小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第939回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

誰でもVlogデビュー!? ソニー「VLOGCAM ZV-1」を試す

6月19日から発売される「VLOGCAM ZV-1」

多様化する動画需要

コンシューマの動画といえば、昔はお父さんが子供の運動会を撮るぐらいの需要しかなかったものだが、日本においては2007年ごろから「ニコニコ動画」が急速に広がりを見せて行った。米国ではすでにYouTubeが人気であったが、日本のコンテンツはまだ少なく、今のような“YouTuber”も登場していない。

これらの動画投稿サービスに加えて、2010年ごろからはUstreamが台頭し、アマチュアがLive中継番組を提供するようになった。この文化は2011年東日本大震災以降に大きく進化し、ネットのLive中継は一つのメディアとして成立するようになって行った。

そしてご承知のように昨今のコロナ禍による出勤停止をきっかけにテレワークが導入され、好む好まざるに関係なく、多くの人が自宅からライブチャットを行なう必要性が出てきた。どうすればうまく綺麗に、しかも簡単に動画中継できるのか、かつてないほどに需要と関心が高まっているのが現在である。

そんな中、ソニーがVlogger向けの新カテゴリー「VLOGCAM」を立ち上げ、第一弾として6月19日より「ZV-1」を市場投入する。んーVloggerってそんなに一般用語か? という話はあるが、基本的には“動画投稿向けのカメラ”という事らしい。

店頭予想価格は91,000円前後で、シューティンググリップ(GP-VPT2BT)も同梱したセット「VLOGCAM ZV-1G」が104,000円前後。今回はこのシューティンググリップもお借りしている。

何がどうVlogger向けなのか、早速試してみよう。

人気シリーズとよく似たボディ

ソニーが動画投稿向けカメラをリリースするのは、何もこれが初めてではない。2009年には米国向けにMP4カメラベースの「Webbie」を発売、翌年日本では名前を「bloggie」に変更して発売した。

シリーズとしては短命に終わったが、ブームを捉えたタイミングではあったと思う。今回の「VLOGCAM」も、ワールドワイド的には絶妙なタイミングであることは間違いない。

さてボディだが、どこかで見たことあるような……と思われる方も多いだろう。サイズ的にもデザイン的にも、RX100シリーズがベースになっている事は、疑う余地はない。とはいえRX100の金型そのままではなく、全体の構造は微妙に違う。

たたずまいはRX100シリーズに近い

パッと見でわかる違いは、モードダイヤルがないこと、アクセサリーシューが向かって右肩に寄せられていること、軍艦部中央に大きめのマイクが搭載されていることであろう。

軍艦部の構造が全く違う

なおRX100シリーズには前面に指がかりとなるグリップがなく、多くのユーザーは自分でサードパーティ製のグリップを貼り付けて使っているものと思う。一方、本機では最初からグリップが付いている。

レンズはZEISSバリオ・ゾナーT*レンズで、35mm換算で24mm~70mm/F1.8~2.8の2.7倍ズーム。RX100シリーズでいえば、RX100 IIIからVぐらいのスペックである。ただしマニュアルリングがないので、マニュアルフォーカスの操作性はあまり期待できない。

一見マニュアルリングがありそうにみえるが、鏡筒部は回らない

絞りは7枚羽根の虹彩絞りで、NDフィルタも3段階入っている。センサーは1.0型のExmor RS CMOSセンサーで、総画素数約2,100万画素、有効画素数約2,010万画素。

軍艦部のポイントはマイクだと思うが、なんと仕様書にマイクの細かいスペックが記載されていない。Vloggerというのは自分のしゃべりを撮るものじゃないかと思うのだが……。3つのマイクカプセルを搭載しており、搭載幅からすればステレオマイクだと思うが、せめて周波数特性やポーラーパターンぐらいは見たいところである。

カメラ内部にはフラッシュを内蔵しておらず、必要であればアクセサリーシューに装着するというスタイル。なお付属品として本体マイク用にウインドスクリーンが付属しており、これをアクセサリーシューで固定するようになっている。

付属のウインドスクリーン
装着するとなかなか個性的なルックスに

RX100のようにモードダイヤルはないが、モードボタンがあり、これを押して背面ダイヤルでモードを切り換える。また動画撮影向けに録画ボタンが大きくなっているのもポイントだろう。シャッターボタンで動画撮影開始もできるが、やはり専用ボタンがあると安心できる。

背面はボタン類の配置もRX100と同じなのだが、液晶モニターが大きく違う。RX100が上下角のみのチルト液晶だったのに対し、本機では横に展開したのち270度回転するバリアングルとなっている。

背面のボタン配置はRX100シリーズと同じ
液晶は横展開のバリアングルとなっている

モニターのスペックとしては、4:3の3.0型エクストラファイン液晶で、画素数は921,600ドットとなっている。バックライトは5段階のマニュアル設定および屋外晴天モードが使えるが、動画撮影モードがXAVC S 4Kモードになっていると屋外晴天モードが使えない。おそらく消費電力と発熱の都合だろうが、屋外で4K Vlogを撮影したい方には残念である。

自撮りスタイルはこのようになる。録画ランプが前面にあるのでわかりやすい

端子類はグリップ側に集まっている。上からマイク入力、Micro USB、Micro HDMI端子となっている。実はこのサイズのカメラでマイク入力があるのは珍しい。

コンパクトカメラでマイク端子装備は珍しい

筆者も3~4年前にコンパクトデジカメで動画取材しようと、外部マイク端子付きのカメラがないか調査したが、当時は見つからなかった。現在はRX100 VIIや、キヤノンPowerShot G7 X Mark IIIで搭載が始まっており、徐々に環境が整いつつあるところだ。

一方で充電やPC接続に使うUSB端子は、未だMicroを採用しているのは残念だ。おそらく基盤も含め、電源設計がRX100と同様なのだろう。

シューティンググリップを装着。接続はBluetoothなので、ワイヤレスだ

機能をうまく昇華

では早速色々テストしてみよう。まず撮影モードだが、基本的にはRX100シリーズと同じ撮影モードを搭載している。つまり写真用もおまかせオートをはじめ、プログラムオート、絞り優先、シャッター優先、マニュアルモードを備えており、まったく普通に静止画のカメラである。動画モードはおまかせオートと通常の動画モードの2つだ。

まずは気になる音声収録をテストしてみよう。まずは室内において、内蔵マイクで集音してみた。夜なので周囲は静かではあるのだが、SN比よく集音できている。ただしマイクとの距離は80cmほどあるので、音声としてはややオフ気味の感じはする。

室内での集音テスト

屋外の収録では、通常では風の影響を受けやすいものである。実際に海岸で集音してみたが、ウインドスクリーンなしだと方向によってはフカレが発生している。一方ウインドスクリーンを付けると、風によるフカレもほとんどなく、うまく集音できるようだ。

今回は外部マイク入力があるので、市販のピンマイクでもテストしてみた。胸元にマイクがあるため、低音が大きく、いわゆる「オンマイク」の音が集音できるのが強みだ。ただ音声としての聞き取りやすさとしては、カメラマイクの音質のほうがよく整理されているように思う。

屋外での集音テスト

Vlogger向けの様々な機能が搭載されているので、そちらも試してみよう。

まず一つ特徴的なのは、背景ボケの選択ボタンが付いたところだ。軍艦部にあるC1ボタンがそれである。撮影時にこれを押すと、背景をボカすか、くっきり見せるかの2パターンを切り換えることができる。具体的には絞り開放1.8のボケ味がよく出る設定と、F5.6の背後までピンとが合った映像が切り替えられる。F値など、カメラの事をよく知らない人にもわかりやすくというボタンだ。

「背景のボケ」くっきりの映像。センサーが1インチあるので、それなりにボケる
「背景のボケ」ぼけに設定。絞りが開放になるので、レンズの持ち味が出せる

スマホカメラでは、手前の物体を3D検知してマスクを切り、背面はエフェクトでボカすといった手の込んだことをやっている。一方本機では、絞りもあるし1インチセンサーという大きなセンサーも搭載しているので、絞りを開放にするか絞るかを切り換えている。シャッタースピードが落ちないように、ISO感度で露出を調整しているようだ。

次に「商品レビュー用設定」を試してみよう。動画などで商品を説明する場合、商品を大きく見せるためにカメラ前に持って来たりするが、急に被写体の距離が変わるとフォーカスの追従が甘くなるケースがある。また、顔認識・瞳認識AFがONになっていると、手前に持ち上げた商品より、奥にある自分の顔にAFが合焦してしまう。ボタンを押すと顔・瞳認識がOFFになり、こうしたトラブルをカバーするモードのようだ。

実際に商品をカメラ前に出したり、顔のあたりに持って来たりを繰り返してみたが、やはり設定がONのほうが綺麗に追従するようだ。もっともカメラの設定で、AF駆動速度を高速、AF被写体追従感度を「敏感」に設定すると、商品レビュー用設定がONでもOFFでもあまり差がなくなる。こうした奥深くの設定に入っていかなくても、一発で切り換えられるのは楽だ。

前半は「商品レビュー用設定」OFF、後半はON

液晶画面で対象物をタッチすると、そこに対してフォーカスを追いかける「トラッキング」機能が搭載されている。通常はトラッキングといえば、360度カメラやジンバルカメラなど、カメラ側が被写体を追いかけられるもので効果を発揮する。

本機のように自動で動かないカメラでトラッキングして効果があるのか、というのがポイントになるわけだが、被写体に対してカメラで大きく寄ったり引いたりするような動きの場合は、トラッキングしてあるとフォーカスの追従が速い。今回はカメラ側を動かしたが、速い動きで向かってくる被写体を捉える際にも便利だろう。

トラッキング機能のテスト

7月頃にはWebカメラとしても利用可能に

現在日本でもっとも大きな需要は、ネットライブ用カメラであろう。Webカメラはようやく在庫が出回るようになってきているが、一時期は品切れが続いていた。しかたなくスマートフォンでリモート会議に望んだ人も多かっただろう。

そんな中、キヤノンUSAが既存の同社製カメラにWEBカメラ機能を追加する「EOS Webcam Utility Beta」アプリを公開した。まだβ版ではあるが、4月28日という早い段階で公開された事で、助かった人も多かったはずだ。

Webカメラやパソコン内蔵カメラ、あるいはスマホのインカメラを使って行なうリモート会議やリモート出演は確かにお手軽ではあるが、雰囲気のある絵作りや、背景は自然にぼかしたいというニーズには応えられない。一眼やミラーレス、コンパクトデジカメをWebカメラとして使うという用途は、今後広がりを見せるだろう。

Vlogger向けと言われる本機ではその辺どうなのだろうか。予定としては、PCとUSB接続して、Webカメラとして使うためのPCソフトウェアが、2020年7月頃に公開されるそうだ。

なお、現時点でHDMI出力はスルー出力が可能だ。ステータス表示のオーバーレイも消せるので、スイッチャーなどに入力したのちネット配信へ、という使い方はすぐに可能である。

総論

現在はこれまでになく、動画撮影需要が高まっているところである。特にライブ配信需要が一般の方にまで高まったのは、2011年の東日本大震災でもなかった現象だ。

このタイミングで動画向けカメラ、というのは期待が高まるところだが、現状のZV-1はあくまでも「動画収録」のためのカメラで、ライブ配信向けとは言いがたい。もちろん、難しい設定もなく追加機材も不要で、1カメ動画収録できるのは素晴らしいが、「期を見るに敏」というわけではないところは、理解しておくべきだろう。

とはいえ、RX100というある意味こなれたリソースを活用して、短時間で製品開発から発売まで漕ぎ着けたことは間違いないだろう。動画収録だけでなく、普通の静止画カメラとしてもまったく問題なく使える。実売価格ということでは、だいたいRX100M5、同M4が同じぐらいの価格帯だ。性能的にも拮抗するところである。本機にはビューファインダーやマニュアルフォーカスリングはないが、完全バリアングル液晶という強みがある。

なお現在ソニーでは、Vlog新時代として本機だけでなく、RX0M2やハンディカムシリーズの訴求も行なっている。本機は「VLOGCAM」の第一弾ということであるが、今後アクションカムやハンディカムベースのVLOGCAMが登場するのかもしれない。

既存のリソースを使って商品化すれば確かに速いのだが、一ファンとしては全く新しいカタチのカメラも見たいところだ。今後の展開にも大いに期待したい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。