西田宗千佳のRandomTracking

第519回

メガネ型HMD「Nreal Air」が驚くほど快適。画質大幅アップ

Nreal Air。中国・Nreal社製で、NTTドコモとKDDIから購入できる。筆者はNTTドコモから購入しており、価格は39,800円

2022年(正確には、2021年末あたりから始まっている)が、「ヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)大進化の年」だと思っている。特に大きく変わるのが画質だ。

昨年末の「HTC Vive FLOW」から始まり、Shiftallの「Megane X」(こちらは後日、コッテリとしたレポートとインタビューをお届けする)、そして「PlayStation VR2」に、Metaが開発中の「Project Cambria」(仮名)と、色々と新しいHMDが出てくる。メタバースブームだから、ということもあるが、それだけでなく、HMDに使われるディスプレイ技術が世代交代し、今までのものとは違う体験ができる製品が出始めている、というのが1つの特徴だ。

先日発売されたばかりの「Nreal Air」も、大きくHMDとして括ると、そんな新世代の製品の1つと言えるだろう。

どう違うのか? 要は、画質の体験がグッと大きく変わっているのだ。

いわゆるメタバース関連デバイスとしてだけでなく、シンプルなAV用ディスプレイとしても使える本製品を、じっくりチェックしてみた。

現実解に立ち戻って進化し、快適になった「第二世代」

Nrealは中国のハードウエアスタートアップで、いわゆるMixed Reality(MR)用のスマートグラス開発を手がけている。マスプロダクトとしての初代製品である「Nreal Light」は、KDDIと組んで日本でも発売され、MRに関するさまざまな実証実験やデモンストレーションでも広く使われている。

今回紹介する「Nreal Air」はその兄弟モデルと言える。

サングラスに近い外観を持ち、小型ディスプレイの映像を反射させて視野に重ね、半透明に透けて見える実景と合わせて見られる……という基本構造は同じなのだが、その目指すところは必ずしもイコールではない。

Nreal Airをかけてみた。外見は「ちょっと大きめのサングラス」。他のHMDと比べると自然な印象を受ける

Nreal LightがMRを本気で狙いにいった高機能モデルであるのに対し、Nreal Airは機能を絞って使い勝手の向上とコスト低減を図ったモデル、という違いがあるからだ。

Nreal Lightは「Light」という名前とは裏腹に、かなり機能満載の製品だ。処理の主体こそスマートフォンではあるが、カメラを使った6DoF(自分の向いている方向だけでなく、前後・上下左右もわかる)に対応している。また、指を認識しての操作もできた。まさに「現実にCGを重ねられるサングラス」である。

それだけに、必要な処理量も大きめだ。初期にはスマホ接続ではなく外付けのボックスを使っていた。以下の写真は、2019年1月のCESで、Nreal Lightが初公開された時に筆者が使ったもので、手にしている赤いものが、QualcommのSnapdragonを搭載した「処理系」だ。今はそれがスマホを使う形に変わっている。

2019年に「Nreal Light」がCESで展示された時の写真。こちらもサングラスにかなり近い。手に持っている赤いものが「処理系」で、のちに製品化される際には、スマホをつないで使う形に変更された

スマホを使うといっても、対応しているのは「Snapdragon 855以上」とかなりハイスペックなものだけだ。

結果としてだが、Nreal Lightは「熱い」製品になってしまった。

眉間のあたりにある処理系がかなり熱をもつ。スマホも処理が重く熱を持ってくる。製品版は試作時よりずいぶん快適になってはいたが、それでも、長時間つけていたいものではなかった。

それに対してNreal Airは、考え方を少し変えている。

カメラは非搭載になり、位置把握は「3DoF」(自分の向いている位置はわかるが、上下左右・前後の関係はわからない)だけ。指の認識などもできない。

高度なことをするにはスマホ連携が必須だが、Nrealが「Air Casting」「ミラーリングモード」と呼ぶ使い方では、シンプルにDisplayPort規格でのディスプレイとして動作する。

機能としては大幅にシンプル化しているのだが、その結果として、価格が69,799円から39,799 円(au Online Shop価格)へと大幅に安くなり、重量も109gから79g(ともにケーブル含まず)へと軽くなっている。

使ってみても、もう眉間が熱くなることもない。その代わり、以前ほどではないものの、顔の左側は少し熱くなるのだが。

現状、販売はau(KDDI)とNTTドコモ経由になっており、それぞれのアカウントが必要となる。auオンラインショップでの購入時は、au通信サービス契約が登録されたau IDでのログインが必要。

ノーズパッドとレンズで「見えやすい状態」を作ろう

前置きが長くなったが、実物を見ていこう。

製品にはケースとレンズを覆うフード、フィット感を改善するノーズパッドが3種類、それに視力補正レンズ用のアダプターがついてくる。

Nreal Airの外箱
付属品一覧。このほか、Nreal Airを収納するケースが入っている
ケース。ペットボトルくらいのサイズだが、ここにNreal Airとケーブルなどを収納する
ケースに入れる時には、本体にケーブルを巻き付けておくと入りやすい
ケーブルはNreal Air本体に差し込みやすいよう、メガネ側になるコネクタが曲がってついている。ケーブルも曲がりやすい素材で、一般的なUSB Type-Cケーブルより使いやすい

HMDは目とディスプレイ面の関係が重要だ。Nreal Airはそこまでシビアな設定を求められるものではないが、ノーズパッドで目からの距離を調節しておくことは重要だ。視力補正も同様で、ちゃんと補正しておくと見栄えがまったく異なる。

今回、視力補正については専用レンズが用意できなかったため、メガネをつけてその上にNreal Airをつける「ダブルメガネ」でカバーした。これでも使えてしまうが、本当は専用レンズを用意すべきなのだろう。

Nreal Air内部につける視力補正レンズ用のアダプター。付属のものは度がない「アダプター」なので、これに合わせて専用レンズを作ってもらう必要がある

専用レンズについては、カスタムメガネストアの「JUN GINZA」がレンズ製作について、Nreal公認ショップになった。通販で購入も可能で、価格は7,480円から。

専用レンズはカスタムメガネストアの「JUN GINZA」で作れる。価格は7,480円から

画質大幅アップでAV機器としての魅力アップ! 旅行に最適か

では実際に使ってみよう。

Nreal Airには大きく分けて2つのモードがある。

1つはNebulaアプリを使ってスマホ連動し、MR的に使う「MRモード」。そしてもう一つは、Nreal Airをディスプレイとして使う「Air Castingモード」だ。

Nrealの「Nebula」アプリを起動、「MRモード」と「Air Castingモード」を切り替えながら使う

画質を確認するため、まずは後者からテストしてみよう。

正確に言えば、「Air Castingモード」には2つの形態がある。

1つは、シンプルにDisplayPort規格のディスプレイとして機能するモードで、もう1つは「サイドスクリーン」と呼ばれるモード。こちらはスマホ内で表示する画面を縮小し、視野の左側に小さく画面を出す、「ながら見」特化の機能と言える。スマホ側で画面をキャプチャしながら再構成する関係上、DRMを使った一部コンテンツは視聴できない。両モードの切り替えにはNebulaアプリを使う必要がある。

Androidの通知領域から「MRモード」「Air Castingモード」を切り替える。「サイドスクリーン」モードにするにはここから選ぶ。

どちらもあくまで「ディスプレイ」としての扱いなので、向いている方向などは認識していない。表示される画面の位置は常に「目の前」。首を傾ければ映像も傾く。

ディスプレイはマイクロOLED。解像度は片目あたり1,920×1,080ドットで、プリズムによって視野の正面に投射されている。

ケーブルをつながずに斜めから見ると、表示系の構造がよくわかる。

では画質はどうか?

一言で言って、なかなか素晴らしい。

広告では「目の前に130インチ」と表現しているが、この種のディスプレイではありがちなことだが、感じ方は人によって異なる。

筆者には「50cm先に40インチ弱の画面がある」感覚に思える。視野は広いわけではないので、映画館やVR用HMDのように「目の前に広がる巨大スクリーン」いう訳ではない。

だが、画質は良い。

ドット感はまったく感じられず、だからといってぼやけているわけでもない。文字もかなりくっきり見える。発色は濃い目で、色温度も低めだ。しかし、4万円以下の価格で買える、この種のディスプレイで見ていると思えば十分以上である。

以下はNreal Light(左)とNreal Airを比較し、公式が公開しているスペック表だが、中でも「最高輝度」「表示密度(PPD)」の向上が、画質の改善に大きく貢献している。

左がNreal「Light」、右がNreal 「Air」のディスプレイスペック。色域が若干広がり、輝度が400nitsに上がり、密度(PPD)も向上している。その代わり、視野(FoV)は若干低下した

以下の写真はNreal Airの接眼部にカメラを当て、ピントを合わせて撮影したものだが、実際の見え方もこれに近い。ただし、写真は表からの光を防ぐ「シェード」をつけて撮影したものなので、シェードをつけない半透過状態の場合には、もっと色が薄くなる。

カメラで接眼部にピントを合わせて撮影を試みた
PCにNreal Airをつなぎ、写真を表示してみた。多少色が濃いが、ドット感もなく発色も良い。肉眼で見るともっと印象は良くなる
Webページを表示してみた。文字までくっきり見えている点に注目

シェードがない状態では周囲が半透明に見えるが、濃いサングラスと同じく、周囲に色がついて見える。構造上、下3分の1くらいはより透過度が高く、キーボードやスマホなどを見るには良い。シェードなしは「ながら」作業用で、没入する時はシェードをつける、と考えればいいだろう。

付属のシェードをつけるとこうなるので、目の前の風景は見えなくなる
シェードをつけた時とはずした時の見え方。画質はシェードをつけた方が向上するが、周囲が見えなくなるというトレードオフがある

メガネのツルにあたる部分の、左右の耳の上にはスピーカーも付いている。だから、音もNreal Airから流れる。こちらも超高音質とは言わないが、悪くない。

なによりも良いのは、かけていても頭への負担が非常に小さいことだ。数百グラムのHMDとは異なり、Nreal Airは79g程度しかない。完全にメガネと同じ……とは言えないが、一般的なHMDよりはずっと快適だ。ノートPCを使いつつ、そこにつながったNreal Airの側では別の情報や映像を見る、という使い方も十分にできる。

特に快適だったのは、「椅子に座ってちょっとリクライニングした格好」で使うことだ。飛行機や新幹線の座席に座っている時をイメージしてもらうとわかりやすいだろう。椅子に座った目の前に、40インチのディスプレイが空中に浮いている……という感覚になる。シェードをつけると周りが暗くなり、映像もさらに見やすくなる。場合によってはヘッドフォンの併用も必要かもしれない。その場合、Nreal Airにヘッドフォン端子はないので、スマホ側につなぐことになる。

この体制で「電子書籍を読む」のも、意外なほど快適だった。文字物もコミックも、特に不自由なく読める。操作はスマホかタブレットで行うことになるが、それも不自由はない。姿勢を変えずに指先だけでページめくりしつつ、巨大な画面で本を読むのは新鮮かつ快適な体験である。

コロナ禍から日常に戻り、国内外の出張がまた増えてくる可能性も高いが、次の「出張のお供」はNreal Airにしよう……と強く心に決めている。

課題はバッテリーだろうか。

Nreal Airはバッテリーを搭載しておらず、必ず有線で使う。歩き回って使う機器ではないのでさほど問題はないのだが、Nreal Airの電源は「接続された機器」から得るので、バッテリー動作時間には限界がある。

映像や書籍に集中するなら、操作する機器の側の輝度は最低にし、消費電力を落とした上で、操作はNreal Air側を見ながら行うのが良さそうだ。

MRモードは発展途上、今は「Web閲覧」が中心

もう一つのモードである「MRモード」は、Nreal AirとNebulaアプリ、そしてNebula対応Androidスマホを組み合わせて使う。

Nreal Airは頭の向いている方向を認識する機能がある。Air Castingモードではこの要素を使っていなかったが、MRモードではガッツリと使う。

Nebulaアプリを起動し、MRモードに切り替えると、目の前には仮想デスクトップ空間が現れる。

Nebulaアプリを使ったMRモードの仮想デスクトップ空間の「ホーム」。Webアプリなどを呼び出して使うほか、各種ステータスの確認もできる

操作はスマホで行なう。といってもスマホの画面を見て操作するのではない。スマホをレーザーポインターのように動かして選択項目を選び、画面をタッチパッドのように使って、スクロールや選択を行うわけだ。

MRモード時、スマホ画面はこうなる。灰色の部分が、MRモードでのタッチパッドのように機能する

ただ、現在はNreal Air向けのアプリがまだほとんどない。発売されて間もない、ということもあるが、Nreal Light向けのアプリはAirでは動作しないから……という事情もある。

そのため現状は、Webアプリを使って情報閲覧や動画配信の視聴を行なうのが基本になる。

3DoFでの方向把握に対応しているので、「ディスプレイ」として使った時とは挙動が異なる。各Webアプリは「空間の特定の場所に、定めた大きさで貼り付けている」ように見える。視線を他の場所にそらせば見えなくなるが、また、ウインドウがあるだろう方向を見ると、元通りそこにある。首が傾いても、ウインドウは空中で傾かずに静止している。要は、仮想空間に5つまでのWebを貼って活用できるようになっているのだ。

Webを複数表示し、仮想空間で活用できる。数は5つまで。動画配信も使えるが、Netflixは動作しなかった。全てが動くわけではないようだ

ただ、すべてのWebアプリに対応する訳ではない。動画配信で言えば、YouTubeやニコニコ動画、Amazon Prime Video、U-NEXTは動作したが、Netflixは動作しなかった。

これはこれで面白い要素だが、操作が煩雑であること、Webアプリだけでは活用の幅が狭いことなどが課題だろう。Nreal Air対応のMRアプリがもっと出てくれば、このモードの本質が出てくるものと思うが、当面は「ディスプレイとして使う」のがメインの用途、と言って良さそうだ。

「アクティベーション」にAndroidスマホが必須、購入者は対応確認を

このようにNreal Airは、基本的には良い商品だ。けっして安価ではないが、新しさも実用性も兼ね備えている。

一方で、購入前にはちょっと注意が必要な点もある。Nreal Airを使うには、最初に「対応スマートフォン+公式アプリ」でのアクティベーションが必要になるのだ。

アクティベーションが終わっていれば、DisplayPort Alt Modeに対応したUSB Type-C端子を持つ機器のほとんどでディスプレイとして使えるのだが、アクティベーションとユーザー登録をしない限りはまったく使えない。

Nreal Lightにはこの要素がなかったのでちょっと驚いたが、必要とあらばしょうがない。

ただ、Nreal Airの動作とアクティベーションに必要なNebulaアプリは、対応するAndroidスマホでないと動かない。対応機種は公式サイトに公開されているが、数は多くない。実のところ、意外な製品で動いたりするので、リストに載っていないからといってNGと決まったわけではない。

公式サイト 対応スマホリスト

自宅にあるスマホの中では、Xperia 1 II、Surface Duo2、Galaxy Z Fold 3では問題なく動いている。一方、Googleの「Pixel 6」シリーズやPixel 5a(5G)では、Nebulaアプリが正常に動作しなかった。ただし、アクティベーションは1度しかできない関係上、動作しなかった機種で「アクティベーション作業まで一切が不可能か」は検証できていない点に留意していただきたい。

要はアクティベーションさえ終わればいいので、誰かのスマホを借りてアクティベーションしてもらう、というやり方もあるだろう。

だが、Nebulaアプリはアクティベーションだけでなく、今後のファームウエアアップデートなどにも必要になるので、「ちゃんと動くことが確認されているスマホ」を持っていた方が良いことに変わりはない。

さらに一応、抜け道はある。別売が予定されている「Nreal Streaming Box」を使う方法だ。

これはNreal Airにケーブルで接続するボックス。スマホと連動し、その画面をワイヤレス(Miracast)でStreaming Boxに飛ばすことで、より多くの機種でNreal Airをディスプレイとして使えるようにするものだ。

ただその性質上、DRMがかかったコンテンツの一部は表示できないし、すべての機器に対応しているわけでもない。

また、当初はNreal Airと同時に発売の予定だったが、諸事情により延期されている。auでは予約中(9,900円)で、NTTドコモでは「近日中に発売」となっている。

多くの機種でNreal Airを使えるようにする「Nreal Streaming Box」は後日発売予定

これらの点を考えても、対応スマホを持っていて、さらに別の機器でも利用を考えている人には、現在のNreal Airは十分にお勧めできる。Nebulaアプリの完成度も、MRアプリの充実もまだまだ時間がかかりそうだが、ディスプレイとしてだけでも十分な価値がある、というのは大きなことである。

それだけに、「購入が携帯電話事業者経由に限定されている」「対応スマホを持っている人でないと利用に不安があるが、対応かどうかがわかりにくい」のは難点と言える。

そして、マニュアルが不整備で、細かな使用方法が説明不足である点も指摘しておきたい。付属のマニュアルには「つなぎ方」は書いてあっても、MRモードの使い方やスマホ連携の詳細などは記載されておらず、発売後にもかかわらず、オンラインマニュアルも未整備だ。

良いものだけに、こうした点はすぐにも改善していただきたい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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