西田宗千佳のRandomTracking

第557回

「有機EL搭載ノートPC」で動画配信はどう違う? 3モデルの画質をチェック

ここ数年で、ハイエンドノートPCやタブレットでも「有機EL(OLED)」シフトが続いている。スマートフォンではすでに起きたことであり、PCで起きるのも必然ではある。

ディスプレイがOLEDになるということは、それだけコントラストが高くなるということであり、発色も向上するということでもある。

映像を見る機器というと、本誌読者の場合、まず「テレビ」を思い浮かべるだろう。だが実際には、数だけでいえばスマートフォンで見ている人が一番多く、PCでの利用もかなりのものだ。日常的に使う用途でもできるだけ良い品質で……と考えるのは当然だろう。

だが、「同じようにOLEDを搭載したPCで、製品による画質の違いはどのくらいあるか」という話は、意外と語られてきていない。筆者もいくつか製品を見ているが、明確に比較したことはない。

そこで今回は、3つのWindows PCに、比較用としてミニLED + 液晶を採用した「MacBook Pro」を加え、「動画配信を見たらどのくらいの画質になるのか」を比較してみた。

HDRの配信動画を楽しむコツとしてもお読みいただければ、と思う。

Windows 3機種 + MacBook Proでチェック

まずは、今回テストに使ったPCをご紹介しよう。最重要ポイントは「ディスプレイがOLEDであること」。そして、ハイエンドPCとしての特徴がはっきりしていることである。

1台目が、ASUSの「Zenbook Pro 14 OLED UX6404VI」。直販価格は299,800円。

ASUS Zenbook Pro 14 OLED UX6404VI

今年春の新モデルで、GPUとして「GeForce RTX 4070 Laptop GPU(VRAM 6GB)」を搭載したクリエイター向けのハイエンド製品である。

ディスプレイは14.5型で2,880×1,800ドット。リフレッシュレートは120Hz。独自ユーティリティでのカラーキャリブレーション機能も備える。

重量は1.6kgと比較的重いが、性能などを考えると十分。CPU・GPUともにハイスペックなものを搭載している分、ACアダプターはかなり大きめだ。

薄型ではあるが、比較的重い
ACアダプターもかなり大きめ

2台目はNEC PCの「LAVIE NEXTREME Infinity」。直販価格は、220,880円から。

NEC PC LAVIE NEXTREME Infinity

8月1日に発表されたばかりの新製品で、「PC-9801」シリーズ40周年を記念した製品だ。CPUにインテルの第13世代Core Hプロセッサ、GPUに同じくインテルのIntel Arc A570Mを使った「インテルセット」でのハイエンドモデル。VTuberを始めたい人向けのアプリをセットにするなど、ちょっと他では見られない組み合わせの製品でもある。

VTuberを始めたい人向けのアプリが用意されているなど、ユニークなPCだ

ディスプレイは16型で3,840×2,400ドット。重量は2.5kgと、モバイル向けではない。

ノートPCながら、テンキーも搭載
ノートPCでは高負時に温度が上昇して性能が低下する事があるが、筐体内を空気が通りやすい設計にし、CPUとGPUを複数のヒートパイプとファンで効率よく冷却するシステムを搭載。ゲームやコンテンツ作りをバリバリやる人向けのPCだ。ACアダプターも大きい

3機種目がLGの「gram style」。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は29万円前後から。

LG gram style
外形寸法311.6×213.9×15.9mm(幅×奥行×高さ)、重量約999gと、他のOLEDノートPCよりも圧倒的に薄く、軽い。気軽に持ち運びできつつ、高画質で映像が楽しめるのが特徴だ
65WのUSB PDタイプのACアダプターが付属。他機種と比べると小さく、持ち運びやすい

14型のOLED採用で、重量は1kgを切った999g。前2機種のような性能重視モデルではなく、持ち運びも重視したPCだ。GPUはメインプロセッサーであるインテルCore i7-1360P内蔵の「Intel Iris Xe Graphics」だ。

ディスプレイは前述の通り14型。解像度は2,880×1,800ドットとなっている。

光の角度によって色味が変わるオーロラホワイトカラーが印象的

そして比較用に用意したのがアップルの「MacBook Pro 14インチ(2021年・M1 Pro搭載モデル)」。

筆者所有のMacBook Pro 14インチ(2021年・M1 Pro搭載モデル)

こちらを用意した理由は、筆者が日常使っていて画質傾向をよくわかっていること。そして「液晶の高付加価値型ディスプレイ採用製品」であることが理由だ。

使っているディスプレイは14.2型の液晶で、バックライトにローカルディミング対応のミニLEDを採用している。解像度は3,024×1,964ドットだ。

それぞれ特徴は異なる。単に「ハイエンドの横並び」としたかったわけではなく、製品の狙うゾーンが異なるものを用意し、ディスプレイの特徴がどう違うのか……ということを知りたかったため、こういう選択となっている。

「HDRで見る」ための設定にもご注意を

さて、実際の画質チェックに入る前に、「HDRが有効なディスプレイとして使う」ための留意点をお伝えしておこう。

Windowsの場合、デフォルトではHDRが有効でない場合がある。「設定」>「システム」>「ディスプレイ」の中で、HDRをオンにしよう。もちろんHDR対応ディスプレイでないとオンにはできない。

「設定」>「システム」>「ディスプレイ」の中で、HDRをオンに

PCの場合、通常の作業時には、HDRで表示すべきかはかなり好みが分かれるかと思う。「明るくなりすぎる」ためにHDRを好まない人もいるだろうから、必ずしもオンが必須、というわけではない。だが、HDR動画やHDR対応ゲームを楽しむなら、HDRはオンにすることをお勧めする。

今回はすべてノートPCを選んだため、システムでのHDRは「オン」にできるため、オンにしたのち使っている。Macの場合も同様のオプションがあるが、MacBook Proのディスプレイの場合、最初から「オン」になっている。

次に、配信を利用する場合には「ブラウザを選ぶ必要がある」ということだ。

ウェブブラウウザとしてChromeを使っている人も多いと思うが、Chromeで映像配信を見る場合、「720p・SDR」に制限される場合が多い。

今回は4K/HDRで映像を見る前提なので、ウェブブラウザとしては「Microsoft Edge」や「Safari」を使うことをお勧めする。

また、今回はコンテンツ種別のわかりやすさも考慮し、Netflixで公開されているHDRコンテンツを利用する。実はNetflixをウェブブラウザから使う場合、「デバッグモード」に入ることで、現在表示している映像の解像度やビットレート、HDR適応の有無がわかる。そのため、諸々確認を進めながらテストするにはちょうどいい……という事情もあったりする。

デバッグモードに入るには、映像を再生中に「Shift+Ctrl+Alt+D」(Macの場合には「Shift+Control+Option+D」)を押す。今回も、HDRで再生されているか否かは、見た目に加え、デバッグモードでの表示を手がかりとしている。

映像を再生中に「Shift+Ctrl+Alt+D」を押すとデバッグモードが表示される
デバッグモードの表示。HDR Supportの部分に「true」と表示されている

製品で異なるHDR画質を実機でチェック

ではテストを行なっていくとしよう。

視聴したのは「グレイト・ナショナルパーク: 驚きに満ちた世界」と、「サンクチュアリ -聖域-」のエピソード1。どちらもNetflixオリジナル制作で、4K/HDR対応。ドキュメンタリーとドラマという対照的なコンテンツを選んでいる。

4機種を並べてみて、いくつかのことがわかってきた。

1つは、gram styleのHDR感がないことだ。

調べてみると、gram styleはNetflix動画をHDR再生できていなかった。

デバッグモードを表示すると、HDR Supportの部分は「false」となっている

システム全体ではHDRになっていたが、ブラウザでのNetflix再生ではHDR再生にならなかった。SDRとしては自然な発色だし、黒もちゃんと締まっている。しかし、HDRらしい輝度の突き上げは出てこない。これは1つの制約と考えるべきだろう。

なお、NetflixではなくYouTubeの4K/HDRコンテンツでは正常にHDR表示ができていた。配信ではなくUGC的なコンテンツや、スマホ・デジカメで撮影したHDRコンテンツの確認などなら問題はないだろう。

右奥がgram style。YouTubeの4K/HDRはHDRで表示できている

2つ目は、MacBook Proの輝度がOLEDのモデルよりも低いこと。これは液晶ゆえの制約と言えるかもしれない。

左端から時計回りにASUS Zenbook Pro 14 OLED UX6404VI、NEC PC LAVIE NEXTREME Infinity、LG gram style、手前がMacBook Pro。MacBook Proは輝度がOLEDモデルよりも低い

またMacBook Proの場合、バックライトで画像の周囲に不自然な明るさが出る「Halo」現象もゼロではない。「サンクチュアリ 聖域」のオープニングなどではけっこう目立つ。OLEDモデルの場合にはもちろん出ない。

写真だとわかりにくいが、力士の体のまわりにオーラのようにボワッとHalo現象が見える

一方で、MacBook Proの発色そのものは非常に良い。テストに同席していたAV Watchの山崎健太郎編集長は「どことなくマスモニチック」と表現していたのだが、同感だ。おとなしめではあるものの、4機種の中でもっとも好印象であったりもする。

輝度は低いが、発色は自然で階調も豊かなMacBook Pro。落ち着いた絵で、確かにマスターモニターっぽい

では、Zenbook Pro 14 OLEDとLAVIE NEXTREME Infinityではどちらがいいか?

これは明確にZenbook Pro 14 OLEDだ。

Zenbook Pro 14 OLEDは発色も輝度も自然で、HDRらしい輝度の突き上げもしっかりある。最も好ましい見栄えだと感じた。「サンクチュアリ -聖域-」冒頭の稽古シーンの生々しさもちゃんと表現できていた。この辺は、MacBook Proも同様だが、輝度が高い分Zenbook Pro 14 OLEDの方が見栄えは良く感じる人が多そうだ。

比較したOLEDノートPCでは最も好ましい見栄えだったZenbook Pro 14 OLED
左端がZenbook Pro 14 OLED

一方、LAVIE NEXTREME Infinityはちょっと厳しい。今回のモデルの中で最も輝度が高く、メリハリのある絵にはなっているが、輝度が高い絵になると発色が崩れ、かなり残念な感じになる。特に「グレイト・ナショナルパーク: 驚きに満ちた世界」で、明るい青空と森が同時に映っているような風景を表示した時が厳しかった。SDRでは破綻したように見られなかったので、HDRでの画質コントロールがうまくいっていない印象だ。発表されたばかりの製品なので、今後ドライバーのアップデートで改善を期待したい。

中央の奥がLAVIE NEXTREME Infinity。輝度は高いが、パワフル過ぎて発色が崩れがちだ

「クリエイター向けにチューニング」は画質に大きなメリットあり

こうやって見ていくと、PCでHDR動画を見るのはまだそんなに浸透していないのかな……という印象も受ける。

その中で、Zenbook Pro 14 OLEDの画質が明確に良かったのは、やはり「クリエイター向け」を標榜しているからだろう。同製品はOLEDの画質をウリにした製品だが、強調するだけのことはある。

Zenbook Pro 14 OLED

逆に言えば、OLEDを搭載するだけでなく、画質・発色にはチューニングをすることが必須である、という点も見えてくる。MacBook Proの画質が良好であるのも、結局は「クリエイター向けを標榜しているから」という部分もありそうだ。まあ、アップルはラインナップを絞っているので、どれも同じようにチューニングしている、という話かとも思うが。

ただ、HDRでの最適化は弱くとも、OLEDを採用することで明確に黒の締まりは良くなる。これはSDRでもHDRでも変わらない。ダークモードを使い、黒い背景で文書作成やウェブ閲覧を行なうだけでも、OLEDの価値は感じられるだろう。

とはいえ、せっかくのOLEDなので、各社とも、「HDRで動画コンテンツを見た時の自然な発色」を意識したチューニングを行なって欲しいとは思うのだが。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41