小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第957回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

「車でアレクサ」、Amazon Echo Autoを実際に使ってみる

Amazon Echo Auto使用イメージ

どこでもAlexa

スマートスピーカーは、2~3年前からAmazon、Google、Apple、LINEなど多くの企業が参入し、生き残りをかけた戦いがスタートしたが、どうも勝者はAmazonではないかと思うのは筆者だけだろうか。

とにかくAmazon Echoは新タイプをどんどん投入してくるし、過去モデルも毎年確実にリニューアルしてくるなど、企業体力がある。資金ならGoogleやAppleも負けないところだが、スマートスピーカーにかける熱量が違う気がする。

そんなわけでまたまたAmazon Echoのニュータイプが登場だ。今回は車での利用を想定した「Amazon Echo Auto(以下Echo Auto)」である。もともと手が離せない運転中は、ボイスコマンドでの操作が求められやすい環境でもある。また一人で運転しているケースも多く、ボイスコマンドが空振りでも恥ずかしくない状況とも言える。

とはいえ、EV車でもない限り電源はエンジンと連動するし、通信をどうするんだ問題もある。それをどう解決するかが腕の見せ所なわけだが、Amazonはそれを4,980円(税込)という低価格で実現した。

価格からしてもスマートスピーカーのキャズム越え必至とみられるEcho Autoを、早速試してみよう。

薄型軽量・練りに練られた仕様

何はともあれ本体確認である。本体は何かのリモコンかと思わせるような薄型で、重量は45gしかない。天面には他のEcho同様、マイクのオンオフとアクションボタンがあるが、ボリュームボタンはない。

邪魔にならないサイズ感

Echoはスマートスピーカーなわけだが、Echo Autoの本体は本格的なスピーカーは搭載されていない。初期設定の際にペアリングのアナウンスを出すための、最小限のスピーカーは搭載されているようだが、設定が完了すると動作しなくなる。

天面8箇所に開いている穴はマイクだ。ウェイクワードを発した際に、話者の声の方向を的確に捉えて指向性を持たせるために、Echoには多くのマイクが実装されるが、これほど小さな筐体に8つもマイクを搭載するところから察するに、車の中というのはそれほど音声を拾いにくい環境だということだろう。

天面に8つのマイクを装備

ボディ前面には、ボイスコマンドの受取りやAmazonからのお知らせの有無を表示するライトバーがある。右側面には電源ポートとしてmicroUSBポート、音声出力用のオーディオ出力がある。

ライトバーは前面
右側の電源及びアナログ出力端子

底面の窪みは付属のエアコンマウントを装着するためのものだ。エアコンマウントの凸部が磁石になっており、Echo Auto本体をくっつけて固定する。

底部にマウント固定用の窪みがある

エアコンマウントの方も見ておこう。本体マウント部は先ほど述べたとおりだが、V字の裏側にはエアコンの吹き出し口に固定するため、十字に切れ込みの入ったゴムパーツがある。縦横で切れ込みの幅が違っており、90度回すことで太さがまちまちの吹き出し口スリットに適合させることができる。

付属のエアコンマウント
ゴムバーツでエアコン吹き出し口に装着する
実際に装着したところ

ゴムパーツ反対側にも十字に切れ込みが入っており、本体から伸びるケーブルを挟み込むようになっている。何かに引っかかって、不用意に抜けないようにという配慮だろう。

電源用として、シガーソケット用のUSBアダプタが付属する。2口あるので、ひとつは別の用途に使える。

シガーソケットアダプタはUSBが2口

スマートフォン必須の動作環境

今回はiPhone XRとの組み合わせで使用してみる。初期セットアップは他のEchoと同じで、スマホアプリの「Amazon Alexa」から「デバイスの追加」で設定を行なっていく。実際の車内でなくとも設定はできなくもないが、カーオーディオとBluetoothで接続して音を出したい場合は、セットアップの途中でBluetoothのペアリングが必要になる。その場合は駐車場など安全な場所に車を止めて、作業した方がいいだろう。

Echo Autoは車のアイコンになっている

実は筆者の車には最小限のカーオーディオしかなく、普段はBluetoothスピーカーを車内に置いて、スマホと組み合わせて音楽などを聴いている。Echo AutoもBluetoothでスピーカーと接続したかったのだが、Echo Auto側にディスプレイがなく、Bluetoothスピーカー側にも相手を選択する機能がないので、Echo AutoとBluetoothスピーカーを直接ペアリングすることはできなかった。

ただスピーカー側にアナログオーディオ入力があるので、そちらを使って接続することにした。また詳しくは後述するが、スマートフォンをブリッジにしてBluetoothで接続することもできるので、様々なパターンに対応できるようになっている。

セットアップが完了すると、Echo AutoとスマートフォンはBluetoothで自動接続するようになる。家庭内にあるEchoはWi-Fiで直接クラウドに繋がっているが、Echo Autoはスマートフォンの通信手段を利用してクラウドと繋がることになる。この場合の通信手段とは、4G回線だけでなく、スマートフォンが掴んでいるWi-Fiでも構わない。

しかし単に通信手段を借りるだけというわけではなく、実際にEcho Autoが動かしているのは、スマートフォン内のAmazon Alexaのようだ。例えば音楽再生を例にとってみると、ボイスコマンドを受け取るのはEcho Autoだが、その後の音楽再生はスマートフォン内のAmazon Alexaが動いている。したがって、スマホ側の操作で音楽の再生停止スキップなどもできるし、ボリュームのコントロールもできる。

実際に音楽を再生しているのはスマホアプリ
Bluetoothヘッドホン扱いでEcho Autoへ音楽を流している

またスマートフォンで新たにBluetoothスピーカーを接続すれば、再生先がそちらへ移る。Bluetoothイヤフォンでも同様だ。したがって筆者の車内の事情で言えば、車内にあるBluetoothスピーカーは、有線アナログ回線でも、スマホとのBluetooth接続でもどっちでも鳴るということになる。さらにカーオーディオがBluetooth対応であれば、Echo Autoと直接Bluetooth接続もできる。「どうやって鳴らすか」で困ることはまずないだろう。

コマンドとデータの流れを模式化してみたので、大体の仕組みはお分かりいたけることと思う。

Echo Autoの動作模式図

運転はどれぐらい便利になるのか

実際問題として、シガーソケットから電源を取った場合、エンジンと連動して電源が入り切りすることになる。家庭用のEchoは頻繁に電源が断されることは想定されていないので、一度電源を切ると再起動するのに50秒ほどかかる。

一方Echo Autoは電源を投入すると、15秒ほどで使用可能となる。エンジンをかけて車を車庫から出すぐらいまでには、利用可能になっているというわけだ。そもそもWi-FiではなくBluetoothで繋がるだけなので、起動も速いということだろう。

シガーソケットの電源は、エンジンを切ると切れるのが普通だ

また音楽再生履歴としては、スマホ内のAmazon Alexaが再生ポーズ状態になっているだけなので、再度エンジンをかけて電源を再投入した際に「Alexa、音楽の再生を再開」と言うだけで、さっきまでかかっていた音楽を再開できる。

音声認識については、聞き取り間違いは少ないものの、普段助手席の人に話しかけるぐらいの声量では反応しないことが多々あった。エアコンの吹き出し口にダイレクトにくっついているので、ノイズも相当あるだろう。ボイスコマンドは、少し大きめの声で発声する必要がある。

地方は車社会なので、通勤も自家用車がほとんどだ。これまでは運転中には音楽を聴くかラジオを聴くかといった受動的な選択肢しかなかったのだが、Echo Autoがあれば状況が一変する。例えば今日のスケジュールを確認したり、最新のニュースを読み上げてもらったりと、ラジオにはないインタラクティブ性が生まれる。

また現在位置がどんどん動いていくというのも、これまでのEchoではなかった条件だ。例えば「最寄りのコンビニはどこ?」と聞けば、「セブンイレブン○○店」といった具合に、候補を3つ4つ読み上げてくれる。スマートフォンが位置情報を取っているので、それを利用する格好だ。ただしこれを実行するには、iPhoneの「設定」でAmazon Alexaの位置情報の利用を「常に許可」に設定しておく必要がある。

位置情報に関係する「スキル」を使うには、位置情報取得を「常に」に設定しておく必要がある

最寄りのコンビニを検索するまでは可能だが、そこまでのルート案内をしてくれるわけではない。現時点では、「交通情報をお知らせすることはまだできません」と断られてしまう。「まだ」というからには将来的にはできるようになるのかもしれないが、そこまで出来たらかなり便利になるはずである。

総論

Echoには沢山の「スキル」があり、自分の欲しい機能を拡張することができる。今はまだ家庭内で使用するスキルが中心で、あとは乗り換え系のスキルがいくつかある程度だが、Echo Autoの登場により車移動中に使えるスキルも登場するだろう。コンビニ検索、ガソリンスタンド検索、トイレ検索などは、真っ先に必要とされるところだ。

スマートフォン自体にも、SiriやGoogleといったボイスコマンドで使えるA.I.機能がある。できることも似たり寄ったりだ。だがそれらは、ボイスコマンドを発する前にボタンを押す、画面をタッチするなどのアクションが必要とされており、どうしても最初に手を使う必要がある。一方Echo Autoは常にボイスコマンド待ち状態で待機しているので、運転中には使いやすい。

実態としては、Echo Autoはボイスコマンドに対する入出力インターフェースであり、実際に動作するのはスマホアプリだ。装置としては、DAC内蔵のBluetoothヘッドセットに近いと言える。仕組みがわかって「なーんだ」と思うか、「よくこんな実装思いついたな」と思うかは人それぞれだが、車内で使うためにうまいこと考えたなーというのが、正直な感想だ。特に筆者のような時代遅れの車に乗っているユーザーにとっては、最新のボイスナビゲーションがこの価格で実現できるのはありがたい。

電源とスマホ、外部スピーカーさえあれば車内でなくても動くので、普通のオーディオセットに繋いでAmazon Music再生専用DACとして使うというのもアリだろう。価格も安いし、スマートスピーカーに二の足を踏んでいた方は、体験するいいチャンスとなるかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。