鳥居一豊の「良作×良品」
第109回
衝撃の22.2ch Atmos変換、最強ディーガ「DMR-ZR1」で最高の年末年始
2022年1月20日 08:00
ビデオデッキの時代から長くテレビ録画機を使ってきたが、久しぶりに凄いと感じるレコーダーが登場した。パナソニックの「DMR-ZR1」(実売36万円前後/1月下旬発売)。4K放送を含む4K作品の魅力を最大限に引き出すことを目的として完成したこのモデルは、専用プレーヤー「DP-UB9000」をベースとしながら、さらなる進化を果たしたモデルだ。
これまでも、ハイエンド級のレコーダーは登場していたが、本機にはそれを超えるインパクトがあった。個人的には、ビクターS-VHSビデオデッキの高級機「HR-20000」で、「ついに画質劣化ゼロの放送録画ができた!」と興奮したとき以来の衝撃だ。ZR1の驚異的な画質・音質はもちろんだが、レコーダーとしての実力、スタンダードな4Kチューナー内蔵ディーガシリーズとの違いなども含めてたっぷりと紹介していこう。
基本的なレコーダーの仕様は4Kチューナー×3、2Kチューナー×3、HDD 6TB
まずはレコーダーとしての概要から。BS/CS4K放送チューナー×3、地デジ・2KBS/CSチューナー×3を内蔵し、3番組同時録画が行なえる。HDD容量は6TB。基本的な機能は、3チューナー内蔵の4Kディーガとほぼ同じで、期待していた人も少なくないであろう8Kチューナーの内蔵はなし。これについては後継機を期待したいところ。
録画モードはDR録画のほか、長時間モードは4Kが最大で8~12倍録(おまかせ長時間4K)、2Kは最大15倍録となる。さらに現時点では本機のみ、4K録画用の1.3倍録モードが追加されている。これは、映画などによくある2時間ほどの映画を4KDRでちょうど記録できるもの。片面1層の25GBへの4K放送の記録時間は1時間30分なので、2時間ほどある映画の場合、4KDRモードでは1枚に収まりきれず、長時間モードを使うしかなかった。
画質変換は1.5倍はもちろん2倍くらいの録画モードでも大きな画質差は気にならないレベルにあるが、転送レートを下げることによる画質劣化はある。それをなるべく少なくしたいというニーズに応えたものだ。HDD容量は6TBを内蔵し、3チューナー機としては十分すぎる大容量となっている。
このほか、4K放送を含む録画番組の家庭内/屋外への番組転送、ドラマ・アニメを約90日間蓄積録画できる機能、各種の動画配信サービスの再生機能などは従来からのディーガと同様。こうした機能については、発売中の2021年秋モデルとほぼ同じだ。
外観を見るとまったく印象が違っている。というか、専用プレーヤーのUB9000とそっくりだ。UB9000の筐体設計をベースとしていることが外観からもわかる。なんと言ってもうれしいのは、ディスクトレイが中央にあること。センターメカマウントは、振動の発生源であるドライブメカを筐体の中心付近に置くことで振動が回路などへ悪影響を及ぼすことを低減するもの。また、中央のドライブメカの左に電源部、右に回路部を配置するなど、各部を独立した配置としてそれぞれの影響を低減する役割もある。
プレーヤーでは当たり前に採用されているが、価格も重要なレコーダーではあまり採用されないものだ。そういう裏付けもあるが、筐体の中心にドライブメカがあるというだけで、心理的にも高級機と感じるし、いかにも画質や音質が良さそうと思ってしまう。
UB9000とそっくりなシャーシは基本的な構造もほぼそのまま踏襲しており、1.2mm厚の鋼板によるインナーシャーシに1.6mm厚の鋼板を3層としたベースシャーシを重ねている。フロントパネルは7mm厚のアルミ板、サイドパネルは3mm厚のアルミ押し出し材として剛性を強化。トップパネルも2層構造となる。脚部には、ハイカーボン鋳鉄製のインシュレーターとして筐体の低重心化を図り、不要な振動を低減する作りとなっている。重量は13.6kgと最近のレコーダーとしては別格に重く、持ち上げてみるとがっしりとした剛性感がよくわかる。
アナログ出力を省略し、デジタル出力に特化。ノイズ対策を徹底した。
背面にある端子は、地デジ用とBS/110度CS用アンテナの入出力、HDMI出力2系統、USB端子、LAN端子、光デジタル/同軸デジタル音声出力端子がある。DP-UB9000に比べるとすっきりしているが、これはアナログ音声出力(ステレオ/マルチチャンネル出力)がないため。本機はHDMI出力を中心としたデジタル出力に特化し、そのぶんレコーダーながらUB9000を超える画質・音質を追求している。これが大きな特徴のひとつと言えるだろう。
省略したアナログ音声用の回路基板の部分には、ハードディスクドライブが設置される。UB9000でもドライブメカの後ろの空間にあったので、振動源であるHDDもセンター付近にマウントされているわけだ。
なお、ドライブメカは3層構造のドライブベースと共に、振動と騒音を低減するドライブシェルターに格納。またHDDも3.2mm厚と0.8mm厚の鋼板を重ねた2層構造の重量級ドライブベースに固定、シャーシに設置することで振動対策を徹底した。
そして、UB9000では、デジタル系/ドライブメカの電源とアナログ回路の電源が独立していたが、ZR1ではアナログ回路の電源が不要になっため、デジタル系の電源とドライブメカ(ディスクドライブ/HDD)の電源を独立。UB9000の電源回路を元にいくつもの改善を加え、さらにノイズの影響を排除したものとなっている。
このほか、メインの信号処理回路にも改良が加わっている。主要な信号処理技術は「4Kリアルクロマプロセッサplus」、「4Kダイレクトクロマアップコンバートplus」など、UB9000譲りのものだが、こちらはさらにノイズ対策を徹底。システムクロックとして超低位相ノイズ水晶発振器ほか、AVクロック用に超低ジッターPLLを採用した。
また、UB9000ではフロントのUSB端子部のみに備えていた「USBパワーコンディショナー回路」は、背面のUSB端子、そして2系統のHDMI出力端子にも採用。2系統のHDMI出力はそれぞれノイズの周り込みを低減したほか、LAN端子もクロックを超低ジッター水晶発振器として、低ジッター化を追求。同軸デジタル出力は真鍮削り出し同軸端子や出力トランスなど、テクニクスの高級モデルと同様のパーツを使っている。このほかにも使用するコンデンサーや抵抗、トランスといったパーツを細かく吟味し、音質的に優れたものを厳選しているという。
専用のリモコンの使い勝手が素晴らしい!
そして、個人的にはかなりうれしいのが、リモコンも専用のものになったこと。基本的にはディーガシリーズのものと共通のデザインだが、ボタンが自照式となっている。筆者も以前にDMR-BZT9600をレコーダーというよりもリファレンスプレーヤーとして使っていた時期があったが、リモコンが自照式でないため部屋を真っ暗にした映画鑑賞時にリモコン操作がしづらいと感じていた。リモコンを発光させるボタンは最下部の左下にあり、手探りでも探しやすい位置だし、UB9000のリモコンも近い位置に同じボタンがあるので、ふつうに使っていていつものようにボタンが発光したので驚いたくらいだ。
そして、ボタン配置も改良されており、再生設定や音声、字幕といった鑑賞中によく使うボタンが再生操作ボタン群の下端に配置された。また、十字キーの右上には「i」ボタンがあり、画面表示や映像/音声信号の詳細情報を表示できる。ディーガもUB9000もちょっと小さめのボタンで機種によって配置が異なることもあり、慣れるまで探すのが面倒だったが、ZR1のリモコンの配置は一発でわかったし、実に使いやすい。
そのぶん、音楽や写真、新番組やゆっくり再生といったボタンが省略(機能としては残っており、メニュー操作などで使える)されている。このことから、放送やディスクなど、映像コンテンツの鑑賞を重視した配置になっているがわかる。多機能なディーガとしてはかなり、AVマニア向けに特化したリモコンで、筆者が一番関心した部分でもある。AVマニアを自認する人であれば、使ってみればすぐにわかる快適さで、このリモコンのために購入を真剣に考えたほど使いやすい。
基本的にはディーガそのままの操作感。しかし随所に新機能が盛り込まれている
続いて、機能や設定画面を見ていこう。ホームボタンを押して表示されるトップメニューはディーガそのままで、必然的に操作感などもそのままだ。新機能である「お録りおき設定」、音楽再生や写真/動画の再生にしてもそのままの感覚で使うことができる。ここでは、主に追加された設定やピックアップして紹介したい機能や紹介していこう。
新機能というわけではないが、「記録/ダビング設定」にある「4K画質の音声ch優先」という設定に触れておきたい。
これは4K放送にある22.2chや7.1ch音声を長時間モード録画で記録するか否かを選択する項目で、実はディーガだけの設定だ。特に22.2ch音声は(音声にしては)かなり情報量があるため、他メーカーの4Kレコーダーでは22.2ch音声は記録しない仕様になっている。HDDに保存できる番組の総数にも関わるし、また対応するシアター機器も限られ使用頻度が少ない22.2ch音声をあえて記録しない仕様は間違いではない。
だが、ディーガでは長時間録画でも22.2ch音声を記録できる仕様になっている。これは、放送録画機として情報をすべて残すという思想の表れなのだが、何より22.2ch音声は音質が良い。ディーガの挙動では、22.2chと5.1chと2ch音声が収録された番組を再生するとき、22.2ch音声をダウンコンバートして5.1ch出力する仕様となっている。これがもともとある5.1ch音声と比べて段違いに音質が良いのだ。22.2ch音声の番組は決して多くはなく、ありがたみを感じることは少ないが、このあたりのこだわりがZR1のようなモデルで素晴らしい成果となって実現した。
「記録/ダビング設定」はディーガそのまま。他メーカーとの互換性に合わせて4K番組のダビング方式を選べるほか、高速ダビング時の速度を「最高速/高速/静音モード」が選べるなど、細かく選択できるのはありがたい。そして、ディスク再生時にはチューナーの電源を落とし、可能ならばHDDの電源も落として悪影響をなくす「シアターモード」も当然健在。ZR1を選ぶ人ならば、当然「入」で使うだろう。
「HDMI接続設定」には、「Dolby Vision」の設定が増えている。ディーガとしては初のDolby Visionソフトへの対応だ。Dolby Visionはパッケージソフトだけでなく、映像配信でも採用が増えてきているので、ZR1ならば必須の機能。このあたりはUB9000譲りの機能でもあり、アナログ音声出力を除いてUB9000の持つ機能をすべて継承している。
「HLG/PQ変換設定」も同様だ。もともと、HLGに対応しない4Kテレビに対してはPQ(HDR10)に変換して出力していたが、強制的にHLGをPQ(HDR10)に変換して出力することも可能になった。ビクターのプロジェクターとのコラボレーションによって追加された機能だ。
HDRディスプレイタイプは、液晶テレビや有機ELテレビ、プロジェクターなど、組み合わせるディスプレイに合わせることで、ZR1側で最適なトーンマップへの変換を行なう機能。この設定画面で調整できるが、「再生映像に応じて設定」にしておけば、ディスクなどの再生中にメニュー画面から変更できる。
そして、UB9000にもないZR1だけの新機能が、22.2ch音声のDolby Atmos変換出力だ。前述した通り、これまではディーガもUB9000も22.2ch音声が記録された番組は、22.2ch音声を5.1chにダウンコンバートして再生していた。これでも元の音声の情報量が多いので音質的にも優位だったが、Dolby Atmos変換ならば高中低の3つのレイヤーでスピーカーを配置する22.2ch音声により近い立体的な再生が可能になる。ディーガは22.2ch音声を記録する仕様なのだから、本機のためというよりは以前からひそかに開発を続けていたに違いない。
また、22.2ch音声のDolby Atmos変換出力のほか、4K放送で採用されているMPEG-4 AAC(地デジや2K衛星放送はMPEG-2 AAC)音声のビットストリーム出力も選べるようになった。これは、デノンのAVアンプなど、MPEG-4 AAC音声に対応した製品が登場したことへの対応だろう。
年末年始に録りまくったたくさんの番組で、画質・音質の実力をチェック
いよいよ気になる画質と音質をじっくりとチェックしていこう。試聴は自宅の視聴室で行なっており、プロジェクターはJVC「DLA-V9R」を使用。AVアンプはヤマハ「CX-A5200」+「MX-A5200」、フロント用として、ベンチマーク「HPA-4」、「AHB2×2台」を使用している。試聴では、事前にZR1でDRモードで録画した番組をBDにダビングしておき、ZR1では内蔵HDD内の記録された番組を再生、UB9000ではダビングしたBDで再生して比較している。
また、年末年始に試聴した番組は時系列ではなく、2K番組/4K番組、2ch/5.1ch/22.2ch音声ごとに分類して紹介する。そのため、紹介している番組と使用している画像の番組が異なることもあるので注意してほしい。
まずは2K番組で2ch音声の一般的なものから試聴した。地上波放送は、アンテナ受信時のノイズやゴーストの影響を別にすればアナログ波の時点でS-VHS時代の後半には録画による画質劣化が事実上なくなっていたし、DVD時代もMPEG-2圧縮の影響はあったがDRモードでは画質劣化を気にするようなことはなかった。DVD時代後半のデジタル放送対応機に至ると、DRモードならば放送そのままの録画は当たり前であり、BD時代、4KBD時代もほぼ同様。むしろデジタル放送時代は地デジでは放送自体に圧縮ノイズが乗っていることが少なくないので、それらの影響を如何に抑えるか、つまり放送以上に高品質で録ることが重視されていたと思う。なにが言いたいかと言えば、ZR1だからといって、地デジ放送が極端に美しい画質・音質で録れるわけではないということ。
まずは「NHK MUSIC Presents『東京事変 総集』」(映像:1080/60i、音声:MPEG-2 AAC/2ch/256kbps)を見た。ライブシーンでの階調の潰れやノイズの発生は放送そのままと思われる。オンエアからの落差がないのは当然。むしろ、わずかなノイズの発生やライブシーンとインタビューシーンでのカメラの違いによる画質差などがはっきりわかる。画質設定などで調整はできるが、素の実力としてはけっこう辛口な表現だと感じた。ストレートにノイズや機材の違いがわかるモニター的な映像。音質についても、劣化を感じないどころか、MPEG-2 AAC/2chで気になる高音域のつまった感じとか、ダイナミックレンジもあまり広く感じないなど、放送自体の質が気になってしまう。
特撮作品の「『サンダーバード』ベストセレクション」(映像:1080/60i、音声:MPEG-2 AAC/2ch/256kbps)。古い時代の特撮作品だが、きちんと修復されていて思った以上に画質・音質ともに良好。ミニチュアのディテールもはっきりとわかるし、特撮のしかけまで鮮明に見えるので、今見てもその特撮技術の高さ、ミニチュア模型の造形の緻密さに驚く。
アニメの「魔女見習いをさがして」(映像:1080/60i、音声:MPEG-2 AAC/2ch/256kbps)は、アニメで目立ちやすいカラーバンディングや階調の潰れなども目立たず、かなり良質。キャラクターの描線もスムーズだし、背景画も筆致までよくわかる。ZR1だからわかるというわけではないが、番組(あるいは素材となるコンテンツ)の質の違いがよりはっきりとわかる印象だ。このほか、ニュースやバラエティー番組なども見てみたが、地デジ放送を見る限り、UB9000との比較ではZR1の方が画質・音質ともに若干S/N感が良くなったか? と感じる程度でほとんどその差はない。
ZR1にもUB9000と同じように再生設定で画質・音質の調整機能がある。設定は設定1と2、出荷時設定固定の「標準」がある。ノイズが目立つ場合はノイズ低減重視の設定を作っておいて切り替えるような使い方をすればいい。
うれしいのはこの再生中に表示される設定メニューのデザインが変わったこと。黒バックに小さめの白い文字の表示となり、シンプルで邪魔になりにくい。従来のメニュー表示に比べてかなり快適に使える。これらの設定項目は基本的にはUB9000と共通だが、映像の種類によって画質を切り替えできる「映像素材」が3つとなっている。UB9000では、同じシネマでもハイレゾシネマとシネマの2種類があるなど選択肢が多い。これは選択肢が多すぎて逆に使いにくいと考えたのかもしれない。試聴では基本的に「標準」で、映画なら「シネマ」、アニメなら「アニメ」に切り替えており、UB9000もほかの選択肢を使わず同じ設定で見ている。
細かな部分では、「HDR調整」でダイナミックレンジ調整とシステムガンマ調整の連動が可能になった。組み合わせるディスプレイタイプの切り替えもここで行なえる。「解像感調整」や「ノイズ低減」の項目はUB9000と同じだ。音質設定では、AVアンプやサウンドバーなどへの音声出力をそのまま48kHzで出力するか、192kHzなどにアップコンバートして出力するかなどの選択が可能。AVアンプなどが対応する周波数を選べばいい。このほか、真空管の音質をシミュレートした真空管サウンドを含む音質効果を選ぶことができる。こちらもUB9000と同じ内容だ。
こうした再生設定は、UB9000ユーザーだけでなく、ディーガでも一部機能は省略されているが同等の機能があり、使ったことのある人は少なくないだろう。従来のメニューはメニュー自体に色が付いていて明るいため、HDR調整などがしにくいのだ。暗いシーンで階調感を調整しようとしても、メニューが明るいので調整がしにくかった。それが黒主体の画面となることで極端に画面の明るさが変わることなく調整ができる。これは実にありがたい。筆者も含めてZR1のユーザーとなる人は画質・音質がどこまで向上しているかだけを気にしがちだが、使ってみると、こうした細かな改善点が実によくできていて、うれしくなる。
4K番組でさらにじっくりと画質・音質をチェックする
今度は4K番組。このあたりからZR1が本領を発揮しはじめる。コミックスが原作のドラマ「岸辺露伴は動かない」(映像:4K/60p SDR、音声:MPEG-4 AAC/2ch/256kbps)では、わずかな差ではあるが、映像の鮮明さや明部、暗部ともに見通しが良くなっていると感じた。再生専用機であるUB9000が録画機に画質で劣るというのもこれまでの経験から認めがたいものがあるが、何度か確認してみても映像がより鮮明でディテールなどもよく見えるように感じる。まあ、レコーダーの開発がメインの開発チームだから、ノイズ等の問題もわかっているだろうし、ほぼ同じ開発陣がUB9000の発売後も改善点を探っていたというから、それも仕方のないことだ。
。
続いて、「大魔神」シリーズの4K修復版が日本テレビで4K放送されていたので見てみた(映像:4K/60p HLG、音声:MPEG-4 AAC/2ch/256kbps)。入念なフィルム修復のおかげで映像は実に鮮明。大魔神の怒りの表情は面の奥に生身の目が見えているが、この眼力が凄い。怒りの表情そのままにカッと見開いた目でも怒りを表現している。戦国時代を舞台としたセットに作りも思った以上に出来がいいし、かなり楽しめる。こちらでも、映像の鮮やかさというか輝度の表現を含めた映像の力強さに差を感じた。
今度は音。地デジ放送で毎年恒例の「ウィーン・フィル・ニューイヤーコンサート2022」(映像:1080/60i、音声:MPEG-2 AAC/5.1ch/320kbps)を見た。映像については地デジ放送なので、際立った差は感じない。5.1chの音質は空間の広がりがやや大きくなったと感じる。楽友協会ホールに音が響いていく様子や、2年振りに観客の入ったホール内に拍手が響く様子が気持ち良く広がる。これに比べてしまうとUB9000は(本当にわずかな差なのだが)少し見えない枠に収められたような、ヌケの悪さを感じてしまう。このあたりはまさしく入念なノイズ対策によるS/N感の向上がもたらしたものだと思う。
続いて、「伝説の名演を再び!『三大テノールコンサート』」(映像:4K/60p SDR、音声:MPEG-4 AAC/5.1ch/320kbps)。LDやCDで何度も聞いた最初のイタリア公演だ。「誰も寝てはならぬ」など、オペラに詳しくない人でも知っているほど有名な歌唱と演奏を聴くと、ステージに響く声がZR1の方がわずかに伸び伸びと響いていくように感じる。ディスク部と信号処理部の電源の分離がここまで音に利くことにも驚くし、HDDの振動対策などしっかりとした作り込みが音に現れていると感じた。
今度は4K放送の「第72回 NHK紅白歌合戦」(映像:4K/60p SDR、音声:MPEG-4 AAC/5.1ch/320kbps)。豪華なステージはいずれも見物だが、ここではあえて東京都交響楽団による「ドラゴンクエスト 序曲」をピックアップしたい。おそらくは特設されたスタジオでの収録と思われるが、オーケストラの配置に幅が狭く奥が深い配置で、一般的なコンサートホールの横に広い配置と異なっているのがユニークで、5.1chの音響でもそれがきちんと再現されていた。非常に奥行きのある音場感でコンサートホールとは音の響き自体も違っていることもあり、実に新鮮な演奏に感じられた。もちろん、この奥行きの深さや天井の高い感じの響きは(ごくわずかだが)ZR1が上だ。
この音場感は衝撃的! 22.2chのDolby Atmos変換は凄い!!
いよいよ本命である22.2ch音声だ。これについては、UB9000では5.1ch変換再生となるので、その差は明らか。5.1chの320kbpsに比べると、1.4Mbpsに及ぶ転送レートで記録される音質の差はUB9000でもわかるが、空間感は圧倒的に異なる。まさにDolby Atmos音声と5.1ch音声の違いそのままだ。
5分ほどのミニ番組である「オルセー美術館ミニ」では、オーケストラによる音楽とナレーションで構成されているが、センターに定位するナレーションの音の立体的な浮かび方。さまざまな楽器の音が前後左右、高さを伴って鳴り響く様子は見事なもの。こちらはもともと8K放送のコンテンツでもあり、4K変換とはいえ映像も素晴らしい。やや辛口と思えるストレートな画質は、4Kやもとが8K収録のコンテンツとなると、尖ったような鋭さはなくなりきわめて滑らかな感触になる。UB9000の方がむしろ鮮鋭感を強めた鋭い映像に感じる。これは画調が変化したというわけではなく、2Kと4Kコンテンツの画調をストレートに表現したものと言えるだろう。ZR1自体の表現は正直そのものだ。
また、4Kコンテンツでの画質差はHDRコンテンツになるほど差が大きくなると感じる。明るいシーンの輝度の伸び感や映像の力強さがよくわかる。このあたりはUB9000の時点ではHDRの画質に進歩の余地があり、ZR1でその進歩が反映されたということなのだろう。
最後は「宝塚スペシャルシート 月組公演『桜嵐記』、『Dream Chaser』」(映像:4K/60p HLG、音声 MPEG-4 AAC/22.2ch/1.4Mbps)。もはや空間の再現でUB9000の5.1ch変換は相手にならないので、ZR1の印象だけを書く。一番のポイントは高い段差のあるステージと伴奏をするオーケストラがステージ地下のオーケストラピットに配置されていること。5.1ch再生ではオーケストラの位置はわかりにくく、映画などのようにステージの後方にあるかのごとく鳴るのだが、22.1chだときちんと舞台の下からオーケストラの演奏が聞こえるのだ。そして、その上のステージで月組のスターたちが豊かな声で歌唱する。ここまで宝塚のステージの臨場感が再現できるとは思わなかった。
この再現は圧巻だ。高い階段の奥から登場するときの声もしっかりと高さがあるし、オーケストラピットの上に橋を渡す感じで客席に近くまで寄れる花道的なステージに躍り出たときには、声もしっかりと前に出てくる。これは実に面白い。
22.2chのポテンシャルの高さは、NHKの技研発表会などでも知っていたが、家庭ではほぼ実現できない規模のサウンドシステムのため、やや興味を削がれていたが、Dolby Atmos変換というのは家庭用システムのための現実的なアイデアだ。いつかはAVアンプやサウンドバーなどが22.2ch音声に対応するかと期待していたが、再生側で対応するとは思わなかった。これで22.2chがより身近になれば、まだまだ視聴者が多くはない8K放送そのものへの認知度や興味も高まると思う。22.2chのDolby Atmos変換をはじめとする新機能は、(UB9000へのアップデートでの対応も期待するが)今後のスタンダードなディーガシリーズへの実装をぜひ期待したいし、再生専用機であるUB9000の後継機の期待度も高まる。
レコーダーとしては画期的なAVマニアのための逸品
その差はごくわずかとはいえ、新機能の追加や使い勝手の改善を含めた総合的な評価では、ZR1は明らかに上だ。画質・音質に優れたレコーダーは、過去にもあったが、ビクターのS-VHSビデオデッキHR-20000以来の衝撃とまで表現したのは、画質の進化もさることながら、やはり音だ。
デジタル放送に移行して以来、映像は2Kから4K、8Kと向上しているのに、音声は基本的にAACで、今回詳細情報を確認して改めて気付いたが転送レートも同じで、あまり進化していない。リッチな映像に比べて音質が相対的にプアに感じがちだった。その点まできちんと目を配り、22.2chのDolby Atmos変換の採用、当然ながらベースとなる基本的な音質の向上まで果たしたレコーダーとなると、ZR1は画期的な製品だと言えると思う。
プレーヤーと比べて格下の印象があるレコーダーが(同じメーカーとはいえ)ここまで高級プレーヤーを圧倒したことも今まではあまりなかった。おそらくディーガの開発陣はずっとそれを目指して、DMR-BZT9000とその系列のモデルを開発していたのだろう。その目標がついに果たされたとも言える。だが、これで終わりではない。次は8K録画の最高峰を目指してほしい。
UB9000は今後も継続して日本仕様が発売されるし、マルチch出力を含めたアナログ音声出力を持つモデルとして、ZR1にはない魅力もある。機能としてシンプルな専用機のメリットやそれを求めるユーザーもいるのだから、こちらも後継機開発は続けてほしい。UB9000とZR1は兄弟機と言える関係にあるが、お互いに切磋琢磨しながら、進化を続けていくことを期待したい。