鳥居一豊の「良作×良品」

第110回

価格を抑えた4K超短焦点レーザープロジェクター「VAVA Chroma」

VAVA Chroma

映画などを大画面で楽しみたい人にぜひ注目してほしい超短焦点プロジェクター。壁やスクリーンへの投射距離が極めて短いので、投射する壁の側に設置できるので邪魔にならない。一般的なプロジェクターのように、プロジェクターの前を人が通ると映像に影ができてしまうようなことも事実上発生しない。リビングのような生活空間で大画面を実現するには最適と言っていいプロジェクターなのだ。

超短焦点プロジェクターはレンズ設計なども難しくなるため、一般的なプロジェクターに比べると製品数は多くなかったが、VAVA(ババ)という比較的新しいブランドが日本に上陸している。2019年に「VA-LT002」というモデルを投入。それに続く新モデルが、今回紹介する「VAVA Chroma」(型名:VA-SP003)だ。

VAVAは北米を中心にスマート家電やプロジェクターなどを発売しているメーカーで、「VAVA Chroma」は同社のプロジェクターの最上位モデル。「ALPD 4.0」とトリプルレーザー技術を採用したDLP方式プロジェクターで、4K/60pやHDRに対応し最新の映像コンテンツを存分に楽しめる。しかも、カスタム仕様のAndroid OSを搭載し、各種の動画サービスに対応するほか、Alexaによる音声コントロールも可能とスマート機能も充実している。

発売は2022年4月の予定で、定価は47万8,000円。だが、現在は「GREEN FUNDING」が実施されていて、クラウドファンディングでの特別価格は33万8,000円からとなっている。プロジェクト自体はすでに成功しており、目標額1,000,000円をクリア。それどころか執筆時点では支援総額は858%にもなる8,588,000円に及んでいる。

クラウドファンディングは3月22日まで実施されており、32万8,000円で購入できる超超早割セットは完売したが、執筆時点は33万8,000円の超早割プランやスクリーンと組み合わせたプランなどがある。4K対応のレーザープロジェクターがこの価格で購入できるなら気になる人も多いだろう。実機を見る機会がないだけに肝心の画質などが気になる人も少なくないはず。じっくりと使わせていただき、その印象を紹介したい。

最大150インチの投影が可能で、輝度も2,500 ANSIルーメンと高輝度

視聴室に設置した状態。横幅539.8mmとやや大柄だが、かなり壁際に置かれていることがわかる

VAVA Chromaの詳しい性能を紹介していこう。表示はDLP方式でXPR技術を採用。フルHD(1,920×1,080画素)のDLP素子をタテ方向とヨコ方向に画素ずらしを行なうことで、4倍の3,840×2,160画素の表示を実現している。比較的手の届く価格の4K対応DLPプロジェクターではおなじみの技術だ。

光源はトリプルレーザーで寿命は25,000時間。ランプ交換などは必要ない。最大で4K/60pの信号入力に対応し、最大輝度は2,500 ANSIルーメンとなる。HDR信号はHDR10/HLGに対応している。3D映像にも対応する。最新のプロジェクターとして十分なスペックを達成している。このほか、本体にハーマン・カードン社製のステレオスピーカーを内蔵し、Bluetoothは受信と送信の両方に対応、ネットワーク接続は有線のほかWi-Fiにも対応する。

カスタム仕様のAndroid OSは、Android 9.0をベースとしたもので、内蔵するストレージは32GB(約5GBをシステムで使用)。アプリを追加して各種の動画配信サービスに対応可能だ。

実機を見てみると、横幅は539.8mmでやや大きめ。しかし、奥行きは378mmで高さも110mmとスリムな形状になっている。重量も約11kgで設置で困ることはないだろう。実際に視聴室のスクリーンのある壁面の側に置いてみると、思った以上に壁際に寄せて置くことができた。

壁からの距離は80インチで82.3mm。100インチでも182.9mm、最大の150インチでも442mmとなる。試聴ではおよそ110インチほどのサイズで投影したので、約200mm + 378mm(製品の奥行き)ほどのスペースに納まっている。このくらいの壁との隙間は接続ケーブルの抜き差しを行なう際にも必要になるので、使い勝手の点でも困ることはない。

自宅の視聴室には50cmほどの立方体サイズのサブウーファーが2本常設してあるが、その間にちょうどよく収まった。このサイズ感だと、壁際に背の低いAVラックなどを置いてプロジェクターを設置するスタイルがちょうどよいだろう。

実際に投影しているところを撮影。上面にあるくぼんだ部分に投射レンズがある

背面の接続端子はHDMI入力が3系統(1系統はARC対応)。USB2.0端子のほか、アナログ音声入力、光デジタル入力、ネットワーク端子などがある。側面はルーバー状の洒落たデザインになっていて、その奥に吸排気口がある。また、手前側の下の部分に高さ調整のためのダイヤルもある。前方は電源ボタン以外を省いたミニマルなデザインで、サイズが大きいわりにリビングと調和しやすいものになっている。こうしたデザインの良さは大きな魅力だろう。底面を見てみると、前方が2つ、後方が1つの3点設置で、前方の2つは高さ調整が可能。

後ろ側から上面を見たところ。中央にある投射レンズの両側には、センサー類もある
背面の写真。左側に3系統のHDMI入力などの接続端子がある
側面部。ルーバー状のデザインになっていて、吸排気口や高さ調整のダイヤルが目立たないようにしている
底面部。設置のための脚は3箇所となっている。ネジ穴は天井取り付け金具用だ
付属のリモコン。十字キーを中心としたシンプルなリモコンだ

シンプルでわかりやすいメニュー画面で、さまざまな機能を自在に操作できる

続いて、メニュー画面や設定項目を見ていこう。ホーム画面はシンプルで各入力がパネルのように並んでいて、それを選ぶことで入力を切り替える。下段のツールの部分には、ストレージに保存したファイルの管理やアプリストア(Aptoid)、インストール済みのアプリケーションの一覧、設定などがある。

GUIもシンプルでわかりやすいものになっていて、十字キー主体で簡単に使えるようになっている。アプリケーションの追加では動画サービス用アプリをはじめとしてさまざまなものが用意されていて、自由にアプリを選んでインストールができる。

動画配信サービスは北米向けのものが多いが、今後も対応アプリが増えていくとのことなので、日本向けの動画サービスなどへの対応も期待したい。ただ現状でもYouTube、Netflix、Amazon Prime Videoには対応しているので大きな不満はない。YouTubeを少し試してみたが、当然ながら表示も日本語化されているし、操作の反応もよく十分に使いやすい。

ホーム画面。上段が入力切替で、下段がアプリの追加や設定などの機能パネルが配置されている
アプリストアの画面。カテゴリーを選ぶと対応するアプリが一覧表示される。動画サービスは多くが海外向けサービスだが、その数は膨大だ
インストールしたアプリの管理画面。アプリの削除などはここで行なう

設定のパネルを選択すると、右側に項目ごとの設定メニューが表示される。画像や音声のほか、ネットワークやBluetoothなどの設定がある。まずは設置と調整を行なうのだが、その前に他の設定メニューを一通り紹介してしまおう。

「ネットワーク」の項目では、Wi-Fiまたは有線ネットワークの接続設定を行なう。「Bluetooth」機能は、スマホなどの音楽を内蔵スピーカーで再生できるだけでなく、ワイヤレススピーカーやワイヤレスイヤフォンに入力された映像コンテンツの音声を送信することもできる。これはなかなか便利で、深夜の鑑賞時などで役立つだろう。

「パーソナライズ」は無操作時のスクリーンセーバーの設定や操作時のキー音の再生などを選べる。また、Alexaの設定もここだ。「一般」は言語設定などの初期設定の項目があり、「バージョン情報」では、機器の情報やファームウェアのアップデートが行なえる。初回の電源投入時には、言語設定などの初期設定が自動で実施されるので、基本的にはこれらの項目をいちいち確認する必要はないだろう。

右側にある設定メニューの一覧。ホーム画面の「設定」パネルを選ぶほか、リモコンのボタンで直接メニュー呼び出すこともできる
「ネットワーク」の項目。Wi-Fi設定や有線接続の設定を行なう。接続診断も可能
「Bluetooth」の項目では、Bluetoothのオン/オフのほか、受信と送信の切り換えもできる
Bluetoothモードの切り替え。携帯電話を選ぶと受信モードとなり、スピーカー/イヤフォンを選ぶと送信モードになる
「パーソナライズ」の設定。スクリーンセーバーの設定やAlexaの設定が行なえる
「一般」の項目。起動設定や言語設定、時刻設定などの初期設定のメニューがある
「バージョン情報」では、デバイス情報の確認のほか、ファームウェアのアップデートのチェックなども行なえる

設置や図形歪み補正はマニュアル操作だが、それほど難しくはない。

「画像」の項目には、画質調整のほか、設置調整などの項目もある。初期設定が終わったらまずは設置調整を行おう。まずは実際に配置する位置や高さを丁寧に調整すること。これまでに超短焦点プロジェクターを紹介したときにも解説しているが、おさらいをかねてもう一度解説する。プロジェクターは小さな表示素子の映像をレンズで何倍にも拡大して壁やスクリーンに投射する仕組みだ。だから設置位置がいい加減だと、投影された映像が歪んでしまう。超短焦点プロジェクターは投射距離が短いため図形歪みもシビアになる。

設定メニューから「画像」を選んだ時の項目一覧。画像設定と詳細設定のほか、キーストーン補正、電子フォーカスの設定がある

また、超短焦点プロジェクターはスクリーンのほぼ真下から投影するため、理想としては超短焦点プロジェクター用のスクリーンを選びたい。VAVA Chromaのクラウドファンディングでは、専用スクリーン(パネル固定式100インチ/電動立ち上げ式100インチ/同120インチ)をセットにしたプランもあるので、スクリーンが必要な人は一緒に購入してもいいだろう。

この専用スクリーンは、スクリーン構造も特殊で下方向からの光はきちんと正面に反射するが、照明や外光などの上方向からの光は拡散する特性を持っていて、明るいリビングで使っても照明や外光の影響が受けにくく、より明るくコントラストのしっかりとした映像を楽しめるもの。クラウドファンディングでの価格を見ると、超超早割セットAの100インチ固定式スクリーンで490,000円で本体価格の328,000円を引くと16万円ほどの価格だ。これは極めて安価だ(通常の販売価格は808,000円)。

模様のない白い壁をスクリーンに使えるならばそれが一番お手頃。平面性に難のある安価なスクリーンよりは壁に投射した方が画像の歪みは少ない。スクリーンを手に入れるならば平面性の高い高価なスクリーンや超短焦点プロジェクター用スクリーンを手に入れるのがおすすめだ。

筆者の視聴室は120インチの固定式スクリーンなので、そこに投射している。スクリーンに合わせて投射するため、ダンボール箱とオーディオボードを重ねてちょうどいい高さの台としている。リビングで使うならばAVラックなどを使って設置するといいだろう。

プロジェクターの設置ではきちんと左右の水平を合わせ、投射する壁やスクリーンに対して平行に置き、可能な限り投影された映像が歪まないように設置する。このあたりは自分の満足できる範囲でもいいし、妥協せずにじっくりと時間をかけて微調整してもいい。ある程度図形の歪みがなくなってきたところで、「画像メニュー」から「電子フォーカス」を選び、フォーカス調整をする。

フォーカス調整で注意するのは、上側の左右の角がきちんとフォーカスが合っているかを確認すること。超短焦点プロジェクターは下側の角と上側の角で投射距離が異なり、上側の方が投射距離が長い。そのため、下側の角のフォーカスは合いやすく、上側の角のフォーカスが合いにくい。VAVA Chromaも同様の傾向があり、下側でフォーカスが合ったと思っても、上側はぼやけていることが少なくない。きちんと上側を見てフォーカスを合わせて、最終的に下側のフォーカスも合っていることを確認しよう。

「電子フォーカス」のフォーカス調整画面。十字キーの左右で映像の四隅がきちんとフォーカスが合うように調整する

最終的にはメニューにある「キーストン補正」で図形歪みをなくす。VAVA Chromaの脚部には高さ調整があるが、これを使って斜め投射をすると映像が台形に歪むので、それを補正するわけだ。VAVA Chromaのキーストン補正は四隅とそれぞれの中央の8箇所で図形歪みの補正ができるので、台形歪みと樽状歪み(四角の映像が樽のようにふくらむ、または糸巻きのように真ん中がへこむこと)を補正できる。このため、あまり神経質に設置位置を微調整しなくても、キーストン補正だけで形状歪みはほぼ気にならないレベルまで解消できる。

多くの人が見慣れている薄型テレビは原理的に形状歪みなどは発生しないので、初めてプロジェクターを使うとわりと気になるが、形状歪みについてはきちんと補正できるので心配ない。プロジェクターを初めて使う人にとっては、ちょっと面倒くさい印象を与えてしまったかもしれないが、実際に投射した映像を見ながら調整すればすぐに勘を掴めるだろう。

「キーストーン補正」の調整画面。画面にある8箇所のポイントを選択し、個別に動かすことで画像の図形歪みを補正する

やや色が濃く、画質調整の必要はあるが、精細感や明るさは優秀

まずは軽くYouTubeにある8K動画や4K動画を見てみた。第一印象は「明るく鮮やか」。特に色再現は実に豊かで、ジャングルなどで派手な体色の野鳥などを映した映像では、赤や緑や青といった原色がとても鮮やか。部屋を真っ暗にした視聴室では明るさのパワーはあり余るほどで、明るいシーンはまぶしいくらいだ。明るいリビングでも十分に使える輝度があり、カーテンなどで外光を遮れば日中でも薄型テレビと変わらない映像を楽しめる。精細感も4Kプロジェクターとしては十分に優秀で、細部のディテールまできめ細かく再現できる。高級プロジェクターのリアル4K表示と比べてもその差はわずかだと思う。

ただし、映画のような暗い映像では、最暗部の黒浮きがやや目立つ。もちろん、有機ELテレビのような“真っ黒”はプロジェクターではもともと厳しいが、自宅で使っているJVCのDLA-V9R(200万円)と比べると黒浮きを感じ、最暗部の階調もやや苦しい。これは価格を考えれば仕方のない部分だろう。問題は薄暗いシーンになると色が濃密どころか濃すぎる印象になり、人の肌が真っ赤になってしまうこと。UHD BDなどのHDR映像ではさらにその傾向が強くなる。

基本的には明るい部屋でテレビ放送のような明るい映像を楽しむことを意識した画作りなのだと思われる。画質モードには、標準や映画といったモードも用意されているが、どちらを選んでも大きな違いはない。むしろ変に色を薄くしてしまうので、せっかくの豊かな色の魅力がなくなってしまう。

よろしい! ならば画質調整だ。画質調整機能はそもそもこういうときのためにある。設定の「画像」から「画像設定」を選ぶと、7つのモードが用意されていることがわかる。ひとつひとつ確認してみたが、「標準」と「映画」は前述の通り暗いシーンで色が薄くなりすぎてしまう。「標準」が何故か全体に暗いのも気になる(省エネのためと思われる)。「TV」はわりとまともでテレビ放送ならば普通に楽しめる。事実上、これを標準モード的に使うと良さそうだ。

「PE」は色がより派手で黒浮きも一番目立つ。おそらくはダイナミックモード的な位置づけだろう。「ゲーム」と「PC」は色再現もちょうどいいが、暗部は沈み気味。これも明るいゲーム画面を意識したように思う。「カスタム」は自由に調整ができるモードで、今回はプリセットの各モードはいじらず、「カスタム」モードで調整を行なった。後からプリセットのモードと比較するためだ。

「画像設定」から画像モードを選択した画面。画像モードは7つのモードがある
画像モードの後半。ゲームやPC、自由に調整できるカスタムがある

実は思った以上に苦戦し、カラーバーなどの調整用信号を収録したテストディスクまで使って本気で画質調整までしてしまった。大きな理由は2つ。色温度とダイナミックコントラスト機能だ。どちらも画像の詳細設定にあるのだが、この2つについては改善を要望したい。なお、光源の明るさを調整する「光源モード」は、標準と輝度(明るい)、そしてカスタムの3つがあるが、もともと輝度パワーは十分なので「標準」のままでまったく問題なかった。

「光源設定」の項目。レーザーの出力を調整し、画面全体の明るさを加減できる。「標準」、「輝度」、「カスタム」がある
画像の詳細設定の項目。「動き推定、動き補償(MEMC)」、「ダイナミックコントラスト」、「色温度」がある。なお、最後の「重置」は初期値へのリセット

一番に気になった色温度だが、「標準」も映画用のD65(色温度6500ケルビンの白色)よりも高めだし、「冷色」はかなり高いし、「暖色」は逆に低すぎて真っ赤だ。色温度はカラーバランスの基準にもなるので、これがおかしいと画質調整をしても適正な映像にならない。作り手の意図により必ずしも「暖色」を映画基準のD65にする必要はないかもしれないが、D65はデジタルシネマ規格や業務用モニターでも採用される基準値なのでD65に調整したモードを用意してほしい。

「カスタム」は色温度を調整できるが、RGBのそれぞれを数値で調整するものなので、素人がD65に調整するのは至難の業だ。一度は諦めかけたが、ふと気がつくと「カスタム」の調整値の初期値(R:G:Bがすべて「0」の値)が一番しっくりとくる。正確にD65であるかどうかを確かめたわけでないが、色の濃い薄い以前に肌の色や微妙な中間色の再現で感じていた違和感が解消された。画質的にもモニター的な中庸な傾向である「ゲーム」と「PC」の色温度の設定が「カスタム」の初期値だったので、D65かそれに近いモニター的な色温度設定だと考えて良さそうだ。

テレビ放送などは色温度がもっと高い設定なので、どのモードでも通用するとは言わないが、「カスタム」の初期値がもっともモニター的な色合いに近く、映画を見ても違和感は大幅に解消されたし、テレビ放送やビデオ映像を見ても好みの差はあるが違和感はない。ということで、色温度設定は「カスタム」の初期値(R:G:Bがすべて「0」の値)とした。

詳細設定の「色温度」の項目。モードは「標準」、「冷色」、「暖色」、「カスタム」がある。映画鑑賞が主体となるこの取材では「カスタム」(初期値)を選択
「色温度」のモードも、画質モードと同様に画面下のタブで切り替える。

続いては「ダイナミックコントラスト」。コントラスト感を高める機能と考えていいが、これをオンにすると基本的に画面の明るさがぐっと上がり、黒側が浮いてしまう。明るいシーンは華やかでいいが、暗いシーンは黒浮きが目立ち、映像が締まらない。HDRコンテンツだとさらに悪化する印象なので、映画鑑賞に限定すれば「オフ」で使うほうが黒浮きも気にならないレベルだし、映像が過剰に派手になることもない。テレビ放送などでは「オン」の方が好ましい場合もあるのでこれは好みで切り替えるといいだろう。

「動き推定、動き補償(MEMC)」については、映画などの24コマ表示のコンテンツでは「オフ」とした。テレビ放送などで「オン」で見てみると、極端に動きの激しい映像でわずかに補間エラーと思われる映像の乱れがあったが、おおむねスムーズな動きが再現できており、コンテンツの種類や好みによって使い分ければよいだろう。

これらが解決できたことで、ようやく「画質調整」をきちんと行なうことができた。カラーバーなどで明るさとコントラストを調整し、色合いと彩度(色の濃さ)を合わせると、見慣れた映画が違和感の少ない色で再現できた。もともとの色の鮮やかな持ち味もきちんと残っている。実際調整値を見てみても、思ったほど大きくはいじっていない。

画質調整後の「カスタム」の調整値。全般に赤寄りだった色合いを抑えているのがポイント。彩度(色の濃さ)は初期値(50)よりも上げている
画質調整時は、輝度やコントラストといった項目が画面下に表示されるようになる。調整は十字キーの左右で行うが、上下で項目を切り替えることもできる

久しぶりに画質調整で苦戦したので忠実に紹介してしまったが、画作りにおいて国産の薄型テレビやプロジェクターと比べると、まだまだ作り込みが甘いのは確かだが、しかし、基本的な素性は決して悪くはない。色温度の設定とダイナミックコントラスト機能にちょっと問題があるだけだ。発売の4月まではもう少し時間があるので、色温度設定や画質モードのプリセット値の改善に期待したい。

なお、ここで紹介している「カスタム」の画質調整値は、あくまでも筆者の好みが反映されたものだが、色合いや色の濃さのバランスも合わせてあるので、標準的な画質調整の参考値にはなるだろう。後はこの値を元に明るさやコントラスト、色の濃さなどを好みで微調整するといい。繰り返すが、きちんと調整さえすれば基本的な実力は十分に優秀だ。メーカーにとっては耳の痛い話もしているが、クラウドファンディングでの購入は最終的な画質などを確認できないリスクがあるので、購入したユーザーが「失敗した!」と感じないように原因と対処法を紹介することにした。

個性豊かな悪役たちが大暴れする痛快作品

BD/DVD/デジタル【予告編】『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』10.27ダウンロード先行販売 / 12.8ブルーレイ&DVDリリース

ようやく上映だ。今回は「ザ・スーサイドスクワッド“超”、悪党、集結」のUHD BD版。スーサイドスクワッドとしては第2作となるが、ハーレイ・クインが引き続き参戦しているくらいでストーリー的なつながりもないので、本作だけを見ても存分に楽しめる。DCコミックスでヒーローたちを苦しめてきた数々のヴィランたちが、気持ち良すぎるくらいに大暴れしているので、実に楽しい。こういう映画は映画館のような大画面とサラウンド音響で楽しみたい。VAVA Chromaのようなプロジェクターにもぴったりの作品だ。プレーヤーはパナソニック「DP-UB9000」を使用している。

ちなみに、冷却ファンなどによる動作時の騒音は30dB(通常使用時)。カタログ値としても十分に低騒音だが、実際に使ったときの体感はもっと静か。視聴位置から離れた位置に置いていること。周囲にスピーカーやサブウーファーが置いてあることも理由だが、ファンノイズは高周波をよく抑えていて耳に付きにくく、映画などの再生時にファンノイズが気になることはなかった。

冒頭では、軍事政権下の国へ犯罪者たちから選りすぐられたスーサイドスクワッドが潜入するシーンから始まる。さまざまな超能力を持つ彼らの潜入作戦は敵側にばれており、いきなり派手な突撃作戦になる。そして全滅。軍の司令部の面々は誰が生き残るかを賭けているくらいだし、まさに使い捨ての感覚で無茶な作戦を強いている。つまり、ど派手なアクションシーンがいきなり炸裂するわけだ。この映画の面白いところは、夜の潜入シーンをHDRを駆使して見通しの悪い暗い海や密林をリアルに描きながら、スクワッドのヴィランたちはど派手な衣装で実にカラフルというリアルと派手の絶妙なバランス感覚だ。薄暗い海岸や密林でのリアルなアクションと極彩色といってもいい派手な面々の姿や能力の両方を描く必要がある。

その点で、VAVA Chromaの映像はなかなかよい。真っ暗な海や密林はやや黒浮きがあり、最暗部の階調も少し苦しいところはあるが、不満はそれくらい。つぎつぎと起こる派手な爆発や炎上は眩いほどの鮮やかさだし、薄暗い中でも派手な衣装の色がしっかりと出ている。調整前はさすがに色が派手すぎて肌も赤みが強すぎるなど違和感が大きかったが、きちんと調整したことで、派手さは抑えられ暗い場所で色がしっかりと乗った豊かな映像を楽しめた。

潜入に成功したBチームは途中の村で意味もなく虐殺を繰り広げる。どいつもこいつもめちゃくちゃだが、殺しの腕だけは確かで、あっという間に村にいた舞台を殲滅する。こういったシーンでのアクションやキャラ同士のやり取りも面白いが、映像的に面白かったのは、さまざまな色の水玉模様のスーツを着た男。カラフルなコインのようなものを放出するワザを持つのだが、戦いがない時も定期的にそれを排出しなければならないようで、真夜中に真っ暗な密林の奥で放出をはじめる。闇の中でいきなり色とりどりの鮮やかな灯りに彩られる場面は色彩的な鮮やかさもあって、異様な面白さがある。

暗いシーンには向かないダイナミックコントラスト機能はオフとしているが、それでも基本的なコントラスト感は高く、わずかな黒浮きはあるものの、輝度パワーに余裕があるので明るい光が力強いのでHDRらしいコントラストが得られるし、本作のようなど派手な映像もしっかりと描き出す。暗いシーンでの色抜けも少なく、最暗部に近いところの階調が沈み気味になるだけで、やや暗いところから中間、高輝度部分までの階調性はなかなか優秀だ。

全滅したと思われていたAチームのメンバーであるハーレイ・クインは奇跡的に生きており、しかも一度は囚われの身となりながら、あっさりと単独で脱出してしまう。このシーンではハーレイ・クインの真っ赤なドレスを着ていて、暗い室内の中では極彩色の赤が浮かび、窓から差す強い光に照らされると鮮やかな赤なドレスが舞い踊る。単身で大勢の兵隊たちをなぎ倒すアクションは本格的だが、飛び散る血しぶきはカラフルな花として描かれるなどコミカルな場面でもある。ここでの豊かな色は実に鮮やかだし、派手な鮮やかさと同時に暗い場所での沈んだ色あいもきちんと出る。この色再現の豊かさはかなり優秀だと言っていい。三原色レーザー光源の賜物だ。

そして、ハーレイ・クインの舞い踊るようなアクションに重なる音楽も実に楽しげでいい。Dolby Atmos収録でもある本作は音は自前のサラウンド装置で鳴らしているが、内蔵スピーカーでも確認してみた。シンプルなデザインでスピーカー位置は見えないが、前面パネル付近に配置されているようだ。ハーマンカードン製スピーカーの音質は、さすがにアクション映画の重低音は無理だとしても、声は明瞭だし、音楽は低音感も十分にあってなかなか出来がいい。プロジェクター本体がやや大柄なこともあり、スピーカーも余裕をもって配置されているのだろう。スピーカーの音は底面から出ていると思われるが、変に音が曇るようなこともなくはっきりとした聞きやすい音だ。映画ならばサラウンドシステムを組み合わせたいが、ちょっとした音楽再生やテレビドラマを楽しむならば十分に実用的だ。

また、音声出力も光デジタル音声出力、HDMI ARC出力と多彩な機器と連携できる。もちろん、Bluetooth機能でワイヤレスヘッドフォンやBluetoothスピーカーなどに出力することも可能だ。プロジェクターには音声系の機器との接続はあまり持たないことが多いが、本機では薄型テレビに近い装備となっている。これも本機ならではの特徴だろう。

音声設定のメニュー項目。音声モードのほか、音声の出力先の切り換え、映像と音声の同期の調整も可能
音声モードは「映画」、「ニュース」、「スポーツ」、「音楽」の4つがある
音声出力先の切り換えでは、内蔵スピーカー/SPDIF(光デジタル音声出力)/HDMI ARCなどが選べる
音声出力先の切り換えその2。Bluetooth設定を送信モードにしていれば、ワイヤレスヘッドフォンなどにも出力可能

ハーレイ・クインと合流したメンバー一同はいよいよ、目的の塔に突入。自分たちの使命が軍上層部の陰謀に満ちており、メンバー同士での対立や離反が起こるなど、シリアスな面も見せる。が、基本的には勢いとパワーで突き進む。なぜなら、そんな陰謀などささいな話に感じるくらいの強烈やラスボスとの戦いが待っているからだ。

多少の手間はあるが、レーザー光源のパワーと超短焦点の使い勝手の良さは大きな魅力

ラストバトルの詳細は明かさないが、それまでの舞台だった塔も倒壊し、周囲の街も破壊しまくる大スケールのバトルとなる。舞台は屋内から広々とした屋外に移るが、その都市部の見通しもいいし、倒壊する建物もどこまでセットでどこからがCGなのかがわからないくらい精密。そんな緻密な映像もディテールまでしっかりと描きだすし、100インチオーバーのサイズで広がるパノラマ的な映像はまさに大迫力。映画というとリアルな色調といいながら、暗く沈んだ感じが連想されるかもしれないが、HDRが当たり前となった現代では現実以上に華やかな色が使われる作品が多い。アクション映画は特にそうだ。だから、VAVA Chromaの豊かな色再現はこれからの映画を存分に楽しむには欠かせない実力があると言っていい。

画質については少々厳しいことも言ってしまったが、基本的な素性は悪くないのはすでに述べた通り。レーザー光源の輝度パワーや豊かな色再現は大きな魅力だ。そして、使い勝手がよくリビングに置いてもカッコいいモダンなデザイン、動画サービスの対応などを含めて機能性も優れているなど、この価格を考えると、なかなか魅力的なモデルだと感じた。

超短焦点プロジェクターは壁面投射ならば設置や調整も最小限だし、薄型テレビの80型オーバーは家に入るか不安になるが、壁面に100インチ前後のエリアを確保できれば置き場所の心配も少ない。今後はますます注目を集めることは間違いないだろう。同じくらいの予算で薄型テレビの買い換えを検討している人は、ぜひプロジェクターも候補のひとつとして検討してほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。