西田宗千佳のRandomTracking
第557回
「有機EL搭載ノートPC」で動画配信はどう違う? 3モデルの画質をチェック
2023年8月18日 08:00
ここ数年で、ハイエンドノートPCやタブレットでも「有機EL(OLED)」シフトが続いている。スマートフォンではすでに起きたことであり、PCで起きるのも必然ではある。
ディスプレイがOLEDになるということは、それだけコントラストが高くなるということであり、発色も向上するということでもある。
映像を見る機器というと、本誌読者の場合、まず「テレビ」を思い浮かべるだろう。だが実際には、数だけでいえばスマートフォンで見ている人が一番多く、PCでの利用もかなりのものだ。日常的に使う用途でもできるだけ良い品質で……と考えるのは当然だろう。
だが、「同じようにOLEDを搭載したPCで、製品による画質の違いはどのくらいあるか」という話は、意外と語られてきていない。筆者もいくつか製品を見ているが、明確に比較したことはない。
そこで今回は、3つのWindows PCに、比較用としてミニLED + 液晶を採用した「MacBook Pro」を加え、「動画配信を見たらどのくらいの画質になるのか」を比較してみた。
HDRの配信動画を楽しむコツとしてもお読みいただければ、と思う。
Windows 3機種 + MacBook Proでチェック
まずは、今回テストに使ったPCをご紹介しよう。最重要ポイントは「ディスプレイがOLEDであること」。そして、ハイエンドPCとしての特徴がはっきりしていることである。
1台目が、ASUSの「Zenbook Pro 14 OLED UX6404VI」。直販価格は299,800円。
今年春の新モデルで、GPUとして「GeForce RTX 4070 Laptop GPU(VRAM 6GB)」を搭載したクリエイター向けのハイエンド製品である。
ディスプレイは14.5型で2,880×1,800ドット。リフレッシュレートは120Hz。独自ユーティリティでのカラーキャリブレーション機能も備える。
重量は1.6kgと比較的重いが、性能などを考えると十分。CPU・GPUともにハイスペックなものを搭載している分、ACアダプターはかなり大きめだ。
2台目はNEC PCの「LAVIE NEXTREME Infinity」。直販価格は、220,880円から。
8月1日に発表されたばかりの新製品で、「PC-9801」シリーズ40周年を記念した製品だ。CPUにインテルの第13世代Core Hプロセッサ、GPUに同じくインテルのIntel Arc A570Mを使った「インテルセット」でのハイエンドモデル。VTuberを始めたい人向けのアプリをセットにするなど、ちょっと他では見られない組み合わせの製品でもある。
ディスプレイは16型で3,840×2,400ドット。重量は2.5kgと、モバイル向けではない。
3機種目がLGの「gram style」。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は29万円前後から。
14型のOLED採用で、重量は1kgを切った999g。前2機種のような性能重視モデルではなく、持ち運びも重視したPCだ。GPUはメインプロセッサーであるインテルCore i7-1360P内蔵の「Intel Iris Xe Graphics」だ。
ディスプレイは前述の通り14型。解像度は2,880×1,800ドットとなっている。
そして比較用に用意したのがアップルの「MacBook Pro 14インチ(2021年・M1 Pro搭載モデル)」。
こちらを用意した理由は、筆者が日常使っていて画質傾向をよくわかっていること。そして「液晶の高付加価値型ディスプレイ採用製品」であることが理由だ。
使っているディスプレイは14.2型の液晶で、バックライトにローカルディミング対応のミニLEDを採用している。解像度は3,024×1,964ドットだ。
それぞれ特徴は異なる。単に「ハイエンドの横並び」としたかったわけではなく、製品の狙うゾーンが異なるものを用意し、ディスプレイの特徴がどう違うのか……ということを知りたかったため、こういう選択となっている。
「HDRで見る」ための設定にもご注意を
さて、実際の画質チェックに入る前に、「HDRが有効なディスプレイとして使う」ための留意点をお伝えしておこう。
Windowsの場合、デフォルトではHDRが有効でない場合がある。「設定」>「システム」>「ディスプレイ」の中で、HDRをオンにしよう。もちろんHDR対応ディスプレイでないとオンにはできない。
PCの場合、通常の作業時には、HDRで表示すべきかはかなり好みが分かれるかと思う。「明るくなりすぎる」ためにHDRを好まない人もいるだろうから、必ずしもオンが必須、というわけではない。だが、HDR動画やHDR対応ゲームを楽しむなら、HDRはオンにすることをお勧めする。
今回はすべてノートPCを選んだため、システムでのHDRは「オン」にできるため、オンにしたのち使っている。Macの場合も同様のオプションがあるが、MacBook Proのディスプレイの場合、最初から「オン」になっている。
次に、配信を利用する場合には「ブラウザを選ぶ必要がある」ということだ。
ウェブブラウウザとしてChromeを使っている人も多いと思うが、Chromeで映像配信を見る場合、「720p・SDR」に制限される場合が多い。
今回は4K/HDRで映像を見る前提なので、ウェブブラウザとしては「Microsoft Edge」や「Safari」を使うことをお勧めする。
また、今回はコンテンツ種別のわかりやすさも考慮し、Netflixで公開されているHDRコンテンツを利用する。実はNetflixをウェブブラウザから使う場合、「デバッグモード」に入ることで、現在表示している映像の解像度やビットレート、HDR適応の有無がわかる。そのため、諸々確認を進めながらテストするにはちょうどいい……という事情もあったりする。
デバッグモードに入るには、映像を再生中に「Shift+Ctrl+Alt+D」(Macの場合には「Shift+Control+Option+D」)を押す。今回も、HDRで再生されているか否かは、見た目に加え、デバッグモードでの表示を手がかりとしている。
製品で異なるHDR画質を実機でチェック
ではテストを行なっていくとしよう。
視聴したのは「グレイト・ナショナルパーク: 驚きに満ちた世界」と、「サンクチュアリ -聖域-」のエピソード1。どちらもNetflixオリジナル制作で、4K/HDR対応。ドキュメンタリーとドラマという対照的なコンテンツを選んでいる。
4機種を並べてみて、いくつかのことがわかってきた。
1つは、gram styleのHDR感がないことだ。
調べてみると、gram styleはNetflix動画をHDR再生できていなかった。
システム全体ではHDRになっていたが、ブラウザでのNetflix再生ではHDR再生にならなかった。SDRとしては自然な発色だし、黒もちゃんと締まっている。しかし、HDRらしい輝度の突き上げは出てこない。これは1つの制約と考えるべきだろう。
なお、NetflixではなくYouTubeの4K/HDRコンテンツでは正常にHDR表示ができていた。配信ではなくUGC的なコンテンツや、スマホ・デジカメで撮影したHDRコンテンツの確認などなら問題はないだろう。
2つ目は、MacBook Proの輝度がOLEDのモデルよりも低いこと。これは液晶ゆえの制約と言えるかもしれない。
またMacBook Proの場合、バックライトで画像の周囲に不自然な明るさが出る「Halo」現象もゼロではない。「サンクチュアリ 聖域」のオープニングなどではけっこう目立つ。OLEDモデルの場合にはもちろん出ない。
一方で、MacBook Proの発色そのものは非常に良い。テストに同席していたAV Watchの山崎健太郎編集長は「どことなくマスモニチック」と表現していたのだが、同感だ。おとなしめではあるものの、4機種の中でもっとも好印象であったりもする。
では、Zenbook Pro 14 OLEDとLAVIE NEXTREME Infinityではどちらがいいか?
これは明確にZenbook Pro 14 OLEDだ。
Zenbook Pro 14 OLEDは発色も輝度も自然で、HDRらしい輝度の突き上げもしっかりある。最も好ましい見栄えだと感じた。「サンクチュアリ -聖域-」冒頭の稽古シーンの生々しさもちゃんと表現できていた。この辺は、MacBook Proも同様だが、輝度が高い分Zenbook Pro 14 OLEDの方が見栄えは良く感じる人が多そうだ。
一方、LAVIE NEXTREME Infinityはちょっと厳しい。今回のモデルの中で最も輝度が高く、メリハリのある絵にはなっているが、輝度が高い絵になると発色が崩れ、かなり残念な感じになる。特に「グレイト・ナショナルパーク: 驚きに満ちた世界」で、明るい青空と森が同時に映っているような風景を表示した時が厳しかった。SDRでは破綻したように見られなかったので、HDRでの画質コントロールがうまくいっていない印象だ。発表されたばかりの製品なので、今後ドライバーのアップデートで改善を期待したい。
「クリエイター向けにチューニング」は画質に大きなメリットあり
こうやって見ていくと、PCでHDR動画を見るのはまだそんなに浸透していないのかな……という印象も受ける。
その中で、Zenbook Pro 14 OLEDの画質が明確に良かったのは、やはり「クリエイター向け」を標榜しているからだろう。同製品はOLEDの画質をウリにした製品だが、強調するだけのことはある。
逆に言えば、OLEDを搭載するだけでなく、画質・発色にはチューニングをすることが必須である、という点も見えてくる。MacBook Proの画質が良好であるのも、結局は「クリエイター向けを標榜しているから」という部分もありそうだ。まあ、アップルはラインナップを絞っているので、どれも同じようにチューニングしている、という話かとも思うが。
ただ、HDRでの最適化は弱くとも、OLEDを採用することで明確に黒の締まりは良くなる。これはSDRでもHDRでも変わらない。ダークモードを使い、黒い背景で文書作成やウェブ閲覧を行なうだけでも、OLEDの価値は感じられるだろう。
とはいえ、せっかくのOLEDなので、各社とも、「HDRで動画コンテンツを見た時の自然な発色」を意識したチューニングを行なって欲しいとは思うのだが。