西田宗千佳のRandomTracking
第532回
外見以外“別物”第2世代AirPods Proを試す。音・ANC・使い勝手向上
2022年9月22日 22:00
第2世代AirPods Proのレビューをお届けする。
ご存知の通りAirPods Proは、アクティブノイズキャンセル機能付き完全ワイヤレスイヤフォンを定着させた大ヒット商品である。その第2世代が、ほぼ姿形を変えることなく登場する。以前記事でご紹介したように、その中身は「ほぼ総入れ替え」状態で、第1世代から設計を一新しているという。
新AirPods Proは“外観以外別物”。AV目線で考える「アップル新製品」
ではその実力はどうなったのか、チェックしていくことにしよう。
デザインは「あえて第1世代から変えない」
まずは外観からチェックしていく。
すでに述べたように、第2世代と第1世代の外観はほぼ同じだ。
パッケージの紙箱もほぼ同じ。以前と変わったのは、プラスチックのシュリンクラップから、紙製のシールになったことくらいである。
同梱品も、本体の他にUSB-C接続のLightningケーブルとイヤーピースと、基本的には同じ形である。
ただし、イヤーピースは「XS」が増えたので、サイズが4種類になっている。最初からついているのが「M」なのは変わらないので、付属するものが「S」「L」の2通りから、「XS」「S」「L」の3通りになった、と考えればいい。
イヤーピースのサイズ・取り付け方法などは第1世代・第2世代で変わっていない。だから、第1世代に「XS」をつけることもできるし、AirPods Pro向けに作られた、アップル製以外のイヤーピースもそのまま使える。
前述のように、デザインはほとんど変わっていない。ケースについたスピーカー穴とストラップホールを見なければ、第1世代と第2世代を見分けるのは難しいだろう。
また、イヤフォン本体のデザインもほぼ同じである。
ただ、よく見ればわかるのだが、イヤフォンにある「黒い部分」が違う。第1世代はセンサー用と思われる「黒い部分」が下側にあるのだが、第2世代には無く、逆に上側にメッシュのついた穴がある。第1世代では中央の部分にメッシュがついていたが、第2世代では無くなっている。おそらく、耳への接触センサーと耳介内での反響を把握するセンサーの位置が変わった結果だと思われる。
だが、そうした変化があっても、サイズ・形状ともに変わっておらず、アップルが明確な意思を持って「デザインを変えなかった」ことがわかる。
なお、こうなると気になるのは「第1世代と第2世代は混ぜて使えるのか」「第1世代のイヤフォンを第2世代のケースに入れて使えるのか」という点だ。
結論からいえば「できない」。iPhoneやiPad側が「ケースとイヤフォンの不一致」を認識するようになっていて、警告が発せられる。両方が並んでいると間違えてしまいそうになるが、混ぜて使うのはやめておいたほうが良い。
音質はより繊細に。ANCも大幅改善
では、肝心の音質の方を評価してみよう。
第1世代と第2世代は同じか、と言われると「聴き比べるとかなり変わっている」と思う。音の傾向はどちらも近いので、どちらかだけを単独で聴くと「ふんふん、こんな感じか」という印象を持つだろう。あまり派手な誇張はせず、比較的自然な聴き疲れしない音だ。
ただ、聴き比べると「あれ、こんなに違うのか」と思うくらい違いがある。第2世代はより音がきめ細かく、解像感が上がったように聴こえるのだ。
毎回テストではまず、ビートルズの「Here Comes the Sun(2019 Mix)」のDolby Atmos版を聴くのだが、冒頭から演奏の細やかさがさらに増したように感じられた。これは面白い。
Official髭男dismの「ミックスナッツ」も、全体的に明瞭になり、ボーカルがより澄んで聴こえる。H ZETTRIOの「Network of 3」はハイハット音が立って聴こえる。
ライバルとして比較されることの多いソニーの「WF-1000XM4」と比較すると、やはり音のパワフルさではWF-1000XM4が……という気もするが、聴きやすさ・明瞭さなどでは、第2世代AirPods Proも悪くない。
音という意味で大きく進化しているのがアクティブ・ノイズキャンセル(ANC)性能だ。広告などでは「最大2倍の雑音を消す」となっているが、その基準はちょっとよくわからないところがある。
ではどのくらいなのか? 筆者が聴いた上での答えでしかないが、「2倍かどうかはともかく、明確に進化している」と言える。
AirPods Proは第1世代から、ANC性能が高い。ただ、市場にある製品の中でトップ、とは言えなかった。
今回第2世代を試してみたが、「これは現状、トップクラスかもしれない」というのが筆者の印象だ。電車内や道路での騒音は、第1世代で聞こえていた部分も消え、話し声や一部の大きく高いノイズだけが残った。WF-1000XM4と比較しても、さらに消えている。
騒音から耳を守る機能に進化した「外音取り込み」
そして、いわゆる「外音取り込み」機能の自然さも、いままで通りだ。
AirPods Proの良さは、外音取り込みの自然さにもある。外音取り込み機能で聞こえる音と、耳で直接聞く音の差がかなり小さい。これは、第1世代・第2世代共通なのだが、第2世代の方がより細やかな音を拾うようになり、違和感がさらに小さくなった。この部分の進化が、一番わかりやすいかもしれない。
外音取り込みやANCを使っても音の傾向がほとんど変わらないのも、AirPods Proの美点といえる。この点は第2世代も変わっていない。だから、あまり音のしない場所であえて「外音取り込み」オンで使っておいて、周囲で大きな音や自分を呼ぶ声が聞こえた時だけ対応する……という使い方もできる。
逆に、音が大きな場所で有効な機能もある。それが「適応型環境音除去」だ。
この機能は第2世代から搭載されたもので、外音の大きさを把握し、それが長時間聴き続けることで聴力に影響を与える値であった場合、外音をそれ以下に抑えるものだ。
機能自体は自動的に働くものなので、特に設定などは必要ない。
ただし「どれだけ音が除去できたのか」をチェックする場合には、最新のOSである「WatchOS 9」がインストールされたApple Watchが必要になる。プリインストールされている「ノイズ」というアプリが、第2世代AirPods Proと組み合わせた時のみ、「AirPodsを使った結果、どれだけ小さい音になったのか」を表示するようになったのだ。第1世代AirPods Proを含め、他のヘッドフォンでは機能しない。
工事現場で音を測定してみると、だいたい65dBから84dBだった。この84dBのとき、第2世代AirPods Proをつけると、外音取り込みで聴こえてくる音の大きさは79dBまで下がった。うるさいことに違いはないが、聴力に影響を与えるほどではない。
一方、40dBを切る仕事場の中で使うと、変化がほとんどない。もともと静かな環境なので、音を小さくする必要がないからだ。
着けていていきなり音が小さくなるわけではなく、「うるさい場所に近づくと、騒音の大きさに合わせて小さくなっていく」感じなので、言われないと機能が効いていることに気づかないかもしれない。だが、イヤフォンを外してみると確かに騒音は大きくなるので、これはなかなか面白いし有用な機能だと感じる。
なお、この「ノイズ」アプリ、第2世代AirPods Proと組み合わせた時には、「ANCでどれだけ音が低減されたのか」を表示するものとしても使える。
今回の場合、外音が84dBの時、外音取り込み機能使用時で78dBに、そしてANC使用時で57dBに下がっていた。外音が40dBの場合には、外音取り込み機能使用時では同じ40dBだが、ANC使用時だと20dBまで下がっているのがわかった。
Apple Watchをお持ちの方が第2世代AirPods Proを買ったなら、ぜひ試していただきたい機能でもある。
タッチでの「音量調整」は誤動作もなく快適
操作性の面での変化としては、イヤフォンに「音量調整」機能がついたことが大きい。
第1世代は、イヤフォンから伸びた棒の部分を「つまむ」ことでマイクロスイッチを押し、曲送りや再生・ストップなどに使えた。ただ、音量調整はiPhoneなどを直接操作するか、Siriで命令する必要があった。
第2世代については、棒の部分に搭載されたタッチセンサーを使う。上下に指を動かすと一度滑らせるごとに音量が変わる。上に滑らせると音量アップ、下に滑らせると音量ダウンだ。
この種の小さな領域に搭載したタッチセンサーは、誤操作が起きやすいのが欠点だった。指が動く方向がズレやすいし、髪の毛などがぶつかることもあるからだ。だが第2世代AirPods Proについては、誤動作がほぼ皆無といっていい。操作が「上下」に限定されていることも効いているのだとは思うが、新プロセッサー「H2」が機械学習を使って動作を認識している、という点も効果的なのだと思う。
それでも音量調節の感度やストロークの長さを調整したい場合には、iPhoneの「設定」からAirPods Proの設定を選び、「アクセシビリティ」の中にある項目から調整できるようになっている。
なお、音量を変えた時にはごく小さな操作音が鳴るのだが、音が鳴っているというよりも「クリック感のあるスイッチを操作したような音」なので、音楽の邪魔にはなりにくい。
充電ケースが「AirTag」を兼用、使い勝手が大幅に向上
機能的な面で言うと、第2世代は「充電ケース」が大きく変わっている。
冒頭で「スピーカー穴」と「ストラップホール」がついたことをお伝えした。これらも変化の一部だ。
例えば充電を開始した時には、内蔵のスピーカーから音が鳴る。「探す」アプリから「サウンドを再生」をタップした時も、やはり大きめの音が鳴る。
第1世代の場合、充電状況はLEDで判別する必要があったし、「探す」から音を鳴らしても、AirPods Pro自体が使われた時に音が出る仕組みで、即座に鳴るとは限らない。だが第2世代は充電ケースにスピーカーが入ったので、その場で即座に「鳴る」のである。
さらに中には「U1」が入った。U1はUWBという規格で通信するためのチップで、現在のiPhoneには標準搭載されている。これを使うと、第2世代AirPods Proが近くにある場合、その方向と位置をcm単位の精度で教えてくれるようになっている。
要はこれ、アップルの忘れ物防止タグ「AirTag」が充電ケースの中に入ったようなものなのだ。
AirPods Proを紛失しないように、AirTagと一緒に持ち歩いている人もいるようだ。だが第2世代では、充電ケース自体がAirTagと同じ働きをしているので、もう、一緒に持ち運ぶ必要はなくなる。
音質向上も重要だが、こうした使い勝手の向上もまた、第2世代AirPods Proの進化点と言っていい。
これらのことを考えると、第2世代AirPods Proはまさに「外見以外別物」であり、第1世代を持っている人にも買い替えをお勧めできる製品になった、と断言していいだろう。
「パーソナライズされた空間オーディオ」
最後に第2世代AirPods Proではないが、少し関連した話題もお伝えしておく。
音という点で、iOS 16で可能になった「パーソナライズされた空間オーディオ」の話もしておこう。
すでに以前記事で紹介しているが、iOS 16からは、AirPodsなどを組み合わせることで、「パーソナライズされた空間オーディオ」が使えるようになっている。
iPhoneがWebカメラに!? iOS 16「AV的進化」をチェック
従来アップルは、空間オーディオの再現に「標準的で多くの人に適合するHRTF(頭部伝達関数)」と「ヘッドトラッキング」を組み合わせていた。
iOS 16からは、顔や耳の形から、個人により最適化されたHRTFを推定して利用する。自分に最適化するので「パーソナライズされた」空間オーディオになる、というわけだ。
最適化にはFace IDを搭載したiPhoneを利用する。そのデータは「同じApple IDを使っているアップル製品」同士で共有されるため、アップル製品同士であれば自動的に適応される。逆に言えば、他人が使うと若干のずれが生まれる可能性はある。
最適化した結果は人によって異なるが、筆者の場合には、空間オーディオにおける「方向の区別」がさらに明確になり、音全体が明瞭になった印象を受けた。
カスタマイズには「顔認識」を使うのだが、ちょっとコツがある。普通にやると「耳の認識」で手間取ることが多いのだ。実際筆者も、ベータ版でテストした時にはかなり手こずった。
実は設定にはコツがある。
耳を認識させる、というとiPhone自体を耳に近づけるように感じる。だが、これは良くないらしい。iPhoneを固定して自分の頭を動かすのがベストだ。
具体的に言えば、
- 顔の斜め45度前、30cmほどの距離にiPhoneを固定
- その後首を回し、耳をiPhone側に向ける
- 設定ができると音が鳴るので、それを目印に
という形で行なう。
筆者が試したところ、「耳の方にiPhoneを向ける」やり方では数回に1回しか認識できなかったが、「耳をiPhoneの方に向ける」やり方なら100%成功している。この辺でお困りの方は、ぜひ試してみていただきたい。