■ 桜の季節はデジカメの季節?
DSC-HX1 |
パノラマ写真ならデジカメWatchなんじゃないの? と思われるだろうが、ハイビジョンの動画撮影もできるし、パノラマ写真はHDMIでテレビに出力できるということで、AV Watchでもやっておくことになったわけである。
DSC-HX1(以下HX1)は、Gレンズ、CMOSセンサー「Exmor」、画像処理エンジンは「BIONZ」と、昨年まで上位モデルの定番がそのまま搭載されたネオ一眼だ。発売日は4月24日で、店頭予想価格は55,000円前後となっているが、すでにネットでは4万円半ばの値段を付けるところもあるようだ。
ここでは通常の静止画の評価は僚誌デジカメWatchに譲り、動画機能を中心に取り上げてみる。最近ではデジカメの動画機能がハイビジョン化する中、ビデオカメラで評判がいいソニーのデジカメはどんな絵を見せてくれるのだろうか。早速テストしてみよう。なお今回お借りしているのは試作機であり、製品版では仕様などが変わる可能性があることをお断わりしておく。
■ 凝縮度の高い小型ボディ
ソニーのネオ一眼はこれまであまり使ったことがないが、一眼に比べて一回り小型で、同価格帯のネオ一眼の中でも小型のうちだろう。レンズから右をバッサリそぎ落とした独特のスタイルである。グリップ部がかなり出っ張っているので、片手で握るのに丁度いいサイズ感だ。
レンズは35mm換算で、16:9動画が31~620mm、4:3静止画が28~560mmの光学20倍ズームレンズ。ワイド端とズーム倍率ともに、ビデオカメラとして見てもかなり魅力的なスペックである。ちなみにGレンズはサイバーショットとしては初搭載だが、ビデオカメラでは先に採用例がある。手ぶれ補正は光学式だ。
撮影時にはレンズが飛び出すため、通常のフィルタは装着できない |
フィルタ径は57mmだが、フィルタ溝を越えて内側の沈胴式レンズがせり出してくるため、フィルタ類はそのままでは付けられない。純正品としては、テレコンバージョンレンズが発売される。
撮像素子は1/2.4型Exmor CMOSセンサーで、総画素数約1,030万画素、有効画素数は約910万画素。静止画の最大画素数は3,456×2,592ドットとなっている。注目のスイングパノラマではもっと大きなサイズの静止画が撮影できるが、そのあたりはまとめて後述する。
動画撮影は、最近デジカメ用のAVCHD Lite規格が立ち上がったばかりだが、本機の記録フォーマットは単にMPEG-4 AVC/H.264となっている。最大撮影解像度は1,440×1,080ドットであり、720p止まりでもなく、かといってフルHDでもないので、無理に規格に入れるメリットはないのかもしれない。画質モードは、以下のようになっている。なおフレームレートはすべて30fpsだ。
記録モード別の動画サンプル | ||||
モード | ビットレート | 解像度 | 16GBメモリ 記録時間 | サンプル |
Fine | 12Mbps | 1,440×1,080 | 約2時間52分 | ez068.mp4(16.3MB) |
STD | 7Mbps | 約4時間49分 | ez069.mp4(12.7MB) | |
720 | 6Mbps | 1,280×720 | 約5時間38分 | ez070.mp4(8.9MB) |
VGA | 3Mbps | 640×480 | 約10時間24分 | ez071.mp4(4.5MB) |
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
メモリは内部に11MBあるが、動画撮影はVGAモードしか対応しないので、メモリースティックRRO Duoに記録することになる。また動画の連続撮影は29分という制限がある。さらに、1つのファイルサイズは2GBまでという上限もあり、記録中のファイルサイズが2GBに達すると、29分以前でも撮影が停止する。
背面の液晶モニタは3.0型23万画素のクリアフォト液晶プラスで、上下に角度が付けられるようになっている。ビデオカメラのように対面にはならないが、通常の撮影には十分だ。
動画撮影はモードダイヤルで選択 |
上部にはモードダイヤルがあり、動画撮影には動画モードを選択し、シャッターボタンで録画するようになっている。昨今のデジタルカメラでは、背面に別途動画用の録画ボタンを設けて、どのモードでも動画が撮れるという設計が多いが、その点はオーソドックスだ。
パラメータの操作は背面の十字キーで可能だが、横方向の動きならばジョグダイヤルも使用できる。ジョグダイヤルは、静止画ではシャッタースピードや絞りを調整するが、動画モードでは明るさの調整となる。またマニュアルフォーカスの調整もこのダイヤルだ。ダイヤルは押し込むことで、決定ボタンの変わりにもなる。
ビューファインダ上部にステレオマイクがあるため、前面はツルッとしている。スピーカーはモノラルで、なんと底面にある。テーブルの上などに置いて本体で再生するという用途はあまり想定していないようだ。
底部にはバッテリとメモリースティックカードスロットがある。バッテリはHタイプで、ビデオカメラで言えば「HDR-TG1」や「HDR-TG5V」で使用するものと同タイプだ。
端子類は右側にあり、集合端子に付属の特殊ケーブルを接続することで、アナログAV出力とUSB端子に変換する。また同じく付属のアダプタで、HDMI端子にも変換できる。HDMI接続にいちいちアダプタがいるのは面倒だが、MiniではなくフルのHDMIが使えるというメリットはある。
■ 機能が高い動画撮影モード
動画を撮影するときに、いちいち専用モードにする必要がある点は賛否が分かれそうだが、多くのカメラはライブビューをそのまま撮るような設計になっている。しかし専用モードを持つ本機では、メニューが動画用のものしか出てこないので、設定がわかりやすい。またモニター表示も、動画用の画角表示になるというメリットがある。
逆に機能制限ということでは、十字キーに割り当てられている機能のうち、マクロとフラッシュは機能しない。フラッシュはまあ使えなくて当然だが、マクロは使えても良かったのではないかという気がする。また本機は静止画モードでは顔認識機能が使えるが、動画モードでは利用できない。このあたりは、ビデオカメラのほうに強みがある。絞りは動画撮影時にマニュアル制御ができないが、6角形なのでボケ味は綺麗だ。
動画で顔認識が使えないため、人物のフォローはやや苦手 |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の35~50Mbps VBRで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
フォーカスの追従性に関しては、テレ端ではなかなか人物にフォーカスが来ないことがあったが、一端少しワイドに戻してからズームすると、うまく追従する。手前に向かってくる人物に対してもまずまずフォローできるが、ズーム倍率が20倍もあると手前はレンジから外れてしまう。なおズームは、動画撮影時には低速でレバー位置に関わらず一定速度となる。
マニュアルフォーカスへの移行は、ボディ正面に専用ボタンがあるので、アクセスは楽だ。静止画撮影時にはマルチAFの他に中央重点、スポット、セミマニュアルなど色々な方法が選べるが、動画撮影時にはマルチAFとフルマニュアルの2つしか選べないのは残念だ。
マニュアルフォーカスは背面のダイヤルで操作するが、ダイヤルにはクリック感があり、そのクリックで段階的にしか調整できない。FIXではそれほど困ることは少ないが、録画中のフォーカス送りなどは段階的で変な感じになる。
ビットレートに関しては、最高でも12Mbpsしかないが、フレームレートが30fpsなので、数値から受ける印象よりも悪い感じはない。難しい水面なども破綻がなく、十分だ。ただ静止画のものすごくカリッとした輪郭で色味もすっきりした仕上がりに対して、動画になると若干ソフトタッチという印象も受ける。静止画とは結構絵作りを変えているようだ。
手持ち夜景モードで撮影した静止画。この暗さでこのS/Nなら十分 |
動画モードには、オートの他に高感度撮影モードもある。暗い場所でも明るく撮れる、いわゆる増感モードなわけだが、S/Nはあまり良くない。この春の新作「HDR-XR520V」のような裏面照射型CMOSではないため、動画で夜景が得意とまでは行かないようだ。静止画では6枚の写真から1枚を作り出す「手持ち夜景モード」があるので、そちらのほうが夜景では使い出があるだろう。
夜間撮影の例 | |
前半がオート(左)、後半が高感度(右)。夜景のS/Nはあまり良くない | |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の35~50Mbps VBRで出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
室内撮影では、発色はそれほど強くないものの、色に奥行き感がある。S/Nが良くないのが惜しまれる。
sample.mpg (266MB) | room.mpg (87.4MB) |
動画サンプル | 室内サンプル |
編集部注:Canopus HQ Codecで編集後、MPEG-2の35~50Mbps VBRで出力したファイルです。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
■ 桜の季節に楽しいスイングパノラマ
静止画機能と言えば、新機能であるスイングパノラマはなかなか動画的で面白い。これまでデジカメによるパノラマ撮影は、人間が一枚ずつ手動で絵の端を合わせながら撮影していくので、時間がかかるし、そもそも作業として難しかった。スイングパノラマは、秒間10枚という高速撮影機能を使って、このパノラマ撮影をカメラを動かしながら、いっぺんにやってしまおうという機能である。
動かす方向は、上下左右の4通り。撮影モードとしては通常とワイドの2タイプがあり、ワイドのほうがより広範囲に撮影できる。
記録モード | 左右 | 上下 | 横方向サンプル |
標準 | 4,912×1,080 | 1,920×3,424 | |
ワイド | 7,152×1,080 | 1,920×4,912 |
スイングさせる秒数は約3秒間で、結構さーっと振り回す感じだ。遅すぎると途中で時間切れとなって、短いパノラマとなる。時間的に届かなかった部分は、黒で埋められる。
上下パノラマは露出とフォーカスの平均値をどこに持っていくかがポイント |
注目すべきは、左右では縦の解像度、上下では横の解像度だ。どちらもフルHDと同じ解像度になっている。ファイルとしては縦長、横長だが、HDMI経由でテレビに接続すると、フル解像度でそれぞれが縦・横スクロールの動画として表示できる。写真ではあるが、パノラマをまさに撮影した方向でもう一度動きながら眺めることができるわけだ。
特に横方向のワイドモードでは、180度を超える風景が、いっぺんに撮影できる。時間もかからずパーッと撮ってしまえるので、旅行などでも気軽に撮影できるだろう。
パノラマ撮影中は、露出とフォーカスが固定される。端と端で明るさが違う風景では、最初は良くても振った先が暗くなったり明るくなったりしがちだ。その場合は、だいたい平均的と思われるあたりでシャッターを半押ししてAE・AFロックしたあと、開始点からシャッタを押し込んでスイングするといい。
水平方向も面白いが、桜並木などは縦方向が面白い。あいにく関東地方では、もう今週で桜もあらかた終わってしまいそうだが、北の地方では発売日と桜の開花日がシンクロするかもしれない。いいパノラマが沢山撮れることだろう。
■ 総論
昨年あたりからデジカメ動画もハイビジョン世代になってきたわけだが、やはり年々綺麗に、ソツなく撮れるようになってきている。特にHX1は動画専用モードがあるので、機能が静止画と共有なのかどうかを迷うことがなく、成り行き任せではない動画撮影ができる安心感がある。
マニュアルフォーカスへの移行や、手ぶれ補正ON/OFFもスムーズで、三脚に載せたり降ろしたりの撮影では重宝した。ただ静止画では色補正なども可能でかなり高機能なカメラではあるが、動画ではあまり機能が使えないのが残念だ。
本体での再生機能としては、最近ビデオカメラでも採用が多い、音楽付きの自動再生が可能だ。ただし特定の映像を選んでプレイリストを作成する機能がないので、基本的には動画と静止画が混在した状態で、全部を順番に見ることになる。この時、動画再生は約4秒ごとにポーズが入るようだ。演出なのか、再生バッファが足りないのかよくわからないが、見ていてフラストレーションが溜まる。
そのほか、顔検知機能を利用した画像検索もできるが、対象は静止画のみである。このあたりもビデオカメラではないので、そこまでは解析しないということなのだろう。
目玉機能のスイングパノラマ機能は、撮影に動画的な要素もあって、なかなか面白い機能に仕上がっている。また再生時もテレビでスクロールして楽しめる工夫があり、そういう点でも動画的である。パノラマ撮影を一気に手軽にする革命的要素もあり、趣味で楽しむだけでなく、建築や不動産など、現場の状況を一目で把握することが求められる業務で利用される使い方もありそうだ。そういう意味では、ビデオで撮ることとはまた別の活用方法が広がる機能である。
現在ネオ一眼はあまり注目されていない分野だが、いろんなことができて一番遊べるのはこのレンジではないかという気がする。普通の写真に物足りなくなったら、一眼に行く前に検討してみてはどうだろうか。