小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第908回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“ポケットに入るα9”秒間20コマ連写の衝撃、ソニー「RX100 VII」

エースナンバー7登場

写真を撮るという行為のメインがスマートフォンに移って久しい。最初は「コンパクトデジカメの代わり」であったものが、技術の発達により「どのスマホで撮ったら綺麗か」という時代となった。人物撮影であれば、さらにアプリによる加工は当然のものとなり、そのままが写る「デジタルカメラ」は敬遠されつつある。

「RX100 VII」(DSC-RX100M7)

ただし上記は、撮影者と被写体がイコールである場合の論理であり、撮影者と被写体が異なる場合は、写真でしか撮れない世界を残したいと思うようになる。それは、かつて銀塩写真から連綿と続いてきたリアリティの追求とはまた違う「新表現」の領域なのだと思う。

そんな新表現に応えるハイエンドコンデジの先陣を切ったのが、ソニーの「RX100」であった。ご承知のようにボディデザインはほぼ同じのままで後継機をどんどん積み重ね、今回8月30日に発売されるのは「RX100 VII」(DSC-RX100M7)となる。

思い起こせばほぼ1年前、高級機ながら8倍ズームを搭載した「RX100 VI」(DSC-RX100M6)がデビューしている。今回のM7はそれにアドオンする格好で、センサーを大幅にグレードアップしてきた。店頭予想価格は145,000円前後で、AF性能を大幅に向上させ、ミラーレスの最上位モデル「α9」レベルの“秒間20コマ”の高速連写などを可能としている。

RX100の新作は毎回夏発売なので、だいたい夏休み期間中に撮影する事になる。今回もそういうタイミングとなった。早速エースナンバーM7の実力をテストしていこう。

形は変わらずだが……

ボディデザインとしては、光学ビューファインダを搭載したM3の頃からほとんど変わっていないので、見た目的にはいつものRXスタイルと言える。レンズは沈胴式で、35mm換算24~200mm/F2.8~4.5。レンズ自体はRX100 VIと同じだ。

見た目的にはいつものRXスタイル
レンズは沈胴式で、35mm換算24~200mm/F2.8~4.5

センサーは新開発の、メモリー一体型の1型積層型CMOS。有効画素は約2,010万画素で、静止画では最高20コマ/秒、4Kは最大30pで撮影可能。画像処理エンジンはα9やα7R IIIと同じ最新のBIONZ Xを採用。

AF性能も向上し、センサー像面上で最大60回/秒の頻度でAF/AE演算処理を行なう。複雑な動きで、スピードに緩急のある被写体でも高い精度でAF/AE追従できるという。また像面位相差AFセンサーは357点/68%をカバーし、コントラスト検出方式の測距点数は425点。0.02秒の高速AFで、1型センサーのコンパクトデジタルカメラとしては世界最速だという。

瞳AFはハイエンド機の流行だが、本機の場合、静止画だけでなく動画撮影時もリアルタイム瞳AFが可能になった。加えて静止画撮影では、動物用の瞳AFも利用できる。

背面
背面モニター
ポップアップ式のビューファインダーも搭載している
上部

ハードウェア的な見所は、マイク入力端子を備えたところだろう。昨今YouTuberならずとも、ネットメディアでも動画レポート記事が増えている。イベントの動画取材などはインタビューマイクを使いたいところだが、この手のコンパクトデジカメでマイク入力端子を備えたものがほとんどなかったため、音声は別録りして編集時に合わせるか、大型のミラーレスや一眼を使わざるを得なかった。

マイク入力端子を備えているのがポイントだ
外部マイクも利用できる

これがコンパクトデジカメでレポート取材ができるようになれば、取材写真撮影と動画レポートが1台のカメラでこなせることになる。RX100 VIIには「シューティンググリップキット」(DSC-RX100M7G)というセットモデルがある。これはカメラ本体に、シューティンググリップ「VCT-SGR1」、非売品のマイク用ブラケットが付属したキットだ。

シューティンググリップは以前RX0 IIのレビューの際にテストしているが、グリップ部にズームレバーと録画ボタンがあるので、片手でのカメラ操作が可能だ。片手にカメラ、片手にマイクでインタビュー取材が可能になるというわけである。

シューティンググリップ

なお、RX100 VIIには「シューティンググリップキット」(DSC-RX100M7G)というセットモデルも用意。カメラ本体に、シューティンググリップ「VCT-SGR1」、非売品のマイク用ブラケット、カメラ用バッテリの追加分1個をセットにして、店頭予想価格は155,000円前後だ。

大幅に向上した4K撮影

今回のM7は、センサーおよび画像処理プロセッサの性能向上による恩恵をどこに感じるかというのがポイントになる。4K動画としては、すでにM4から撮影可能になっているが、M6までは連続撮影時間が5分という制限があった。これは主に発熱の問題からだ。

一方M7では、標準設定では連続撮影5分のままだが、セットアップメニューの「自動電源OFF温度」の設定を「高」にすると、本体温度は高温になるが、5分以上の動画撮影が可能になる。具体的に何分なのかは、撮影現場の気温などに左右されると思われるが、筆者宅内でテストしたところ、15分以上撮影できた。なお4K撮影時に高温になるのは、主にバッテリーだ。

4K撮影もHDR撮影に対応する。コンパクト機には珍しくS-Log3まで設定可能で、さらにHLGでの撮影もピクチャープロファイルから選ぶだけだ。今回はHLGで撮影してみたが、発色やコントラストなど、夏の風景が楽しめるカメラとなっている。

夏の雲はHDRとしては格好の素材
赤の深い発色もきちんと捉えている
4K HLGで撮影した動画サンプル

加えて4K撮影時も、手ブレ補正として「アクティブモード」まで利用できるようになった。最高補正力を誇る「インテリジェント・アクティブ」はHD撮影までしか使えないが、4Kでもアクティブモードまで使えるのは大きい。

4K撮影時も、手ブレ補正として「アクティブモード」まで利用できるようになった

アクティブモードでも足りない場合は、スマホアプリのImaging Edge Movie Edit add-onを使ってさらなる手ブレ補正を加える事もできる。一手間増えることは増えるが、スマホで簡単に追加スタビライズできるのは面白い。

アクティブモードによる補正と、Movie Edit add-onによるスタビライズ

なおご存じの方も多いと思うが、ソニーのNFC搭載カメラはiPhoneともNFCで接続できる。ただしiPhone7以降かつiOS 11.0以上という縛りがある。

iPhoneでもNFCカメラと接続できる
スタビライズは画像を読み込むだけで自動的に適用される

続いてAF性能をチェックしておこう。動画撮影に関しても、AF時の顔および瞳優先が使えるようになった。ただし4K撮影時には使えず、HD撮影のみである。

ただ顔認識および瞳認識の威力は絶大で、手前に向かってくる人物にもまずフォーカスを外す事がない。さらに被写界深度を浅くした状態で人物との距離が変わっても、左目から右目へと近い方の目に自動的にフォーカスが追尾していく。オートでここまで追従してくれるなら、人物撮りはかなり安心してカメラに任せられる。

AFの安定感がさらに増した

加えて動物用の瞳AFも搭載した。ペット撮りなどに威力を発揮するだろう。ただ動物瞳AFは、動画撮影では機能せず、静止画撮影のみとなる。動物とは言っても色々種類があり、柄も様々なだけに、判定が難しいのだろうが、ペット動画はネットでも人気コンテンツなので、動画対応も頑張って欲しいところだ。

連写で世界が変わる

静止画機能では、連写性能の向上が大きく注目されるところだ。ドライブモードの「連続撮影」ではHi,Mid,Lowの3タイプが選べる。最高速度のHiでは秒間20コマ連写が可能だ。

これはシャッターボタンを押しつつけていればずっと連写されるので、シャッターチャンスを逃すという事はまずないだろう。ただしシャッターボタンから指を話すと、今度はメモリーカードへの書き込みが始まるので、それが終了するまでは次の撮影ができない。写真しか撮らない方も、連写を多用するなら高速なメモリーカードを用意した方がいいだろう。

ジャンプの頂点も問題なく捉えられる

もう一つの高速連写機能が、「ワンショット連続撮影」だ。ドライブモードでこれを選択すると、1度のシャッターで1/90秒間隔で7枚連写する。バッティングの瞬間や水風船が割れる瞬間が撮影できるとしている。

こちらも試してみた。サッカーボールを蹴る瞬間を撮影してみたが、いやこれは難しい。結局のところ撮影できる時間は7/90秒しかない。「ジュッ」というぐらいの間だ。自分がやる行為ならタイミングがわかるが、人がやる行為に合わせてジャストなタイミングでシャッターボタンを押すには、何度もトライが必要だった。

何度目かのトライでようやく捉えたキックの瞬間

また高速の瞬間を捉えるには、当然ながらシャッター優先で1/1000ぐらいに設定する必要がある。プログラムオートでは被写体の動きがブレてしまうので、注意が必要だ。

総論

RX100は、シリーズを重ねると共に機能も積み上がっているが、旧モデルユーザーにとっては同じ使い勝手、同じUIで新機能が使えるので、すぐに「自分のものになる」感覚がある。連写の新機能も、ドライブモードを変えるだけなので、どこにあるんだと探す必要がない。

4K動画に関しても、5分以上の連続撮影が可能になったことで、レポート動画なども撮影しやすくなった。コンパクトデジカメでマイク端子搭載は、業務ユーザーレンジではかなり大きなアドバンテージになる。加えて手ブレ補正もアクティブモードまで使えるようになったことで、手持ち撮影でもかなり安定する。先日のRONIN-SCといった小型ジンバルとの相性もいい。

4Kで撮影する必要があるのかと思われるかもしれないが、最終的にHD解像度になるにしても、広い絵で撮影しておいて編集時に拡大で寄り引きが表現できるので、撮影時にズームで寄り引きしておく必要がない。ワンマンレポートでは4K撮影は必須だ。

ただハードウェア設計として古くなりつつあるの部分もある。昨今スマートフォンやPCもType-Cになりつつあるが、本機は今だMicro-USBである。充電のUSB-PD対応もユーザーとしては欲しいところだ。

加えて4K撮影時のバッテリー発熱問題もあり、そろそろ高速充電に対応した新規バッテリーが欲しいところでもある。今のXタイプバッテリーは、2012年ソニー初のアクションカム「HDR-AS15」の発売のあたりで登場したものなので、値段はこなれているが、最新鋭カメラのバッテリーとしてはちょっと設計が古い。

店頭予想価格が145,000円前後ということで、かなり高価な部類のカメラとなる。だがAF性能がα9並みでこのサイズとなれば、それだけ孤高のカメラということになるだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。