小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第923回
でっかいアレクサ、Amazon「Echo Studio」を自腹購入。3Dオーディオを聴く
2019年12月12日 08:00
ハイレゾ・ストリーミングを手軽に
9月26日、Amazonは新しいEchoシリーズ4製品を発表した。このうち第3世代Echoと、新モデル「Echo Dot with clock」は先に発売され、10月23日のレビューでテストしたところだ。残るEcho Flexは11月14日、Echo Studioは12月5日の出荷開始が予定されていた。
その間にも「Fire TV Cube」の出荷開始などがあって若干話題が散漫になったが、個人的に一番期待していたのが、Echoシリーズ最大・最高音質を誇る「Echo Studio」の発売である。価格は24,980円(税込)。同じ価格でPhilipsのHue (ホワイト シングル)ランプが付属するセットが売られており、どうせならとそちらを発注した。発表後早めに発注したので、筆者宅には12月7日に届いたが、現在は2~4カ月待ちとなっているようだ。
Echo Studioを語る上で欠かせないのが、「Amazon Music」の存在である。これまでは単にEchoなどで音楽を聴くための、よくあるストリミングサービスだったのが、今年9月にハイレゾ音源も配信する「Amazon Music HD」がスタートした。
これまで日本においては、ハイレゾ音源の音楽配信は主にダウンロード型であり、ハイレゾ対応のオーディオシステムもファイル再生を前提としたものが多い。ストリーミングでハイレゾを聴くというのは、これからのソリューションだ。
すでに一部のスマートフォンではハイレゾ再生が可能なものもあるが、そのためだけにスマホ買い直しというのもなかなか勇気がいる話だ。簡単にハイレゾ・ストリーミングを楽しめるオーディオセットとして、Echo Studioには大きな期待がかかるところである。
正直、Echo Studioを普通のスマートスピーカーとして使う気はゼロだ。ハイレゾ+αのストリーミング再生機として、Echo Studioの実力をさっそく試してみたい。
主張しないボディ
Echo Studioは直径175mm、高さ206mmの円筒形だ。Echoシリーズのフォルムがそのまま大型化したわけではなく、かなり太いイメージである。また上下のテーパーもかなり幅広くとっており、全体的に丸っこい。
色はほぼ黒に近いグレーで、ボディにはAmazonやEchoといった文字ロゴはどこにもない。底部にAamzonの矢印マークが書いてある程度で、デカいがゆえに可能な限り存在感をなくすという意図が感じられる。
通常のEchoは、正面がどこなのかを気にする必要がないよう作られているが、Echo Studioの場合はステレオスピーカーなので、正面の方向がある。特にマーク等で示してあるわけではないが、ウーファーの開口部があるほうが前方という事になる。ちなみにこの開口部は後ろまで抜けており、真後ろには電源端子があるので、正面は電源端子の反対側という判断もできる。
上部にはマイクボタン、ボリューム上下、アクションボタンの4つがあり、操作としては通常のEchoと同じだ。また上部エッジ部分に7つのマイクがあり、どの方向からでもボイスコマンドが受けられる点も同じである。もちろんリングライトも仕込まれており、色でステータスを示すところも同じだ。
このサイズの秘密は、内部のスピーカーユニットにある。下向きに付けられた5.25インチのウーファーの存在は、本体の直径からも想像できる。一般のEchoは下向きのフルレンジスピーカー一発で勝負しているが、Echo Studioは正面向きに1インチツイーター、加えて真横に向いた2インチのミッドレンジスピーカーを備える。さらに天面には、真上に向いた2インチのミッドレンジスピーカーも備える。上にも音を放射できるのが、Echo Studioのポイントだ。
背面下部には接続端子がある。真ん中が電源ポートで、ACアダプタではなく、コンセントケーブルを直刺しする。右側のミニジャックは、アナログステレオと光デジタルの兼用端子だ。外部音源をケーブルで直接繋いで再生することもできるわけだ。
左側にはmicro USB端子があるが、マニュアル等には特に用途としての記載はない。もしかしたらサービス用の端子なのかもしれない。
セットアップは、通常のEchoとまったく同じだ。スマホのAlexaアプリが示す手順通りに設定していけば、セットアップは完了する。ネットストリーミング対応サービスは、Amazon Music(スタンダード/HD)、Apple Music、Spotify、TuneIn、dヒッツ、うたパスとなっている。加えて本機はBluetoothも搭載しており、スマホと繋げば一般的なBluetoothスピーカーにもなる。つまり上記以外のサービス、例えばGoogle Play Musicなどから再生する際も、Echo Studioが利用できるというわけだ。ネット対応スピーカーとしても、なかなか間口が広い。
十分なステレオ感と音質
ではさっそく試聴してみよう。そもそもハイレゾを聴くために購入したので、Amazon Music HDにあるハイレゾプレイリストを再生してみる。
筆者の仕事部屋は和室なので、かなりデッドだ。音出しの最初は、ボディサイズの割には低音が浮ついた感じに聴こえたが、しばらくするときちんと沈み込んだ低音を出すようになった。
というのも、Echo Studioでは常時自分が再生している音楽の状態をマイクで拾っており、部屋の状況に合わせて自動でカスタマイズしていく機能を搭載している。多くのユニットが、いったん測定音を出して計測するのに比べると、ずいぶんとハードルが低い方法だ。これなら音響測定の基本的なノウハウなど知らなくても、適切な音場が見込めるだろう。
音質的にはかなり良好だ。派手とまではいかないが、明るい音作りで、変なクセがなく好感が持てる。第3世代Echoは低音を強調した音作りで、個人的には嫌いではなかった。一方Echo Studioはパワーのある低域を持ちながら、あまりそれをわざとらしく主張しない、量感よりも質感を求めた、余裕のある音となっている。
筐体は1つだが、左右180度に向いたミッドレンジスピーカーでちゃんとステレオイメージを形成する。一般的にステレオイメージの音場サイズは、左右のスピーカーの距離で決まってくる。左右の距離が狭ければステレオイメージも狭くなるものだが、本機の場合は「ここからここまで」というサイズ感がない。音があるポイントに定位しているのが聴き取れるわけではなく、なんとなくふわっと左右に拡がる感じだ。
そういう意味では、聴き手がスピーカーに近づいても離れても、ステレオイメージのサイズ感があまり変わらない。また、センターで聴かないと正しくステレオ感が得られないというわけでもない。スピーカーシステムを聴いているというより、反射音も含めて「部屋を聴いている」という感じである。
低音域は、スピーカーに近づくよりも離れた方が、量感が感じられる。遠くに置いてそこそこの音量で聴くスピーカーのようである。ウーファーはかなりパワーがあるので、しっかりした台の上に載せた方がいいだろう。
3Dオーディオを試す
Echo Studioのもう一つのポイントは、3Dオーディオに対応しているところだ。上向きにミッドレンジのユニットが付けられたことにより、左右だけでなく上方向にも音を拡張できる。Amazon Music HDでは12月5日より「3Dオーディオ」の配信を開始している。
3Dオーディオは、映画の世界ではDolby AtmosやDTS:Xがよく知られているところだが、2019年のCESで発表されたソニーの「360 Reality Audio」もある。本機が対応するのは、Dolby Atmosと360 Reality Audioだ。
3Dの配信楽曲は、サービス開始時には800曲以上と発表されているが、筆者が探した限りでは、それよりもかなり多いように思う。ロックに限ってちょっと探しただけでも、ビートルズの「Abbey Road」、ビリー・ジョエルの「52nd Street」、ジェフ・ベック「Wired」など有名どころが3Dに対応している。対応アルバムや楽曲は、タイトルの下に「3D」と表示される。
なお、3D対応楽曲であっても、3Dに対応しないオーディオシステムで再生すると、「Ultra HD」以下での再生となる。今後、他にもAmazon Music HDの3Dミュージック対応オーディオシステムが登場するかもしれないが、現時点では3Dで音楽が楽しめるのは、Echo Studio購入者のみの特権だ。
さて、実際の3Dミュージックだが、音がドラマチックに天井から聴こえてくるとか、映画のサウンドトラックのような派手さを期待すると肩すかしとなるだろう。最初から3Dを意識した新録であれば、上方向の楽器の定位も考えられるところだが、ステレオ再生を前提としてミックスされた音楽をいくらリマスターしても、真上にどれかの楽器を定位させるのは難しい。技術的に、という意味ではなく、そこまでミックスを変えるのであれば、ミュージシャン本人やプロデューサーの立ち会いがなければできない話だからだ。
したがってAmazon Music HDで聴ける3Dミュージックは、左右の広がりだけでなく、上方向にもサウンドイメージを広げた、という格好になる。それだけの事ではあるが、これまで横幅しかなかったものが縦幅も出るわけで、音の空間にゆとりができる。これにしたがって音の分解能も大幅に上がるのが感じられる。
ビートルズの「Abbey Road」は中学生の頃から何度も聴いているが、あらためて3Dで聴いてみると、それぞれの音の生っぽい立体感と分離感に驚かされる。リマスターが上手いという事は当然あるにしても、3Dオーディオの魅力を語るには、このアルバムだけで十分だろう。
正直説明していてもどかしいのは、Echo Studioでは3DをOFFにして聴く事ができない事だ。つまり、3DのON/OFFが比較できないのである。同じ曲で3DとUltra HDのフォーマット違いがないか探してみたが、未だ見つかっていない。聴き比べができれば、より3Dならではの特徴がもっと具体的にご紹介できたと思うのだが、そこが残念である。
総論
筆者がハイレゾ再生オーディオとして、自腹でソニー「SRS-X9」を購入したのは2014年のことである。当時の実売価格は、5万円台半ばだったと思う。
ずいぶん聴き込んだので元は取れたと思うが、あれから5年、ハイレゾはストリーミングで聴く時代となり、オーディオ装置の価格も半分以下になった事になる。しかもオーディオメーカーではなく、大手ECブランドのスマートスピーカーがそれに変わるとは、5年前は予想だにしなかった。
ハイレゾに対する考え方も、この5年でずいぶん変わったと思う。ハイレゾ勃興期は、難しい顔したオジサンが眉間に皺を寄せてムムムと聴くような感じだったが、今はもっと気軽に、CD音質の底上げとして聴かれるようになった。電車の中でハイレゾを聴くなんて、昔だったら難しい顔したオジサンに叱られていたところである。
3Dミュージックは、音が上下にといったアクロバティックな音響効果ではなく、リマスターによる楽器の分離感・立体感の良さがステレオスピーカーだけで表現するのが難しかったところ、これをきちんと表現できる方法論が手に入ったという見方が正しいだろう。
ラインナップとしてはまだまだ十分とは言えないが、名盤が徐々に3D化していくのは楽しみだ。ソニーミュージック系だけでなく、多くのレコード会社の作品が3Dリマスターされることを期待したい。
そういう世界観をいち早く体験できるEcho Studioは、音楽ファンなら持っていて損はないオーディオシステムである。