鳥居一豊の「良作×良品」
第74回
有機ELならではのリアリティ。REGZA「55X920」で「レディ・プレイヤー1」に没入
2018年11月8日 08:00
今回の良作は、東芝の有機ELテレビ「55X920」(実売価格381,800円)。使用する有機ELパネルは2018年仕様の最新版で、ディスプレイ面の進化だけでなく、いちはやく新4K放送チューナーを内蔵している点も他の有機ELテレビにはない大きな特徴だ。
X920シリーズは今夏の7月下旬の発売。そのため、新4K放送チューナーの著作権保護技術であるA-CASはカード装着式を採用する。購入後にホームページなどで申し込みをすると視聴に必要な「BS/CS4K視聴チップ」が送付されるので、ユーザーが自分で装着する方法。すでに発売しているZ720X、BM620X、M520Xシリーズと同様の方式だ。
外観はほぼ同様だが、背面はブラック仕上げに変更
今回は、「55X920」を自宅にお借りし、じっくりと視聴することができた。筆者が普段使っている前作の「55X910」と外観はほぼ同じで、スタンドも最小限で画面より前にはみ出す部分もないノイズレスデザインとなっている。
正面から見るとその違いがほとんどわからない。しかし、裏面を見てみるとメタリックグレー仕上げとなっていた背面はブラック仕上げに変更されていた。壁際に設置してしまうとほとんど気付かないが、印象はかなり異なる。また、スタンド部も小変更されており、設置時や移動時のための取っ手が設けられるなど、使い勝手を意識した変更が加わっている。
入出力端子も大きな変更はない。新4K放送に対応するが、アンテナ端子はBS/110度CS用が1つのみ。従来のアンテナをつなげば現行のBS/110度CS放送と新4K放送の一部(右旋)が視聴できるし、新4K放送に対応したアンテナをつなげば、現行および新4K放送の全ての受信が可能だ。このほか、タイムシフトマシン用のUSB 3.0端子×2、通常録画用のUSB端子の装備など、ほとんど変更はない。
ユニークなのは、電源ケーブルが着脱式となっていること。ケーブル交換による音質面の向上などが期待され、興味のある人は試してみてほしい。
スカパー!プレミアムサービス用のICカードのスロットや、「BS/CS4K視聴チップ」の装着端子は右側のカバー内にある。カード装着後はカバーを閉めてしまえば外観に変化はなく、すっきりとした外観のまま使うことができる。
さっそく地デジ放送やスカパー! 4K放送を見てみる
まずは地デジ放送やスカパー! 4K放送を見てみる。新4K放送はまだ視聴することができないが、スカパー! 4Kチューナーを内蔵しているので、スカパー!のサービス加入者ならすぐに4K放送の視聴ができる。
設定メニューは、今春モデルと同様にデザインが一新され、階層型の表示に変わっている。メニューの表示エリアも大きくなり、アイコン等も追加されているので、初心者でもより操作がわかりやすくなった。
メニューでは、映像設定や音声設定、タイムシフトマシン設定やネットワーク・サービス設定と項目が分かれており、それぞれに項目を選ぶと右側に項目別のメニューが表示される。まずは初期設定で「はじめての設定」を行なえば、チャンネル設定などの基本的な設定は完了。あとは、必要に応じて録画設定やネットワーク設定などを個別に行なえばいい。
このほか、「その他の設定」には、有機ELパネルに焼き付きが生じたとき、それを緩和する「パネルメンテナンス」や「ソフトウェアのダウンロード」などがある。X920シリーズの場合は、新4K放送開始の12月に合わせて、ソフトウェアのアップデートが予定されており、ここで画質向上も見込まれる。購入したユーザーはアップデート必須だ。
さっそく、地デジ放送を見た(画質モードは「ライブプロ」)。一見して明るさに余裕があり、より鮮やかで鮮明な映像になったと感じる。このあたりは、最新パネルの良さがよく感じられる。明るめの多い地デジ放送では、全体的に画面が明るくなった印象が強い。それでいて、映像が派手になったという印象はなく、特に彩度の高い色や肌の表現などはむしろ落ち着いた感触になったと感じる。
これは、最新型のパネルに合わせた画質チューニングの結果だが、X920では色の再現を忠実感の高いものへ調整したとのこと。X910は彩度の高い色がやや華やかになる傾向もあったが、明るさが向上したことに合わせてよりリアル志向の表現になっている。
精細感の高さと地デジ特有のノイズを抑えたバランスのよい再現は見事なもので、より精細で見通しのよい映像になったと感じた。これは、最新型の高画質エンジンである「レグザエンジンEvolution PRO」による効果が大きいだろう。また、スポーツ番組などの速い動きもスムーズで、ギクシャクとした動きも目立たない。これは、超解像処理やノイズリダクション処理でのフレーム検出で、元の映像が24コマか30コマか、あるいは60コマかをきちんと判別して最適な動き検出をしているため。さまざまな番組を見ていて、よりスムーズで見通しのよい映像になっていることがわかった。
今度は、スカパー!の4K放送を見た。こちらの精細感はなかなかのもので、ドキュメント番組などでの風景は非常に精密な再現になる。細かなノイズのざわつきもよく抑えられており、すっきりと見通しのいい映像だ。4K放送も番組によってはノイズ感が気になるものが少なくないが、そんな番組もノイズ感をよく抑えつつ、しかも4Kらしい精細感をしっかりと感じさせてくれるものに仕上がっている。また、夜景や暗いシーンの映像では、従来は暗部がやや沈みすぎると感じることが少なくなかったが、「ライブプロ」の初期設定のままで暗部の再現性もしっかりとしており、映画に近い画調のドラマから、ドキュメントやスポーツなどさまざまな番組に幅広く対応できていた。
今度は、NetflixとUltra HD Blu-ray(UHD BD)でHDRコンテンツを中心に視聴した。画質モードは「映画プロ」にしている。比較的暗いシーンの映画でも画面の明るさ感には余裕があり、特に高輝度で表現されたライトの眩しさが強まっている。
Netflixの映像では、遠景のぼやけがちな部分の再現が巧みで、映像も全体的に密度を高めた印象になる。UHD BDに比べるとNetflixなど配信サービスの4K映像は、情報量が減ることで質感が不足しがちに感じやすいが、より情報量が豊かになることで、そんな不足は気にならなかった。こうした情報量の復元や密度感のある映像は、UHD BDよりも情報量の劣る放送コンテンツでも大きな武器になるだろう。
UHD BDの「シェイプ・オブ・ウォーター」では、薄暗いシーンでの肌の色もより忠実感のある再現となっているし、階調感が滑らかになって肌の質感や形状をより立体的に描き出している。有機ELが苦手とする最暗部の階調もより滑らかになっている。このあたりは明らかな進歩だ。
アニメの「イノセンス」では、CGを使った彩度の高い色の階調感が失われてベタっとした感じになりやすかったが、それらもきちんと抑えて輝き感やCGによる硬質な感じをきちんと再現している。強めの色の再現が落ち着いたことで映像のリアリティが増し、奥行き感や立体感が増したと感じる。
画面の明るさに余裕が出た点を除けば、個々の違いはごくごくわずかなものかもしれないが、それらが蓄積されて映像としての説得力がかなり増したと感じる。こうした質感表現の向上は、旧モデルユーザーとしては嫉妬を感じてしまう部分だ。
リアルな仮想現実で、胸躍る冒険が展開する「レディ・プレイヤー1」を視聴
今回の視聴ソフトに選んだのは「レディ・プレイヤー1」。スティーブン・スピルバーグ監督としては久しぶりにエンタメ度の高い作品で、原作には及ばないものの、相当なマニアでないとすべての登場キャラクターを把握しきれないと思えるほど、映画やアニメ、コミック、ゲームなどからのカメオ出演が多い。もちろん、日本からもガンダムやゴジラなど、数多くの有名キャラクターが登場する。
物語は、夢や希望がたっぷりと詰まったVRゲーム世界「オアシス」での「イースター・エッグ」を探す冒険を描いたもの。人々のほとんどが熱狂するゲーム世界と、行き詰まり感たっぷりの現実との対比も興味深いが、仮想と現実が混濁するP・K・ディック的な暗鬱としたSFではないし、国内では「ソード・アート・オンライン」シリーズで描かれるようなVR技術の発展と人の心の変化、社会への影響までも描く側面も持つ思考実験的SFとも違う。
完全に遊園地のアトラクション的なエンタメ映画だ。
ある意味、頭を空っぽにして誰でも楽しめる内容にしたところが良い。しかも、パロディー満載の作品だけに映画やゲーム、音楽やコミックなどへの愛がたっぷりと詰まっているのも素晴らしい。
映像の作り込みは徹底している。貨物用コンテナを積み重ねただけの集合住宅は、貧困に満ちながらも人々がタフに生きる未来像を見事に象徴しているし、VR世界も人物の造形や衣装こそ派手だが、徹底したリアルタッチの描写で暗部の深みもかなりのレベル。HDRコンテンツであることも含めて、かなりコントラストの高い映像だ。しかも本作はDolby Vision方式で収録されている。
55X920はDolby Visionには非対応なので、HDR10での表示となる。HDR10表示での映像は55X920の詳細情報によれば、コンテンツの最大輝度4,000nit、最小0.0050nit、ピーク輝度725nit、平均輝度162nitとなる。有機ELはピーク輝度で約1,000nitの実力を持つから、性能としては十分だが、55X910での視聴では暗い部分が見づらく感じることも少なくなかった。
55X920では、前述の通り画質はさらに熟成が進んだものになっているが、画質調整などのメニューは大きく変わってはいない。画質モードは「映画プロ」を選び、視聴環境はほぼ暗室。倍速モードを「ハイクリア」、ピュアダイレクトを「オン」にしたほか、基本的に初期設定のままで視聴している。
なお、極めてマニアックな使い方だが、暗部の再現性を画質調整で加減する場合に役立つのが映像分析情報。新たに時間ごとに変化する輝度情報なども確認できるようになり、より精密な映像信号の分析ができるようになった。暗部の再現性を高める場合、ここでの信号の分布を確認し、きちんと信号が含まれているかを確認するといい。暗部に信号が含まれていないのに暗部を持ち上げてしまうと黒浮きが生じるわけだ。こうした信号の分析は常に高画質エンジンで把握しており、リアルタイムで映像処理を可変している。こうした信号の分析結果をユーザーに公開しているというわけだ。
そんなハイコンラストな映像がたっぷり詰まっているのが、「イースター・エッグ」探しの3つの試練のひとつ、カーレースだ。この3つの試練自体が「オアシス」内に巧妙に隠されており、「オアシス」の産みの親であるジェームズ・ハリデーに関わる逸話や発言から見つけ出す必要がある。その勝者には、「オアシス」の所有権やすべての権利が手に入るのだ。だから、プレイヤーたちはまずゲーム自体を見つけ出し、ゲームをクリアすることで試練を突破する。「イースター・エッグ」へと至る展開はまさにゲーム的。
さておき、第1の試練のカーレースだが、架空のアメリカの都市を舞台に行われるもので、参加車両に制限はなし。スポーツカーやフォーミュラ・カー、ピックアップトラックなど、数々の車両が登場する。主人公のパーシヴァル(登場人物の名称はすべてアバター名)が乗り込むのが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアン(「BTTF1」仕様に見えるが、車輪を格納して低空飛行もできる。また、フロントのグリル部分に赤いLEDがあり、ナイト2000の人工知能K.I.T.T.搭載であると思われる)。そして、ヒロインであるアルテミスは「AKIRA」のカネダ・バイク(こちらもオリジナル仕様)に乗っている。
スタートとともに街の構成が変化してレース用のコースが構築されていくが、この場面が夕陽の沈む時間帯で、都市全体が強い日差しにさらされている。当然、スタート直前の車の車列は逆光となって暗く沈み、ヘッドライトだけが煌々と輝く。この場面はひたすらこうした逆光気味のシーンが多く、狭いビルの間を駆け抜ける場面は暗く影が差すなど、かなりの暗いシーン。それでいて、障害物として登場するT-レックスにはスポットライトが差しているし、キングコングも夕陽を背に大暴れするなど、明暗の差が極めて激しい。
そんな場面を55X920で見ると、逆光で陰影が強調された車体や見通しの悪い車内の様子をギリギリで見通せるくらいに再現した。このあたりの再現は最新の有機ELテレビでも多少の差があり、暗部を持ち上げて暗い部分を見やすくする傾向のものも少なくない。東芝の表現は元信号になるべく忠実な映像をキープしつつ、可能な限り暗部の再現もがんばっているという印象だ。このため、黒がしっかりと締まるので、ヘッドライトの眩しい輝きや、暗がりからスポットライト付きで現れるT-レックスの迫力ある巨体など、コントラスト感がよく伝わる映像になる。(とんでもないレベルの荒唐無稽なシチュエーションだが)映像のリアリティが高まり、なかなかに迫真のレース場面を楽しめた。
余談だが、このシーンはベストな表現を追求するのが難しく、HDRのコントラスト感をあきらめてSDRの2K BD版を見た方が暗部の見通しはよい。スリリングなレースの迫力や映像的なリアリティは半減するが……。
地デジ放送や4K放送でも感じたが、55X920の画作りは記録された信号に忠実な再現を追求しつつ、ディテールの再現や映像の密度感を向上し、リアリティを高めていくものだと実感する。画質調整で画面を明るくし、暗部の階調性や見通しの良さを高めることもできるのだが、そうするとBD版のようにもともと荒唐無稽な映像の「作り物感」がより見えてしまって興醒めすることになる。このあたりは好みもあるので、明るさや黒レベルの調整は積極的に行なった方がいいが、個人的には「ちょっと見えづらい」くらいの方が、現実感があって物語に入っていきやすいと思う。
さて、続いては第2の試練。これはスタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」が舞台で、あのホテルがかなり精密に再現される。パーシヴァルの親友であるエイチがホラー嫌いということもあって、ホテル内を逃げ回るドタバタの展開となるのも楽しい。ここでの見どころは、ホテル内にシーンが切り替わると、フィルム状のノイズ(グレイン)が粗めに付加されるところ。それまではグレインのない鮮明な映像だったので、一気に昔の映画の世界に入り込んだ感覚になる。ホテルの廊下に立つ双子、エレベーターから溢れ出す大量の血液など、作品の再現度も極めて高く、見応えたっぷりだ。
ここでの55X920は、グレインを目立たせすぎずに素直に映し出し、ホテルの壁や廊下をリアルに再現する。その一方で安っぽいペンキのような質感の大量の血液をオリジナルそのままに描写した。リアル志向の画作りではあるが、元信号を超えてリアルを追求するような「やりすぎ感」がない。あくまでも忠実感をキープした再現だ。また、庭園に作られた迷路も、暗い生け垣に雪が降り積もった様子をディテール感豊かに描いた。黒に近い深緑の生け垣はやや黒く沈みがちになるのが少々気になったが、雪のきめの細かさ、震えるような寒さを感じさせる雰囲気をよく伝えてくれた。
そしてクライマックス。「オアシス」の全プレイヤーが結集しての戦いは、まさしく壮大なスペクタクルシーン。ここでまずは序盤で組み立て中だった「アイアン・ジャイアント」が登場し、主に筆者のロボット魂を鷲掴みにする。
筆者はロボットアニメが大好きで、ロボットアニメは和物が世界最高と自負するが、現代のリアルなロボットアニメが忘れてしまったものを残念に感じることがある。それは、人とロボットの交流だったり、家族のきずなだったりと、お子様向けのロボットアニメ的なものではあるのだが、今、それを忘れたリアル系ロボットアニメを見ていると、何か物足りない。ロボットなんだけど、人間のごとく一生懸命頑張るロボットの姿を見るのが大好きなのだ。というわけで「アイアン・ジャイアント」最高。未見の人は、ぜひ見てほしい。
エイチが乗り込むアイアン・ジャイアントは、オモチャ同然の不格好な姿ながらも鋼鉄の重みと質感たっぷりに描かれ、攻撃を受ければ目を細めるなど、表情も豊かだ。これはもう、リアル志向の映像でないと迫力も感動も半減してしまう。55X920の質感豊かな再現は見事なものだ。
FPS的ゲームの舞台となる惑星での戦いはハードな荒野が舞台で、大地の裂け目には真っ赤に燃えるマグマが流れている。そこにビームやミサイルが飛び交い、さまざまなキャラクターたちが戦いを繰り広げていく。そしてついに企業のリーダーはメカゴジラを起動。アイアン・ジャイアントも必死に戦うが刃が立たない。そこにガンダム(RX-78)も加わって戦いを盛り上げていく。
このあたりの場面では、精細かつ緻密な描写がありがたい。映像がスピーディーに展開するので、あちらこちらで登場するさまざまなキャラクターたちを見逃してしまいがち。そういったキャラクターたちも鮮明に描いてくれるので、今までの映画でのカメオ出演などとは比較にならないレベルでの多彩なキャラの饗宴を存分に楽しめる。
こうしたモブ(群衆)シーンで細部の表示が甘いと、多彩なキャラクターがはっきりと視認できず、消化不良な感じになってしまう。なにより、アニメやコミック、ゲームといった表現手法にも違いのあるキャラクターたちを統一感のあるデザインで並び立たせ、個々のデザインとしてもファンも納得の出来となっているのが素晴らしい。まさしく愛だ! と言いたくなるような作り手の熱意が伝わる場面だ。
画質というよりは、映画の中に登場するキャラクターの一人一人をすべて見つけ出したくなって、身体が画面にどんどん近づいていく。画面に手が触れるほどの距離に近づいても、そこに緻密に描かれたキャラクターが存在している。これを2Kの薄型テレビでやると、見えるものは画素の隙間だ。心はどこまでも近づきたいのに、近づくほどにキャラクターは霧散して光の粒になってしまう。4Kテレビなら、望むまま画面に近づける。まあ、ちょっとおおげさかもしれないが、情報量がたっぷりと詰まった薄型テレビにはそんな魅力もあるのだ。
内蔵スピーカーもなかなか良い
ラストで描かれるのはこれまでに発売された数々のゲームとその作り手に対するリスペクト、「童心に返る」というが、見終わった後、いろいろな意味で精神年齢が何十歳も若返っていることを実感できればよい。そういう映画だ。
最後に音についても軽く触れておこう。55X920の内蔵スピーカーは、「有機ELレグザオーディオシステム」で、新設計にバスレフボックスに収められた2ウェイスピーカーを画面の左右に下向きで配置している。アンプは総合出力46Wと十分。
音響的には不利な下向き配置のスピーカーだが、マルチアンプ駆動や高精度に周波数特性を補正する「レグザサウンドイコライザー・ハイブリッド」などによるデジタル補正を行うことで、内蔵スピーカーとしての音質を高めている。
音声モードは、「おまかせ」のほか「ダイナミック」、「標準」、「映画」などがある。「おまかせ」や「標準」でクセのない素直な音を楽しめるが、「ダイナミック」は音楽向け、「映画」は映画向けのモードだ。「ダイナミック」というと過剰な派手さを感じてしまうが、音質的にはメリハリを効かせた聴きやすいバランスで、音楽だけでなくドラマやバラエティーなども楽しい。これに合わせて、低音強調やサラウンド機能なども用意されているので、好みに合わせて使い分けるといいだろう。
実際に「レディ・プレイヤー1」を内蔵スピーカーでも視聴してみたが、アクションシーンの大音量や重低音こそ望めないものの、くっきりとした音で不要な付帯音で聴きづらいこともなく、十分なレベルの実力だと感じた。
音声モードを「映画」にすると、低音強調が「弱」となってアクションシーンの迫力が少し増強されるし、サラウンドも「映画」となるので広がり感のある音になる。映画っぽい音響にはなるが、サラウンド感は横方向の広がりはあるものの、後方への音の周り込みなどは少なく控えめな再現。そのぶん、疑似サラウンド特有の位相のずれた不自然さはなく、聴きやすい音だ。
低音強調を「強」としてもサブウーファーのような低音は出ないし、サラウンド感も控えめなので、やはりサラウンド作品(特に本作はDolby Atmos)はサラウンドシステムを組み合わせたい。案外良かったのが「ダイナミック」。中域に厚みのある聴き応えのあるバランスで、なかなか楽しい。この作品では、'80年代のヒット曲を多用しており、筆者のようなおじさん世代の人にピッタリだが、そんな懐かしいヒット曲をなかなかパワフルで楽しく再生してくれた。特に冒頭で流れるヴァン・ヘイレンの「JUMP」などは、作品の導入にぴったりなワクワクする感じがよく出ていた。
基本的な音質は十分に優秀なため、ニュースやドラマ、テレビアニメなどを気軽に楽しむにはちょうどよい。ユニットの吟味やしっかりとした音響補正を施したうえで、聴いて楽しめる音にチューニングしていることがよくわかる。
リアル志向の映像表現は、アニメやゲームにもマッチする。懐の深い表現力
55X920にもアニメモードやゲームモードがあり、多少の画調の違いはあるが、基本的にはリアル志向の映像表現だ。ディテール感豊かで緻密な描写をする映像は、実写映画はもちろん、アニメやゲームなどでも説得力のあるリアルな感触を味わえるはず。
今年の有機ELテレビは各社ともに着実な熟成が図られているが、その実力の高さもあって、各社ともにマスターモニターの画調をベースとした忠実な表現をする傾向がある。そのため有機ELテレビは各社とも同じものになってしまうかと少し心配したが、こうして見ていくと、各社の画作りの姿勢がいよいよ明瞭になってきたことを感じる。
そんな画作りの違いをよくよく吟味して、自分にフィットするモデルを選ぶことがますます重要になるだろう。最新の有機ELテレビを見るのがますます楽しみになってきた。