小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第916回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

超広角撮影が楽しい!「iPhone 11 Pro Max」の実力をチェックする

9月20日、iPhoneの新モデルである「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」「iPhone 11 Pro Max」が3キャリアから一斉に発売された。11 Proおよび11 Pro MaxではiPhoneとして初となるトリプルカメラを搭載。新たにワイドレンズを追加したことで注目を集めている。

iPhone 11 Pro Max

そもそもスマートフォンが複数のカメラを持つ必要がある理由は、ズームレンズが薄い筐体に内蔵できないからである。これまでは標準と望遠という2つの画角を切り換えて撮影してきたわけだが、今度はワイド側にふったレンズを搭載することとなった。

Androidでは、「Xperia 1」のようにすでにトリプルカメラ機は存在し、iPhoneは後追いということになる。スマートフォンの動画、静止画性能は、すでに専用機を凌駕する部分も出始めているところだが、iPhoneならではのメリットが期待されるところだ。

今回は3モデルのうち、「iPhone 11 Pro Max」をお借りしている。新しいカメラの実力をさっそくテストしてみよう。

注目の超広角

すでにスペック等は様々な記事で紹介されているところなので、ここでは撮影に関係するスペックのみを抜粋しておく。

Maxとは言うが、iPhone 11やiPhone XRの6.1インチとそれほど大きくは変わらない。横幅が少し広く、縦方向にもう少し長いといった印象だ。したがって持ちやすさはそれほど変わらないと言える。

今回お借りしたiPhone 11 Pro Max
メタリックブラックのエッジがスマートさを際立たせる

カメラとしては、3つとも有効画素数が12MPのセンサーを採用しており、レンズスペックが異なる。

カメラ焦点距離F値レンズ構成
超広角13mm2.45枚
広角26mm1.86枚
望遠52mm2.06枚

3つのカメラは背面左上に固まっている。デザイン的にごちゃごちゃした印象だが、左の一番上が広角、その真下が望遠、そして超広角は横に飛び出しているというレイアウトになる。つまり2カメラのiPhoneに、超広角を横出しで付けたという配置だ。

レンズはターレット状に配置されているが、回るわけではない
同時発売のiPhone 11(左)は2カメラ

最上位モデルの11 Maxは、画面が6.5型で2,688×1,242/458ppiのOLED。コントラスト比は200万:1で、最大輝度は800nit。HDR表示にも対応する。一方カメラの撮影機能としては、静止画ではスマートHDRという機能があるが、4K動画に関してはHDRでの撮影機能はない。

同時発売のiPhone 11(左)と比較。縦方向の長さが際立つ

撮影の面白さが倍増

では早速撮影してみよう。まず超広角カメラだが、13mmという焦点距離の割には、かなり湾曲を抑えた画像となっている。光学的にもそのあたりは抑えているのだろうが、画像処理として歪みを抑える処理がされているものと思われる。

超広角カメラで撮影
広角カメラで撮影
望遠カメラでポートレート撮影

GoProにも同様の処理モードがあるが、画角は1段狭くなる。つまり歪み処理を行なえば、画角は狭くなるはずだ。iPhoneには歪み処理をOFFにする機能がないので、レンズの公称画角から画像処理でどれぐらい狭くなるのかよくわからないが、フルの13mmよりは狭いものと思われる。

フレームの外側を使って構図を補正する機能が追加されている

レンズの歪みに関しては、パノラマモードでの結果でよくわかる。広角のカメラになるほど、広範囲のパノラマが撮れることになるが、同時に歪みも大きくなる。

超広角カメラでパノラマ撮影
広角カメラでパノラマ撮影
望遠カメラでパノラマ撮影

撮影に関しては、各カメラのデジタルズームのカバー範囲について、あらかじめ頭に入れておく必要があるだろう。iPhone上の表示では、広角カメラが1x、超広角カメラが0.5x、望遠カメラが2xと表記されている。広角カメラを基準にして、それに対する倍率で表すわけだ。

それぞれのカメラが3倍のデジタルズームを備えているので、ズームのカバレッジは以下のようになっている。

カメラズーム倍率
超広角0.5~1.5
広角1.0~3.0
望遠2.0~6.0

動画撮影時には、撮影中にズーム動作を行なう事で、3つのカメラを跨いで0.5倍から6倍までの範囲を撮影できる。これを行なうには、カメラ設定のビデオ解像度設定の中にある、「カメラをロック」をOFFにする必要がある。なお4K/60fpsに関してのみ、「カメラをロック」をOFFにしてもカメラ間の切換はできなくなるようだ。おそらく放熱か消費電力の問題で、3つのカメラを同時に動かせないのだろう。

「カメラをロック」を切ると、全域でズームできる

レンズの位置が違うため、ズーム途中で若干アングルがズレるのは仕方あるまい。しかし超広角カメラが1つ増えたことで、画角のバリエーションは破格に拡がる。撮影する楽しみが倍以上に増えた感じだ。

超広角が増えたことで、日常の風景が新鮮に写る

夜の動画に課題

手ブレ補正に関しては、光学手ブレ補正があるのは広角と望遠で、超広角にはない。もっともレンズは広角になるほど手ブレの影響を受けにくいので、超広角で光学手ブレ補正は必要性が低い。実際にテストしてみたが、他の画角と比較しても遜色ない撮影ができている。

各カメラの手ブレ補正比較

超広角カメラによるスロー撮影では、あおり気味で撮影する事で近距離でもダイナミックな動きが撮影できる。

超広角での人物撮影も面白い

タイムラプス撮影も、超広角カメラなら飛行機からの風景も一段とダイナミックに撮影できる。このときは1番前の座席に座っているのだが、それでも飛行機のエンジンが写り込むほどの広角だ。

超広角のタイムラプスは風景撮りに最高

夜間撮影では、各カメラでF値が違うため、発色やS/Nに違いが出る。最もS/Nがいいのは広角(1.0x)カメラで、1段明るく撮影できる。一方他のカメラは、明るさをなるべく合わせようとするために、どうしてもSN比が落ちる。

夜間撮影はそれほど強くない

なお写真撮影では、広角カメラのみナイトモード(長時間露出)が使える。1秒〜2秒といった露出時間となるが、手ブレをあまり気にせずうまく合成してくれるのはさすがだ。なお望遠(2.0x)でもナイトモードが出現することがあるが、これは被写体が極端に暗い場合は望遠カメラに切り替わらず、広角カメラの2倍デジタルズームで対応しようとするからである。

広角撮影時のみナイトモードが使える
超広角で撮影した静止画
広角(ナイトモード)で撮影した静止画
望遠で撮影した静止画

総論

iPhoneとして初のトリプルカメラ構成となったiPhone 11 Pro/Pro Max。画面サイズ以外はほぼ同スペックと考えていい両者だが、最安の64GBモデルでもアップルストア価格で10万円を超える高級機である。そのコストのほとんどは超広角カメラとOLEDディスプレイにかかっているわけだが、付加価値として超広角カメラの存在はなかなか面白い。

35mm換算で13mmとあるが、歪み補正のために端の方は捨てているため、実際には18〜20mmぐらいではないかと思われる。ただあまり広すぎても、指が入り込んだりして撮影が難しくなるため、誰でも扱える画角という点では妥当なところだろう。

そもそも20mm以下ともなれば、写真用レンズとしてはかなり特殊で、もはやアクションカメラで採用されているような画角である。広い絵が欲しければGoProを買えという話になりがちだが、超広角から50mm程度までをカバーできるカメラがいつも手元にあるという強みがある。

一方でちょっと弱くなったのが、Apple純正の動画編集アプリである。GoProはカメラコントロールアプリに動画編集機能を一体化して、簡単にコンテンツ作成からシェアまでを実現した。iPhoneでは様々なSNSアプリで動画投稿ができるものの、「写真」アプリでは大した編集作業ができず、かといってiMovieはしばらく改良もされていないのは残念だ。

個人的な好みとしては、湾曲が激しい広角が好きではないので、歪み補正された画角がデフォルトというのは、非常に使いやすく感じる。カメラが3つも必要か、というところはまた別の議論があるにしても、スマホカメラの標準レンズがもっとワイドになる、最初の一歩と言えるかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。