“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第407回:あのTG1がビミョーにリニューアル? 「HDR-TG5V」

~ 操作性が大きく変わったコンパクトモデル ~




■ ハンディカムの異端児?

「HDR-TG5V」

 ソニーのハンディカムは、同シーズンにリリースされるモデルはスペックが同じでメディアが違うという、メディアによる差別化戦略が特徴だった。ビデオカメラがメディアチェンジで売れた頃は、各モデルの開発コストが圧縮できるため、いい戦略だったわけである。

 しかしメディアチェンジの波が落ち着いたあとどうするか、の種をまいておかなければならない。その種が「HDR-TG1」だったのではないかと思う。TG1は2008年4月に登場した、ハンディカム現行モデルとしては唯一の縦型機である。

 スペック的には当時の横型機と同じだが、横のモノを縦にするのは結構大変な話である。それだけにデザイン性を重視し、新しいターゲットを開拓するモデルとして登場した。結果的に新市場を開拓できたのかは今のところよくわからないが、こうして次のモデルが出てきたところを見ると、少なくとも手応えはあったということなのだろう。

今回は新旧モデルで撮り比べ

 「HDR-TG5V」(以下TG5V)は、TG1の要素を受け継いだ後継機である。TG1は内部にメモリを持たなかったが、今度は16GB内蔵となった。またGPS、スマイルシャッター搭載など、現行モデルのウリ機能を世界最小サイズに詰め込んだ。

 丁度1年ぶりのリニューアルとなるTG5Vだが、今回は前モデルTG1と同時撮影を行なってみた。いったいどんな絵を見せてくれるのだろうか、早速テストしてみよう。



■ 光学性能はほぼ同じ

サイズ感はほとんど同じ。手前がTG5V

 まずデザインだが、TG1と並べて比較しないとわからないぐらい、以前のテイストを継承している。厚みで2mm、高さで2mm、奥行きで1mm小型化しただけなので、サイズ感は劇的に違うというわけではない。重量は20gほど軽くなっている。

 チタン部分のカラーは変わらないが、樹脂部分の色が濃いブラウンから、ほぼグレーに近いブラウンに変更されている。グリップ面の塗装が変わったので、そっちから見ると印象はかなり違う。


角は少し丸みが増した。右がTG5Vグリップ側の印象はかなり違う。右がTG5V

 レンズはカールツァイス「バリオ・テッサー」で、35mm判換算の焦点距離は、動画(16:9)43-507mm、静止画(4:3)38-380mmの光学10倍ズームレンズ。手ぶれ補正は電子式だ。動画で倍率が10倍以上あるのは、ズームに合わせて撮像素子の読み出しエリアを変えることで、画角を稼いでいるからである。このあたりのスペックは、TG1と同じだ。

 今回の発売に合わせて、ワンタッチ装着の0.7倍ワイドコンバージョンレンズもリリースされる。上からスライドさせて装着するというスタイルだ。ただしワイコンを付けたまま、全域ではフォーカスが合わない。ズームインすると、半分以降でフォーカスが合わなくなる。

光学系のスペックは前作と同じ新発売のワイコンと専用ケース

ワイコン装着時

 

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

テレ端

ワイコン装着時の
ワイド端

動画(16:9)


43mm


507mm


 30mm

 

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)

撮影モード

ワイド端

テレ端

静止画(4:3)


38mm


 380mm

 なおこのワイコンはTG1にも付けられないこともないが、何せボディ幅が2mm違うので、装着し始めが結構キツキツである。使用する際は自己責任でお願いしたい。

 撮像素子は以前と同じ1/5型のExmor CMOSだが、フィルタが前回よりもハイグレードなものに変わっているという。TG1の頃はExmor CMOSとは謳っていなかったが、今年初めのCESの頃に今後のソニー製CMOSの名称がExmorに統一された。

 以前は低ノイズ設計の名称がExmorで、配列まで含めて全体をクリアビッドCMOSセンサーと呼んでいたが、今後クリアビッドは配列のみを意味する名称になる。したがって今後同様のセンサーは、クリアビッド配列のExmor CMOSということになる。

 内蔵メモリは16GBで、メモリースティックDuoカードも使える。動画と静止画の記録先は、それぞれ自由にアサインすることができる。画質モードはHDが4種類、SDが3種類。このあたりも以前と同じだ。

動画サンプル(HD解像度)

モード

ビットレート

解像度

内蔵メモリ
記録時間

サンプル

HD-FH16Mbps1,920×1,0801時間50分

00029.mts(25.6MB)

HD-HQ9Mbps1,440×1,0803時間40分

00030.mts(18.7MB)

HD-SP7Mbps4時間35分

00031.mts(14.3MB)

HD-LP5Mbps6時間10分

00032.mts(10.2MB)

編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 内部メモリは管理領域内にアプリケーション、地図データなどが載るため、16GBから1.24GBほど少なくなるという。

 液晶モニターは、タッチパネルなのは以前と同じだが、今回は全面フラットとなっている。液晶内側にあったDISP/BATT INFOボタン、EASYボタンはなくなった。今回から撮影時に出る表示は約3秒で自動的に消えるようになったため、DISPボタンがいらなくなったのだろう。BATT INFOに関しても、元々液晶を開いたら自動的に電源が入ってしまうので、電源OFFのままでバッテリー残量を確認するという使い方は、以前からほとんどできなかった。EASYボタンまで無くしたのは、操作はほとんどフルオートでOKになったからという英断だろう。

液晶モニターは表面がフラットになった液晶内側にはボタン類が一つもない

 背面はデザインも含め、今回のコンセプトが大きく出た部分だ。ボディ表面には録画スタートと静止画のシャッターボタンしかない。動画と静止画の切り替えは、それぞれのボタンを半押しすると、それをきっかけに切りわかるようになった。円形のリングはズームレバーだ。背面の蓋を開けると、バッテリとMSカードスロットがある。GPS機能のON/OFFは、ハードウェアのスイッチになっている。

背面は録画とシャッターボタン、ズームレバーだけ背面パネル内にGPSのON/OFFスイッチが

 上部は2chステレオマイクになっており、ズームマイクにも切り替え可能。また天面の一部が樹脂製となっているのは、チタンだとGPSの電波が受信できないからである。

 付属のクレードルは前作とほとんど変わらないが、今回はHDMI端子が増えている。その代わり本体にはHDMI端子がなくなっている。本来ならば両方にあればいいのだろうが、HDMIは分岐すると解放端からの反射信号の影響が大きいので、各メーカーは余り積極的ではないようだ。もちろん自動終端などの仕掛けを入れればいいのだが、そこまでコストをかけるメリットがないと見ているのだろう。

GPS受信ユニットは上部に

新クレードルはHDMI端子付き

■ 色の乗りが良くなった動画、静止画

 では、実際に撮影してみよう。おそらくTG5Vだけ撮影したら、まあこんなものかと思うところだが、TG1と比較すると発色などが微妙にチューニングされていることがわかる。ホワイトバランスはどちらもオートだが、全体的にTG1はやや青赤系のクールな印象に対して、TG5Vは色の乗りが良く、より正確な発色となっている。変更されたフィルタの効果とエンジンのチューニングで、ややハイコントラストになってパッと見栄えのいい絵になったとは言えるだろう。

 

撮影比較

TG5Vで撮影

TG1で撮影

赤黄系の色乗りがいい

人物撮影ではあまり違いはない

若干高コントラストになっている

やや暖色の傾向

 

TG5Vで撮影

TG1で撮影


sample.mpg(441MB)


sam-tg1.mpg(441MB)

屋外撮影サンプル


room.mpg(125MB)


 room-tg1.mpg(125MB)

室内撮影サンプル。色の深みが向上している

編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の50Mbpsで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 静止画に関しては双方ほとんど違いがないが、ホワイトバランスの取り方によって若干違いがあるものの、やはり動画と同じような傾向が見られる。

静止画撮影比較

TG5V で撮影

TG1で撮影

人物での撮影はほとんど差がない

若干暖色の傾向

色の乗りはTG5Vのほうがいい

 新しくなった液晶モニターは、指で触れば指紋が付く点は変わらないが、表面がつるつるしているので、指紋の拭き取りがかなり楽になった。以前のように拭けば拭くほど油分が薄く広がってしまうようなことがないのは助かる。発色や暗部表現なども、以前よりも確認しやすくなっている。

 動画と静止画切り替えの半押しは、どれぐらい押し込めば切り替わるのか、感覚的に馴染むのに時間がかかった。あまり強く押し込むと、そのまま動画撮影がスタートしてしまったり、写真が撮られてしまったりする。アイデアとしては悪くないと思うのだが、感度が微妙過ぎる感じである。もう少し浅く押しても切り変わるか、静電気で切り替わるようにしたほうが良かっただろう。

 バッテリーに関しては、電源部のICの見直しにより、消費電力が0.3W下がっている。スペック上は連続撮影で5分しか違わないが、実際の使用ではもう少し差が出るだろう。いずれにしても長時間撮影には向かないモデルだが、電源ボタンも廃止したあたり、ケータイと同じでほとんどが待ち受け時間で、ぱっと起動させて撮るという使い方を想定していると思われる。


■ 整理された新GUI

スクロールして機能が一覧できる新GUI

 TG5Vでは、メニュー表示が一新された。従来のボタンで分類し、下位リンクを参照するスタイルから、メニュー一覧を縦にスクロールさせる方法に変わった。画面左のスクロールボタンで上下にページをめくる。スクロールは方向ボタンをタッチするだけでなく、上下真ん中の線の部分を指で上下になぞって、自由な速度でスクロールさせることもできる。

 メニューは機能別にカテゴライズされており、スクロールボタンの大ジャンプというか早送りというかそういう意味のボタンをタッチすると、次のカテゴリの先頭に一気にジャンプする。

 リニューアルに伴って設定項目のカテゴライズも見直された。以前はHD/SD設定がメディア設定にあり、画質モード設定は動画撮影設定にあるのなど、一連で使うメニューがバラバラのところにあって、大変使いづらかった。これはDVD記録型の場合、メディアのフォーマットがSD記録とHD記録とでは違っていた名残である。今回のメニューでは双方とも「記録設定」として一つにまとめられて、一連の設定がスムーズに行なえるようになった。

 従来のボタン式に比べて、タッチする部分の幅が狭くなったが、各項目の間が空いているので、操作感はあまり変わらない。余計なアイコンなどもないので、シンプルで見やすいのが好印象だ。

よく使うメニューを登録できる「マイメニュー」

 また数年前のメニューにあった、「マイメニュー」が復活した。自分がよく使うものを6つ選んで、アサインできる。撮影はオートでいいにしても、今やそれ以外の機能もたくさん付いたので、どこにメニューがあるか忘れてしまうような機能をメモとして登録しておける。ワイコンの着脱や手ぶれ補正ON/OFF切り替えなど、従来奥まったところにあった機能をすぐに呼び出せる。また撮影と再生では別々のマイメニューを持てる。

 通常メニューとユーザーメニューの切り替えは、画面左下のメニュー切り替えアイコンだ。撮影時にMENUを呼び出すと、通常メニューかユーザーメニューかどちらかが表示される。最後に表示したほうを覚えているようだ。過去の例からすると、おそらくこのスタイルが今後のハンディカムのGUIになるのだろう。

 再生機能やGPS機能に関しては、先のHDR-XR520Vとほぼ同じだ。詳細は以前のレビューの後半を参考にしていただきたい。サムネイル表示から動画再生に移る際に、映像が飛び出してくるといったエフェクトが加わっているあたりに、新GUIの成果が伺える。なおメモリースティックカードに静止画を保存すると、カメラ内の地図が参照できない点は、このモデルでも改善されていなかった。


■ 総論

 ソニーというのは割と気の毒な会社で、いろいろやりすぎれば迷走と言われ、あんまりやらなさすぎると失速と言われたりする。そのうちストリンガー氏がどうすりゃいんだよとキレてしまうかもしれない。

 昨年のハンディカムではもっともとんがった商品であったのがTG1だが、コンセプト的にとんがっているというよりも、スタイルで魅せたという意味合いが強い製品だった。後継機では新GUIが搭載されたものの、やはりコンセプト的にとがった感じは受けない。むしろ同じスタイルを継承しつつ、今年のハンディカムスペックに追いつかせたという感じで、若干様子見感の漂うリニューアルである。

 ただGPS機能は、XRシリーズのようなハイエンドよりも、TG5Vぐらいの携帯性に優れた小型モデルのほうが活用度は高いと思われる。その点では、XRシリーズはなんでもアリのハイエンドモデルであると考えた方がいいだろう。電源ボタンの廃止、動画静止画切り替えボタンの廃止は、新しいビデオカメラのトレンドとして、次のモデルに継承されるだろうか。そのあたりにも注目である。

 懸案だったワイド端の不足は、新登場のワンタッチワイコンでなんとかしのげそうだ。剛性に優れたチタンボディは、TG1をほぼ1年毎日持ち歩いているが、未だほとんど傷一つない事から考えても、相当丈夫な素材であることがわかる。

 TG1ユーザーから見れば、映像的には進化点は少ないのが残念だが、小型ビデオカメラを検討中で遊び重視というユーザーには、TG5Vは魅力的な選択肢となるだろう。

(2009年 4月 15日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]