シアター探訪

お台場に超大型出店。ユナイテッド・シネマが目指す劇場の形

 東京・お台場に「ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場」が4月29日にオープンした。エンタメ・レジャー施設が立ち並ぶお台場エリアのシネコンだけに、近隣の住民はもちろん、遠方からの観光客にとっても注目の施設といえる。

ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場

 お台場進出のいきさつや、映画館を取り巻く時代の変化、そしてローソングループでもある同社のシネコンへの取り組みなどについて、ユナイテッド・シネマの管理部 人事・総務チーム兼広報担当 マネージャーを務める鈴木雅之氏に話をうかがった。

ユナイテッド・シネマの鈴木雅之氏

都内最大規模の13スクリーンを継承、チケット購入システムや売店など刷新

 まずは「ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場」の概要をおさらいしておこう。場所は東京・お台場のショッピングモール「アクアシティ」の館内。スクリーン数は都内最大の13。

ショッピングモールのアクアシティ内にオープン

 ご存じの方も少なくないと思うが、同じ場所で営業していた「シネマメディアージュ」(編集部注:TOHOシネマズ系)が2月に閉館。それから約2カ月の期間を経て、ユナイテッド・シネマが入れ替わるかたちで営業を開始した。

 シアター設備などの多くは基本的にシネマメディアージュのものを引き継いでいるとのこと。例えば座席は従来のものをそのまま利用。音響システムについては経年劣化したスピーカーの交換などをしているが、全スクリーン5.1chという形だ。

 一方で、プロジェクタはソニー製の新型モデルなどを導入。スクリーンも貼り替えている。2月のシネマメディアージュ閉館を寂しく感じていた人も、これほど早いタイミングで、お台場にシネコンが復活するとは思っていなかったのではないだろうか。同社によれば「利用できる設備は活かしつつ、必要な部分に投資していく」とのことだ。

アクアシティ3階からエスカレーターで降りると、そこに「ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場」の入り口がある

 都内最大の13スクリーンのうち、特に1番スクリーンは612席で、これも都内のシネコンとしてはかなりの規模。

 今後の大きな目玉となりそうなのが、体感型映画鑑賞システム「4DX」の導入。今夏に8番スクリーン(収容人数108人)での運用開始を予定している。なお、ユナイテッド・シネマとしてはお台場が17館目の4DX導入となる。

13のスクリーンを備える
1番スクリーンの入口
1番スクリーン内部。最後方から前部のスクリーンをみたところ
座席配置図

 このほか、チケット窓口と売店については完全に一新。特にうれしいのがオンラインチケット販売の充実ぶり。自動券売機4台に加え、オンラインチケットの受取専用機を3台設置している。筆者の印象では、かつてのシネマメディアージュは、ネットでチケットを買いやすい体制ではなかった。

 4月29日からはユナイテッド・シネマの「U-ONLINE」を使ってネットでの事前チケット購入ができるようになった。また年会費制の「CLUB-SPICEメンバーズカード」で各種特典を受けられる。

シネマメディアージュ閉館から2カ月で、お台場にシネコン復活

──ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場が4月29日にオープンしましたが、その経緯についてお聞かせください。

鈴木氏(以下敬称略):きっかけは、まず(直近のテナントである)シネマメディアージュさんの閉館ですね。今年2月の閉館が決まり、(家主にあたる)デベロッパーが次のテナントを探すことになり、そうした中で出店が決定しました。

鈴木雅之氏

──前施設の閉館から今回の開業まで、およそ2カ月しかないということで、ご苦労も多かったのでは?

鈴木:そうですね。退去の作業などもありますから、ユナイテッド・シネマとして具体的に作業を始められたのが3月中頃で、裏側では本当に忙しくしていました。

──グループとしては、比較的近隣である豊洲(ららぽーと内のユナイテッド・シネマ豊洲)でもすでに営業しています。そこであえてお台場がオープンするということは、また別の商圏があるという判断が?

鈴木:そうですね。シネコンはその地元のお客様が足を運ぶことが多いかと思いますが、お台場は非常に観光客が多い土地柄でもあります。そういった特性を活かす必要も今後出てくるでしょう。

中央部にはペアシートも

──お台場のシネコンならではの企画について、なにか具体的な取り組みはありますか?

鈴木:開業直後ということもあって、まだまだ仕込み中の部分が多いです。ただ、初夏の導入を予定している4DXが1つの核になってくるでしょうし、(お台場がもともと観光・エンタメ目的での来客が多いエリアであることから)イベント上映も多く実施して、広域からたくさんお客様にきていただきたいですね。都内最大の13スクリーンという規模感も、運営側にとって面白い部分ですし、さまざまなご提案ができると考えています。

ベテラン社員も応援上映にはビックリ!? 映画も「体験」重視に

──ところで、鈴木さんはいつからシネコンに携わられているんでしょうか?

鈴木:以前、AMCシアターズというシネコンがあったのはご存じでしょうか。1996年に福岡のキャナルシティでシネコンを開館した企業なんですが、私はそこの出身です。それこそ最初はアルバイト入社で、館内清掃にはじまり、売店でポップコーンを作ったり……。支配人も務めて、劇場には長く携わっていますね。

──当時のエピソードなどはありますか?

鈴木:入社後で思い出深い作品は1999年の「マトリックス」ですね。映画は普通1回見れば十分と思っていたんですが、マトリックスは劇場で5回見まして。(素晴らしい作品と出会うことで)お客様は何回もきていただける、だからこれだけ映画館にお客様が集まるんだな、と実感できました。今でも脳裏に焼き付いています。

 子供の頃はトップガンが好きでしたね。ちょっと余談になりますが、仕事柄、(字幕翻訳で知られる)戸田奈津子さんとお話しする機会がありまして、思い出の映画談義になったんです。そこで「子供のころ見たトップガンが好きで」という話をしたら、「つい最近の映画じゃない! 」と言われて(笑) やはり長年お仕事されているベテランの方は、携わった作品の数が段違いなんだなと感じました。

──鈴木さんは現在広報をご担当ということで、映画業界全体の動向にもお詳しいかと思いますが、最近の潮流についてどうお考えですか?

鈴木:映画の楽しみ方が本当に変わってきていると思います。映画では作品の良さが絶対的に重要なのは間違いないですが、それにさらにプラスして、体験・体感の要素を求めているお客様が増えていると感じます。

 立川のシネマシティさんの極上爆音上映(極爆)もその1つでしょう。あとは応援上映ですよね。私の頭では想像し得なかった楽しみ方で、雰囲気も非常に特別なんですが、お客様の満足度は非常に高い。(単なる上映では味わえない)その楽しさがお客様の間に広がって、それこそ「映画を見る」のではなく「映画を体験する」、「その場を共有する」、そのために足をお運びいただくケースが増えています。ライブ会場に足を運ぶイメージですね。

──ユナイテッド・シネマ全体でみて、初めて応援上映を実施したのはどちらの施設で、作品はなんでしたか?

鈴木:いくつかの劇場での「キンプリ(KING OF PRISM by PrettyRhythm)」だったと思います。その時点ですでに他のシネコンで応援上映は話題になっていまして、ユナイテッド・シネマでも実施しました。

──キンプリの応援上映では、観客が画面に合わせてアフレコしたりするそうですね。

鈴木:そうですそうです。

──他のシネコンで実績があったとはいえ、応援上映というイベントの実施に不安はありませんでしたか?

鈴木:最初は、お客様が本当にノってくれるのか、シーンとしやしないか心配でした。ただ、それまでも“アフレコ”という形でなければ、声援を送る上映もありましたし、下地はあったと思います。

 あとは、子供向けで「プリキュア」シリーズがあった影響も多少あるかもしれません。入場者プレゼントでペンライトなどを配って、映画の中でも「みんなで応援しよう! 」と呼び掛けてみたり。そうすると、大人がしっかり応援するキンプリはまた楽しい存在ですね。

──これとはまた別に、初めて映画を見る小さなお子さん向けにあえて館内を暗くしなかったり、泣き声OKで上映する例もあると聞きました(TOHOシネマズのママズクラブシアターなど)。ユナイテッド・シネマではいかがですか?

鈴木:全社的な施策ではないのですが、各劇場の支配人発の企画として実施するケースがあります。

──こういったことから連想しますと、大人も結構「映画を見ながら喋りたい」というニーズを抱えているのかもしれませんね。

鈴木:その流れでいくと、福岡の「ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13」で実施している「プレミアム・ダイニング・シネマ」も面白いですよ。これは映画を見ながら食事をきちんと食べられるだけでなく、上映中に会話してもOKなんです。「映画を見ながら食事をする」のではなく、あくまでも「レストランで映画を見られる」。食事も会話も楽しんでください、と提案しています。

──なるほど。そこは勘違いをしていました。「食事はとれるけど、基本的には黙っていないといけない」のかと。

鈴木:「今のシーン、凄かったよね」とか、そんな感じで語らっていただいて大丈夫ですよ(笑)。

──「映画館だから、こうしなくてはいけない」という枠を少しずつ変えていってるんですね。

鈴木:はい。色々な見方の提案をして、今までにないかたちで映画を楽しんでもらえるようにしていきたいですね。

どうなる? 設備導入の今後

──チケットの買い方について、やはり最近はネット購入の割合が増えているのでしょうか?

鈴木:都市部の施設はかなり高くなっています。半数は確実に超えていますね。それが地方に行くともう少し下がって30%くらいになるでしょうか。ただ、全体的にネット購入率が上昇してきているのは間違いありません。スマホの普及が大きいと考えています。

──CLUB-SPICEの会員カードをアプリ化するといった話はありますか?

鈴木:今のところ具体的な動きはないです。ただ、さまざまな施策を日々考えています。

一新されたチケット売り場
オンラインでのチケット購入が増えたことを受け、発券専用のコンパクトな端末を導入
従来型の券売/発券機も設置されている

──その他に注目している動向などはありますか?

鈴木:海外での事例をみていますと、VRムービーは米国などで少しずつ始まっているようですね。まだ日本では先になると思いますが、4DXも最初話題になったときは、お客様からは「何それ? 」という反応でした。それが今やあって当然の存在です。その意味ではVRに注目しておく必要はあるでしょう。ただ、本当に2時間仮想現実を体験し続けられるのかなど、課題はあると思いますが。

──仮にVRムービーが実現するとして、どこがメリットになるのでしょう?

鈴木:スクリーンの役目はゴーグルが果たしますから、個人的には音響かな、と。ヘッドフォンでの体験とはまた違うと思います。とはいえ、商業ベースにのせるには、しっかり検討が必要です。また、映画好きの方にはIMAXをお求めの声も非常に多いです。こちらは全国のユナイテッド・シネマ中6劇場で導入済みです。

──お台場での4DXの導入時期は「夏」とされていますが、もう少し具体的にはどうでしょう? やはり夏休みが一つのターゲットですか?

鈴木:そこはもう外せないところです。なるべく早く提供できるよう、今まさに関係各部署が頑張っています。

──スクリーンの大きさ、音響システムなどへのお考えはいかがでしょう?

鈴木:お客様からのニーズは高まっています。やはり没入感の向上は、最新システムによって高まる部分が大きい。導入は各社の今後の検討課題になってくるかと思います。

 予算と収益のバランスももちろんあります。最新設備を入れたからといって入場料金を倍にはできませんし、そのシステムを評価してくれるお客様を獲得しなければならない。加えて、作品選びも重要になってきます。(会話主体のような)静かな映画など、最新音響の効果を発揮しづらい場合もありますので。

映写室にもお邪魔した。映写機や機材が整然と並んでいた
こちらがソニー製映写機。奥側のガラス窓を覗くと、座席が広がっている

“映画以外”の作品が増加した背景

──最近は、映画作品以外を上映する「ODS(Other Digital Stuff)」にも注目が集まっていますが、現場の関係者としてはどうご覧になっていますか。

鈴木:まず案件そのものの数はここ2~3年で驚くほど増えましたね。実際には5~7年くらいでしょうか、それぐらいかけて少しずつ浸透してきましたが、ここ2~3年は本当に顕著です。

──何かきっかけはあるんでしょうか? コンテンツ権利者側の意識の変化ですとか……

鈴木:それはあると思います。「2016年問題」などと呼ばれる、ライブ/イベント会場不足の影響も、その1つだと思います。(音楽などのライブ中継については)映画館があくまでサテライトという位置付けになりがちでしたが、お客様にフルに楽しんでいただくための場としての認知が進んでいるように思います。

──では、ODSはこれからも増えていくとお考えですか?

鈴木:はい、そうですね。

──シアターそのものを貸し出して、映像会議の会場に使ってもらうといった対応も行なっていますか?

鈴木:そういった対応もしています。専門の営業部隊もいますので。例えばお台場の1番スクリーンは612席と、かなりの規模ですから、お客様にとっても十分魅力的な場所かと思います。

2館休館中でも、前年を上回る業績。飲食の注目は?

──2016年は映画の当たり年でした。ユナイテッド・シネマの興行収益や業績面ではどんな好影響がありましたか?

鈴木:2016年は「君の名は。」の効果もあり、業績は好調でした。弊社は昨年4月の熊本地震の影響で「シネプレックス熊本」の休館を余儀なくされました。11月に「ユナイテッド・シネマ熊本」として再開しましたが、2016年通期で見た場合、その期間の大半で営業できませんでした。

 2016年3月からは福岡のヤフオクドームそばにある「ユナイテッド・シネマ福岡」がエリア一帯の再開発に伴い、やはり一時休館しています。一方で、2015年開業の橿原、2016年開業のあしかがの両劇場が、いずれも1年を通して営業しました。加えて、ヒット作のパワーもあって2016年業績が2015年業績を超えました。

 「君の名は。」のようなヒット作があると、久しぶりに映画館へ足を運んだという人が多くなるわけですが、すると「こんな作品があるんだ」という発見があって、相乗効果も出てきます。

 そういった方々に、いかにリピーターになっていただくか、それが私たちが常日ごろ考えていることですね。さきほどお話しした映像・音響システムもアピール材料の1つですし、会員システムの充実や、美味しいフードをご提供するのもまた重要です。

売店も一新された

──売店商品はどんなこだわりがありますか?

鈴木:ドリンクとポップコーンは売れ筋ということもあり、力を入れています。季節ごとのメニュー入れ替えはしっかりやっていますし、直近だとピーチドリンクが好調です。果肉となる材料に飲料をブレンドしますので、コーラのようなソフトドリンクと比べて一手間かかっています。女性の方に多くご注文いただいているようですね。

 ポップコーンも今ちょうど新メニューに切り換えるところで、これまでの抹茶味からアーモンドキャラメルミックスに変わります。

 ポップコーン以外のフードですと、ポテトの人気があります。弊社の商品はいわゆる細長いフレンチフライではなく、皮付きのナチュラルカットポテトをオーブンで焼いてご提供しています。

 豊洲ではシアターのすぐ隣に「カフェ&バーBREATHE」を併設していて、こちらでは作品のタイアップ企画も実施しています。特別なドリンクコースターをご提供する、といったものですね。

ローソングループの映画館として「エンターテインメントコンプレックス」へ

──飲食以外の分野でも、近年はシネコンでの売店商品販売が強化されている印象があります。ユナイテッド・シネマの場合、映画のDVDを劇場でも取り扱ったりしていますよね。

鈴木:ユナイテッド・シネマは現在、ローソンのグループ会社であるローソンHMVエンタテイメントが親会社となっています。そういった経緯もあり、協力をいただいて、売店に専用の棚を作るといった取り組みもしています。これもお客様に対する、新しいご提案の1つです。

──親会社であるローソングループは、チケット販売などを通じてエンターテイメントに強みを持つ会社ですよね。他にも変化はありましたか。

鈴木:シアター設備への投資を含め、これまで以上に積極的にお客様に提案できるようになりました。これは大きな変化だったと思います。

 他にも、例えば映画「HiGH&LOW」の企画をローソングループ全体で協力し合えるシナジーは大きい。恐らく(グループに入る前の)ユナイテッド・シネマ単独では、協業できなかったでしょう。

──今後は、どんな劇場になることを目指しているのでしょうか?

鈴木:まずはお客様に「ユナイテッド・シネマがお台場にきた」ということを認知していただくのが重要です。その上で、私たちがこれまで培ってきた、おもてなしや、体験、体感のスキームなどを活用しながら「ユナイテッド・シネマっていいよね」とお客様に感じていただき、さらに上映企画などで集客できれば、関係者みんながうれしいですね。

 弊社ではお客様へ映画・映像コンテンツを総合的にご提供していこうと考えています。社内では今、これまでのシネマコンプレックスから、「エンターテインメントコンプレックス」を目指そうというのがキーワードになっています。映画を中心としながらも、さまざまな試みでお客様にご満足いただけるよう、取り組んでいきます。

 お台場には13スクリーンありますが、これは都内で最大のスクリーン数です。「エンターテインメントコンプレックス」を目指す上では、非常に重要な施設になってくるものと期待しています。

フジテレビの本社もすぐ隣。一般的な繁華街やロードサイドとはまた違う街並みだけに、色々な企画にも期待したい

森田秀一

1976年埼玉県生まれ。学生時代から趣味でパソコンに親しむ。大学卒業後の1999年に文具メーカーへ就職。営業職を経験した後、インプレスのWebニュースサイトで記者職に従事した。2003年ごろからフリーランスライターとしての活動を本格化。主に「INTERNET Watch」「AV Watch」「ケータイ Watch」で、ネット、動画配信、携帯電話などの取材レポートを執筆する。近著は「動画配信ビジネス調査報告書 2017」「ウェアラブルビジネス調査報告書 2016」(インプレス総合研究所)。