小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第781回 ニコン初のアクションカム! ようやく登場「Keymission 360」。用途違いの170と80も
ニコン初のアクションカム! ようやく登場「Keymission 360」。用途違いの170と80も
2016年11月16日 08:00
ニコン初のアクションカム
アクションカメラは、カメラメーカーのみならずベンチャーや中国企業も参入し、もはや珍しいモノではなくなった。その点では、2007年頃に米国だけで大ヒットした「Flip Video」よりも確実に世界中でヒットした商品群だと言える。
一方、1ボディで360度撮影可能なカメラは、2013年にリコーが「THETA」を発売して以降、競合製品は数えるほどしか出てきていない。その文脈で行けば、今年1月に行なわれたCESのタイミングでニコンが「KeyMission 360」(以下KM360)を発表したのは、タイミング的にも悪くなかった。老舗カメラメーカーが防水・防滴のアクションカム、しかも360度撮影に参入というのは、海外でも好意的に受け止められていた。
当初は春頃に発売という話もあったが、今年9月のフォトキナ2016で改めて発表され、10月28日から発売が開始された。同時にシリーズ展開となる「KeyMission 170」(以下KM170)、「KeyMission 80」(以下KM80)も発売が開始されている。
個人的に注目しているのはやはりKM360だが、ほかのモデルも気になるところだ。今回は同時発売されたKeyMissionシリーズ全モデルをお借りすることができたので、それぞれポイントを押さえていこう。
タフ仕様の360カメラ、KeyMission 360
ではまずKM360から見てみよう。CESではガラスケースに入ったモックアップ展示しかなかったが、当時の写真と見比べると、デザイン的にはほぼ完成していたようだ。固定用アクセサリのデザインまで当時のままである。実売は65,000円前後(税込)となっている。
正面から見るとほぼ正方形に見えるが、実際には横幅のほうが5mmほど長い。四隅に向かって梁が出ているようなデザインは、軍用ポリタンクのような印象を与える。ボディの厚みはかなりあり、レンズプロテクタまで含めると61.1mmと、高さ方向よりも厚みの方がある。デザインが上手いのでスリムに見えるが、かなりゴロッとしたカメラである。なお水中撮影用のプロテクタは平面構造となっている。
レンズは35mm換算で8.2mm/F2、角度としては190度のレンズを前後に備えている。撮像素子は1/2.3型のCMOSで、総画素数は2,114万画素。画像はこれを2枚貼り合わせることになる。記録画素数は、静止画で7,744×3,872ドット、動画で3,840×2,160ドットとなる。
上部に大きめの動画録画ボタンがあり、右サイドに静止画撮影のシャッターボタンがある。表面にボタンはこの2つしかなく、電源ONは動画ボタンを3秒長押しする。短く押すと、電源ONと同時に録画がスタート、電源OFFは同じく3秒長押しだ。7秒以上押し続けると、スマートフォンとの再ペアリングモードとなる。本体にモニターは無いので、全ての設定はスマートフォン経由で行なう事になる。
ボディ左側には、バッテリースロットとmicroSDカードスロット、充電・PC接続用microUSB、microHDMI端子がある。なお本機はIPX8相当(水深30m、60分までの撮影が可能)の防水性能、IP6X相当の防塵性能、2mからの落下耐衝撃性を備えている。端子のフタはパッキンでシールされ、二重のロックがある。
本体右側にはNFCポートがあり、NFC対応スマートフォンと簡単にペアリングできる。本機はBLE(Bluetooth Low Energy)を使って、スマートフォンと常時通信しているのが特徴だ。また動画の転送やリモート撮影時には、より高速なWi-Fi接続もできる。このBluetoothとWi-Fiの両対応が、KeyMissionシリーズの特徴になっている。
本体をカバーするシリコンジャケットも付属するが、本体とロゴの位置をきちんと合わせて装着しないと、ジャケットの端が画面に写り込むことがあると言う。パッケージにはベースアダプター「AA-1A」やベースマウントが付属。スマートフォンで360度映像をVRで楽しむための組み立て式スコープも同梱する。
今回はこれに加え、別売のヘルメット装着用「ベンテッドヘルメットマウント(AA-5/3,000円)」、「ハンドルバーマウント(AA-7/3,500円)もお借りしている。
撮影モードとしては、基本的には360度全周を撮影するわけだが、通常撮影のほかに早送り動画を撮影できる「スーパーラプス動画」、一定時間でループ記録する「ループ動画」、それに「タイムラプス動画」がある。スーパーラプスとタイムラプスは似たような機能だが、スーパーラプスは「何倍速」という指定をするのに対し、タイムラプスは「何秒間隔」という指定をする。タイムラプスのほうが、よりスピードの早い動画になるという事である。
ではほかの機種もある事だし、今回はこのまま撮影だ。撮影に関しては難しいこともなく、単にマウントに取り付けて録画ボタンを押すだけである。撮影の結果は本体では見る事ができないため、現場での確認はスマートフォンが頼りになる。本機は2つのカメラの映像を1つに繋ぎ合わせるステッチング処理をカメラ内部で行なうため、スマートフォンでのプレビューはすでに繋がった状態で確認が可能だ。ただしカメラ内の動画を、アプリに転送せず、直接再生する場合は、スマートフォンのジャイロと連動して疑似VR的な見方はできず、画面上をドラッグして確認する事になる。
カメラの厚みがあるので、ステッチングが上手くいくのか心配だったが、やはりつなぎ目は映像的に足りてない部分がある。以前レビューしたカシオEX-FR200では、映像的に届かない部分をバーで隠すという方法だったが、足りない部分も無理矢理繋ぐべきか、それともバーで埋めたほうがマシなのか、悩ましいところだ。
動画ファイルとしては、4K(3,840×2,160)だが、フレームレートが24pなので、動きの激しいスポーツ撮影としては物足りなさがある。ビットレートは76Mbpsあり、圧縮ノイズを感じる部分は少ない。ただもう少し解像感が欲しいところではある。
スマートフォンへの動画の転送は、BLEを使った「自動転送」も可能だが、動画はファイルサイズが大きすぎるため、転送されないようだ。個別に転送を行なう「お好み画像転送」では、通信をWi-Fiに切り換えて動画も転送することができる。
ただ画面上でWi-Fi接続するよう指示されるわりには、「移動」をタップするとアプリのアクセス許可画面に飛ばされるのは謎だ。こんなところは頻繁に設定を変えるところでもなく、Wi-Fi接続とは無関係である。普通はWi-Fiの接続画面へ行くべきだろう。この「お好み画像転送」で動画ファイルを転送している時は、リモート撮影やカメラ設定などほかの機能が使えなくなるので、注意が必要だ。
ファイルを転送すると、スマートフォンのジャイロ機能と連動して、疑似VR動画として楽しめる。編集機能もあり、YouTube向けの書き出し機能もある。だたしYouTubeのVRフォーマットで書き出すだけで、アカウントと連携してアップロードまでするような機能はない。
PC/Mac用としては、「KeyMission360/170 Utility」というアプリケーションが提供されている。こちらも機能的にはほぼ同じで、360度映像の再生確認やトリミング編集、YouTube保存といった機能が使える。
GoProとも違う文脈、KeyMission170
KeyMission170は、いわゆるGoProスタイルのアクションカメラだ。ボディにはやや厚いが、花形のレンズフードが付いているあたり、いかにもカメラメーカー的なセンスを感じさせる。実売は51,000円前後(税込)。
上部に録画と写真撮影用のボタンがあり、背面には1.5型34万ドットの液晶画面を備える。またメニュー操作用の上下ボタンとOKボタンもある。OKボタンは、設定メニューボタンを兼用している。
レンズは35mm換算で15mm/F2.8、画角的には170度となる。動画は3,840×2,160/30p、1,920×1,080/60p、30pの撮影が可能だ。またハイスピード撮影としては、1,920×1,080の4倍速、1,280×720の8倍速が選択できる。ただし電子手ぶれ補正をONにすると、1,920×1,080/60p、30pの2モードしか選択できなくなる。
防水性能はIPX8相当だが、水中撮影は水深10mで60分までの撮影が可能だ。防塵性能はIP6X相当。右側面のフタを開けると、バッテリ、microSDカードスロット、microUSB、microHDMIポートにアクセスできる。目立たないがNFCのポートが底面にある。また底部には金属製の3つのポートが出ているが、現時点では特に用途は明言されていない。将来的には何らかのアクセサリが使えるのかもしれない。
また本機には標準でリモコンが付属する。このリモコンのFnキーには2つの機能がアサインできる。一つは通常撮影の途中でFnキーを押すと、ハイスピード撮影に切り換えられるという機能だ。つまり再生時にはノーマルスピードからスローへと切り替わるわけだ。もう一つはハイライトタグの埋め込み機能である。
任意の場所でリモコンを使ってハイスピードに切り換えられるというのは、実際に試してみるとなかなか面白い。1080/60p撮影だと2倍速になるが、1080/30P撮影では4倍速スローとなる。ノーマル撮影中はリモコンと本体の録画ボタンが赤く点灯するが、ハイスピード撮影は録画ボタンが点滅に変わるので、今どっちで撮影しているのかもわかる。
手ぶれ補正も、有り無しで比較してみた。元々ローリングシャッター歪みは少ないCMOSのようで、OFFでもビヨンビヨンした感じは少ないが、ONではかなりしっかりとブレが補正される。若干画角が狭くなるが、それはアクションカムにはよくある仕様だ。レンズ周辺部の湾曲やフリンジも少なく、解像感もNikkorらしい切れの良さが出ていて、さすがニコンといったところである。
トレッキングに最適、KeyMission 80
最後にコンパクトなタフカメラ、KeyMission 80を試してみた。フォトキナで発表された写真を見て、勝手に4.5型のスマホぐらいのサイズなのかと思っていたのだが、実物は予想外に小さかった。昔のiPod miniをゴツくした感じと言えばお分かりだろうか。実売は35,000円前後(税込)。
薄型で三脚穴がなく、専用ホルダーが付属するなど、シリーズのほかのモデルとは明らかに系統が異なっている印象だ。その昔パナソニックがD-Snap「SV-AS10」というカメラを出していたが、作りとしてはああいう系統である。
カメラは前後に2つあり、正面は35mm換算で25mm/F2、撮像素子は1/2.3型、1,271万画素のCMOS。背面は35mm換算で22mm/F2.2、撮像素子は1/5型、492万画素のCMOSとなっている。また正面のカメラは光学式手ぶれ補正も備えており、動画撮影時には光学式に加えて電子式手ぶれ補正も併用できる。
右脇には大きなモード切り換えダイヤルがあり、動画と静止画を切り換える。その下にはメニューボタンがある。背面の液晶モニターは1.7型約23万画素のタッチパネルになっており、メニュー操作は画面タッチで行なう。背面にはボタンが1つあり、動画モードでは撮影スタート、静止画モードではシャッターボタンとなる。また設定により、モニター画面のタッチで撮影をスタートさせることもできる。
防水機能はIPX7相当で、水深1m、30分までの浸水を防止となっており、ほかのモデルよりも多少劣る。防塵性能はIP6X相当。メニューボタンの下にフタがあり、micorSDカードスロットとmicroUSBポートがある。バッテリは埋め込み式で、取り出して交換はできない。
撮影解像度は、正面カメラが静止画3,968×2,976、動画1,920×1,080/30pだ。背面カメラは静止画2,528×1,896、動画1,920×1,080/30pとなっている。
付属のホルダーとの組み合わせが良くできている。ホルダーからカメラを外すと自動的に電源が入り、撮影可能となる。リュックの肩紐に付けておいて、いい風景にであったらパッと外してパッと撮ることができる。
また逆に「ルート撮影」では、ホルダーに付けると自動でインターバル撮影を開始する。トレッキングの行程をメモするような使い方で威力を発揮するだろう。なおルート撮影の途中でも、ホルダーから外して通常の撮影が可能だ。ホルダーに戻すとまたルート撮影に戻る。ただしリュックに付けても水平がきちんと取れるわけではないので、動画よりも静止画で使った方がいいだろう。
レンズが小さいのでパンフォーカスなのかと思ったら、ちゃんと光学AFが動くようである。ただ動画撮影では急激にAFが動いてしまうので、いわゆる「ガチョーン動画」になる事があるのが残念だ。
動画では色味が飽和してしまう部分も感じられるが、静止画に関しては高解像度でかなり綺麗に撮れる。近接10cmまで撮影可能で、意外にも背景のボケがちゃんとあり、花などを撮っても楽しめる写真となる。自分撮りのインカメラでは顔認識機能もあり、顔に対して露出を適正に合わせてくれる。
動画はボディに三脚穴がないため、どうしても手持ち撮影になってしまう。手ぶれ補正もがんばってはいるのだろうが、可変範囲が少ないのか、あまり際立った効果が感じられなかった。どちらかと言えば静止画メインで考えた方が満足できるカメラである。
総論
永らくお待たせしたお詫びと言うことだろうか、シリーズ3モデルが一気に登場したKeyMissionシリーズ。それぞれに特徴があるが、全モデルが防水・防滴仕様というところで共通の特徴を出してきた。また搭載レンズはさすがNikkorの実力で、どれもキレがいい。
使い勝手の面では、Bluetoothで常時スマホと繋がり、高速転送はWi-Fiに切り替わるなど、工夫されている。ただその切り換えがあまりスマートではないのが、現時点の課題と言えるだろう。
一方でニコンは、11月8日にグループ全体での構造改革を打ち出し、映像事業で350名規模、半導体事業で1,000名規模、本社機構で200名規模の人員適正化を行うと発表した。メディカル事業や産業機器事業では成長が見られるものの、映像事業の市場縮小や半導体装置事業の赤字により、転換を迫られている格好だ。デジカメ分野では「高付加価値製品への注力」が掲げられており、裏を返せば儲からない分野は撤退の可能性もあるのだろう。
KeyMissionシリーズは10月末にリリースされたばかりで、まだこれからの製品だ。モノの作りとしては悪くなく、ラインナップも豊富。細かい点の改善ファームアップなども含め、長く育てていく事業にしていって欲しい。
ニコン KeyMission 360 | ニコン KeyMission 170 | ニコン KeyMission 80 |
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