小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第922回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

驚異の手ブレ補正、360度とアクションカメラのハイブリッド「GoPro MAX」

約2年ぶりの新作

GoProの新機軸として360度カメラ「GoPro Fusion」が登場したのは、2017年末の事であった。日本での発売はそこから数カ月遅れたが、VR的に360度をそのまま利用するのではなく、空間全体をキャプチャして切り出して使うのが前提という考え方は、当時としてはなかなか新しかった。

GoPro MAX

GoPro Fusionはある意味コンセプチュアルなカメラだったわけだが、あれから約2年ぶりに登場したのが、GoPro「MAX」である。すでに日本国内での販売も始まっており、価格は直販サイトで61,000円(税込)、今なら64GB SDカード付きと、Fusionよりも2万円以上お得になっている。

GoPro自体はほぼ毎年新モデルが登場するのに比べ、やはり市場が小さいのか2年ぶりの新製品となったが、360度から撤退したわけではなかったことで胸をなで下ろしたファンも多い事だろう。

今回は小さくなって機能強化、そして価格が下がって買いやすくなった「MAX」を試してみよう。

洗練されたボディ

360度カメラには決まった形というものがなく、スティック型や箱型など自由な発想が見られるところだが、MAXはFusionと同じ箱型のボディとなっている。ただしFusionよりもだいぶ小型化され、ボディが平たいため、GoProよりもポケットに入れやすい。また背面には液晶モニターも搭載され、より近年のGoProの流儀が強く感じられる設計となっている。

シンプルでGoProらしいデザインのGoPro MAX
背面にモニターを装備

前後のレンズは位置が互い違いになった作りで、ボディから飛び出している。このあたりの構造はFusionも同じだが、一般のGoProより重さがあるために慣性が強くかかり、どうしても外れやすくなる。落下した場合、レンズが飛び出していると、よりそこが破損しやすいわけだ。Fusionは特にレンズ破損に対して手当がなかったが、MAXはレンズ保護のための透明なカバーが付属している。さらにそれとは別に、持ち運び時のレンズ保護のためのキャップも付属する。

レンズは互い違いに配置
透明なレンズ保護カバーが付属
通常のレンズキャップも付属している

ボディ全体としては、水深5mまでの防水となっている。なお水中では、透明のレンズカバーは使用しないよう注意書きが入っている。

表面のボタンは、シャッターと電源しかなく、このあたりは既存のGoProと同じだ。Fusionではシャッターボタンが全面だったが、今回は上部に付けられており、使い勝手の面でもGoProと同じである。

大きく異なるのはマイクの仕様だ。前後と左側にステレオマイクが付けられており、合計6つのマイクで360度の音声を収録できる。

左側面にもステレオマイク

背面には16:9サイズの液晶モニターがあり、タッチでメニュー操作やモード変更ができる。左右フリックで撮影モード、上からのフリックでメニュー、下からのフリックで再生モードになるといった操作は、現在のGoProと同じだ。

背面モニターのタッチ操作で設定変更が可能

右サイドは跳ね上げ式のフタになっており、内部にバッテリーとSDカードスロットがある。USB-C端子もこの中だ。

開口部は1箇所のみ

底部はHero 8から採用になった折りたたみ式のアクセサリーソケットとなっており、本体のみの平置きから三脚固定まで、最小限のアクセサリで済むようになっている。

折り畳み式のソケット部はHero 8を継承
アクセサリの装着も少ないパーツで可能になっている

動画撮影時の仕様としては、360度撮影時は6Kだが、ステッチングすると5.6Kとなる。ただ記録フォーマットが特殊故に、正確な解像度が不明だ。スマホの専用アプリ経由でPCに書き出すと、4,096×2,048となっている。もっとも360度映像の場合、実際にはその一部を切り取って見るしかないので、全体の解像度が正確にわからなくても困らないと言えば困らない。

一方カメラ片側のみの撮影では、16:9で1,920×1,080、4:3で1,920×1,440となる。なお記録コーデックはH.264/AVCとH.265/HEVCが選択できる。

静止画撮影では、 片側カメラのみで2,704×2,028、パノラマ撮影で4,320×1,440、360度撮影で5,760×2,880となる。

音声まで360度対応

GoPro MAXは360度撮影可能なカメラではあるが、正面だけ、あるいは背面だけを使ってGoProと同様の撮影もできる。MAXではこの2つを、360度モードとHEROモードと呼んでいる。以下同様に呼ぶことにする。

360度モードの動画撮影では、Fusionの時よりも普通に360度のままで撮っていこうとする作りになっている。一番大きな変化は、マイクの作りだろう。視聴者が自分で360度見回せるからには、音声もきちんと360度拾える必要がある。MAXのマイク設定では、ステレオ+360度サウンドとステレオのみの切り換えができる。

GoPro FusionやInsta360に搭載された、360度映像に対してカメラアングルをキーフレームで指定して切り出し映像を作る機能は、GoProアプリに実装されている。今回はステレオ+360度サウンドに設定し、カメラの周囲を周りながらしゃべってみたが、どの角度からでも音声の入り具合にムラがないことが確認できた。

アプリにはキーフレームを打ってカメラアングルを決めていく機能も搭載
360度どこからでも均等に音声が拾える
audio.mp4(88.07MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

GoProよりGoProなHEROモード

まずGoProモードによる動画撮影だが、画角がMax SuperView、広角、リニア、狭角の4つから選べるようになった。Max SuperViewは、GoPro史上最も広角で、従来のSuperViewよりもさらに26度広角だという。逆に狭いほうは、スマホ等と同じ画角の「狭角」が加わった。これまでより広いほうへ広いほうへと拡張してきたわけだが、狭い方にも拡がったのは新しい。

Max SuperView (13mm相当)
広角 (16mm相当)
リニア (19mm相当)
狭角 (27mm相当)

こうして比較してみると、 狭角はリニアの状態をさらに切り出しでズームしたものと考えて良さそうだ。カメラ用途として、もうちょっと寄りたいというニーズはあったと思うが、最高解像度でもHD止まりということもあって、画質的な劣化は避けられないとみて良さそうだ。

マイクの設定は、HEROモードのほうが選択肢が多い。すべてのマイクを使用したステレオ録音のほか、前面マイクだけ、背面マイクだけ、使用レンズと連動という4モードとなっている。すべてのマイクを使用ということは、無指向性ということだろう。前面マイク、背面マイクが切り換えられるのは、例えば前方を撮影しながら撮影者がしゃべる場合などに便利な機能である。

手濡れ補正では、Max HyperSmoothモードが追加されている。GoPro Hero8に搭載のHyperSmooth 2.0では、「オフ」、「オン」、「高」、「ブースト」の4モードもあったが、MAXではMax HyperSmoothの「オン」と「オフ」しかない。これに水平ロックの「オン」と「オフ」を組み合わせるというスタイルで、ずいぶんシンプルになっている。だが「GoPro 史上最高にスムーズなビデオ」と謳うだけあって、かなりの安定具合だ。

Max HyperSmooth+水平ロック、両方OFFと両方ONの比較
stab.mov(35.96MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

この安定具合は、タイムラプス時にも活かされる。タイムラプスとは別に「Max TimeWarp」と銘打った機能は、撮影間隔も含めてフルオートで撮影してくれるモードだが、動きながらの撮影でもかなり滑らかな動きとなっている。

Max TimeWarpで撮影した映像。強力なMax HyperSmoothのおかげでブレが少ない
laps.mov(18.73MB)
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HEROモードであれば、GoProアプリに搭載されている自動ムービー制作機能も使える。このあたりは本当にGoProと差異がなく作られている。

GoProアプリで自動編集した動画
mystory.mov(155.86MB)
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静止画撮影では、通常撮影よりもさらに広くパノラマ撮影ができる、「PowerPano」という機能を搭載した。180度を超える270度の撮影できるが、背面カメラの映像を持って来てステッチングするという事だろう。カメラをパンすることでパノラマが撮れる機能はスマートフォンにも搭載されているが、1ショットでパノラマ写真が撮れるカメラは珍しいのではないだろうか。

PowerPanoで撮影した静止画

総論

前作のGoPro Fusionでは本体にモニターがなかったため、何がどう撮れているかはスマホの画面頼りであった。そんなこともあり、VRで空間を切り出していくことがメインのカメラになったわけだろう。

一方今回のGoPro Maxは、背面にモニターが付いたことで、360度カメラとアクションカメラのハイブリッドとなっている。モニターがある側にも切り換えられるので、セルフィー的な撮影にも対応する、珍しいカメラとなった。

加えて両面にカメラがあることで、1ショットでパノラマを撮影するPowerPanoは面白い発想だ。もちろん360度をいっぺんに撮ることもできるのだが、そうなるとそれを見せるプラットフォームが必要になる。写真としても特殊フォーマットになるので、紙に印刷したりブログに張ったりしたときに面倒だ。

PowerPanoはあえて360度フォーマットから離れて、通常の写真と同じ平面で広く見せるというやり方をとっている。また真後ろが撮影されないので、撮影者が映らないというメリットもある。状況写真としてパノラマが必要になるケースもあるが、スマホ等で複数枚撮影していると時間経過があるので、それゆえに上手く繋がらないこともある。それが一瞬、1ショットで撮影できるのは、なかなか便利である。

今や360度カメラ自体は、それほど珍しくなくなってきた。それが単に全周を撮るということにこだわらず、前後にカメラがあることをどう使って行くか、そういう発想が試される時代になったとも言える。VRはVRで進化中だが、そのレールから外れて360度カメラがどう進化していくのか、これからも目が離せなくなってきた。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。