西田宗千佳のRandomTracking

第555回

「Pixel Fold」は二つ折りという名の「ミニタブレット」である

Pixel Fold。色はObsidian

Googleの二つ折りスマートフォン「Google Pixel Fold」のレビューをお届けする。

二つ折りスマホの登場から数年が経過した。高価であるため誰もが使っている……とは言えないが、珍しい存在というわけでもない。

中国メーカーは積極的に作っているのだが、日本市場で購入できる、となると、やはり業界最大手であるサムスンの「Galaxy Fold」シリーズが中心となるだろうか。

筆者も「Galaxy Z Fold4」を持っており、日常的に使っている。

比較用に用意した「Galaxy Z Fold4」

また、二つ折りではないが「2画面スマホ」として、マイクロソフトの「Surface Duo 2」も持っている。

「2画面スマホ」の「Surface Duo 2」も用意

これらの製品は、どれもスマホの画面が狭いことをカバーするために「開く」機能を持ったものだ。一方で、画面の縦横比やソフトウエア的な実装などに違いも多く、そこが好みや使い勝手に影響している。

では、Pixel Foldはどのような存在なのか?

手元にある「Galaxy Z Fold4」「Surface Duo 2」、そして小型タブレットの代表格である「iPad mini(第6世代)」と比較しつつ解説してみよう。

小型タブレットの代表として「iPad mini(第6世代)」とも比較

動画視聴が非常に快適

二つ折スマホの本質とはなにか? それは「広げて画面を広く使えること」に他ならない。別の言い方をするなら、「タブレットをいかに持ち運びやすいものにするか」という話に近い。

折り畳んだ状態では片手で持つスマートフォンと大差ないが、必要な時には広げて使う。そのバランスをどう設計するかが、製品の特徴に直結している。

そういう意味では、Pixel Foldは「折りたたんで持ち運べるミニタブレット」という思想をかなり素直に実現したもの、と考えていい。

Pixel Foldを完全に平らな状態まで開いてみた。かなり「タブレットっぽい」見た目に
折りたたむとこのような状態。昨今のスマホに比べると「縦が短い」印象
本体下部。USB Type-Cのコネクタが一つ。反対側はちょっと見えづらいがSIMスロット
右側面。電源ボタン(上)は指紋認証機能つき
比較対象として、折りたたんだ状態でのGalaxy Z Fold4とSurface Duo 2も

ただし、開いて大画面として使うことも、折りたたんで机の上に置いて使うこともできる。動画視聴用のデバイスとしては、かなり自由度が高く使いやすい。

開いた状態で使ってもいいが、折り畳み方を変えることで、卓上で動画を見る際などには便利だ

ここでポイントになるのが「縦横比」である。コンテンツの種別によって縦横比は違い、その結果として使い勝手も変わってくる。これはなにも二つ折りスマホだけの話ではない。タブレットの場合でも、映像や電子書籍を利用した際の「コンテンツが表示される実サイズ」に大きな影響が出てくる。

左上から、Surface Duo 2・Galaxy Z Fold4。下がPixel Fold。以下3機種比較での並び順は同じ。意外と縦横比が違う

というわけで、まずは動画(16:9、YouTube)での比較をご覧いただきたい。

16:9の動画で比較。そのままだとGalaxy Z Fold4は余白が大きく感じる
上がiPad mini、下がPixel Fold。画面サイズの違いがそのまま映像表示サイズの違いに反映されている

画面を開いて使うと、横長の画面になる分、Pixel Foldはかなり見やすい。サイズ的にはiPad miniに劣るが、これはしょうがないところだ。

それに対してGalaxy Z Fold4は、開いた時の縦横比が若干縦長なので、どうしても動画表示サイズが小さくなる。本体を横にすれば解消できるのだが、そうするとどうしてもひと手間かかる。

Surface Duo 2は「2画面」なので、素直に表示すると動画は片方に寄ってしまい、「2画面」に広げると中央に切れ目が来る。ただ、サイズ自体はかなり大きく、iPad miniに近くなる。

この縦横比の違いは、折りたたんで机の上に置いて視聴する時にも影響してくる。結局は片側の画面であっても、動画をより大きく見せられるのだ。これはかなり魅力的である。

Pixel Fold
Galaxy Fold Z4
Surface Duo 2。画面のサイズが大きくみやすいのは、Pixel FoldとSurface Duo 2だ

卓上などにおいて動画撮影、という使い方をするにも、画面は大きく見える方が使いやすい。

動画向けとしては、Pixel Foldの縦横比は現状、かなり理想的といっていい。

コミックに最適な縦横比

同じことを電子書籍で比較してみよう。アプリとしてはKindleを使っている。

文字ものを表示する場合、そこまで大きな差はない。ページが分かれてしまうSurface Duo 2は不利だが、それ以外は「どれも読みやすい」と思う。片手での持ちやすさで言えば、幅が狭い分、Galaxy Z Fold4が最も有利、と感じるくらいだ。

Kindleアプリで拙著「ネットフリックスの時代」を表示。どれもみやすいのだが、Surface Duo 2は中央の「切れ目」が気になる。Galaxy Z Fold4は横幅が狭くなるので持ちやすい

だが、コミックになると話が変わってくる。コミックの縦横比を考えると、2つの大きな問題が出てくる。

まず「見開き表示」の問題。大きな画面を使うメリットは、コミックを1P単位でなく見開きで楽しめる、ということだ。もちろん、細かな字を読むには少しつらいサイズではあるのだが、それでも、見開きの方が読みやすいことに違いはない。

Kindleで鈴木みそ氏のコミック「銭」を、著者から許諾を得てテストに使用。Galaxy Z Fold4のみ、単に開いただけでは「1P表示」になってしまう

しかし、Galaxy Z Fold4の場合、普通に開いた状態では「縦長の画面」と判断され、1P表示になってしまう。横に倒せば見開き表示も可能だが、それにはやっぱりひと手間かかる。

同じものを、Galaxy Z Fold4のみ横にして「見開き」に。表示サイズ的にはかなり近い

実のところ、iPad miniも「見開きでコミックを表示する」と左右の余白は意外と大きく、Pixel Foldとの表示サイズ差が縮まって行くのも興味深い。

iPad miniとPixel Foldで見開き表示。iPad miniは横の余白が大きく、表示サイズ差がかなり小さいものになった

このように、表示バランスをどう設計するかによって、コンテンツ視聴の快適さは大きく変わってくる。動画とコミックのニーズが高い日本において、Pixel Foldはかなり絶妙なバランスであることがよくわかる。

スマホ専用アプリの表示に難あり

このようなサイズバランスになったのは、前述のように、Pixel Foldが「折りたためるミニタブレット」として設計されているためだ。

この点は、Galaxy Z Foldが「基本はスマートフォンだが、広げた時にはタブレットとしても使える」という設計思想に近いこととは対照的だ。

そしてこの設計思想の違いは、「どんなシーンでもPixel Foldのやり方が正しい」ことを示すものではない。

最もわかりやすい違いは「スマホ専用アプリ」の扱いだろう。

Pixel Foldもスマホなのに何を言っているのか……? と思われそうだが、前出のように、Pixel Foldは実質的に「開いて使う時にはミニタブレットである」と割り切った設計がなされている。そのため、ちょっと変わった現象が起きる。

Androidアプリの中には、画面サイズに合わせてデザインが変化するものもあれば、使うデバイスを「スマホ」と規定しており、縦長の画面レイアウトのみを想定しているものもある。この種のアプリにはSNSやメッセンジャー系が多く、TwitterやFacebook、LINEなどが該当する。

これをPixel Foldで起動するとどうなるのか?

以下の写真の通りだ。アプリが全画面に広がらず、偏って表示されてしまう。本体を90度傾ければ、フル画面表示になる。

スマホに特化したTwitterアプリなどは、画面が全体に広がらず、偏って表示される

一方でGalaxy Z Fold4では、同じような問題は起きない。コミックを読む時、Galaxy Z Fold4では「画面を横にしないと見開き表示にならない」という話をしたが、Pixel Foldの場合には、逆にメッセージ系アプリなどでPixel Foldの方が不利になるのだ。

アプリ側がタブレットを想定して作られていれば、こうした問題は起きにくい。だがPixel Foldはスマホでもあり、メッセージング系アプリはスマホでこそ使いたいものだ。

解決方法はないわけではない。

もしWeb版が使えるなら、それを「Webアプリ化」して使ってしまえばいいのだ。Pixel Foldは画面も広いので、「Webをそのまま使う」ことが相応に現実的ではある。

Webアプリを使うという解決策もある。画面はTwitterの場合。こちらなら使い勝手などにも問題はない

ただ、「スマホとして使うときに、Pixel Foldには制約もある」ことは頭に入れておきたい。

「小さなタブレット」そのものであることが利点であり欠点

UI的にも、Pixel Foldはほぼ「タブレット」だ。アプリを画面分割して使う際のUIは、Pixel Tabletのものにそっくりだ。

またWeb表示も、デフォルトではスマホ表示になっているが、PC版のWebを表示した方が読みやすくなっている。

Webをスマホ設定(標準設定)で表示
WebをPC設定で表示。画面が広いのでPC表示の方が見やすくなるのは、他のタブレットと同様だ

Galaxy Z Fold4などでは「スマホとして使うために、広い画面でどうアプリを表示するか」などの設定が用意されているが、Pixel Foldは非常にシンプルな構成だ。「これはタブレットである」とGoogleが割り切っているのが透けて見えてくる。

アプリを「分割表示」する操作などは、Pixel Tabletとほぼ同じ。Googleがこの製品を「タブレットである」と考えているのがわかる
画面を2つのアプリで分割し、見比べながら作業できるのは快適

この点は、シンプルに使える良さがある一方で、前述のような「スマホとしての使い勝手」の面ではマイナスだ。Surface Duo 2に存在する「アプリを必ず二つ並べて開く」設定もないので、アプリを並べて操作性を上げるには、毎回自分で「並べる操作」をしなくてはならない。

コンテンツを見たり、アプリを複数立ち上げて作業するには、Pixel Foldはとても良い製品だ。その上で「スマホ専用のアプリ」の表示で割り切るか、Webアプリなどの併用を考えるか、という工夫が必要になる。

その工夫が気に入らないなら、Galaxy Z Foldの方がいいだろう。ただ筆者は、画面の広さを活かすならPixel Foldの方が良い、と感じる。

どちらを優先にするのか、そこが分かれ目だ。

まあ、GoogleもAndroidの開発元なのだから、「スマホ専用アプリをどう見せるか」には何か工夫をすべきだと思う。彼らとしては、タブレットに対応したバージョンのアプリが増えてくれた方が嬉しいのだろう、とも邪推はしてしまう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41