小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第776回 スマホ動画撮影の必需品!? 手ブレ補正+アプリ連携のDJI「Osmo Mobile」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

スマホ動画撮影の必需品!? 手ブレ補正+アプリ連携のDJI「Osmo Mobile」

スタビライザーの時代

 ここ2~3年、片手で持てる小型ジンバルが中国メーカーから大量に販売されている。そのほとんどはGoPro専用製品で、そのシェアの高さをうかがわせる。価格的には、以前は2軸が3万円、3軸が5万円程度であったが、最近は2軸製品は淘汰され、3軸のジンバルも販売店によっては2万円程度で買えるようになった。

DJI Osmo Mobile

 一方スマートフォン用のジンバルも、いくつか発売されている。価格的には、例えばサンコーレアモノショップの3軸スタビライザーが25,800円と、それほど高くはない。スマートフォンで撮影すればそのまま編集してネットにアップできるし、第一ほとんどの人がすでに持っている。激しいアクションを撮影しようと思わなければ、スマホ+ジンバルは現実的な選択肢である。

 これらの流れは、カメラはすでにあり、そこにジンバルをプラスするというものだ。それに対して昨年のCESで発表されたDJI Osmoは、小型カメラ+ジンバルをオールインワンパッケージにした製品として注目を集めた。今年になってマイクロフォーサーズマウントのカメラユニットを搭載したOsmo RAWも登場したのは、記憶に新しいところだ。

 元々はドローンメーカーとして注目を集めたDJIだが、撮影ガジェットとしもかなり注目され始めている。その次の一手として登場したのが「DJI Osmo Mobile」である。スマートフォン専用のジンバルで、DJIとしては初めて、自社カメラユニット以外のものを載せるハンディジンバルだ。

 価格はダイレクトショップで税込み34,992円。他店でも今のところこの価格のようだ。既存のスマホジンバルよりは若干高いが、ハンディジンバルとしてすでに定評のあるDJIの製品と言うことで、注目度も高い。早速その実力をテストしてみよう。

見た目は同じだが…

 まず本体だが、グリップ部からコントローラ、アーム部のデザインは既存のDJI Osmoとほとんど同じだ。アームの先端がスマホが挟めるようなグリップになっており、その点は大きく違う。

スマホ撮影専用のDJI Osmo Mobile
アーム先端にスマホを挟んで装着する

 ただ注意深く見ると、デザインが一緒なだけでオリジナル製品だという事がわかる。一番大きいのは、アーム部が着脱できなくなっている事だろう。既存のOsmoは、アーム部から上が交換できるよう、グリップ部とアーム部が着脱できるようになっていた。だがOsmo Mobileはこの部分が固定されており、着脱できない。あくまでもスマホ専用機という位置づけだ。

アーム部で着脱ができない一体型

 また前面にあるステレオミニジャックは、Osmoではマイク入力端子だった。だが今回はスマホで音声も録る事になるので、この部分はUSB充電のためのポートになった。つまり本体充電ができるわけである。Osmoは本体充電できず、別途充電器が必要だったので、その点は少ない装備で使えるようになっている。

正面のステレオミニジャックは充電用に

 まずアーム部から見ていこう。アーム部はブラシレスモーターを使った3軸補正機構となっている。先端のスマホを挟む部分はダイヤルを回して開閉するようになっており、取り付け可能なサイズは幅58.6~84.8mm、厚さ最大8.4mmまでとなっている。公式サイトでは、最小ではiPhone 5s程度、最大はHuawei Mate8 Maxとの記載がある。

3軸にブラシレスモーターを採用したアーム部
背面のダイヤルで幅を調整
取り付け可能なサイズは幅58.6~84.8mm

 iPhone 6s/7 Plus(5.5インチ)は装着可能だ。その代わり大きめのスマホは長さもあるので、アーム部を少し伸ばしてバランス調整を行なう必要がある。手元にはHuaweiのP8max(6.8インチ)もあるが、さすがにこれは入らなかった。

 アームの回転角は、横方向は左右150度ずつ、縦方向は上が140度、下向きが50度。Z軸方向は左右25度だ。Z軸はアーム自体45度ぐらいまで傾くのだが、スマホのボディがハンドル部に当たってしまうので、実質25度ぐらいしか回らないわけである。

 コントローラ部はカメラをパン・チルトさせるためのジョイスティックがあり、静止画撮影ボタン、動画撮影ボタンがある。右側にはスライド式の電源スイッチがある。

コントローラ部の機能はほぼ同じ
バッテリは従来のOsmoと同じ

 右側のダイヤルっぽいものは、ここにアクセサリや三脚を装着するための穴があり、ダイヤルはそのカバーだ。Osmoではモニター用のスマートフォンを装着するためのホルダー取り付け部になっていたため、カバーがなかった。その点スマホ撮影では、スマホがモニターを兼用するので、ホルダーの必要性がなくなり、安全のためにカバーが付けられたのだろう。

三脚穴はカバーで塞がれている

 ジンバルの動作モード設定や撮影は、DJIから提供されているアプリ「DJI Go」を使用する。これはドローンやOsmoでもモニタリングに使用している、DJIユーザーならお馴染みのアプリだ。

撮影アプリの「DJI Go」

さすがの安定性

 では早速撮影してみよう。今回はiPhone 7 Plusで撮影することにした。以前レビューでもお伝えしたように、iPhone 7 Plusには2つのカメラがあり、ワイド側のカメラを2倍にズームすると、テレ側のカメラに切り替わるという仕様になっている。またワイドの方は光学手ぶれ補正があり、テレ側のほうにはないという違いがある。

 撮影にはDJI Goを使うわけだが、こちらのアプリでは4K撮影やデジタルズームできるものの、等倍と2倍のカメラ切り換え機能がない。おそらくiPhone 6s/6s Plusまでの対応で、iPhone 7 Plus特有の機能にはまだ対応できていないのかもしれない。

 もちろん、DJI Goを使わなくても、ジンバルそのものは動作するので、標準のカメラアプリを使って撮影することもできる。DJI Goによる撮影、標準アプリで等倍、標準アプリで2倍での動作をテストしてみた。

DJI Goと標準カメラアプリでの撮影比較
walk.mov(58.26MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 オートホワイトバランスの結果に違いはあるものの、それはマニュアルで調整すれば済むことだ。補正具合としては、DJI Goで撮影しても標準のカメラアプリで撮影しても、大きな違いはない。また光学手ぶれ補正のないテレ側のカメラにおいても、補正具合はほとんど変わらなかった。歩行による上下の揺れまでは吸収できないが、ジンバルを使わず手持ちで歩行したときとは段違いの映像だ。

 DJI Goと標準のカメラアプリを撮り比べてみると、どうも画角が違うように思う。というわけで定点に固定し、双方で撮り比べてみた。すると、DJI Goのほうが若干広角で撮影できる事がわかった。

DJI Goで撮影
標準カメラアプリで撮影

 撮像素子の読み出し範囲の都合でこの画角になっていると思っていたのだが、読み出し範囲を広げての撮影も可能のようだ。DJI Goが正式にiPhone 7に対応すると同じになってしまうのかもしれないが、多少なりとも広く撮影できるのはお得感がある。

 前面のトリガーレバーを使うと、撮影モードを変更することができる。設定でピッチロックがOFFになっていれば、ハンドルの動きに合わせてカメラはゆっくりフォローするが、トリガーレバーを押しているとピッチがロックされ、ハンドルの動きにかかわらずカメラが一定方向を向き続ける。トリガーレバーを2回押すとポジションのリセット、3回押すとインカメラに切り替わる。Osmoでは3回押すとカメラ自体が180度こちら側を向いていたが、スマホではその必要がないわけだ。

ピッチのアンロックとロック状態の動作の違い
motion.mov(29.30MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

特殊撮影が面白い

 特殊撮影機能としては、スローモーション撮影がある。720pでの4倍速スロー撮影が可能で、ノーマルスピードからスローに入るといった動きは、基本的には標準カメラアプリの機能と同等だ。ただ動きながらの撮影ではAFが安定せず、フラフラするのが難点だ。

手持ちにてスロー撮影
slow.mov(21.47MB)
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 ユニークなのは、モーションタイムラプス機能だろう。最大5箇所のカメラアングルを設定すると、その位置を経由する動きでタイムラプスを撮影してくれる。

複数のポイントを決めて、その間を自動でタイムラプス撮影できる
タイムラプスで撮影した映像
laps.mov(4.89MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 これまで、カメラを動かしながらタイムラプスを行なうには、ゼンマイ式の回転台を使って撮影するのが一般的だった。ただゼンマイ式ゆえに回転速度が変えられず、しかも回転方向も常に同じ方向でしか撮影できなかった。電動モーターで動くタイムラプス用雲台もあるが、動作精度が今ひとつだったり、精度が高いものは高価だったりしたものだ。それがOsmo Mobileで撮影できるのだから、タイムラプス人気がもう一度盛り返すかもしれない。

 もう一つご紹介したいのは、アクティブトラック機能だ。これはターゲットとなる被写体を画面上で囲っておくと、その被写体を自動的に追従するという機能だ。自分撮りする場合、例え1人でも自動でジンバルがカメラを向けてくれるので、今までにない自由度の高い動画が撮影できる。

 使い方は簡単で、アクティブトラックモードに切り換え、被写体を囲うだけだ。ただし囲った範囲をセンターに持ってくるので、顔全体をターゲットにすると、構図として頭の上が空きすぎてしまう。人物撮りの場合は、アゴから首元にかけての範囲をターゲット指定すると構図も綺麗に収まるだろう。

顔認識して追いかけてくれる「アクティブトラック」
アクティブトラックで撮影。綺麗な構図で収めるには、どこをトラッキングさせるかがポイント
follow.mov(25.85MB)
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 静止画撮影にも、いくつかの機能がある。パノラマ撮影機能も、ジンバルと組み合わせることで全然違ったものとなる。現在のパノラマ撮影は、カメラを動かしながら複数枚を撮影し、自動的にステッチして1枚の広い絵を作ってくれるわけだが、本機の場合はジンバルが自動的にカメラを動かしてくれるので、人間は何もしなくていい。動きが速いとか上下がズレてるとか、カメラに文句を言われることもないのだ。

静止画でのパノラマ撮影モード

 モードとしては、180度、330度、9点マルチ撮影が可能だ。180度と330度は横回転だけだが、9点マルチは9箇所を撮影し、上下左右に広い画像を作ってくれる。動作姿もなかなか圧巻だ。

180度パノラマ撮影
330度パノラマ撮影
9点マルチ撮影
9点マルチ撮影時のジンバル動作
panorama.mov(40.85MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 長時間露光も標準のカメラアプリにはない機能だ。これはいわゆるバルブ撮影と言われるものと同じで、8秒、16秒、32秒、無限がプリセットされている。ただいくらジンバルがあるからといってそれだけの長時間手持ちで撮影できるわけでもなく、三脚に固定しないときちんとした撮影はできない。

 実際に16秒露光と通常の写真撮影を比較してみたが、S/Nや解像度では普通の写真撮影の方が上だ。動いている被写体を消すという効果は得られるが、暗部撮影時のS/Nや解像度を稼ぐものとは言えない。

三脚で固定して16秒の露光
普通に静止画として撮影

総論

 スタビライザーカメラとしてすでに1年以上の実績があるだけに、Osmo Mobileの動作はかなりこなれており、キャリブレーションも必要なくすぐに使える。重量バランスやグリップの作りも良く、廉価製品のように滑り止めもないただの金属棒を握っているよりも楽だ。最近はYouTuberに限らずセルフ撮り動画をネットにアップする人も増えているが、動画レポートを作るような業務ユーザーにも安心して使える製品だ。

 その一方で、外部マイクを使おうとすると、iPhone 7/7 Plusユーザーは絶望的だ。なにしろ底部にあるLighning端子をぴったり塞ぐようにアームに固定する事になるので、変換アダプタが装着できないのである。この点では、アナログ端子が別にあるiPhone 6/6sユーザーのほうが有利だろう。なおiPhone 5/5sではアクティブトラックが使えないという制限がある。

 バッテリーの消費は、連続使用で3~4時間となっている。充電にも3時間かかるので、バッテリー切れの心配をせず1日使用するためには、予備バッテリーはもう1本ぐらい欲しいところだ。

 スマホジンバルだけならもっと廉価な商品も存在するが、本機はジンバルの性能のみならず、専用アプリで実現できることが多い。ハードとソフト両方を組み合わせてこの価格なら、リーズナブルと言える。なおアプリは無料だが、ハードウェアとBluetooth接続しないと撮影機能が使えないので、未購入のユーザーがアプリだけを使う事はできない。

 これまでGoProやスマートフォン用の汎用ジンバルは、中国製の有象無象の製品が存在し、ブランディングによって差別化された製品はほとんどない。その手の製品に詳しい人の間で、せいぜいFeiyu Techが知られていたぐらいのことだろう。

 DJI Osmo Mobileは、そういう世界に初めてブランディングを持ち込んだ製品だと言えるのかもしれない。

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OSMO Mobile

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。