“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第404回:満足度の高いコンパクトモデル、キヤノン「HF20」

~ 柔らかな描写でワンランク上の画質 ~



■ 小型化への道

 ビデオカメラの記録メディア戦争も、ビクターがメモリ記録に参入したことで、どうやら将来のトレンドが見えてきたようだ。メモリ記録のメリットは、なんといってもボディの小型化である。

 しかし現実には、小型化のネックになっていたのはレンズ設計と撮像素子であった。最初の小型HDV機は、'05年のソニー「HDR-HC1」だが、当時ハイビジョンの品質に足るクオリティを持ちながら小型化するには、光学系がハードルだと設計者に伺ったことがある。あれから4年、ようやくレンズと撮像素子の小型化が見込めるようになり、記録メディアの小型化が生かされるボディ設計が可能になってきたわけである。

HF20

 今回取り上げるキヤノンHF20は、メモリ記録のトレンドを作ったHF10/11の後継機である。すでに発売から1カ月以上が経過しているが、上位モデルHF S10の影に隠れて、メディアではほとんどレビューされていない。しかし考えてみればHF S10が出るまではこのラインナップがキヤノンの主力機だったわけで、小型モデルのトレンドを語る上でも一度じっくり見ておく必要があるだろう。

 価格としては、店頭予想価格が14万円前後となっているが、現在ネットでは8万円前半で落ち着いてきているようだ。前作よりもさらに小型化したHF20を、さっそくテストしてみよう。



■ 一回り小型化

 過去HF10からHF11への変化は、内蔵メモリの増加や画質モードの追加はあったものの、デザイン的には同一であった。今回のHF20はデザインも一新されており、旧モデルとの相違点は多い。

 まず全体像としては高さが4.5mm低くなり、光軸が下がって若干平たくなった。また従来機は鏡筒部自身がグリップを兼ねていたが、今回はグリップ部が出っ張った格好になっている。HF10でも相当小さいように感じたが、並べてみるとさらに一回り小さくなった印象だ。

手前がHF11。HF20は一回り小さい左がHF20。高さも低くなっている

 レンズは新開発のキヤノンHDビデオレンズで、動画・静止画ともに約39.5~592.5mm(35mm換算)の光学15倍ズームレンズ。民生用フルハイビジョンカメラでは、先週のビクター「GZ-HM200」が光学20倍でトップだが、HF20は光学式手ぶれ補正である。ハイビジョンカメラの多くが光学12倍止まりであることからすれば、健闘していると言えるだろう。

 

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モードワイド端テレ端
動画(16:9)


39.5mm


592.5mm
静止画(4:3)
39.5mm

592.5mm

 

液晶部がスマートな印象

 外測センサー、LEDビデオライトなど、従来モデルと要素は変わらないが、外測センサーをグリップ側に移したことで、液晶部分のぽってり感が軽減されている。

 撮像素子は総画素数約389万画素の1/4型CMOS。有効画素数は動画で約299万画素、静止画で約311万画素となっている。静止画の最大画素数は、4:3で2,100×1,575画素となる。HF10から約1年ぶりの新型センサーだが、総画素数約331万画素から増えてはいるものの、サイズは1/3.2型からやや小さくなっている。

 内蔵メモリは32GBで、HF10/11/20と倍々で大きくなっている。内蔵メモリ搭載モデルとしては、現時点では最大である。記録時間は最高画質でも3時間弱となっており、1回のイベントの記録としてはすでに十分すぎる容量となった。記録モードや撮影時間は、同時発売のHF S10と同じだ。

 

記録モード別の動画サンプル
モードビットレート解像度内蔵メモリ
記録時間
(32GB)
サンプル
MXP約24Mbps1,920×1,080約2時間55分
ez041.mts (30.2MB)
FXP約17Mbps約4時間10分
ez042.mts (23.0MB)
XP+約12Mbps1,440×1,080約5時間45分
ez043.mts (17.3MB)
SP約7Mbps約9時間35分
ez044.mts (10.8MB)
LP約5Mbps約12時間15分
ez045.mts (8.7MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。


 S10で搭載されていたビデオスナップ機能、「デュアルショット」モードもそのまま搭載されている。詳しくはS10のレビューを見ていただきたいが、むしろこれぐらいの小さいモデルのほうが、この両機能は使い道があるだろう。

液晶内側にはS10と同じくビデオスナップボタンが

電源とアナログ出力は背面

 背面はHF11と大きく変わるところはないが、液晶モニタ表面から背面にかけては、バッテリまで含めてピアノフィニッシュを思わせる光沢のある黒となっており、それがアクセントとなっている。モードダイヤルは以前の平たいダイヤルに対して、かなり突起の多いダイヤルとなった。ただカメラを上から覗き込むようにしないと、背面からは現在のモード位置が見えないのは残念だ。

 グリップベルトも改善が加えられている。以前はメッシュ地で輪郭に合皮の縁取りがあったが、今回は背面全体をスウェード地にして、肌触りを良くしている。リストバンドに付け替えられるのは、以前からと同様だ。

モードダイヤルはかなり出っ張ったデザイングリップ部の後部にUSBとHDMI端子左がHF20。グリップベルトの内側がスウェード地になっている

■ ソフトなトーンの動画

 では早速撮影してみよう。キヤノンのビデオカメラは、エントリー機でもハイエンド機でも画像処理エンジンが同じ、したがってできることもほとんど同じという特徴を持っている。したがってこのような小型機でも、30pや24pでの撮影が可能で、しかもシネマモードまで搭載しているのが強みだ。今回は久しぶりに、30PFのシネマモードで撮影してみた。

 15倍のズームレンズは、テレ端でも収差がほとんどなく、小型ながらなかなかいいレンズに仕上がっている。ディテール感を維持しつつソフトなタッチで、シネマモードによく合う質感だ。色の乗りもよく、記憶色による効果もあって、撮影後のプレビューで満足度が高い。ただ、透過光による緑の発色だけは、なぜか突出して作ったような大げさ感がある。ここはもう少し抑えめでも良かっただろう。

柔らかなトーンが魅力のシネマモード人肌の発色はやや赤い方向に振っている15倍テレ端でも収差は感じられない


 


sample.mpg (377.5MB)

room.mpg (125.4MB)

動画撮影サンプル

室内サンプル
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

菱形絞りの影響で、背景が雑な感じがする

 もう一点惜しいのは、やはり菱形絞りの影響である。シネマモードを諦めて絞り優先で撮ればいくらか軽減できるのだが、この両者は両立できないのが辛いところだ。

 手ぶれ補正は、ハンディでの歩きではさすがに衝撃を吸収できない。一方、立ち止まっての手持ち撮影では、ワイド端では十分な補正が可能だ。新しい問題としては、これだけカメラが小型化し、しかも液晶モニタが16:9になって横に大きく張り出してくると、今度はZ軸方向の回転の手ブレが大きくなってくる。今後はこの方向の手ブレ補正も視野に入れるべきかもしれない。


 


stab.mpg (62.0MB)

focus.mpg (75.9MB)
歩きの振動は完全に吸収できないフォーカスの追従性は十分
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 新しくなったグリップ部は、グリップベルト装着時にはまあこんなもんかという感じだが、リストバンドを装着して握ってみると多少タプッとしすぎる感があり、うっかり落としそうな感触だ。もう少し出っ張りを小さくして、深く握れるようにしてもいいのではないかと思う。

三脚穴が光軸と大きくズレている

 また光軸がセンターに来たことがメリットともあるが、ハンディで撮影するときは、光軸の位置はあまり問題にならない。むしろ三脚穴がセンターからズレ過ぎていることのほうが問題である。アップで横にパンをすると、妙なスピード感が出てやりづらい。

 ハイエンド機とできることはほぼ同じ、と書いたが、S10にあってHF20に搭載されていない機能もいくつかある。一つは低照度時のゲインアップリミッタだ。これは18dBでもかなり効果が高いことが確認されているだけに、非搭載が惜しまれる。

 またDISPボタンを押して100%フルフレームを表示する機能、カラーバー表示もない。これはハイエンド機で必要な機能と分けて考えているということなのだろう。デジタルテレコンもないが、これは撮像素子の画素数がS10とは全然違うので、仕方がない。


■ 使い出のある静止画

 新搭載のデュアルショットモードは、子供撮りだけでなく、実は展示会などの取材で便利な機能で、よく使っている。話をメモするときは動画で撮り、資料写真の撮影は、動画撮影を止めてシャッターを押すだけで高解像度写真が撮れる。写真を撮り忘れても、動画撮影時に1フレームでも映っていれば、「あとからフォト」で切り出せるという強みもある。この手の便利機能は、もっと取材現場で活用されてもいいと思うのだが、今のところあまり使われている感じがない。

 静止画に関しては、以前からの傾向と同じく肌色の発色が日本人好みで、なかなか見栄えのする写真となっている。ただ紫が青寄りになるという傾向もまた同じで、花などの正確な発色を求めるのであれば、不向きだ。背景のボケで若干ノイズが気になるところは、上位モデルS10と同じである。

肌の発色に透明感がある

紫の発色が青寄りになる傾向がある

背景のノイズが気になる

 動画と静止画の切り替えは、動画撮影の直後だと内蔵メモリへの書き込みが続いている間は切り替わらないため、少し待たされることになる。この現象はデュアルショットモードでも同じで、動画撮影を停止しても、すぐには静止画モードへは切り替わらない。動画と静止画の記録先を別々にしても、同様であった。

 動画と静止画は、基本的に同じ撮影モードに設定される。しかし動画をシネマモードで撮影している時は、静止画側にシネマモードがないため、プログラムモードでの撮影となる。ここで静止画をポートレートモードなどに変更すると、動画のほうもつられてポートレートモードになる。

 同じ設定になるのはわかりやすくて結構なのだが、シネマモードでの撮影時には注意が必要だ。静止画のほうにも、シネマモードに対応するモードがあると、混乱しなくていいかもしれない。


■ 編集機能も搭載

 次に再生機能を見ていこう。S10でもレビューしたが、音楽付きで再生される「ビデオスナップ」、顔認識機能を使った「顔ジャンプ」、「顔タイムライン」といった機能は同様に搭載されている。

 プレイリストは以前からあったが、クリップ編集機能がなかったため、撮影したシーン丸ごと登録するしかなかった。だが今度のシリーズからは、クリップの分割ができるようになっている。

 方法は、分割したいクリップを選択後、「FUNC」メニューからクリップ分割を選択する。すると自動的に再生が始まるので、分割したい点でSETボタンを押す、というスタイルだ。一応きちんと停止したフレームで分割はされるが、プレイリスト再生時にはカット替わりで一瞬ポーズが入る。分割はGOP単位だが、再生機能側で指定フレームまでの表示にコントロールしているようだ。

 またプレイリスト再生時には、ビデオスナップで使用する音楽を付けて再生することもできる。ビデオスナップはこのモードでの撮影が必要だが、後付けで音楽付きにしたい場合は、プレイリストに突っ込めばいい。これまでプレイリスト再生は、あまり積極的に使う目的がなかったが、音楽が付けられるのは大きなモチベーションとなり得るだろう。

クリップの分割もできる

プレイリストの再生では、BGMが付けられる

 PCへの接続では、相変わらず動画モードのみ、ACアダプタが必要という仕様は変わっていないのは残念だ。以前からソニー、日立がバッテリ駆動でのPC接続に対応しており、この春モデルでパナソニック、ビクターも対応した。ACアダプタが必須なのは、とうとうキヤノンのみとなった。


■ 総論

 ビデオカメラにおいて、最小・最軽量というのは外せないポイントである。だが小さくなるにもなりようがあって、体積は小さいが持ちにくいというのでは、本末転倒である。DVカメラの頃は世界最小を狙う余りに行き過ぎた感があったが、今は消費者の目も肥えているので、いたずらに小さいだけではだめで、使い勝手がよく、しかもかっこよくないとなかなか振り向いてもらえない時代となった。

 この春は、比較的小型モデルが充実したタイミングだと言えるだろう。パナソニック「HDC-HS300」、ビクター「GZ-HM200」、ソニー「HDR-CX120」、そして今回のキヤノンのHF20と、店頭はかなり賑やかなことになっている。

 中でもHF20は、尖った部分が見いだしにくいイメージがあるが、価格と性能比でバランスの取れたモデルだ。マニュアル撮影も得意で、ただフルオートで撮るだけという使い方から「表現」の領域に一歩踏み出すことが可能なのも、これだけである。

 最近のニュースでは、水深40mまでいける専用防水ケース(WP-V1」/62,790円)も発売された。これまでサードパーティ製ではかなりの水深まで潜れるケースはあったが、メーカー純正では珍しい。またこのケースを使用すると、新たに「水中モード」が増えるそうである。

 そこそこ値の張る物なので、本気で撮影したい人でないと手が出せないものではあるものの、最近のカメラという条件では他に選択肢がないので、この夏には独自の地位を築きそうだ。

 それにしても、ビデオカメラはずいぶん安くなったものである。以前は10万円を切るのは廉価モデルで、普通はレビューもしなかったものであるが、今は8万円前後出せばかなりいいカメラが買える。旧DV/DVDカメラを使っている人も、そろそろHDに乗り換えてもいい時期かもしれない。

(2009年 3月 25日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]