西田宗千佳のRandomTracking
第530回
AV的にも期待度十分! PlayStation VR2を先行試遊してきた
2022年9月14日 21:00
2023年初頭に発売を予定している「PlayStation VR2」(PS VR2)について、先行試遊できる機会に恵まれた。発売まではまだ時間があるものの、機能や画質などについて、製品と同等のものが体験できるのはこれが初めての機会となった。
細かい点もチェックしながら、どんな出来になるかを想像していきたいと思う。
解像度アップ・接続簡単な新HMD、メガネでもOK
PS VR2の仕様については、すでに公開されているのでご存じの方も多いだろう。
「PlayStation VR2」デザイン公開。オーブ型で「360度の視界を表現」
PS VR2の一部機能公開。ヘッドセット外さず周囲確認、プレイ姿の配信も
価格と正式な発売日は未公表だが、「PS5専用」「ケーブル1本で接続」「片目2,000×2,040ドット、最大120Hz駆動」といったスペックは見えてきていた。
では実機をご覧いただこう。
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)自体は、位置認識用のライトバーがなくなり、丸っこくなった印象だ。角にある黒い丸はセンサーだ。
以前はHMDやコントローラーの位置を「外部にあるカメラで認識する」方式だったが、PS VR2はMeta Questなどと同じく、HMDに内蔵したイメージセンサーで位置を認識する「インサイド・アウト」方式になったので、HMDにセンサーが搭載されているわけだ。
PS5本体とはUSB Type-Cケーブル1本で繋がる。これはもう、初代PS VRのカオスな状況を思えば劇的な変化と言える。挿す場所はPS5本体前にあるコネクター。発売当初から「なぜUSB Type-AとCが両方あるのか」という話があったのだが、Type-Aを通常のコントローラー用、Type-CをPS VR2用と考えれば、ちゃんと伏線がはってあった……というわけだ。
ケーブルはあまり太くなく、かなりしなやかだ。これはとても重要なこと。長いUSB Type-Cのケーブルで取り回しの良いものを自分で調達するのはけっこう大変なので、製品についてくるものが「いい感じ」なのは重要なことになる。
レンズは大きめのもので、今回はフレネルレンズだという。しかし、写真を撮ってみても「いかにも」な段差は見えない。後述するが、画質もかなり良好だった。おそらく、それぞれの目に1枚ずつ有機ELディスプレイのパネル(解像度は2,000×2,040ドット)が配置されている構造と考えられる。
HMDの上部、右側にはHMDの本体を前にずらすボタンがあり、バンドの後ろにはバンドを伸ばすボタンがある。HMDをずらし、バンドを伸ばし、頭の下までバンドを持って行ってHMDを戻し、バンドにあるダイヤルで締めて固定する……という手順自体は、初代PS VRと同じである。バランスがよく、付け心地はかなり良い。
なにより重要なのは、「メガネをしたままでまったく問題ない」ということだ。
大事なことなので二度言う。
「メガネをしたまま、問題なく使える」。
また、鼻の隙間から光が漏れることがないのもありがたい。平たい顔族も安心だ。この辺の設計は、日本人の要望に合っている。
コントローラーは「完全新型」に
コントローラーも一新され、より持ちやすい形状になった。
アナログスティックが左右にあり、「△○×□」は、左手に△(上)と□(下)、右手に○(上)と×(下)に分かれて配置された。L1・R1は中指に、L2・R2は人差し指の位置にある。
アナログスティック・L1/R1・L2/R2のトリガーには感圧センサーがあり、指(親指・人差し指・中指)を置いているだけで検知するし、押し込むこともできる。「軽く握った手」と「ぎゅっと握った手」を区別できるわけだ。
ちょっと面白かったのがストラップだ。
コントローラーが飛んでいってしまわないよう、ハンドコントローラーにストラップがあるのは「お約束」なのだが、ちょっと工夫もある。手首を通したら、あとはその手首を回すだけでストラップが締まるようになっているので、両手を使う必要がない。外す時は片方でちょっとだけ緩めて逆に手首を回すと大きく緩む。
周囲はシースルーで確認、セッティングも自動化
次にセッティングだ。
システムソフトウエアに紐づいた機能などはすべてが体験できたわけではないが、セッティングなどに関わる部分はわかってきた。
PS VR2はPS5専用の機器なので、設定はPS5のシステムソフトウエアに組み込まれている。PS5のゲームでは「カード」と呼ばれる情報をまとめたものが表示されるが、PS VR2の設定もカードからシンプルに呼び出せる。
まずHMDをかぶろう。
設定済みなら不要だが、自分がかぶるのが初めてなら、2つほど設定が必要になる。
1つ目は「瞳の位置の調整」。いわゆるIPD(瞳孔間距離)調整だが、今までとはちょっと違う。
IPD調整を正確にやるのは意外と面倒だった。多くのHMDでは「なんとなくレンズをずらして合わせる」くらいだった。
だがPS VR2では、目の位置を画面上で確認しながら合わせられる。
これができるのは、PS VR2に「視線認識機能」があるからでもある。
というわけで次にやるのは「視線のキャリブレーション」。HMDの中で動く点を目で追っていくだけだが、設定されると、ちゃんと目線の方向を認識してくれるのは面白い。
その後はプレイするエリアの認識だ。VRでは周囲が見えなくなるので、安心して遊べる領域を決めておくことは重要になる。
PS VR2ではインサイド・アウト用のカメラで周囲を認識し、プレイエリアを決める。段差などの認識も基本的には自動。顔を動かして部屋をスキャンするような感じだ。もちろん、コントローラーで領域を追加したり削除したりもできる。
こうしたUIはライバル・Meta Questなどで導入されているものだが、分析した上でうまく取り込んでいる印象だ。
また、HMDの下にある「ファンクション」ボタンを押すと、周囲をモノクロで見られるシースルーモードに変わる。
これもMeta Questにある機能だが、PS VR2のものはとにかく映像がクリアだ。歪みもあまりなく、HMD内部ではもちろんちゃんと立体に見えている。設計段階から「シースルーモードに使う」前提でセンサーを選んだからできているのだろう。
良好な精彩感・発色・コントラスト。画質の秘密は「Foveated rendering」
では、実際に体験した感想に入ろう。
プレイできたのはPS VR2で発売が予定されている「Horizon Call of the Mountain」(開発元・ソニー・インタラクティブエンタテインメント PlayStation Studio Guerrilla)と、PS VR2版「バイオハザード ヴィレッジ」(開発元・カプコン)。ともに発売時期は未公表だ。
まずは「Horizon Call of the Mountain」から行こう。このゲームはSIEのヒットタイトル「Horizon」シリーズのスピンオフ作品だ。
まず驚かされたのは、解像感・発色・コントラストのバランスだ。とても自然で見やすい。画素の間延び感もなく、それでいて視野もかなり広く感じた。
「Horizon Call of the Mountain」はかなりリッチなグラフィックのゲームだ。Horizonシリーズは、ポストアポカリプスから1,000年が経過した自然の中が舞台となるゲームであるために、自然描写がカギになる。このクオリティがかなり高く、精密なものに感じた。
主観視点でロッククライミングを使って進んでいく様子などは、いかにもVR的な体験だ。しかも、時には人のサイズを遥かに超える機械獣にも襲われる。この辺も、フラットで2Dなディスプレイでは体験できない感覚と言える。
今回に合わせ、「Horizon Call of the Mountain」の開発を担当したPlayStation Studio・Guerrillaのナラティブディレクター、ベン・マコー氏とプロジェクト アートディレクターのフェリックス・ヴァンデンバーグ氏に話を聞くこともできた。
彼らは開発上のポイントを以下のように説明する。
「PS VR2の特徴は視線追尾にある。スクリーンのどこを見ているかがわかるので、Foveated renderingが使える。逆に見ていないのかがわかるので、最適化にも役立つ。つまり、できるだけ多くのリソースを、見ている場所に注ぎ込めると言うこと。結果的にそのことは、快適で広い視野と相まって、極限的な環境を描くことにも有効だった」(マコー氏)。
なるほど。映像の密度を上げるために、見ている場所の中央以外の解像度を下げるFoveated renderingを活用したことが、結果的にグラフィックの解像感維持に大きく貢献したようだ。
実はこのことは、もう1本のプレイタイトルである「バイオハザード ヴィレッジ」でも感じられた。ゲーム中のアセットの解像感がとても高いので、リアリティを強く感じるのだ。これはもともと「バイオハザード ヴィレッジ」のゲーム内アセットのクオリティが高いから、という部分もあるが、コマ落ちを防ぐために解像感の面で妥協することが多いVRの中では珍しい体験だった、とも言える。
「バイオハザード ヴィレッジ」の場合、冒頭で吹雪の中を歩くのだが、ここの「雪の表現」が非常に現実的で、ちゃんと立体的に、粉雪がこちらに吹き付けているのもわかった。そして、進んでいくと吹雪の向こうに巨大なドミトレスク城が見えてくる。この辺はやはり、2Dでは体験しづらいスケール感だ。
さらに、「Horizon Call of the Mountain」については「酔いづらい」のもポイントだった。数十分のプレイでも、その種の違和感はほぼ感じることはなかった。
Guerrilla・マコー氏は次のように説明する。
「PS VR2は視野が広い。そのため、一部のVRヘッドセットで見られるトンネルのような視点にならない。そうなると、自分が世界の一部でないように感じられてしまう。また、コントローラーにジェスチャーやフィードバック効果があることも重要。そのことによって、自分が『物理的にそこにいる』と感じさせることができるからだ。もちろん、色々と設定は変えて、酔いへの対策度合いを変えることは可能だ。実は自分自身、ちょっとVR酔いには弱い方なのだけれど、初代PS VRとはかなり違うと認識している」(マコー氏)。
コントローラーは「実在感」と「遊び」に有効
コントローラーで色々なことができる、と言うのはVRにとって重要なことだ。
Guerrilla・ヴァンデンバーグ氏は次のようにも説明する。
「視線追尾はFoveated renderingだけでなく、例えば、世界のキャラクターに話しかける際、自分の視線がそのキャラクターにもわかるように実装している。これでよりリアルになった。先ほどベン(マコー氏)が話したように、ハプティクスやコントローラーの機能もあって、没入感や快適さを高めている。紐を引くと張力を感じたり、なにかを転がしたりもできる。世界の中にある何かに偶然触れてしまっても、ちゃんと反応するようにしている」(ヴァンデンバーグ氏)。
そういうインタラクションの多さが、ゲームとしての魅力だけでなく「世界としての自然さ」につながるのだろう。
「バイオハザード ヴィレッジ」では、ハンドガンの扱いが面白かった。
弾が切れたらどうするのか? マガジンを替えるわけだが、この操作が「リアル」だった。
銃を持っていない片方の腕で「替えマガジン」をポケットのある足から出し、ボタンを押してハンドガンから空マガジンを落とし、今度は替えマガジンをハンドガンに入れるように動かす。
そして、またその手でスライドを弾いてコッキング(薬室に弾丸を詰める動作)をして撃つ。
めんどくさいって? いやいや、それをササっとやるのがかっこいいのだ。アクション映画の中に入ったように、「それっぽくなり切れる」のがVR版の良いところであり、それをちゃんとコントローラーでできるのが、「バイオハザード ヴィレッジ」の良さだった。
きっといろんな使い方がさらに模索されることだろう。
映画などが見られる「シネマティックモード」も
最後にまとめだ。
価格などは未公開なので、お買い得かどうかまではなんとも言えない。だが、PS5専用でしっかりとチューニングされているからこそ、画質面などではかなりの満足感を得られた。音もちゃんとTempestによる3Dオーディオだ。
PS VR2には、今回試した「VRモード」だけでなく「シネマティックモード」もある。こちらは、PS5の2Dの画面を、1,920×1,080ドットの映像としてPS VRの中に巨大なスクリーンとして投影する機能だ。もちろん、ゲームだけでなく動画コンテンツなども楽しめるという。
これだけ画質が良くて快適だと、映像視聴などにも期待が持てる。製品版について、より詳細な取材ができるのが楽しみだ。