西田宗千佳のRandomTracking

第531回

円安直撃でも、買うならiPhone 14 Pro。触って分かった“進化の価値”

iPhone 14

新しいiPhone、「iPhone 14シリーズ」のレビューをお届けする。

スマホもなかなか性能は進化しづらくなってきた。5Gもあたりまえに搭載されるようになり、競争軸が少なくなってはいる。

一方で、スマホの購入サイクルは2年・3年・4年といったあたりが一般的になり、決まった機種の後継を適切なタイミングで買う、という人が増えたようにも思う。メーカーや携帯電話事業者による「買取型」「残価設定型販売」が増えたことも影響しているだろう。

そんな中で、さらなる逆風として「円安」がやってきた。そこで発売されるiPhone 14は、例年以上に不利な状況にある、とは言える。

では今年の製品がどんな感じだったのか? 実機を試しつつ見ていきたい。

iPhone 14。カラーはブルー
iPhone 14 Pro。カラーはスペースブラック
iPhone 14 Pro Max。カラーはディープパープル

結論:今年は買うなら「Pro」がおすすめ

最初から結論を言おう。

買うなら「iPhone 14 Pro」シリーズの方がおすすめだ。そちらの方が「今年の差別化点」は明確に多い。

一方、「Proシリーズは高いので……」という人もいるだろう。よくわかる。カラーリング的に、スタンダードな14の方が好み、という人もいそうだ。

その場合、ちょっと差別化点は減ってしまうものの、「今年のiPhoneのポイントはここなのだな」と理解した上で選ぶ必要は出てくる。

カメラは進化したが「スマホの上」ではわかりづらい

毎年、iPhoneは「カメラ」の進化を推してきた。

今年もセンサーが刷新され、より暗所性能が高くなっているようだ。外観を見ても、よりカメラが大きくなっているのがわかる。

上から左回りにiPhone 12 Pro Max(2020年)、iPhone 13 Pro Max(2021年)、そしてiPhone 14 Pro Max。カメラサイズも年々変わっている
左がiPhone 13 Pro Max、右がiPhone 14。スタンダードモデルのカメラもだんだん大きくなってきた

今回の変化は「メインカメラ(広角)」に集中している。iPhone 14は1,200万画素のままだが画素サイズを上げ、14 Proは4,800万画素にして、ピクセルビニングで1,200万画素とし、暗所性能を高めている。

というわけでサンプルを見ていただこう。

14:広角
14 Pro Max:広角
13 Pro Max:広角
12 Pro Max:広角
14:広角
14 Pro Max:広角
13 Pro Max:広角
12 Pro Max:広角

【編集部注】写真のHEIF形式データは、以下よりダウンロードできます
撮影サンプル元データ:HEIC.zip(23.01MB)

確かに画質は上がっていて、特に14 Proについてはノイズがかなり減った。空などでのバンディングも減り、細部の解像感も向上していると思う。

ただ、これは以前からその傾向はあるが、スマホの画面の中ですぐわかるような差ではなくなりつつある。PCやテレビなどの大きめの画面で見た時の差、という印象である。2021年発売のiPhone 12 Pro Maxからなら多少分かりやすくなるが、iPhone 13 Pro Maxからだと、ちょっと変化は分かりづらい。

一方で、iPhoneをカメラとして使うなら、ノイズの少なさなや精細さはとても重要なことだ。だから、「Pro」シリーズで4,800万画素のセンサーを使ったのだろう。

スマホのカメラ性能は「スマホの画面の外で使う時のもの」になりつつある。

その辺をどう見るかで、スマホのカメラ機能の評価も変わってくる。私見だが、iPhoneのスタンダードモデルを選ぶのかProモデルを選ぶのか、というあたりが、その境目になっているのではないだろうか。

ただ、そういう意味でちょっと残念なのは、カメラのレンズ内ゴーストが出るシーンがまだある点だ。ここはそろそろちゃんと手を入れてほしい。

実は今回の目玉!? 14 Proシリーズ搭載の「常時点灯ディスプレイ」

「今年はPro」と書いたが、その理由の1つだと思っているのが「常時点灯ディスプレイ」だ。

スマホの消費電力は、プロセッサーやイメージセンサー、通信モジュール以上にディスプレイで消費される。そのため、不要な時は画面を消し、輝度を下げるのが基本である。

一方で、スマホ用ディスプレイとして「常時点灯」機能を持つものは少なくない。特に有機ELには多い。画面を黒のままにする=発光させないことが重要である一方、発光する場所を減らすことで消費電力を抑えることも可能だ。

というわけで、「常時点灯」はすでにいくつものスマホで採用されているのだが、今回iPhone 14 Proシリーズで採用されたものは少し異なる。

いままでの「常時点灯」は、時計など一部の要素に表示を限定する場合が多かった。だがiPhone 14 Proシリーズのものは、自分で設定した壁紙を含め、全体が見える。

「常時点灯」状態と通常時を比較
暗くはなるが、時計やウィジェット、写真の大まかな印象などはわかる

技術的にはApple Watchの「常時点灯」と同じもので、有機ELのTFT部に低温多結晶酸化物(LPTO)を使ったものだ。

LPTOの場合、ディスプレイのリフレッシュレートを大幅に引き下げつつ画面表示が行なえる。今回iPhoneに採用されたものの場合、1秒に1回(すなわち1Hz)まで下げ、さらに輝度も表示内容も少し変えることで、「時計などに加え、全体のイメージも掴める常時点灯」を実現している、ということになる。

実際に使ってみるとどんなものかな……と思ったのだが、意外なほど良い。充電台や机の上にiPhoneを置いたままで、時計やウィジェットがしっかり見える。思えば、iOS 16で導入したウィジェットを「白基調のデザイン」にしたのも、LPTOによる常時点灯の布石だったのだろう。

普通に消える13 Pro Max(写真上)と常時点灯のiPhone 14 Pro Max(下)を机の上に置いてみた。こんな風に見えるのは確かに便利

こうなると消費電力が気になってくる。

3時間、常時点灯と消灯、それぞれのモードで放置して消費電力を確かめたが、常時点灯で「6%」、消灯で「3%」バッテリーを消費していた。

この差はかなり悩ましい。あまり頻繁に充電しない人は「消灯」したくなるだろうし、デスクにいる間は充電している、という人なら気にしないだろう。筆者は後者のタイプなので、このくらいなら許容できそうだ。

逆に言えば、「便利に思えない」「少しでも電力が減るのは嫌だ」と思うなら、今年はスタンダードモデルであるiPhone 14(もしくは、10月発売の14 Plus)を選んだ方がいいかもしれない。

おそらくアップルは、今回iPhone 14 Proに搭載したディスプレイをさらに広げていくはずだ。流石に「SE」まではなかなか落ちてこないと思うが、いつかの段階で、iPhoneのスタンダードモデル以上は常時点灯……という時代が来るかもしれない。

なお、14 Pro搭載のディスプレイは、ピーク輝度が2,000nitsに上がっている。あくまでピーク輝度なので、普段使っている時はそこまで違いは感じないはずだが、HDR対応の映像を見るときには違いがわかるので、AVファン的にはそこも注目していただきたい。

常時・同時系通知のための「ダイナミック・アイランド」

ディスプレイ周りの変化という意味で大きいのは「ダイナミック・アイランド」だ。いわゆる「ノッチ(切り欠き)」部分を小型化したもので、形状は横に長い棒のようだ。

同じ「Pro Max」同士で比較すると、iPhone 13 Pro Maxからかなり黒い非表示部分が小さくなっているのがわかる。iPhone 14とiPhone 13 Pro Maxでは、ノッチサイズは変わっていない。

左がiPhone 14 Pro Max、右がiPhone 13 Pro Max。ダイナミック・アイランドになって、黒い部分はかなり小さくなった
左がiPhone 14、右がiPhone 13 Pro Max。ノッチ採用のモデルはすべて同じサイズだ

ダイナミック・アイランドは、その名の通り「ダイナミック」に大きさや長さが変わる。どんな感じかというと、以下の動画をご覧いただくのが近道だろう。

ダイナミック・アイランドの動作

要は、黒い部分は共通のまま、その周囲に「黒+関連情報」を画像で出すことで、サイズが色々変わるのだ。

音楽の再生やヘッドフォンの接続、顔認識や電話の着信、マイク・カメラの動作など、確認しておきたい挙動はいくつもある。そういう「常時・同時」系の通知をみやすくまとめるのがデジタル・アイランドの役割なのだろう。見ていてなかなか楽しいし、確かにわかりやすい。

ただ、サードパーティーアプリからの活用はまだ「さらっと」というレベル。ヘッドフォンについても、「AirPods」などのアップル製品では特別な表示が出るが、他では出なかった。

今後アプリ開発が広がると、この辺は改善が進むだろう。特にアップルがやっているような大規模なアニメーションの活用は、今年末までに公開される開発キットが必須になるので、もうしばらく待つ必要があるようだ。

Proの「高精度2周波GPS」は日本で活きる

もう一つ、14 Proの機能として「おっ」と思ったのが「高精度2周波GPS」への対応だ。特に日本の場合、準天頂衛星システム「みちびき」の真価が出やすくなる。ビル街などでの測位精度が上がるのだ。

実際に都内で細めの路地を歩いてGPS精度を確かめてみたが、意外なほどちゃんと精度の差が出た。以下には1つしか例を掲載していないが、実際は3パターン試し、それぞれで同じ結果を得ている。

iPhone 13 Pro MaxやiPhone 14では、「おおむね正確だが経路が建物などに食い込む」ことがあるに対し、iPhone 14 Proではそれがほとんど見受けられず、実際に歩いた経路にかなり近い。それどころか、道のどちら側を歩いていたか、も正確に把握できている。

左から、iPhone 13 Pro Max、iPhone 14(ここまでL1のみ)、iPhone 14 Pro(L1+L5の2周波対応)で移動ログを取った。実際に歩いた道に一番近く、建物に食い込んでいないのはiPhone 14 Proのみだ

真上を飛ぶ衛星を掴みやすくなった結果だと思うが、都市部や空が見える森の中などでの効果アップが期待できる。

なかなか効果的だった「アクションモード」

iPhone 14全体で使える機能として気に入ったのは動画の「アクションモード」である。

動画撮影時に4K動画から2.8Kの動画を切り出し、その過程で「映像のブレ」を補正して見やすくするものだ。結果は以下の動画をご覧いただきたい。

iPhone 14の場合
iPhone 14で「アクションモードON」の場合
iPhone 13 Pro Maxの場合

iPhone 13 Pro Maxを使った時や、iPhone 14でもアクションモードをオフで走ったときには、縦と斜めの揺れが気になる。一方アクションモードにすると、縦のショックは完全に消えているわけではないが小さくなったし、斜めの揺れが減って安定している。

ジンバルやアクションカムなどにはもっと精度が高いものもあるので、「これでもうアクションカムいらず」とまでは言得ないだろう。

だがこれは、アクションカムを買わないような人や、日常の動画からブレを減らしたい人向けの機能だ。もしくは、ジンバルやアクションカムを忘れてきた時のスーパーサブだ。

性能は向上も地味な進化、「今日の余裕は明日のため」に

最後にパフォーマンスの話をしよう。

これが最後になったことからもわかるように、性能はそこまで上がっていない。計算してみると、これまでも年率10%くらいで高速化してきており、そのまま今年も10%くらい上がった……というところなのだが、GPU性能の伸びは少し弱いかな、とも思う。今は半導体プロセスの成長も踊り場のような状態であり、それが影響しているのだろう。

iPhone 14
CPUスコア
GPUスコア
iPhone 14 Pro
CPUスコア
GPUスコア
iPhone 14 Pro Max
CPUスコア
GPUスコア
iPhone 13 Pro Max
CPUスコア
GPUスコア

とはいえ、大幅なスピードアップがiPhoneの成長の価値、というわけでもないと思う。他のスマホにしてもそうだ。スピードには多くの人が満足している段階で、「性能をどう機能に活かすか」という部分がポイントだ。

おそらくは、iOSの中で新機能が搭載されていくと、それがプロセッサーパワーを使う形になっていくのだ。iOS 16も機械学習系機能を中心に、そういう進化をしている。「衝突事故検出」も機械学習の賜物だ。

すなわち、「今日の余裕は明日のため」ということなのだ。ただ、それをいくらで買うのか、という課題は付きまとう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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