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第556回

世界初“オートフォーカス”アイウェア「ViXion01」を試す

ViXion01

様々な事情によって、多くの人が「視力矯正」をしながら生活している。補正も一段階で済むならいい。近いところと遠いところで見え方が異なる場合などに、複数のメガネを使い分ける場合もあるだろう。

そんな人向けに開発されたのが「ViXion(ヴィクシオン)01」だ。

先週末よりKibidangoとGREEN FUNDINGでクラウドファンディングが開始され、すでにかなりの金額が集まっている。

Kibidangoのプロジェクトページ

GREEN FUNDINGのプロジェクトページ

製品提供は最短の場合9月以降だという。しかし、記者向けの説明会で実際に試しながら色々聞くことができたので、少し詳しく説明してみよう。

「視力補正機器なら、AVは関係ないんじゃないか」って?

ごもっとも。

しかし、多くのエンターテインメントでは「視力」が重要だ。エンタメ向けの機器というわけではないのだが、これもまた重要な話なのである。

メガネではなく「オートフォーカス・アイウェア」

ViXion01は、いわゆる「目につけるデバイス」だ。といっても、HMDのようなディスプレイデバイスではない。オートフォーカスレンズが入ったアイウェア、とされている。

メガネのレンズは医療機器であり、「一般医療機器」に属する。「副作用又は機能の障害が生じた場合でも人の生命や健康に影響を与えるおそれがほとんどない医療機器」という扱いなのだが、製造・販売については一定のルールがある。

ViXion01は、ざっくり言ってメガネと同じ構造であり、使い方も変わらないのだが、上記の一般医療機器としての認定は得ていない。なので正確には「メガネとは呼べない」。

とはいえ、使用上一定の留意(これはあとで述べる)は必要であるものの、使い勝手や精度の面で、一般のメガネに劣るものではない。要は「認証を得ていないのでメガネではなくアイウェアだよ」ということをちょっと頭に入れておいてほしい、ということだ。

ViXionはメガネレンズなどで知られる光学レンズメーカーのHOYAからスピンオフした企業で、レンズを含めた設計にもHOYAのノウハウが使われている。だから、はっきりいえば、ViXion01は万能の存在ではないが、明確に普通のメガネより優れている点もある。それが「オートフォーカス」というところだ。

視力調節を「オートフォーカス」で助ける

メガネでオートフォーカス、というといまひとつイメージが湧きにくいかもしれないので、ちょっと説明してみよう。

人間の目にはそもそもオートフォーカス機能が備わっている。近くも遠くも見られるのはそのためだ。だが、その調整機能がうまく働かなくなると、近視や遠視になる。加齢による老眼も、ざっくりいえば「視力調整機能の衰え」だ。

メガネやコンタクトレンズは、衰えた調整能力を補正するため、「見えやすい場所に調整したレンズを目の前に置く」ことで対応している。だから、老眼になって遠くも近くも見えづらくなると、複数のメガネをつかって、距離に応じて補正することになる。ちなみに、レンズの場所で補正力を変えているのが「遠近両用レンズ」。メガネの掛け替えが減るというメリットはあるものの、適正な補正で見える範囲が狭くなること、レンズが高くなるというデメリットがある。

といったところで、ViXion01はどうなのか?

簡単にいえば、衰えた人間の目の側で調整するのではなく、ViXion01に組み込まれたレンズの側でピントを調整するのだ。

使っているレンズの詳細は非公開だが、内部にポリマーが充填されていて、その厚みを変化させることでピント調節を行なっている。こういうレンズは工業用やスマホ用などに作られており、VR向けにも有用、と見られている。

利点はフォーカス変更がとにかく素早いことだ。デジタルカメラなどでは物理的にレンズを動かしているが、どうしても動作に時間がかかる。しかしViXion01が採用しているポリマー系レンズは、ほんの一瞬でフォーカスが変わる。

以下の動画は、ViXion01が動作のイメージとして公開しているものだ。実際筆者も試してみたが、このくらい素早く切り替わる。肉眼との差異は小さい。

ViXon01での視力調節イメージ。まったくこのままではないが、筆者が試した感じにかなり近い

実際にかけてみるとメガネ的に使うデバイスとしてはかなり小ぶりで、その辺もあってか、外観にSF感がある。

筆者もかけてみた。ちょっとSF感

詳細なスペックは公開されていないが、顔の手前数cmから無限遠までに対応、と考えればいいだろうか。目の前の手を見て、すぐに手を動かして遠くの風景を見ても、そこにちゃんとピンと合う。これはかなり驚きだ。

筆者は軽い乱視+軽い近視があり、さらに老眼も入ってきた。裸眼だとピントが合う範囲は結構狭くなってきていて、複数のメガネを使い分けることが多い。そのため、ViXion01のように「1つで幅広い状況に対応できる」のはかなり快適だと感じた。遠くはもちろん、本に書かれた小さな文字も読めるし、指先の指紋まではっきり見える。

「目のピント調節はそこまで困っていない」という人は、関係ない話だと思うかもしれない。それはちょっと早計だ。

PCなどの作業を続けて、目の疲れを感じることはないだろうか? その理由は、目のフォーカスを同じ場所に合わせ続け、目の筋肉が疲れているからだ。そうした場合、ViXion01でフォーカス調整を補正すると、目の筋肉で調整する量は減るため、疲れは少なくなることが期待できる。

すなわちViXion01は、目が悪い人や老眼になった人だけに向けたものではないのだ。

なお、ViXion01で補正できるのは近視や遠視、老眼であり、乱視は対象ではない。しかし、レンズ径が小さいため、いわゆるピンホールカメラ現象によって「乱視も多少見えやすくなる」という。あくまで副次的なものなので、乱視補正を目的にすべきではない。

視野の狭さに技術的制約も

操作系はほとんどない。自分の目に合わせてフォーカスを合わせるダイヤルがある程度。充電はUSB Type-Cで行なうが、フル充電状態で10時間動くし、10分間の充電でも1時間半ほど動作するという。デジタルデバイスではあるが、電源のことはそこまで気にする必要はなさそうだ。

本体を下から見た。左側に充電用のUSB Type-Cのコネクタがあり、右端には「手動で自分用にフォーカスを合わせる」ためのダイヤルがある

ただ、現状ではいくつかの制約がある。

1つ目は「オートフォーカスは、視線方向ではなく自分が向いている方向で決まる」ということ。

ViXion01の中央についているカメラでフォーカスを定めるため、フォーカスを合わせたいものに首を向ける必要がある。

また、ガラスなどが間にあるとそこでフォーカス用の光が反射してしまうので、「ガラスの向こうにあるものにフォーカスを合わせる」のは難しい。

2つ目は「視野が狭い」こと。

ViXion01のサイズはメガネと同じくらいだが、高さは3.5cmと幅が狭く、レンズの直径も約5.8mmと小さい。

内側から見るとレンズ径が小さいのがよくわかる。レンズ部を左右に動かしてIPD調整をし、鼻パッドも合わせてフィットするようにして使う必要がある

レンズが小さいということは、その分視野はかなり限定されるということでもある。

双眼鏡をのぞいているようなイメージだ。ViXion01で見た時の理想的なイメージはどんな感じか? 以下のように指で丸を作り、目に密着させ、指同士が少し重なるくらいにしてみよう。ちゃんと見えるが、意外と狭いな……と思うはずだ。

このくらいの「丸」を指で作り、目の前にくっつけてみると、ViXion01の視野イメージに近い

この状況を作るためには、セッティングを慎重に行なう必要がある、というのもマイナス点かもしれない。

小さなレンズによる視野を活かすためには、両目の「瞳孔間距離(IPD)」が重要になる。レンズが瞳孔からずれてしまうと見えづらくなるためだ。さらに、視野をできるだけ広く見えやすいものにするには、ViXion01をかけた状態での瞳からレンズまでの距離が、できる限り近いことが望ましい。

IPDの方は、ViXon01のレンズの位置を手動で動かして合わせる。目に近い位置を保つには、顔に合った高さの鼻パッドを選び、できるだけ密着するように調整しておく必要がある。どちらもさほど難しいことではないが、「自分向けに合わせる」のが望ましく、複数人でViXion01を共有すると、調整が面倒になって使い勝手は落ちる。

鼻パッドは試作品を含めいくつかが存在。製品版ではよりフィットしやすく、調整しやすいものが採用される予定

冒頭で「メガネより良い部分があるが、劣る部分もある」と書いたのは、こうした特性があるためだ。狭い視野ではあるが、つけている間は自然であり、快適ではあるが、視野の狭さは如何ともし難い。外を歩きながら使うのはお勧めしないし、自動車などの運転時に使えるものでもない。

「世に出すことで変化を」狙う、数年後には視野が広がることも

ViXion01と同じような「オートフォーカスメガネ」は他の企業でも開発中だが、実際に買える製品として世の中に出るのは、おそらくこれが初めてだ。

ViXon代表取締役社長の南部誠一郎氏は、「まだ、メガネだと思って買っては欲しくない。理想の製品を100点とすると、今は30点くらい。しかし、完成度30点の製品でも、まず世の中に出すことで変化が起きるのを期待している」と話す。クラウドファンディングでの販売としているのも、そうした考えに基づく。

ViXon代表取締役社長の南部誠一郎氏

欠点はある製品だが、「完成度30点」というレベルであっても、視力をカバーするという意味では、すでに「これでしか体験できない利点」が生まれている。

ViXon01を装着した南部社長

南部社長は「数年以内に、レンズのサイズは現在の2倍くらいまでにできるだろう。そうなれば、実用性は格段に増す」と話す。

また、職人などのプロ向けに、あえて拡大率を肉眼より高めたモデルを作ることも可能だという。個人向けだけでなく、そうした「業務用モデル」にも可能性がある。

現在、6万7,800円からで販売が始まっている。「可能性」にこれだけの価格を払うのは高い、と思うかもしれない。だが、視力の不安を抱えている人なら、1日も早く使ってみたいと感じるはず。私も「日常的に使ってみたい」と感じた。

東京では二子玉川蔦屋家電(東京都世田谷区)内の「蔦屋家電+」で6月29日から展示が開始されている。気になるかたは、足を運んで試してみていただきたい。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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