小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1039回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

世界初の望遠光学ズーム搭載、ソニー「Xperia 1 IV」

Xperia 1 IV

ついに光学ズーム?

スマートフォンのカメラは、単焦点レンズ故に、焦点距離が異なるカメラを複数台搭載するというのが当たり前になった。多くはワイド系とテレ系の2つ、または超ワイド系、標準、テレ系の3つという構成である。

いつかはズームレンズを搭載するスマートフォンが出るかも、という淡い期待もあったが、超解像ズームといった機能を組み合わせて、それぞれのカメラをシームレスに繋いでいくという手法が主流になるにつれ、光学ズームは不要、というかあの薄さの中に入れるのはそもそも無理だよね、という前提で進んで来たように思う。

ところがこの6月に発売開始された「Xperia 1 IV」には、世界発となる望遠光学ズームレンズを搭載した。これで全域をカバーするのではなく、テレ側のみズームレンズとなる。加えて3D iToFセンサーも搭載し、高速・高精度のAFも実現した。

ただしお値段のほうも奮っていて、国内キャリアではNTTドコモ 19万872円、au 19万2,930円、ソフトバンク 19万9,440円と、軒並み19万円台となっている。

そんな超弩級のハイエンドモデル、Xperia 1 IVの動画性能を試してみた。なおお借りした機材は試作機で、画質面では最終ではないことをお断わりしておく。

ボディはいたって普通

まずは外観だが、本体サイズは71×165×8.2mmで、レンズ部分まで含めると最厚部は9.7mmとなっている。ズームレンズが入っているからといって、極端に出っ張っているわけではない。ディスプレイはアスペクト比21:9の6.5型シネマワイド有機ELディスプレイで、最大120Hz駆動となっている。

OSはAndroid 12で、SoCはクアルコムSnapdragon 8 Gen 1 Mobile Platform。Bluetoothバージョンは5.2だ。タイミング的に5.3を期待したが、間に合わなかったようだ。内蔵メモリは12GBで、ストレージは256GB。容量に関しては他のバリエーションはない。

カメラ右側には、ボリューム、電源、シャッターボタンがある。ボリュームボタンは、カメラアプリの設定で、ズーム動作に割り当てることができる。

右からボリューム、電源、シャッターボタン

上部には3.5mmイヤフォンジャック、底部にはUSB-TypeC端子とSIM/MicroSDカードスロットがある。

底部にUSB-TypeC端子とSIM/MicroSDカードスロット

防水性能はIPX5/IPX8で、具体的には「いかなる方向からの水の強い直接噴流によっても有害な影響を受けない」+「水面下での使用が可能」となる。防塵性能は最高ランクのIP6Xで、「完全な防塵構造」を誇る。ただしお風呂や温泉に浸けるのは、温度の面で動作に問題が出ると思われるので、避けるべきだろう。

上部に3.5mmイヤフォン端子

カメラは背面に3つ。一番上が超広角の35mm換算16mm/F2.2で、有効画素数約1,220万画素の1/2.5型センサー。2番目が実質的なメインカメラで24mm/F1.7の有効画素数約1,220万画素の1/1.7型。間に3D iToFセンサーを挟んで、一番下がズームレンズである。望遠85~125mm/F2.3-2.8の有効画素数約1,220万画素の1/3.5型だ。センサーサイズは全部違うが、画素数は1,220万画素、高速読み出しタイプのExmor RSで、最高フレームレート120pで統一されている。

上から16mm、24mm、3D iToFセンサー、85~125mm

ズームレンズのみ垂直ではなく、ミラーで光軸をL字型に曲げることで、横方向に展開されている。このためセンサーは縦に設置されることになる。光学ズームレンズのスマホは既に存在するが、85~125mmの望遠レンズでこうした構造を採用したのは、スマートフォンとしては初めてという事だろう。

【お詫びと訂正】記事初出時、“(光学ズームレンズは)スマートフォンとしては初めてという事だろう”と記載しておりましたが、85~125mmの望遠レンズでは初めての誤りでした。お詫びして訂正します。(7月7日9時)

インカメラもメイン同様、有効画素数約1,220万画素の1/2.9型となっている。レンズはF2.0で焦点距離は非公開だが、カメラアプリ「Video Pro」上は24mmと表示される。他のカメラの画角と比較しても、だいたいそんなところだ。こちらも4Kで撮影できるものの、120p撮影には対応しておらず、最高で29.97pとなる。

内蔵マイクにも工夫があり、ディープラーニングによる音源分離技術を使い、ウインドノイズを除去するという。これはOSの「オーディオ設定」でONにできるため、撮影・録音アプリに依存せず利用できる。

インテリジェントウインドフィルター機能を搭載

確かにズームはできるが……

では早速撮影してみよう。あいにく撮影地である宮崎県地方は台風4号接近中であり、注目のズームレンズを含め、各種サンプルを手持ちで大急ぎで撮影することとなった。20年も連載していると、こういう事もある。

Xperia 1シリーズでは以前から撮影機能に力を入れていることもあり、動画撮影ではCinema ProとVideo Pro、写真撮影ではPhoto Proという専用アプリが提供されている。また本シリーズでは録音用として、Music Proというアプリも提供される。

3つのカメラはCinema ProとVideo Proで挙動が違っており、Cinema Proではマニュアル露出、超解像ズームなしで光学領域のみでの撮影が基本になる。一方Video Proでは自動露出も使え、超解像ズームありが基本になる。また3つのカメラを超解像ズームで繋ぐ「シームレスズーム」機能も利用できる。

Cinema Proでの撮影は、手ブレ補正は光学補正のみで、補正力は弱い。基本は三脚で固定するという事だろう。ワイド端など画角は十分な広さだが、24mmの次がいきなり85mmになるため、50mm前後の間の画角が欲しいところだ。85mmから125mmの光学ズームを試してみたが、これぐらいだと画角の差は少ししかないなぁという印象である。やはり50mmから125mmぐらいが欲しいところだ。

Cinema Proで撮影した各カメラの画角

Video Proでは各カメラの単焦点のほか、望遠カメラでは光学ズームに加えて超解像ズームが使える。領域として85mmから375mmまでとなり、かなりズームした感がある。なおズームの動き始めで多少AFがズレるのは、ファームウェアが最終ではないからで、製品版では修正されているはずである。

またシームレスズームも使ってみた。途中で画角が少しシフトするところが、カメラの切り替わりポイントである。各カメラごとにホワイトバランスを調整しているということで、色味の違いは少ないようだ。

レンズ切り替え設定でシームレスズームが選択できる
Video Proで撮影した各カメラの画角

ただ24mmから85mmまでという広範囲を超解像ズームでカバーすることになるため、85mmのズームカメラに切り替わった際の画質の落差が大きい。

Video Proでは電子手ブレ補正との併用になるので、補正力が上がる。3つのカメラの光学領域4パターンで手ブレ補正をテストした。

Video Proにて手ブレ補正の比較

16mm、24mmでは良好な補正だが、85~125mmレンズでは、補正に起因すると思われる映像のゆがみがところどころで見られる。望遠ほど補正が重要になるだけだが、初めてのズームレンズということで、まだ色々と課題があるようだ。

実際のコンテンツ内で、シームレスズームは使えるかを試してみた。サンプルの2カット目がそれだが、やはりズーム途中で画角がシフトするのは、撮影か編集のトラブルのように見える。個人的な撮影でSNSに投稿するようなものなら構わないが、作品の中で使うのはためらわれる。ただ超解像ズームの組み合わせでこれだけいろんな画角が使えると、場所を移動せずに多くのバリエーションが撮影できるというメリットはある。

Video Proで撮影したサンプル

なお今回のサンプルは、4K/29.97 SDRで撮影している。色域Wideにも設定可能だが、Wideにすると手ブレ補正が使えなくなるからである。

夏場のXperiaで毎回泣かされるのが、温度上昇による撮影トラブルだ。室内撮影でもだいたい10分程度で高温アラートが出て、機能制限がかかる。

夏場の撮影では高温アラートが出やすい

そこで今回は、ソニーの「着るクーラー」ことREON POCKETをXperia背面にくっつけて、強制冷却しながら撮影した。実際には手で持っているだけだが効果は絶大で、気温が30度を超える中での撮影でも、一度も高温アラートが出る事なく撮影できた。REON POCKETチームは急ぎ、Xperia用固定ホルダーを商品化すべきだ。

REON POCKETがあれば完璧に冷却できる

良好な音声収録と再生

Xpeira内蔵マイクには、インテリジェントウインドフィルター機能がある。内蔵マイクだけで音声収録してみたところ、確かに風によるフカレはほとんどなく、良好に収録できた。

一方交通量の激しい道路際では、一部の音声がノイズと判断されてカットされる部分もあった。こうした現象は普通のマイク収録では起こりえないが、聞きづらいわけではない。一方交通量の激しい道路を離れると、かなり良好に音声収録できる。風の音に限らず、雨音もだいぶカットしてくれるようだ。

内蔵マイクの性能をテスト

また本体はIPX5/IPX8クラスのの防水性能があり、雨天でも特に防水カバーなどなくても撮影できてしまう。Video ProにはYouTubeなどの配信プラットフォームへのライブ配信機能もあり、雨天時のライブ中継では、余計な機材なしに本機一発で全部できるというのも強みと言える。ただ液晶画面に水滴が付くと、画面タッチによる操作が鈍くなることがある。濡れても大丈夫だが、操作時は水滴を拭き取るものを用意して置いた方がいいだろう。

加えて今回から、音楽録音に向けたMusic Proというアプリが提供されている。内蔵マイクを使って録音すると、歌とギターの音を分離してくれたり、録音データをクラウドで処理して、ノイズや残響音を低減し、スタジオ品質に補正してくれたりするそうだ。

このクラウド処理サービスは1カ月、若しくはデータが100MBに達するまでは無料で使えるが、それ以降は月額580円の有料サービスとなる。なお、今回借りた試作機は録音まではできたが、クラウド経由の音質補正はアカウントエラーになって利用できなかった。

新しく提供されるMusic Pro
録音はできたが、SUDIO TUNINGへはアカウントエラーで行けなかった

オーディオ再生については、360RA対応はもちろんだが、Dolby Atmosにも対応している。また通常のステレオ音源も、ヘッドフォンで立体的な音響で聞かせる360 Upmixという機能が使用できる。DSEE Ultimateとは排他仕様になっているが、今回は360 Upmixと、元々360RAである音楽ソースを聴いてみた。

ステレオ録音を立体音響へアップコンバートできる

360RAのソースは、Amazon Musicにてジェフ・ベックの「レッド・ブーツ」を試聴してみた。全体的に高域寄りではあるものの、低音もしっかり感じられる。また顔の前50cmぐらいの距離に置くと、耳の横で鳴っているような包み込みが感じられ、360RAらしい音像を確認する事ができた。逆にあまり顔に近づけすぎてしまうと、立体感が失われてしまうので、適度な距離があったほうが良好である。

本機を横向きで固定できるようなスタンドがあれば、仕事中にキーボードとディスプレイの間に立てかけてスピーカー代わりに使うというのもアリだ。

一方360 Upmixでは、Tears For Fearsの「ウーマン・イン・チェイン」をヘッドフォンで試聴した。元々は圧の強いサウンドだが、360 Upmixでは音像が一歩下がる。下がったのち、奥行き方向に拡がるといった感じだ。ステレオミックスで音が団子状に固まっていた部分が分離され、全体的に見通しが良くなる。音楽によっては圧があったほうがいいと感じられるかもしれないが、スタジオミックスの別テイクを聞いているようで、聴き馴染んだ曲ほど楽しめる。

時折こんなガチで魔法みたいなことをやってのけるから、ソニーは面白い。

総論

Xperia 1シリーズは、ただのスマホというよりはクリエイティブツール的な立ち位置なので、普通にSNSに載せるために写真や動画を撮るという人にはオーバースペックなところはある。Cinema Proなど、ほとんどの人にはわけがわからないだろうが、Video Proは比較的普通のビデオカメラに近いため、VlogerやYouTuberでもちょっと勉強すれば使えるようになっている。

今回はズームレンズに加え、シームレスズームやライブストリーミング機能もVideo Proに追加されたことで、Xperia 1 IVはビデオ方面へ大きく伸ばしたモデルと言えそうだ。ただ光学ズームの範囲が実質約1.5倍と狭く、すでに高倍率ズームに慣れた現在からすれば、「こんだけ?」という感覚は残る。

音声収録機能としては、Music Proがテストできなかったのが残念なところだが、クラウド処理して戻す有料サービスは面白い。ちょっとイイ感じに録音したいだけのアマチュアから、プロのプリプロダクションまでは、スマホ1発でカバーするという発想が面白い。

世界発ズームレンズ搭載ということで、世の中もうちょっと大騒ぎになっても良さそうではあるが、元々クリエイター向けという立ち位置でもあることから、割と静観モードに入っている感がある。加えて19万円越えという価格ゆえに、普通の人には関係ないモードに入っているのかもしれない。ただ、半導体不足に加えてこの円安では、スマートフォンの“20万円超え”が珍しくなくなるのも、時間の問題のようにも思える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。