“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
■ そろそろと登場?
今年初めのCESの取材で、今年のビクター新Everioに「ダブルSDカード」モデルがあることはわかったのだが、日本ではHDDモデルのみが大々的に発表された。もしかしたらダブルSDカードモデルは日本では出ないのかと思っていたが、1カ月遅れで発売されることになったようである。
これでこの春のEverioは、HDDモデルの「GZ-HD320/HD300」、ダブルSDカードモデルの「GZ-HM200」の3種類となった。このうちカラーバリエーションがあるのはGZ-HD300のみとなり、それ以外はブラックだ。HDDモデルもダブルSDモデルも、カメラ的なスペックは同じということがわかっているが、注目はやはり新方式ダブルSDカードモデルの「GZ-HM200」(以下HM200)であろう。
これまでは本体にメモリを内蔵し、さらに外部メモリーカードが使えるモデルを一般に「ダブルメモリー機」と称してきたが、今回のEverioの登場でダブルメモリー機の意味も変わってくる。ビデオカメラにHDDを持ち込んで道を作ったのはEverioの功績だが、今度は「ストレージのメモリー化」の流れの中で、他社との差別化を求めた結果なのだろう。
HDカメラにしては破格の光学20倍ズーム、そして新開発画像処理エンジンも気になるところだ。では早速テストしてみよう。
■ 小型・薄型化されたボディ
HM200 |
まずボディ全体だが、HDD内蔵型で世界最小/最軽量を謳うHD300シリーズより少し小さいということで、ハイビジョンカメラとしてはかなり小さい部類に入るだろう。
HDDモデルのHD320/300は、HDD部が出っ張っている代わりに液晶モニタ部が鏡筒部にめり込んだようなスタイルだが、HM200はグリップ部がすっきりした反面、液晶モニタのブロックが出っ張った格好になっている。
ハイビジョンカメラとしてはかなり小さい | メモリースロットは液晶ブロックの上部 |
スロットごとに動画・静止画の割り付けが可能 | HDDモデルとは兄弟機だが、デザインは結構違う | レンズは光学20倍。マイク左の穴はLEDビデオライト |
レンズはコニカミノルタHDレンズで、35mm換算で41.4~828mmの光学20倍ズームレンズ。HDで20倍というのは、過去ソニーの「HVR-Z5J」、キヤノンの「XH G1S/A1S」といった業務用機があったぐらいで、コンシューマでしかもここまでの小型モデルではかなり珍しい。
撮影モードと画角サンプル(35mm判換算) | ||
撮影モード | ワイド端 | テレ端 |
動画(16:9) | 41.4mm | 828mm |
静止画(16:9) | 41.4mm | 828mm |
撮像素子は1/4.1型、305万画素のCMOSで、動画と静止画の有効画素数はどちらも116万画素となっている。手ぶれ補正は電子式。またこのスペックからもお気づきのように、静止画撮影は最大値が動画と同じ画角で、画素数も1,920×1,080ドットとなっている。
UXPモードに設定するとこのような注意が表示される |
画像処理エンジンは、新開発のHDギガブリッドPremium。前モデルではMPEG-2とAVCHDのデュアルコーデックだったが、今回はAVCHD専用にして約30%低消費電力化した。その恩恵もあってか、今回は付属バッテリが1ランク薄型のものになっている。
また今回は画質モードとして24MbpsのUXPモードを加え、4モードとなった。ただしUXPモードでは、AVCHDフォーマットのDVDバックアップはできないのは、キヤノンのMXPモードと同様だ。
動画サンプル | ||||
画質モード | 解像度 | ビットレート | 16GB記録時間 | サンプル |
UXP |
| 約24Mbps/VBR | 約1時間20分 | |
XP | 約17Mbps/VBR | 約2時間 | ||
SP | 約12Mbps/VBR | 約2時間56分 | ||
EP | 約5Mbps/VBR | 約7時間20分 |
モニター部の操作はすべてタッチセンサーに |
液晶モニタは2.7型ワイドで12.3万画素。液晶モニタの左側には上下スライド型のタッチセンサーがあり、指を上下に滑らせることでメニューのスクロールができる。また画面下のボタン類もすべてタッチセンサーとなっており、物理スイッチではなくなった。
液晶内側には小さな電源ボタンがあるが、基本的には液晶の開閉で電源のON/OFFとなるため、あまり使うことはない。動画・静止画切り替えスイッチは、従来のように背面ではなく、液晶内側に移動した。そのほか、PCにUSB接続した際に使用するボタンが並ぶ。アナログAV、HDMI、コンポーネント出力もここだ。
液晶内側に機能を集約 | 背面は至ってシンプル |
ハンドストラップに独特の工夫が |
グリップ側にはおもしろい工夫がある。最近の小型カメラはグリップベルトではなく、ハンドストラップになる傾向がある。横型カメラの場合は、ハンディ撮影のときにグリップベルトのほうがいいという人もいるが、いちいち付け替えるのはなかなか面倒だ。そこで本機では、両方が兼用できるようなアイデアを盛り込んだ。
背面にあるラッチを外すと、本体に埋め込まれたハンドストラップが引き出せる。丁度いい具合のところで留めると、ハンドストラップ部も少し余るので、両方のユーザーが利用できる。なかなかスマートなアイデアだ。
■ 若干甘めの動画
focus.mpg(65.6MB) |
フォーカスに関しては顔検出機能もあるため、追従性は悪くない |
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
では実際に撮影してみよう。昨今のカメラはほとんどx.v.Color対応となっている。本レビューでは特に断わりがない限り、原則的にx.v.Color ONで撮影している。
まずレンズ性能だが、画角が若干広めでかつ倍率も高いこともあって、画角のバリエーションはかなり広い。普通はこんなもんだろうと思うところがさらに寄れる感覚は、SD(スタンダードディフィニション)カメラ時代の感覚である。
画質設定は今回UXPモードで撮影しているが、若干ディテールなどは甘めで、少し眠い感じの絵である。ただ三板画素ずらしのようなガタガタ感がないぶん、見やすい映像になっている。解像感に目をつぶっても小型化・高倍率化を取ったということだろう。
従来のカメラよりもう一回り大きく撮れるのが魅力 | 若干解像感は甘め |
輝度はもう少し上手く押し込めそうな気がする |
ハンディでの撮影は、もう少し手ぶれ補正が大きく効くと良かった気がする。まあ従来モデルと同等なのだろうが、この春モデルはどこも手ぶれ補正を頑張っているので、どうもその点は分が悪いようだ。輝度に関しては、若干ラティチュードが狭い感じがする。もう少しうまく全体を押し込めるよう調整してくれると良かった。
室内撮影では、発色、解像感ともにあまりぱっとしない。また動く被写体に釣られてAFがフラフラする傾向がある。レンズは明るいのだが、撮像素子の感度はあまり良くないようだ。
sample.mpg (463MB) | room.mpg (125MB) |
動画サンプル | 室内サンプル |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
「MENU」ボタンにタッチすることで、各機能にアクセスできる |
前作のHD40でもGUIが改善されたが、今回はタッチセンサーを設けたことで使い勝手は大きく変わっている。従来は逆光補正やマニュアルフォーカスなどは、十字キーの上下左右から呼び出したのだが、今回は「MENU」ボタンをタッチすることで各機能にアクセスできるようになった。
MENUのうち、頻繁に使うであろう機能は最初の階層に、ベーシックな設定は表示設定や本体設定といったカテゴリ内のサブメニューにまとめられた格好だ。メニューは4行を表示するが、メニューをスクロールしてページを送っていくときはストレスがないものの、4つの行のうちのどれか一つを選ぶときに、タッチパネルの感度が敏感すぎて選びにくい。
そのまま少し指を下にずらそうと思って押し続けていると、今度はメニューがどんどん下にスクロールして行ってしまう。目的の設定が見つかっても、なかなかすぐにそれが選べないイライラ感があるのは残念だ。
またMENU項目のうち、設定した直後にメニューから自動的に抜けるものと、設定後にメニュー画面に戻るものが混在している。頻繁に変更するものだけそうなっているのかもしれないが、動作が不統一な印象があり、混乱した。
画面下には、録画ボタンとオート/マニュアルの切り替えボタンが配置された。RECは、この下にあるボタンをタップすると録画が開始されるわけだが、録画中も表示が何も変わらないので、ここに頼っているといわゆる「逆スイッチ」を起こす可能性がある。録画中は画面右上にREC表示が出るのだが、それだけでなくこのボタン表示自体も反転するとか赤くなるとかしたほうが良かっただろう。
横のスライド型タッチセンサーは、タップすることでも機能が呼び出せる。上半分の2行はズーム操作、3行目は顔検出機能のON/OFFだ。
撮影時の画面表示。液晶のボタンにREC機能を割り当てることができる | 液晶横のタッチセンサーはズームも兼用できる |
■ 使うには微妙な静止画機能
本機の特徴というか変わった部分としては、動画と同時撮影の静止画も、静止画モードの静止画も、画角や画素数が変わらないということが上げられる。実際に両者を撮り比べてみると、静止画モードの時はビデオとはガンマが違うので、高コントラストな絵となるものの、全体的にS/Nがあまり良くない印象となる。またクロマ部分がベタッとした感じになるのも、残念だ。
ガンマの問題は画像処理でどうにでもなることを考えれば、同じ解像度なのにそもそも動画と静止画のモードを分ける必要があったのか、微妙なところである。本機の場合、静止画は補完的な使い方と考えて、動画撮影に専念した方がいいだろう。
動画同時撮影の静止画 | 静止画モードで撮影 | 高コントラストではあるが、ガサガサした感じに見える |
■ 編集機能は充実
通常再生だけでなくダイジェスト再生も可能 |
次に再生・編集系の機能を見ていこう。昨今は各メーカーも、顔認識など様々な解析による特殊再生機能を付ける傾向がある。本機にもダイジェスト再生機能が搭載されている。
ただ、画像認識機能をどう使っているのか、傾向がよくわからない。各カットの撮り始めから5秒間を連続再生するという機能のようにも見えるが、全カットをそうやって再生するわけでもなく、再生されないカットもあることから、なんらかの選択が行なわれているようだ。ただ、その選択基準がよくわからない。
顔認識のエンジンも使っているかもしれないが、例えばパンアップして顔、というカットでは、顔まで至らずにバッサリ終わってしまう。他社のカメラでは、顔認識エンジンを再生時にも利用して、顔中心に再生してくれたりするのだが、そこまでの機能はないようだ。
一方編集機能に関しては、昨今のカメラの中では充実していると言えるだろう。多くのメーカーがやめてしまったプレイリスト編集も残っている。各クリップの編集に関しては、分割とトリミングができる。分割ではオリジナルのクリップを2つに分けてしまうが、トリミングでは必要部分のみを抜き出して、別クリップを作ってくれる。
プレイリスト編集機能も健在 | クリップのトリミングも可能 |
ただしAVCHDの特性として、0.5秒単位でしか分割などの編集ができない。従って微妙なフレーム単位での編集は、PCで行なった方がいいだろう。
撮影動画のバックアップ手段が多いのも、Everioの特徴だ。PCへの転送や、専用DVDライター、外付けHDDを接続してのバックアップに加え、Blu-rayドライブに直結して、BDMV形式でメニュー付きでBlu-rayに書き出すことも可能だ。対応ドライブは今のところアイ・オー・データのHDCN-Uシリーズ(HDD)と、BRD-UXP8(Blu-ray)のみだが、最高画質のUXPがそのままDVDメディアには保存できないことを考えると、PCレスでのバックアップではもっとも現実的な選択肢になる。HDDやBlu-rayに書き込んだ映像は、本機を経由して再生できるほか、Blu-rayはPLAYSTATION 3などのBlu-rayプレーヤーで再生することも可能だ。
本体付属アプリケーション「Everio Media Browser HD」 |
PC接続では、付属アプリケーション「Everio Media Browser HD」でいろいろ面白いことができる。通常のバックアップだけでなく、YouTubeへのアップロードやiTunesへの動画転送が可能だ。iTunesに転送するということは、すなわちiPodやiPhone 3Gなどに転送できるということである。もちろん同時にそれぞれ専用のフォーマットに変換を行なってくれる。
一方撮影前に、本体液晶内にあるUPLOADおよびEXPORTボタンを押しておくと、YouTubeやiTunesへの転送指定ができる。PCにカメラを接続した際も同じボタンを押せば、自動的にEverio Media Browser HDが起動して、YouTubeやiTunesへの転送モードとなる。UPLOADがYouTube用、EXPORTがiTunes用だ。
録画前にUPLOAD RECの設定をしておく | PC接続時にUPLOADボタンを押すと、YouTube転送モードでソフトウェアが起動 |
またPCに接続後、DIRECT DISCボタンを押すと、今度はEverio Media Browser HDがDVDダイレクトAVCHD記録モードで起動する。PCの操作が苦手な人でも、とりあえず繋いでボタンを押せばなんとかなるところまでソフトと連動させたわけである。ただUXPで記録してしまうと、AVCHD記録ではクリップが表示されず、この手段でのバックアップはできない。
また細かいところだが、PC接続時にACアダプタを接続する必要がないのは、しょっちゅうPCに接続する人にとってメリットが大きい。
■ 総論
HM200は、ハイビジョンカメラとして大幅なコンパクト化を果たしただけでなく、コストパフォーマンスが高いSDHCカードを使ってゼロスピンドルを実現した。ある意味転送スピードさえ確保できていれば、その辺に余っているカードを2枚差し込めばなんとかなるという強みがある。現時点では、ABスロット間でリレー録画ができるにとどまっているが、この同メディア2スロットを使ってもっと面白い提案ができれば、より注目度の高いシリーズに展開できるだろう。
画質面では、解像感は多少甘いが、ビットレートも十分でエンコードの荒れもなく、絵が汚いわけではない。このあたりは20倍ズームや本体価格というメリットとを天秤にかけてどう考えるかという点で、ユーザー側に選択肢ができたということはいいことである。
価格面では、現在はまだ発売直後でそれほど安くはなっていないが、すでに2月発売のHD300は、ネットで5万円台後半ぐらいまで下がってきている。今後、ストリートプライスは相当期待できそうだ。不景気で給料は減っても子供はどんどん大きくなるわけだから、新米パパには大きな助けになるだろう。ただ静止画はあまり期待できない点は、押さえておいた方がいいポイントである。
と、どうしても男目線で見てしまうが、先行するHD320/300は、女性をターゲットにしたモデルだそうである。できればHM200もカラーバリエーションが欲しかったところだが、新メディア方式ということもあって、日本ではかなり様子見のカテゴリなのだろう。もっとも、リムーバブルなSDHCカードに撮るメリットとしては、メディアを抜いてPCに直接挿すといった使い方もあるわけで、その点では男性のほうが使いこなしの敷居が低いかもしれない。
ダブルSDカードという戦略は、2枚のカードをRAID化するといった可能性も含めてITチックな香りもする。どう舵取りするかは今後のマーケティング次第だろうが、実験的な機能をいろいろ搭載してくると、妙な男性ファンが群がるシリーズに育つかもしれない。