聴き疲れしにくいヘッドフォンを目指したもののように思う。

ただ、これがSurface Headphonesの最大の弱点なのだが、対応コーデックが他のハイエンドNCヘッドフォンに比べ少ない。LDACやaptX HDのようなハイレゾ級コーデックに対応していないだけでなく、aptXやAACにも未対応。基本コーデックのSBCのみの対応。約350ドルの高級ヘッドフォンとして、SBCのみの対応は見劣りする。

とはいえ、音質に関していうならば、ハイビットレートのSBCはaptXやAACに対し、そこまで劣る存在ではない。ただそれは、ストリーミング・ミュージックなどを聞く限りの話だ。ハイレゾ再生などを視野に入れるなら、残念な仕様と言えるし、再生遅延の面でもaptXに比べ不利だ。電波状況が極端に悪く、ハイビットレートSBCでの伝送が難しくなるような環境では、他のコーデックを使わない分、音質劣化や音切れが目立ちやすいだろう。

WH-1000XM3の場合、圧縮によって削られた帯域を補完して再生する機能も内蔵しており、これも音質の差に影響している。

ただし、Surface Headphonesはファームウェアをスマホアプリからアップデートできる構造になっており、コーデックの追加も不可能ではないという。マイクロソフトにはぜひ検討してほしい。

アプリからヘッドフォンのファームウェア更新が可能。米マイクロソフトは一部メディアに対し「ファームウェアでコーデック追加も可能」とコメントしている

NCの効きは、カタログ上は「40dB分のノイズキャンセル効果」とされている。ヘッドフォン形状による遮音効果を含んだ値で、NC機構で実現できるアクティブNCの性能としては30dB分とされている。実際に聞いてみた範囲では、やはりWH-1000XM3に比べると「ちょっとノイズが残る」感じはする。ただ、WH-1000XM3は現在市場にあるNC製品の中でトップクラスの性能であり、「出来過ぎ」とも言えるものだ。それと比較し「ちょっと残る」程度なら、「まあまあの性能」と評価してもいいと思う。

NCヘッドフォン新規参入のメーカー対老舗、という比較でいえば、マイクロソフトは想像以上に善戦している印象だ。

バッテリー動作時間も長くはない。NCオンで利用した場合で最大15時間だ。WH-1000XM3は同様の状況で24時間動作で、ここははっきり見劣りする。

充電はUSB Type-Cで行なうようになっていて、USB Type-C to Type-Aのケーブルも付属する。満充電にかかる時間は2時間となっていて、比較的短い。だから、常に満充電にするというより、気付いた時にちょこちょこ充電するのがいいだろう。ここはWH-1000XM3と設計思想が似ている。ちなみに、WH-1000XM3は満充電までの時間を3時間としており、おそらく、単純に搭載バッテリー量の違いが動作時間の違いになっているのではないか、と予想できる。

電源はUSB Type-Cで充電。Type-A to Type-Cのケーブルが付属する。その他、3.5mmオーディオケーブル付属する
大きめの箱に、キャリングケースに入れた形で販売されている
キャリングケースを開けたところ

音声アシスタントは「コルタナ」

ノイズキャンセルヘッドフォンには、スマホの音声アシスタントと連携するものが増えている。Surface Headphonesもそのひとつだ。

WH-1000XM3はGoogleアシスタントに、BOSE「QuietComfort 35 wireless headphones II」はGoogleアシスタントとAlexaに対応しているが、Surface Headphonesの場合はそれがマイクロソフトの「コルタナ」になっている。

「コルタナ」アプリに「デバイス」タブができて、そこからSurface Headphonesと連携する。現状の日本語版アプリには非搭載だが、日本への商品展開に合わせてアプリがアップデートするのではないか、と予想される

Surface Headphonesの音声アシスタント連携の特徴は、ボタンだけでなく「音声コマンドでの機能呼び出し」にも対応していることだ。アプリを適切に設定してあれば、「Hey,コルタナ」と呼びかけることでアプリに連携し、スマホやPCで特定のアプリ・サービスを起動し、利用することも可能だ。もちろん、天気を聞いたり音楽をかけたり、予定を確認したり、新着メールの読み上げをさせたりと用途は色々だ。現状は英語による対応だが、日本語版になれば日本語で語りかけられるだろう。

この機能は、Surface Headphonesが通常のBluetooth接続の他に、Bluetooth LEでもスマホとつながっていることで実現されている。Googleアシスタント連携を謳うヘッドフォン、例えばWH-1000XM3でも同じ構成になっていて、「音声とは別に、コマンド呼び出しのためのBluetooth LEを使う」のは定番の実装である。

とはいえ、この要素は、今の日本の消費者にはさほど響かないのではないか。音声アシスタントで使いたい機能そのものが、まだあまりヒットしていないためだ。また、そこで使えるのがコルタナというのも、(マイクロソフトにとっては残念なことだろうが)さほど魅力的ではない。

複数機器で使いやすいBluetooth仕様。「使いやすさ優先」主義

では、スマホアプリ連携が魅力的でないか、というとそうではない。

正確にいえば、アプリも含めた「操作系」そのものが、Surface Headphonesの魅力だといっていい。特に、Bluetooth接続周りの仕様が特徴的である。

Bluetoothヘッドフォンには、「複数のデバイスでの使い分け」という問題がついて回る。ちょっと長くなるが、ここを解説しておかないとSurface Headphonesのこだわりが見えてこないので、少しおつきあい願いたい。

ヘッドフォンをスマホとタブレットとPCで使う、というシーンは日常的なものだが、「機器をまたいで使う」切替はけっこう面倒な場合が多い。本来は、複数台の機器を同時につなげる「マルチポイント接続」を使うのがベストなのだが、マルチポイント接続対応のBluetoothヘッドフォンは意外と少数派だ。マルチポイント接続がないヘッドフォンだと、毎回接続を切り換える必要がある。実はWH-1000XM3がこれにあたる。

例えばカバンにスマホとタブレットが入っているとする。そこでヘッドフォンの電源を入れると、前回使っていた機器へとつながる。スマホで使っていて、次にもまたスマホでつかうならいいが、「タブレットで使った後にスマホで使う」と面倒である。いちどタブレットを取り出し、タブレットとのBluetooth接続を手動で切り、改めてスマホと接続する必要がある。

NFCを備えたAndroidスマホの場合、WH-1000XM3ならば、NFCへのタッチでBluetooth接続を切り換えることができるので、機器を取り出して操作する必要は減る。だが当然ながら、NFC非搭載の機器や、NFC搭載だがタッチによるペアリングに対応していないiPhoneでは使えない。

また、仮にマルチポイント接続に対応していても、3つ、4つといった多数の機器を切り換えるのは面倒である。なぜなら、どの機器が接続登録されているかを可視化する方法がない機種がほとんどだからだ。それなら、毎回接続を切り換える方がまだわかりやすい。

結局筆者の利用してきた機器の中で、この種の問題をクリアし、一番簡単な使い勝手を実現しているのが、アップルの「AirPods」に代表される、同社製でワイヤレスLSI「W1」を搭載しているBluetoothヘッドフォンだ。W1搭載製品では、「Bluetooth接続の要求が来たら、前の接続を切って新しい要求の機器に上書きする」という仕様になっている。だから、前出のように「タブレットで使った後にスマホで接続する」場合には、スマホの側で手動接続操作をすると、タブレットとの接続が切れてスマホ側につながる。だから、複数機器での切替が非常に容易なのだ。

では、Surface Headphonesはどうか?

まずこの製品は、2つの機器で同時に接続する「マルチポイント接続」に対応している。それだけでなく、どの機器をSurface Headphonesにペアリングしてあって、「どの2つの機器を同時に接続するのか」を、コルタナアプリの上で選べるようになっている。

アプリ上から「どの機器と同時ペアリングして使うのか」を可視化し、選択可能になっている。複数機器での使い回しに便利だ

例えば、スマホとタブレットとPCをつなぐとしよう。移動時はスマホと(使わないが)タブレットにペアリングされていたとする。オフィスに着いたら、それを「スマホとPC」にするとしよう。その場合には、スマホの上で接続する対象を「スマホとPC」に変えればいいのだ。タブレットとの接続は自動的に切れる。「スマホとタブレット」にふたたび切り換える時にも、スマホアプリの上で接続対象を「スマホとタブレット」に変えればOKだ。今度はPCとの接続が自動的に切れる。アプリは別にタブレット上のものでもいい。PC用でも(おそらくは)問題ないだろう。要は、Surface Headphonesに接続された機器側から、「自分がどの機器と接続するのか」を選べるようになっているわけだ。

こうしたことは、一見マニアックなことに思えるかも知れない。だが、すでに述べたように、「複数機器で同じヘッドフォンを使う」のは、けっして特別なシチュエーションではない。そのことをマイクロソフトはよく理解した上で、アプリ連携によって使いやすさを実現しているのだ。

「実際に使った時のわかりやすさ・使いやすさ」へのこだわりは、Surface Headphonesに強く感じられる要素だ。冒頭で説明したボリュームもそうだ。電源などのボタン操作に「長押しがほとんどない」のも、おそらくはこだわりだ。ボタンの長押し操作があるのはペアリングをする時だけで、電源のオンオフですら「ボタンの長押し」がない。ちょっとしたことだが、操作性の向上には有用だ。

ヘッドフォンを外すと音楽の再生が自動的に止まり、もう一度つけると再開されるのもなかなか便利だ。ただ、外した後の「停止」までに数秒かかるため、その間、ヘッドフォンから外へ大きな音が漏れるのが気になる。反応がもう少し早ければいいのだけれど。

Surface Headphonesは36,980円という比較的高価なNCヘッドフォンである。主にコーデック対応の面で不満はあるものの、高級ヘッドフォンとしては「悪くはない」出来だ。一方、操作性は細かなところまで配慮が行き届いていて感心する。頭へのフィット感も良い。すぐにはわかりづらい「日常での使い勝手」にフォーカスしたヘッドフォンとしてオススメできる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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