鳥居一豊の「良作×良品」

第105回

サウンドバーでも包囲感抜群! JBL Bar 5.0 MultiBeamでジャスティスリーグ

JBL「Bar 5.0 MultiBeam」

お手軽の代名詞、サウンドバースピーカーも大きく進化している

前回紹介したソニーのHT-A9は20万円超の製品ながらも好評で、発売以来品薄の状況が続いている。2012年にDolby Atmosを採用した映画「メリダとおそろしの森」が公開されてから10年近くになり、現在発売されているAVアンプはDolby Atmos対応が当たり前、BDレコーダー/プレーヤー、薄型テレビなども同様と環境は十分に整っている。

しかし当初は、普及は順調には進まなかった。熱心なAVファンはAVアンプなどが対応しはじめるやすぐにDolby Atmos対応の環境を整えたし、その一人である筆者は、1992年に登場したディスクリート5.1ch、デジタル記録の「ドルビーデジタル」以来の大きな進歩だと思ったし、DVD時代にホームシアター機器が爆発的に普及したときのようなことが再び起こるとさえ思っていた。

現実がそううまくいかなかったのはご存じの通り。Dolby AtmosやDTS:X、Auro 3Dといった「立体音響」と呼ばれる最新のサラウンド方式は、高さ方向の空間再現のために天井へのスピーカーの設置が必要で、家庭での設置のハードルが上がってしまい、普及を妨げてしまったのだ。もちろん、天井の反射を利用して高さ方向の音を再現するドルビーイネーブルドスピーカーも早期から登場しているなど、設置を容易にするための製品も登場していたが、標準的な5.1chサラウンドでも部屋の後ろに置くスピーカーが邪魔になりがちなところに、さらにスピーカーの本数が増えるとなると、それだけで実現までのハードルは高くなってしまう。

このように、なかなか普及が進まなかったDolby Atmosだが、従来の5.1ch構成のシステムでも仮想的に高さ方向の音を再現できる技術「ドルビーアトモス・ハイト・バーチャライザー」のような技術が登場してから、カジュアルな製品でもDolby Atmos対応モデルが登場してくるようになる。設置のハードルの高さも、普及の進んだワイヤレススピーカー技術を採り入れることで設置はずいぶんしやすくなった。このように状況が整ってしまえば、後は魅力的な製品や映画があれば起爆する。そのタイミングにうまく乗ったのが、HT−A9だったわけだ。

HT-A9はその実力こそ本格的だが、価格も本格的で、誰もがすぐに20万円超の値段を出せるわけではないところがネック。しかし、すでに述べたようにサウンドバーでもここ最近急速にDolby Atmos対応モデルが増えてきており、ドルビーアトモス・ハイト・バーチャライザーのような技術のおかげでその効果も十分に立体的なサラウンドを楽しめるものとなっている。そんなモデルで、筆者自身も驚いたほど豊かな立体的サラウンドを実現したのが今回紹介するJBLの「Bar 5.0 MultiBeam」(実売約3万9,800円)だ。

JBL「Bar 5.0 MultiBeam」

5chスピーカーと4個のパッシブラジエーターを内蔵

JBLのBar 5.0 MultiBeamは一見すると、ごく普通のスリムな一体型サウンドバーだ。横幅は709mmで高さは58mmとコンパクトでスリムなサイズとなっている。価格も約4万円とDolby Atmos対応機としては最安価に近い価格だ。

しかし、その内部には、前面に3chのスピーカーを配置、側面にサラウンドスピーカー2chを配置した5.0ch構成。名称に偽りなしだ。しかも5つのスピーカーは80mm×48mmの楕円形ドライバーで統一されている。それに加えて、低音を増強するための75mm径パッシブラジエーターを4個内蔵している。これにより、サブウーファーなしの5.0ch構成でも十分な低音再生能力を確保している。

内部のユニット配置
Bar 5.0 MultiBeamの外観。スピーカーを内蔵する前面から側面はパンチングメタルで覆われている。薄型スリムな形状で壁掛けにも対応する
側面まで回り込むようにパンチングメタルのカバーがある。側面部にはサラウンドスピーカーがあり、天面のパンチングメタル部にはパッシブラジエーターがある
サウンドバーの底面。左右のパンチングメタルの部位があり、ここにもパッシブラジエーターが内蔵されている

まだまだ驚くのは早い。ただの5.0chスピーカー内蔵サウンドバーというだけでなく、本機には独自のMultiBeam技術が盛り込まれている。これは、スピーカーから出る音の指向性を制御し、ビーム状の音波を放射し、壁からの反射を利用して横や後方の音を再現できる技術だ。

もちろん、ドルビーアトモス・ハイト・バーチャライザーも備えており、5.0chで仮想的に高さ方向の音の再現も可能にしている。こうした部屋の壁の反射を利用するシステムはセッティングがナーバスになりやすいが、そのためMultiBeam技術は自動音場補正機能も備えている。しかもマイクは本体に内蔵しているので、測定時にわざわざマイクを接続して測定の準備をする必要もない。手軽な使い勝手の良さと音場測定による正確なサラウンド再現を両立した良い方式だ。

ビーム状の音波を放射し、壁からの反射を利用して横や後方の音を再現できる

接続などは一般的なサウンドバーと同様。HDMI入出力は各1系統あり、eARCにも対応する。HDMI出力は薄型テレビのARCまたはeARC対応HDMI入力に接続する。HDMI入力はBDレコーダー/プレーヤーやゲーム機などとの接続用だ。たくさんの機器を接続したい場合は、薄型テレビのHDMI入力に接続すればいい。eARC対応なので、テレビの音声や動画配信サービスの音声などもサウンドバーで再生できるし、テレビに入力した機器の音声もサウンドバーへ送ることができる。薄型テレビもeARC対応ならば、Dolby Atmosの非圧縮信号(Dolby TrueHD+Atmos)やリニアPCM5.1/7.1ch音声などの伝送も可能だ。

試聴取材では、HDMI入力にBDプレーヤーのパナソニック「DP-UB9000」を接続し、HDMI出力はプロジェクターのJVC「DLA-V9R」に接続しているが、一般的なサウンドバーとほぼ同じ接続だ。このほか、ネットワーク端子、光デジタル音声入力がある。

背面の接続端子部。左から電源端子、光デジタル音声入力、HDMI入出力がある。USB端子はサービス用端子だ

設置と接続が完了したら、後は音場の調整だ。設置については薄型テレビ用のラックを使って、常設の120インチスクリーンの手前に置いている。

続いて、自動音場補正だ。付属のリモコンは手軽に使えるシンプルなもので、電源、入力の切り替え、音量調整、ミュートのボタンしかない。自動音場補正を行なうには、HDMIボタンを5秒長押しする。低音の増減を調整する場合は、TVボタンを3秒長押してから、音量調整の「ー」ボタンを押すと5段階の調整ができる。

このように、マニュアルを読まないと操作できないが、特殊な操作は上記の2つくらいなので、購入直後は戸惑うが、使い慣れればそれほど困ることはない。自動音場補正モードになると本体に「CALIBRATION」の表示が現れるし、低音の調整時は1から5までのヒトケタの数字が表示されるので、操作がわかりにくいということはない。

天面部中央にある操作ボタン。電源と音量、そして入力切り替えボタンのみだ。プラスとマイナスのボタンの間にある小さな孔がマイクのためのものだと思われる
本体の右端にあるインジケーター。文字数は少なめでスクロール表示となるが、文字が大きく視認性は良好。写真はHDMI入力選択時のもの
付属のリモコン。ボタン数を最小限としたシンプルなもの。各入力の切り替えはダイレクトに選択できる

実際に自動音場補正を行なってみると、テストトーンが5回鳴り、測定が行なわれているのがわかる。これで部屋の環境に合わせてチャンネルの音量差や周波数特性の補正などを行なっているようだ。測定自体はごくわずかな時間で完了。このほか、必要に応じてChromecastやAirPlay 2の設定もスマホで行なっておこう。これで設置や初期設定は完了だ。

音楽のステレオ再生でもわかる! 豊かな音の広がり

まずは、iPhoneを使ってAirPlay 2で音楽を再生してみた。Bar 5.0 MultiBeamはサウンドバーとしてもそれほど横に長いわけではないので、120インチのスクリーンの手前に置いてしまうとこぢんまりとした感じになるくらいだが、それでもなかなかスケールの大きな音が出て驚いた。ステレオ音源なので音の広がりは横方向が中心となるが、部屋全体に音が豊かに広がり、それでいてバーチャル技術で無理矢理に音を広げたような感じにはならない。

機能的にはシンプルでムービーやシネマといった音声モードはなく、2chや5.1ch、Atmosなど、入力された信号やフォーマットに合わせて最適なバランスで再生されるようだ。2ch再生はこの音の広がりから察するに左右の広がりを強めているとは思うが、電気的な補正の不自然さを感じないもの。2mくらいの感覚で置いたスピーカーから出ている感じのステレオ音場が再現できている。

ボーカルもスピーカーから音が出ている感じではなく、ちゃんとスピーカーの上の方に浮かぶ。とはいえ、設置したラックが低すぎたので、スクリーンの下のあたりから声が出ている感じになる。ラックや置く台を工夫してスクリーンの直下となるように高さを調整するといいだろう。薄型テレビの場合なら、テレビ用のラックに置けば必然的に画面直下に置かれることが多いので、画面から音が出ているような感覚での再生になるだろう。

基本的な音質は、明瞭でくっきりとした再現で、JBLらしく出音の勢いというか、ハツラツとした音になる。低音もなかなかのもので、ベースラインもしっかりと出るし、ローエンドの伸びもまずまずだ。厳しく聴き込むと、ボーカルにしろ、伴奏の楽器にしろ、細かなディテールはやや不足するとも感じるが、4万円のスピーカーとしては十分に優秀。なにより、音場の広がりが自然でしかも雄大なので、あまり細かいことは気にならず、勢いのある演奏や歌声を気持ちよく楽しめる。音の良いテレビ用スピーカーとしてもその実力は十分以上のものがある。

重厚な世界観など、本来の姿を取り戻した「ジャスティスリーグ:ザック・スナイダー・カット」

UHD BD版「ジャスティスリーグ:ザック・スナイダー・カット」

いよいよ上映だ。今回はUHD BD版「ジャスティスリーグ:ザック・スナイダー・カット」(以下 ジャスティスリーグ:ZSC)。

劇場版とは異なり、DCエクステンデッド・ユニバースを牽引してきたザック・スナイダーが再編集したもの。4時間を超える長尺にも驚くが、画面アスペクトがほぼ4:3のスタンダードサイズとなっているのは最新の映画としては異様。カメラで撮影したデータ自体の画角そのままということで、往年のAVファンの方にはLD時代に多く発売された「ノートリミング版」に近いものと考えていい。

BD/4K UHD/デジタル【予告編】『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』

これは、撮影はスタンダードサイズのフィルムで行なって、ビスタサイズやシネスコサイズで上映されたものを、撮影したフィルムそのままパッケージ化したもの。もちろん、撮影時から上下はカットすることが決まっているので、ノートリミング版を見ると作品によってはレイアウトが不安定に感じることも少なくない。ジャスティスリーグ:ZSCも劇場版と同じシーンでは画面のレイアウトに違和感を感じることもある。このようなことを現代で行なうのはIMAX上映を想定したものと考えられる。IMAXシアターのスクリーンのフルサイズは4:3に近い画角で、視界を覆い尽くすような映像効果を狙っている。映画ではあまりないが、デモ映像などでフルサイズIMAXの映像を見ることができる。

画角の違いだけでなく、映像も暗く沈んだトーンになっていて、重厚な世界観がよく伝わるものになっている。フラッシュやサイボーグといったまだ馴染みの少ないヒーローもより深く掘り下げて描いており、映画としての印象はずいぶんと違う。

まずは、教会を襲撃したテロリストをワンダーウーマンが救出する場面を見た。ワンダーウーマンのテーマ曲とともに超人的なアクションを披露するシーンだが、まずはスケールの大きな音場に驚く。サラウンド音場の広がりは120インチのスクリーンと比べても不足を感じないし、高さ方向の再現も良好でセリフはきちんと画面から聞こえるし、室内の音の響きも高さ感のある空間がよくわかる。恥ずかしながら、天面にも開口部があるので、イネーブルドスピーカー内蔵かと思ったほどだ。それくらい高さ方向の再現は優秀だし、高い位置からの銃撃など音の定位もきちんと高さの再現ができている。それでいて、バーチャルサラウンド的な不自然さを感じない。

後方への音の周り込みは、前方音場の横の広がりや高さ感に比べるとやや弱まり、真横あたりの音までは定位も明瞭だが、視聴位置より後ろの音は漠然とした感じになる。このあたりは前方だけのワンボディでは仕方のないところ。とはいえ、視聴位置よりも前のエリアについてはきちんとドーム状の空間感があり、映像に集中してしまえば後方のは雰囲気として鳴っている感じがあれば物足りなさはない。むしろ視界の外の余計な音が目立たないので映像に集中しやすいとも言える。こうしたアクション映画では前後にびゅんびゅん音が移動するような感じもほしくなるが、音楽映画やライブ映像などならばまったく気にならないだろう。

アクアマンが大嵐で難破した漁船から船員を助ける場面でも、荒れ狂う波や暴風雨が頭の上から降り注ぐ感じがあるし、水中に飛び込めば、水の中の独特な音の感じがきちんと再現される。しかも海流の流れが風のように前後左右に移動していく感じや空気の泡がポコポコと立ち上っていくときの音も実に立体的だ。後方の音の再現性に目をつぶれば、十分に本格的なDolby Atmosの音だと言っていい。

肝心の音質も出音の勢いの良さや明瞭さでセリフはもちろん、効果音などもはっきりと再現される。映画の重低音はさすがに限界はあり、大爆発での空気が震えるような感じは望めないが、アクションシーンでの打撃音や声の張り、中低音が充実していて重厚な音楽の響きはしっかりと再現できているので、聴き応えのある音になっている。

劇場版ではあまり印象に残らなかったフラッシュも、しっかりと掘り下げて描かれているだけでなく、クライマックスではジャスティスリーグの切り札的な活躍をしてくれる。ヴィラン側が狙うマザーボックスと深く関わりのあるサイボーグも父との相克や超人的な力を得て甦ったことへの葛藤も描かれ、登場するヒーローたちに深く共感できるものとなっている。

そしてもちろん、スーパーマンの復活はまさに神話的な凄みがある。これまでの作品でもそうだが、圧倒的な力の差を感じさせる演出はそのままだし、敵の攻撃をものともしない強靱な肉体の描写はまさにスーパーマンだ。それだけに、あまりにも強すぎる気もするのだが、DCのヒーローにはそれに匹敵する力を持つシャザムなどもいるので、彼らの共演も楽しみになる。続編の構想が明かされる衝撃的な展開がラストで描かれるのも気になるところ。DCエクステンデッド・ユニバースの今後は不透明なのだが、ぜひとも継続を期待したい。

入門用としてはベスト! Dolby Atmosに興味のある人は試してほしい

4時間を超える映画というと、途中で休憩したくなったりしがちで、今回の取材も試聴などでチェックするシーンだけを見ようかという気もあったが、映画がはじまったらついうっかり、全編をそのまま見てしまった。これは音がしっかりしていたことの証明だと思う。音が貧弱だと映画の世界に入れずに飽きてしまいやすいが、しっかりと映画の持つ面白さと迫力を味わうことができた。

後方の音の再現性やアクション映画の重低音など、物足りない部分はあるが、映画館でDolby Atmos音響の迫力を味わい、自宅でもその音響を楽しみたいと思った人が手に入れても十分に映画館らしい音響を楽しめるものになっていると思う。Dolby Atmosの大きな魅力である自在な音の定位や移動、映画の空間に包まれているような臨場感はきちんと味わえるものだ。筆者としてはBar 5.0 MultiBeamをスタートに、より本格的なDolby Atmos再生の沼にはまってほしいとも思うが、Bar 5.0 MultiBeamで十分満足できる人も多いだろう。

初心者にもベストと言えるおすすめのサウンドバーだし、本格的なDolby Atmosはハードルが高いが中途半端なサウンドバーではつまらないと考えている人にはぜひとも試してほしいモデルだ。映画の面白さが一変してしまうような体験をしてみませんか。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。