小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第907回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

実はこれで十分!? 29,800円の“受動的HMD“「DPVRパーソナルシネマ」

温度差のある技術、それがVR

VRという技術は、ゲームに限らずコミュニケーションの世界でもすでにある一定層にはかなり深く浸透している。人の動きのアバター化、ボイスチェンジャーによる声の変更など、ハードウェアの進化もめざましいものがある。作り手側、そしてプレーヤー側も、わかる人にはわかりすぎるほどわかるという、Windows 95登場前もパソコンブームみたいなところに差し掛かっているのかもしれない。

DPVRパーソナルシネマ

一方で一般人はどうかというと、VR来る! 今年はVR元年!、という熱いメッセージに対して、「お、おう……」的な反応が主流なのではないだろうか。調子に乗って「Oculus Go」も買ってみたけど、なんか一部のその熱さがめんどくせえ、みたいな事になっていたりする。筆者はちょっとそんなモードである。

筆者は元々ゲームもしないし、Oculus Goに求めたのは“でかい仮想スクリーンで動画が見られる”という、ハードウェア+プラットフォームだったりするのだ。ダラダラ動画を見て暮らしたいだけなのに、見ようと思ったらいつのまにかバッテリーが空だったり、動画見てる間にコントローラがどっかいっちゃったりと、ぐうたらな使い方にはちょっと違うのかなという気がしている。

そんな中、夏休み中にダラダラ動画見て過ごすには最適とも言える3DoF対応のVR HMDが出た。日本国内ではアユートが販売する、「DPVRパーソナルシネマ」である。価格は16GBストレージ内蔵モデルが29,800円(税込)、64GBモデルが33,480円(税込)。

パーソナルシネマと名前がついている通り、動画をダラダラ見るのに特化したHMDだ。夏休みは誰にも邪魔されず動画三昧したいというインドア派のための製品と言っても過言ではないDPVRパーソナルシネマを、早速試してみよう。

フィット感の良い作り

今回お借りしているのは、16GBのモデル。多くのサービスやアプリをローカルで動かしたり、動画をダウンロードして見たりするなら容量が大きい方がいいだろうが、Wi-Fi環境でストリーミングで見るだけなら、16GBモデルで十分だろう。というかそもそもベースがAndroid 7.1なので、microSDカードを挿せば容量を追加できる。

DPVR 16GBモデル
底部中央にmicroSDカードスロットがある

カラーとしては16GBはブラックのみだが、マットな仕上がりになっている。前面にピンクゴールドのアクセントがあり、デザイン的には悪くない。このピンクゴールド部をカバーするためか、シリコン製のプロテクターも付属する。

シリコン製のカバーも付属する
カバーを付けるとルックスも変わる

頭部にはゴムベルトで固定するスタイルで、顔側のカバーも柔らかく、フィット感は悪くない。鼻の隙間は少し空くので、光漏れが気になるところだが、完全に塞がるとレンズが曇るので、このあたりは致し方ないところだ。

背面下側のゴムベルトをベルクロで止めてサイズ調整するスタイル
顔面側のカバーは柔らかく、フィット感は良好
鼻のえぐり込みは若干深いか

本機最大の特徴は、コントローラがいらないところである。ボディ右側にタッチパッドを備えており、画面内のカーソルを頭で動かして右手でタップ、というインターフェースである。タッチパッドは縦2cm、横2.5cmぐらいの面積があり、上下左右になぞる事でスクロール動作ができる。戻るボタンは右下、ボリュームのアップダウンは左下だ。

右側にタッチセンサーを装備
底部に「戻る」ボタンとボリュームがある

電源ボタンと端子類は左側にある。一般的なAndroidの作法通り、電源とボリュームの+ボタン同時押しでスクリーンショットも撮れる。またPCとの接続やスマホ用設定アプリなどもなく、完全スタンドアロンで動く仕様となっている。

左側にイヤホン端子と充電・PC接続用のMicro USB端子

ディスプレイ解像度としては2,560×1,440/70Hzで、バッテリー容量は4,000mAh。連続使用時間は4時間で、重量は417gとなっている。

スピーカーはゴーグル部の両脇に付けられており、フェイスカバーにちょうど隠れるかたちで意識しなければ気がつかない。耳からは少し距離があるが、意外に音の通りはよい。

シンプルな使い勝手

では早速使ってみよう。完全電源OFF状態からホーム画面が起動するまで、約45秒。装着してから起動させると多少遅く感じる。装着前に電源を入れてほかの用事でも済ませているうちに起動している感じだ。

最初に起動したホーム画面では、コンテンツはなにも表示されない。まずはWi-Fi設定だ。画面下列のWi-Fiマークをタップすると、Wi-Fi設定画面になる。当然ながらWi-Fiのパスワードは記憶できるのだが、筆者宅では起動して自動では繋がらず、毎回どのWi-Fiに繋ぐか選択しなければならなかった。取扱っているアユートでは自動接続できているとの事なので、お借りした機体とルーターの相性のようだ。

いったんWi-Fiに繋がると、正面の4つのコンテンツサムネイルが表示される。ここは特に視聴履歴というわけでもなく、360度VR動画配信サービス「360Channel」のレコメンド画面のようだ。ホーム画面にはAndroid的な要素はほとんどなく、完全にVRに特化したUIとなっている。パーソナルな設定なく、Wi-Fiぐらいしか設定すべきところがない。まあそれだけ気軽に使えるという事でもある。

DPVRのホーム画面

画面右に目を移すと、インストールされているアプリケーション一覧がある。左からアップデート、VeeR VR、360Channel、ブラウザの4つだ。Androidベースとはいえ、Google Play Storeが使えるわけでもなく、また独自ストアからユーザーが自分でアプリがインストールできるわけでもない。おそらくアプリの追加は、ソフトウェアのアップデートによって実施されていく事になるのだろう。画面左にはVeeR VRの入り口がある。

プリインストールされているアプリは意外と少ない
左手にはVeeR VRへの入り口がある

まずは360Channelから入ってみよう。こちらは自分を取り囲むようにコンテンツが表示されるが、画面下にジャンルが表示されるので、そちらから選んでいった方が早いだろう。ざっと一通り見ていくが、「映画エンタメ」ジャンルではトレーラーや記者発表会などの映画情報はあるが、映画本編はない。

360Channelのメイン画面

充実しているのは、「体験」「バラエティ」「スポーツ」あたりだろうか。スポーツは格闘技がメインのようだ。ほとんどが日本国内で作られたコンテンツで、どれも2分から3分、長くても5分程度の短いコンテンツが沢山詰まっている感じである。

格闘技はかなり充実

画質的にはディスプレイ解像度が2,560×1,440/70Hzあるので、Oculus Goとほぼ同じである。動きに対する追従速度も問題ない。

もう一つのコンテンツプラットフォーム、VeeR VRに入ってみよう。こちらは海外コンテンツ中心で、ジャンルは画面の上の方に表示されるスタイルだ。クオリティも高く、ミュージックビデオも結構多いので、かなり楽しめる。ある意味、ワールドワイドのVRらしいコンテンツが揃っているのはこちらだ。

VeeR VRのホーム画面
海外コンテンツが充実

ブラウザをどう使うかがキモ

DPVRがオフィシャルにサポートしているVRプラットフォームは、事実上360ChannelとVeeR VRの2つということになる。だがいつも見ているコンテンツを大画面で見たいという人もいるはずだ。

そういうときは「ブラウザ」に移動すると、普通にWebブラウザが利用できる。あらかじめFacebookやYouTube、Amazonなどがプリセットされており、そこにログインして楽しむことができる。

WEBブラウザも搭載

Facebookはスマホ用画面に接続されるようで、表示が大雑把だが、書き込みを読んだりするぶんには不自由はない。一方YouTubeはログインしなくても使えるが、やはり自分がフォローしているチャンネルを中心に見たいはずなので、画面右上からログインしたほうが楽しめるだろう。

YouTubeで音楽コンテンツを楽しんでみたが、リビングに居ながら、VR空間の別のリビングでシアター風の画面を視聴するスタイルとなる。音質は中高域の通りはいいが、低音はやはり物足りない。イヤフォン端子もあるので、音楽コンテンツの場合はイヤフォンを併用した方がいいだろう。

ただブラウザ画面はちょっとレスポンスが悪く、画面内にある戻るボタンが効かなくなる事もあった。本体ボタンの戻るボタンは使えるので操作には支障はないが、ここのスピードアップは今後の課題と言える。

せっかくブラウザが動くなら、そこからNetflixなどに行けばいいのではないかと思われるかもしれない。実際行ってみると、確かにログインは可能だ。だが動画視聴画面まで行くと、専用アプリのインストールを促される画面となり、ブラウザ上では動画は再生できなかった。

ブラウザでNetflixには行けるが、視聴はできない

Netflixアプリがインストールできればまた話は違うのだろうが、Google Playストアに非対応なのでインストールはできない。

一方Amazonのほうは、普通に買い物画面には行けるが、Amazon Prime Videoへ行こうとすると、GoogleのPlayプロテクトに認定されていない旨の表示が出る。要するにコピーコントロールが必要な有料コンテンツサイトには行けないが、無料サイトには行けると考えておけばいいだろう。ただしせっかくパーソナルシネマを謳うのであれば、なんらかの映画プラットフォームには対応して欲しかったところだ。

GoogleのPlayプロテクトには非対応

総論

コントローラ不要で本体のみの操作、画質はOculus Go同等、動画視聴に特化したHMDとして登場したDPVR。自分からガツガツ行かない、受動的HMDとしてこういう方向性はアリだと思うのだが、見られるのは無料コンテンツに限られるところがネックと言えばネックだ。YouTubeが見られるのである意味コンテンツ量としては無限大とも言えるのだが、ちゃんとお金を払って映画も見たいところである。このあたりは今後のアップデートに期待したい。

価格的にはOculus Goよりやや高いことで、じゃあ有料サービスにも問題なく対応しているそっちのほうがいいんじゃないかという節もあるが、DPVRは中身がAndroidなので、PCから動画を転送して再生するといった使い方もできる。すでにスマホでそうしたファイル転送のノウハウがある人なら、難しい作業ではないはずだ。

そろそろ来週から夏休みという人も多いだろう。混んでるお盆の最中はどこへも行かないと決めている人は、DVPRで溜め込んだ動画視聴三昧を決め込むというのも、楽しいかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。