小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第958回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

スタンドアロンで高度な撮影、最高に使いやすいカメラに!「DJI Pocket 2」

DJI Pocket 2

「ジンバル」の知名度を広げたOsmoシリーズ

DJIと言えば言わずとしれたドローンの頂点だが、ジンバル単体にも非常に力を入れている。プロ向けの展示会では、DJIブースにはドローンはほとんど展示されず、Roninシリーズのようなプロ向けジンバルがズラリと並ぶ。

コンシューマ向けとして一番知られているのは「Osmo Mobile」シリーズだろう。最初の製品は小型カメラ付きジンバルとしてデビューしたが、のちにスマートフォン向けジンバルに転換し、この8月には4世代目となる「OM 4」が発売されたばかりである。

一方でカメラ搭載型ジンバルは、初代Osmoから大幅に小型化を果たした「Osmo Pocket」が2018年に発売された。まさにポケットに差し込める細身・軽量ジンバルで、モノとして非常に良くできていたため、うっかり店頭で触ってしまって気絶したら買ってた人も少なくなかったはずだ。ライター仲間でも、イベント取材用として購入した人が多かった。

そんなOsmo Pocketが、「DJI Pocket 2」として大幅に機能強化して帰ってきた。製品名からOsmoがなくなり、Pocketがシリーズ名になるようだ。製品としては、オーソドックスな「DJI Pocket2」と、拡張アクセサリ満載の「DJI Pocket 2 Creatorコンボ」の2つがある。今回は「DJI Pocket 2 Creatorコンボ」のほうをお借りしているが、初代の「ここがもう少しこうだったら……」をことごとく潰して、まさにかゆいところに手が届くカメラに仕上がっている。10月31日発売で、価格は49,500円(税込)。「Creatorコンボ」は64,900円(税込)だ。

今回は発売前の評価機をお借りできた。したがって、最終の仕様とは異なる点があるかもしれないことをお断りしておく。発表間もないDJI Pocket 2の実力を、早速テストしてみよう。

本体は変わらないように見えるが……

まずは本体スペックからチェックしていこう。本体サイズは124.7×38.1×30mmで、初代のOsmo Pocketから数ミリずつ大きくなっている。だが、デザインは初代と大きく変わらないので、同じようなサイズ感に見える。見た目からわかる違いとしては、4方向それぞれにマイクが一つずつ付けられており、音声収録機能が大幅に強化されているのがわかる。

数ミリずつ大きくなったボディ
前方と右サイドの小さい穴がマイク
反対側。背面のマイクは緑の電源ライトの横にある

レンズは35mm換算で20mmとなっており、初代の26mmからさらにワイドになった。センサーは1/1.7インチで、これも1/2.3インチからサイズアップしている。有効画素数は64Mピクセルで、静止画の最大画素数は4608×3256。これも初代の12Mよりアップしている。

動画性能としては、最大で4K/60P撮影が可能。ただし60Pだとトラッキングモードが使えなくなるのは前作と同じだ。また前作では発売後にアップデートで対応していた2.7K解像度を、最初からサポートしている。画質モードとして、バッテリー優先と画質優先モードがあるが、どちらもビットレートは約77Mbpsで、画質的には差がないように見える。

【お詫びと訂正】記事初出時、有効画素数を16Mピクセルと記載しておりましたが、64Mの誤りでした。また、前モデルのOsmo Pocketは2.7K解像度非対応と記載しておりましたが、発売後のアップデートで対応しておりました。お詫びして訂正します。(10月26日9時)

また今回はデジタルズームに対応しており、静止画で8倍、フルHD動画で4倍、4K動画で2倍のズームが可能だ。

動画 20mm
動画 2倍ズーム(4K)
動画 4倍ズーム(FHD)
静止画 20mm
静止画 8倍ズーム

ディスプレイ部は21mm×19mmとほぼ正方形で、タッチ式。上下左右にスライドすることで各種機能を呼び出すインターフェースは以前と同じだ。

タッチ式液晶モニタも多少大きくなった
左側にMicroSDカードスロット

本体ボタンは背面左が録画ボタンで、右がモード切り換えボタン。右ボタンは1度押すと静止画と動画の撮影モード切り換え、2度押しでジンバルがリセット、3度押しでセルフィーモードとなる。またボディ横に電源ボタンがある。右ボタン長押しでも電源は入るが、横の電源ボタンを押すと、カメラがユーザーの方を向いて頷くようなアクションをする「ハローモード」で起動する。

今回のポイントは、豊富なアクセサリによって拡張できるようになっているところだろう。底部がキャップ状になっていて、これを外して三脚取り付け用のマウントに付け替えることができる。USB-C端子まで若干深くなるが、簡単に固定治具に取り付けられるようになったのは歓迎できる。

底部を三脚マウントに付け替えたところ

本体モニタ下には、スマートフォン接続用端子が取り付けられるユニバーサルポートがある。以前はLightningとUSB-Cのアダプタが付属していたが、今回はそれに加えてジョイスティックが付属する。

新たにジョイスティックが取り付けられるように

これにより、本体のみでジンバルの上下左右コントロールとデジタルズーム動作が行なえるようになった。ジョイスティック隣のファンクションボタンは、1回押しでジンバル動作モード変更、2回押しでジンバル操作とズーム操作の切り換えとなる。これは標準で装着していて損はないアクセサリだ。

ここまでがいわゆる標準のDJI Pocket 2の同梱物だが、Creatorコンボではさらに拡張ボックスとして、「Do-It-Allハンドル」が付属する。これも底部のキャップを外して取り付ける拡張ボックスで、側面にイヤホン/マイク兼用端子、背面にスピーカー、前面にUSB-C端子、底部に三脚穴を備えるほか、スマートフォンとワイヤレスで接続するためのWi-Fi機能を搭載している。加えて本体が自立できるよう、ミニ三脚も付属している。

左から三脚マウント、標準キャップ。下がDo-It-Allハンドル
自立用のミニ三脚も付属

またレンズアクセサリとして、磁石でくっつくワイドコンバージョンレンズも付属する。これを装着すると、35mm換算で15mmの画角となる。

【お詫びと訂正】記事初出時、ワイコンを取り付けた際の画角を「35mm換算で16mm」と記載しておりましたが、15mmの誤りでした。お詫びして訂正します。(10月21日19時)

磁石でくっつく15mmワイドコンバージョンレンズ
コンバージョンレンズを装着したところ

さらに強力なのが、ワイヤレスマイクまで付属しているところだ。プロではワイヤレスマイクシステムは一般的だが、コンシューマ向けの製品はソニーとニコンが製品化している程度で、まさに穴場である。ここまで音声収録にフォーカスを当ててきたというのは、やはりセルフレポート型コンテンツが多いV-Logを意識しての変化だろう。なおワイヤレスマイクのレシーバは、Do-It-Allハンドルに内蔵されている。

付属のワイヤレスマイク。ウインドスクリーンもある

キャリングケースもよくできている。スマートフォン接続用端子を2つ収納できるほか、ワイドコンバージョンレンズも格納できる。上部にワイヤレスマイクをクリップで挟めるほか、背面に三脚穴があるので、付属のミニ三脚もここに収納できる。Do-It-Allハンドルを取り付けると多少出っ張るが、それでも一式が綺麗にまとまるのは素晴らしい。

各種アクセサリが底部に収納できるキャリングケース
すべてのアクセサリが綺麗にまとまる

使い出のあるジンバル撮影

なにはともあれまずは撮影である。一般にジンバルの効果は、確実に水平を保つ、動きに対してゆっくり追従するといった特徴がある。本機もジンバル動作モードとして、パン軸とチルト軸はハンドルに追従し、ロール軸は水平を保つ「
フォロー」、パン軸のみ追従し、チルト軸は固定、ロール軸は水平を保つ「チルト軸固定」、パン軸、チルト軸、ロール軸で追従する「FPV」の3モードが切り換えられる。加えて今回は、ジョイスティックによるパン・チルト操作もできるので、撮影の自由度はかなり高い。

手ブレ補正については、特にON・OFFといった設定はないが、水平垂直がキープされる上にレンズが広角なので、走っても大きなブレを感じることはない。走るよりむしろ歩いているほうが、上下の揺れは大きく感じる。

ジンバルによるスタビライザー効果

とは言え、安定したドリー撮影はジンバルならではのものだ。普通に歩くと歩行感が出てしまうが、少し膝を曲げて歩き方に気をつければ滑らかな移動ショットも簡単に撮影できる。

手持ちFixの安定性、移動ショットの取りやすさはジンバルならでは

あいにく撮影日は曇天だったが、ホワイトバランスオートでも色味の発色が良く、安心できる。動画ではHDR撮影も可能だが、本体だけではモード選択ができず、スマホアプリからのみ選択できる。ただしHDRモードにすると画角が倍ぐらいに狭くなるのが惜しいところだ。

あいにくの曇天だが、発色は良い
通常モードで撮影
HDRモードで撮影

ワイドコンバージョンレンズは、かなり小さなレンズだが歪みや流れも少なく、なかなか良質である。20mmと15mmでは大差ないように思えるかもしれないが、車の中など狭い場所でのセルフ撮影では威力を発揮するだろう。

ワイドコンバージョンレンズなし(20mm)
ワイドコンバージョンレンズあり(15mm)

スロー撮影では、4倍と8倍が選択できる。解像度はフルHDに落ちるが、三脚なしで安定したスロー撮影ができるのはありがたい。またスロー撮影時には、オーディオは別ファイルで収録されている。編集ツールを使えば、音声ありのノーマル再生からスローへ移行するといった演出もできる。

手持ちによるスロー撮影

タイムラプス機能もある。確か以前は2点間を指定してその間を動かすインターフェースだったと思うが、今回はスタート地点だけ設定して、あとはそこから右回か左回りを選ぶだけというインターフェースに変更されたようだ。

タイムラプスによる5秒ごと30分間の撮影

スマホアプリ「DJI Mimo」と連動しての動作も、初代同様だ。Do-It-Allハンドルを使えばWi-Fi経由で接続できるが、シナリオ通りに撮影してコンテンツが作れる「Story」モードは出てこない。Storyは端子経由で直接接続したときのみ使えるようだ。

スマホアプリとはWi-Fiでも繋がるようになった

またマニュアルでISO感度やシャッタースピードなどの設定変更ができるProモードもあり、Proモード時に表示されるアイコンをタップすると設定画面が表示される。

【お詫びと訂正】記事初出時、“Proモードのパラメータが設定できるのはスマホアプリのみのようだ”と記載しておりましたが、設定はアイコンのタップで可能でした。お詫びして訂正します。(10月26日10時)

スマホアプリならではの機能としては、「ライブ配信」がある。カメラからの映像と音声をリアルタイムにFacebook LiveやYouTubeに流せる機能で、簡易的な配信ならこれだけで十分だろう。またRTMPにも対応するので、若干知識は必要になるものの、それ以外のプラットフォームでのライブ配信も可能だ。

FacebookとYouTubeに直接ライブ配信できる

大幅に強化された音声収録

続いて強化された音声まわりをチェックしていこう。前作はマイクが表側にしかなかったため、セルフィーモードで裏側にカメラを向けると、音声がよく拾えなかった。自撮りということは被写体がしゃべる可能性はかなり高いわけだが、このマイクの仕様では対応できない。

一方本機ではマイクが4方向にあるので、全方位で音声が拾えるようになっている。フェイストラッキングのテストも兼ねて、しゃべりながらカメラ周りを1周してみたが、どの角度でも同じように集音できている。

フェイストラッキングによる収録。全方向で同じように音声収録ができる

なお音声集音に関しては、ステレオ録音のほか、集音方向を任意に決められたり、カメラの向きに追従したりといったモードがあるはずだが、評価時点のソフトウェアではモードを選択することができなかった。こうしたマルチマイクを使った指向性を動的に変える技術は、パナソニックLUMIX G100に搭載されているが、本機でも同様の機能が実装されるのかもしれない。スマホアプリのほうもまだ正規版ではないので、設定ができないが、最終の製品版ではこうした選択ができるものと思われる。

オーディオ機能としてもっとも注目度が高いのが、ワイヤレスマイクだ。電源を入れて接続ボタンを押すと、ほんの数秒でカメラと接続が完了する。ペアリング動作も不要だ。接続についてはBluetoothなのか独自に2.4GHz帯を使うのか資料がないが、撮影してみたところ目立った遅延もなく、実用に耐える。

どのぐらいの距離が伝送できるのか、テストしてみたところ、10mぐらいは余裕で伝送できるようだ。マイクと本体が体で遮られると、入りが悪くなる。だが見通しできる状態であれば、30mぐらい離れても集音できた。

ワイヤレスマイクによる集音テスト

人混みの中で、カメラとマイクの間に人が行き来するようなシチュエーションでは長距離伝送は難しいだろうが、間に障害物がなければかなり離れても音声収録できそうである。Do-It-Allハンドルを使えばワイヤードのマイクも使えるが、ケーブルが邪魔になるようなケースでは、こうしたワイヤレスマイクが使えると便利だ。

またワイヤレスマイクユニット側にもマイク入力端子があるので、別途ラベリアマイクを繋いで、ワイヤレスマイクをトランスミッタとして使用することもできる。トランスミッタモードの場合は、マイク肩にあるLEDが緑から黄色に変わるので、どっちのマイクが生きているかがすぐわかる。

加えてワイヤレスマイクがリンクされた状態でマイク側の接続ボタンを押すと、リモートで録画開始と停止が可能になる。カメラを固定しての立ちレポなどでは、立ち位置から録画スタートできるので便利だ。

ただ、Do-It-Allハンドルのヘッドホン端子は、録画中の同録モニターはできないようだ。あくまでも録画したファイルの再生時にモニターできるだけで、そこはちょっと残念なところである。

総論

初代Osmo Pocketは、優れたジンバル機能で撮影機器としては良くできていた。だが音声収録まで含めた「動画カメラ」として見ると、物足りない部分が多かった。

だが今回のDJI Pocket 2は、マイクの数を増やし、全方向からの音声収録が可能になった。ジンバルでカメラが回転するのだから、音も全方位から収録できるのが筋である。またジョイスティックが付属し、ジンバルを片手で自由に動かせるようになったというのも、ポイントが高い。

標準パッケージでできるのはここまでだが、もし本機を購入してV-Log撮影するなら、「Creatorコンボ」は必須であろう。スマホとワイヤレス接続できるだけでなく、撮影後に本体だけで音声モニタリングが可能になり、現場での録画チェックが捗る。

加えてワイヤレスマイクが付いているのは大きい。カメラから離れればカメラマイクでの音声収録は難しくなるため、外部マイクを使うか音を別録りして編集で合わせるしかなかった。だがワイヤレスマイクが付属となると、集音もぐっと楽になる。フェイストラッキングと組み合わせて、まるでスタッフが数人いるかような、レベルの高い撮影ができるはずだ。

GoProもHero9になってV-Logger向けの機能を搭載するに至ったが、DJIからの答えがこのPocket 2という事だろう。多彩なアクセサリで、スマホに頼らずスタンドアロンで高度な撮影ができる作りは、さすがじっくり開発に2年かけた後継機だけのことはある。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。