小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第917回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第3世代に入ったAmazon Echo、「Amazon Music HD」は我々の音楽生活を変えるか!?

浸透してきたスマートスピーカー

スマートスピーカーが米国で急速に市場が拡大したのは、2016年の後半から2017年前半だ。最初のAmazon Echoが米国で一般発売されたのは2015年だったが、翌年後半にGoogleがGoogle Homeで参入し、競争が起こったことが要因と考えられている。

今回お借りした第3世代Echo(左)とEcho Dot with clock

最初は音声コマンドで簡単な受け答えができる便利デバイスという扱いだったが、機能を拡張してIoTデバイスをコントロールできるようになったり、タクシーを呼んだりと、コントロールを外部に伸ばしていった。その機能強化はアグレッシブなユーザーには受けた一方で、多くのユーザーからは音楽サービスの再生端末として、音質が重視されるようになっていった。

音質重視という傾向は、すなわち大型化が避けられないという事である。一方で市場を獲るには、小型・低価格で「数を追う」ことも重要だ。この両方のバランスを追った結果、スタンダードモデルの音質強化、小型モデルの競争力強化、大型モデルのリリースが必須、という事になる。

9月26日、Amazonは新しいEchoシリーズ4製品を発表した。第3世代となるEchoが11,980円(税込)、Echo Dotに時計表示を追加した「Echo Dot with clock」が6,980円(税込)、音質重視の最上位モデル「Echo Studio」が24,980円(税込)、そしてコンセント直挿しの「Echo Flex」が2,980円(税込)だ。

左からEcho Flex、Echo Dot with clock、Echo(第3世代)、Echo Studio

このうち、第3世代EchoとEcho Dot with clockは10月16日に出荷を開始。一方Echo Flexは11月14日、Echo Studioは12月5日に出荷開始を予定している。今回は第3世代EchoとEcho Dot with clockをお借りした。

初代Echoからすでに4年、米国では様々なバリエーションを展開しているEchoシリーズだが、日本では比較的オーソドックスなモデルしか販売されないのが残念なところだ。そんな中ではあるが、新Echo 2モデルを試してみよう。

音質面で大きく進化

日本でAmazon Echoが発売されたのは意外に最近で、2018年3月末のことである。筆者も個人でこの時発売されたEchoを所有している。キッチンタイマーや天気情報などの利用頻度は高く、子供たちも毎朝Alexaに天気や気温を聴いて、雨具の用意や来ていく服を決めたりしている。手は別のことをしながら、口と耳だけで足りる用事を投げることで、効率を上げるという点では、役に立っている。

しかし購入当初に比べれば、稼働時間は下がってきている。音楽を聴くデバイスとして、音質的には悪くないと思っているのだが、音声コマンドでは希望する音楽にたどり着けないので、イライラするからだ。ピンポイントでアーティストのアルバムを再生するのは概ねできるようになってきたが、ムードに合わせたプレイリストを音声コマンドだけで探すのは大変だ。

一方で、Amazonの音楽配信サービス「Amazon Music」は、今年9月に大きな変革があった。最大最大192kHz/24bitというハイレゾ音質をストリーミングする、「Amazon Music HD」を日本でもサービスインしたのだ。ハイレゾ音源は、「Ultra HD」という表記となる。Ultra HD以外の楽曲も、大半を44.1kHz/16bit/最大850kbpsのロスレス(可逆圧縮)である「HD」で配信する。

Amazon MusicがHD化

従来型の配信サービス「Amazon Music Unlimited」では、44.1kHz/16bit/256kbpsの非可逆圧縮である。これに月額1,000円プラスすれば、最低でもCD同等のロスレス配信が受けられる。過去ハイレゾ音源配信ではダウンロード型が主流で、配信タイトルも限られていたが、Amazon Music Unlimitedで提供されてきた約6,500万曲がそのままレベルアップするわけだから、筆者のように偏った音楽趣味の人間からすれば、「ようやく来たか」と腰を上げざるを得ないサービスである。現在は90日間の無料体験キャンペーン中なので、さっそく申し込んだところだ。

この秋に投入される新Echoのうち、「Ultra HD」の再生に対応するのは「Echo Studio」のみである。それ以外は、「HD」での再生となる。とは言え、これまで256kbpsの圧縮配信だったものが、最大850kbpsのロスレス配信になるのは大きい。44.1kHz/16bitというから、音源は音楽CDと同等、それをロスレス配信するので、ほぼCDと同じ音質だと思って問題ないはずだ。

早速これを、第3世代Echoで試聴してみた。第3世代Echoでは、3.0インチ(7.62cm)ネオジウムウーファーと、0.8インチ(2cm)ツイーター搭載とある。第2世代では6.3cmウーファー、1.6cmツイーターだったので、全体的に多少大きくなっている。またAmazon提供の構造写真を見ると、ウーファーとツイーターが向かい合う間に、ドーム状の拡散板が見える。これは第2世代ではなかったポイントだ。

第2世代からさらなる音質向上を果たした第3世代Echo

実際に音を出してみると、第2世代に比べてあきらかに低音の量感が増している。テーブルの上で音量を上げると、天板が鳴るほどだ。何かスタンド的なものを工夫して、音を作っていっても楽しいかもしれない。また音の広がり感も十分で、第2世代で感じた「点で鳴ってる」感がだいぶなくなっている。このサイズ、11,980円という価格を考えたら、なかなか対抗できる製品はないだろう。

天面の操作ボタン部分

加えて音源がCD相当のクオリティとなった事も大きい。馴染みの曲を色々かけているところだが、「あれ、ここのドラムってこんなプレイだったんだ」と気づくことも多い。これまで2chステレオでしか聴いたことなかったCDクオリティの音をモノラルで聴くと、違った聴こえ方になるようだ。これはこれでなかなか面白い。

一方Echo Dot with clockは、このサイズとしてはかなり「聴ける音」ではあるが、低音まで十分なバランスは構造上難しい。イコライザ設定で低音を足すことはできるが、元々スピーカーに低音再現能力がないので、それほど改善が見込めない。

コンパクトながら、音質的には「聴ける音」のEcho Dot with clock

ただ本機のウリは、簡単なディスプレイが付いたことだろう。普段は時計表示になっているが、タイマーを設定すると時間をカウントダウンしてくれる。料理しているときにタイマーをセットした場合、ディスプレイなしだと本当にタイマーが動いているのか、不安になる時がある。あと何分なのかといった情報がチラ見で確認できるのは便利だ。

スピーカーに表示機能を搭載するのは、大きな可能性を感じる

本機は7セグメント表示が4桁表示できるに過ぎないが、ガッツリ液晶ディスプレイなどが付くと、もはや別の性質を期待してしまう。個人的には何文字かをティッカー的に表示できるディスプレイを積むという方向性は、スピーカー路線としてはアリだと思う。

Ultra HD化はどこまで進んでいるのか

Amazon Music HDについて、少し研究してみよう。Echoで聴く際には、音声コマンドで再生させるだけだが、ピンポイントで楽曲を探して再生したいときは、Amazon Musicアプリを使ったほうが早い。このAmazon Musicアプリも、HDサービスに加入すると、HDおよびUltra HDの楽曲を再生できるようになる。

すでにAmazon Music HDにお試しで加入してみた人も多いと思うが、Amazon Musicアプリのホーム画面に出てくる「Ultra HDで聴けるプレイリスト」や「Ultra HDで聴けるアルバム」を見て、「なんだ、まだまだだな」と思われたと思う。筆者もその1人で、ちょっとガッカリしたものだが、実はAmazon Musicは、ホーム画面の作りがあまり良くないようだ。

Amazon Music HDのホーム画面

「検索」を使って聴きたいアーティストを探し、そこからアルバムを掘っていくと、かなりのアルバムがUltra HD化していることが分かった。例えばKISSのファーストアルバムなどは、今から45年も前の作品だが、Ultra HD化されていた。ただし全曲というわけではなく、ところどころ虫食い状態でHDの音源が入ってくる。

45年前のアルバムもUltra HD化

それならアルバム中でどの曲が先にUltra HD化されるのか、という疑問がある。一見すると、ベストアルバムやコンピレーションアルバムに収録されがちなヒット曲から順に高音質化されそうにも思うが、例えばYESの「ロンリーハート」は、あれだけヒットしたにもかかわらず、Ultra HD化されていない。しかしアルバム収録中の他の楽曲はすでにUltra HD化されているなど、法則が見いだせない。

なぜか大ヒット曲だけがハイレゾ配信されていない

Ultra HDと一言で言っても、実際にはサンプリングレートでバリエーションがある。例えば最近の録音であろう「あいみょん」の楽曲を調べてみると、意外にも24bitではあるのだがビットレートが44.1kHzと、ギリハイレゾレベルである。

Mac版アプリでは、ストリーミングされている音質が確認できる

一方で映画「ボヘミアン・ラプソディ」のサウンドトラックとして収録されている楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」は24bit/96kHzで楽しめる。どんどん古い方に遡って見ると、ビーチボーイズの「ペットサウンズ」は24/192kHzで配信されている事がわかった。録音が新しいからビットレートが高いというわけではなさそうだ。

フルスペックで配信されている、ビーチボーイズのペットサウンズ

また、Ultra HD化されるアーティストにも、年代ごとに穴があるようだ。筆者が調べた限り、特に80年代初頭に活躍したアーティストの高音質化が遅れている。Tears for Fears、Scritti Politti、Simple Minds、Duran Duranなど、あれだけ一世を風靡したのにほぼすべてのアルバムがUltra HD化されていなかった。一方90年代に活躍したNirvana、Green Day、Oasisなどは大部分Ultra HD化が進んでいる。CD音質でも十分楽しめるのだが、ハイレゾとなると、80年代音楽ファンの方はもう少し待たないといけないかもしれない。

80年代のアーティストはUltra HD化が遅れている

総論

日本においては、Echoが発売されて1年半ほどしか経過していない。音質はかなり向上しているが、今すぐ買い換えるべきかというのは微妙に悩むところである。一方でEcho Dotしか買ってない方は、第3世代Echoは音楽再生機としてかなり楽しめると思う。特にAmazon Music HDがサービスインしたのは大きい。これまでEchoで音楽を聴く気などなかった方には、一度試していただきたい。

個人的には、これまでメインの音楽サービスにはGoogle Play Musicを使って来た。初期の頃は洋楽のラインナップが一番充実していたからである。それが今後はYouTube Musicに一本化されていくというアナウンスはあるものの、なんとなくまだ別々に存在し続けており、今後の展開がよく分からなくなってきている。

これまでAmazon Musicはほとんど使ってこなかったのだが、音質が大幅に向上したことにより、他社サービスから頭一つ抜きん出た格好だ。やってることはこれまでと同じだが、いつの間にかレベルが1段上がっているというのが、本当に生活が豊かになるという事だろう。筆者もそろそろ乗り換え時か、と考えているところである。お気に入りのプレイリストをイチから作り直しなのは面倒だが、曲のラインナップはもう遜色ないところまで来ている。

一方、Ultra HD音源を聴くのは、今のところまだ難易度が高い。PCやMac、あるいはスマートフォンにDACを繋いで、ヘッドフォンやハイレゾ対応アンプ+スピーカーで聴く、というのが一番近道かもしれないが、「普通の人にも簡単か」と言われると、なかなかそこまでは言い切れない。DACと言われてデジタル・アナログコンバータだと分かる人は、普通の人には入らない。そう考えると、誰でも簡単にUltra HDが聴ける「Echo Studio」の発売が待たれるところだ。

私たちの音楽生活は、数十年単位で大きく変わる。SONYが変え、Appleが変えた次が、ハード屋ではなく流通大手のAmazonかもしれないということに、驚きを禁じ得ない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。