小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1040回
キヤノン発のVlog機!?「EOS R10」で動画を撮る
2022年7月13日 08:30
RFマウントでAPS-C?
フルサイズ一眼で動画を撮るというムーブメントは、実質キヤノンが作ったようなものである。そのキヤノンが一眼レフではなく、ミラーレスでフルサイズのシリーズへ乗り出したのは2018年10月の「EOS R」が最初だった。ソニーのフルサイズミラーレス「α7」シリーズが好調で、各メーカーともその船に乗った、という事である。
以降EOS Rシリーズは順調にラインナップを拡充してきたが、この夏、新シリーズとして、フルサイズと同じRFマウントを採用したAPS-Cサイズのミラーレス「EOS R7」と「EOS R10」が発売される。
フルサイズとAPS-Cサイズでマウントが同じなのは、すでにソニーのEマウントがある。レンズが使い回せるということで、センサー違いで2台持ちするというユーザーもいるわけだが、それと同じ使い勝手がEOS Rで実現する事になる。
さて「EOS R7」と「EOS R10」だが、小型のR10のほうがVlogのようなカジュアルな動画撮影には使いやすいのではないか、と言われているところだ。実際にそうなのか、R10の動画撮影機能を検証してみた。
フルサイズライクなボディ
R10は、RFマウントカメラとしては初のAPS-C機ラインナップの一角ということもあり、キットレンズも同時に発売される。直販価格ではボディ単体が128,480円、「RF-S18-45 IS STMレンズキット」が143,880円、「RF-S18-150 IS STMレンズキット」が176,880円となっている。今回はRF-S18-45とのセットでお借りしている。
APS-Cカメラは、コンパクトデジカメ的な文脈からレンズ交換型へ進化した流れと、フルサイズをコンパクト化した流れがある。R10の場合、グリップの深さなどはフルサイズと変わらないほどしっかりしており、デザイン的にもフルサイズからの流れを組む小型機と言えそうだ。
注目のマウント部だが、マウント径からすると、センサーがやけに小さく感じる。設計としてはつじつまが合っているのだろうが、工業デザイン的にはアンバランスな感が否めない。
同じフルサイズ互換のAPS-C機であるソニー「ZV-E10」と比べてみると、筆者の言わんとしていることがおわかり頂けると思う。
Eマウントは元々APS-Cマウントとして発表されたわけだが、後々フルサイズになることを隠しつつも、バランスとしておかしくないギリギリの径で設計された。一方RFマウントは、最初からフルサイズ用マウントとして十分なサイズで登場していることから、APS-Cセンサーを入れるとかなり周囲が余る。
APS-Cレンズなら鏡筒部は細身にできるが、根元のマウント部が大きいので、レンズラインナップはどうしても先細の漏斗のような格好になっていく。それをカッコイイと思わせることができるかが、課題となってくるだろう。
サイズ感としては、元々ZV-E10はビューファインダがないので高さが抑えられているが、R10はビューファインダを搭載していることから、若干大きくなる。ただグリップ部を除いたボディ部はあまり差がない。さらに小型化に進むのであれば、マウント径は大きくても、ほぼα6000クラスまで小型化できる余力を残している。
センサーはデュアルピクセルCMOS AF対応センサーで、最大画素数約2,420万画素。静止画撮影では最大6,000×4,000で撮影できるので、3:2の6Kセンサーという事になる。動画記録形式はMP4で、4K、4Kクロップ、HDサイズで撮影可能。また標準モードと高圧縮モードを備えている。加えてHDR PQ撮影もサポートしているので、組み合わせとしては膨大な数になる。ここでは主なスペックのみ掲載する。
撮影モード | フレームレート | 圧縮モード | HDR PQ OFF | HDR PQ ON |
4K UHD | 29.97/23.98fps | 標準 | 約120Mbps | 約170Mbps |
4K UHD | 29.97/23.98fps | 高圧縮 | 約60Mbps | 約85Mbps |
4K UHDクロップ | 59.94fps | 標準 | 約230Mbps | 約340Mbps |
4K UHDクロップ | 59.94fps | 高圧縮 | 約120Mbps | 約170Mbps |
フルHD | 59.94fps | 標準 | 約60Mbps | 約90Mbps |
フルHD | 59.94fps | 高圧縮 | 約35Mbps | 約50Mbps |
フルHD | 29.97/23.98fps | 標準 | 約30Mbps | 約45Mbps |
フルHD | 29.97/23.98fps | 高圧縮 | 約12Mbps | 約28Mbps |
HDR PQをONにすれば、全体的に高ビットレートでの収録となる。それとは別に、異なる露出のフレームを合成してダイナミックレンジの広い動画を撮影できる「HDRモード」も備えている。これはあとで試してみよう。
フルフレームの4K撮影は6Kからのリサイズ処理が入るので、プロセッサの処理が最高30pまでで限界、クロップして4K等倍で取り出せば60pまで撮れる、という事だろう。一方フルHDでは画素を間引いて読み出すので、フルフレームで60pまで撮影できる。
軍艦部は右肩にダイヤル類が集中している。コントロールリングが2つ、さらに背面にはジョイスティックも装備しており、かなりマニュアルコントロールに力を入れている事がわかる。
録画ボタンは少し奥まったところにあり、手触りでは手前のLOCKボタンと混同しがちだ。LOCKボタンは長時間録画の際に誤って操作してしまわないようにするため有用だが、場所が妥当なのかは議論の余地がありそうだ。
背面にはAF ONボタンがあるが、AFとMFの切り替えは前面にある。ちょっとこのあたりもバラバラ感がある。またAFとMF切り替えレバー部が下にあり、ビデオ三脚のプレートを取り付けてしまうと、ものすごく操作がやりづらい。レバー部を上向きにしてくれればこんな事もなかったのだが、ビデオ三脚への固定をあまり視野に入れていない設計だと言える。
ファインダは0.39型OLEDで、視野率100%、倍率約0.95倍。液晶モニターはTFTタッチ式のバリアングルで、3型104万ドット。
左サイドには、充電兼用のUSB-C端子、Micro HDMI端子がある。その前にはマイク入力とリモコン端子がある。バッテリーは底部で、SDカードスロットもここにある。
レンズも見ておこう。APS-Cサイズ用RFマウントズームレンズで、保管時は沈胴しているが、撮影時には手動で繰り出してやる必要がある。35mm換算で18mmから45mmで、APS-C換算ではだいたい28mmから70mmという事になる。解放F値は4.5~6.3で、それほど明るいわけではない。
なおキヤノンでは広角ズームレンズとして、「RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM」を発表している。価格はキヤノンオンラインショップで8万5,800円。APS-Cではだいたい24mm~48mmぐらいになるはずなので、もう少しワイドが欲しいという方にはいいレンズだろう。
条件が厳しいHDR撮影
【お詫びと訂正】記事初出時、HDR設定の説明などに誤りがあったため、修正・加筆を行ないました。(7月13日11時50分)
ではさっそく撮影してみよう。まずは画角だが、4KとHDで画角が変わるカメラが多い中、R10は4KとHDが同じ画角である。さらにデジタルズームの機能もあるが、これはフルHDで30p以下に設定した際にしか使えないという制限がある。4Kで使えないのはなんとなく分かるが、フレームレートまで制限があるのは珍しい。
手ブレ補正もテストしてみた。レンズ内の光学手ブレ補正が常時使用できるのに加え、電子手ブレ補正が2段階で併用できる。そのぶん画角は狭くなるが、かなり補正力は高い。
まずは晴天の海岸ということで、HDRで撮影するのが妥当である。HDR撮影では、白飛びが緩和されるとある。モードダイヤルで動画モードにした際に選択できるほうが、露出の異なるフレームを合成することで高ダイナミックな映像が得られる「HDR動画」である。なお「HDR PQ動画」は、モードダイヤルでマニュアルモードにした際に撮影できるもので、HDR動画とは全く別物である。
確かに高コントラストながら空が白飛びせず、高ダイナミックレンジな映像が簡単に撮影できる。発色もよく、グレーディングなしで良好な結果が得られるのは、夏の撮影にはありがたい。
ただ、通常撮影からHDR撮影にした途端、メニューの多くの機能が使えなくなってしまう。特に使いたい機能を集めておける「マイメニュー」まで使えなくなるのには参った。簡易的にHDR撮影ができるモードとして設計されているようだが、またHDRでは電子手ブレ補正が使えなくなるなど、撮影条件がかなり絞られることになる。
HDR撮影では、解像度およびフレームレートがHD/30pに固定される。
一方HDR PQ撮影では解像度やフレームレートが選択できるが、元々静止画撮影用のマニュアルモードから撮影するため、撮影を始めるまで動画での画角がわからないという不便さがある。
AFについては、得意のデュアルピクセルCMOS AFを使い、オートトラッキング、人物検出、瞳検出までこなすので、狙ったところを外すことはまずない。センサーも小型で被写界深度も深いので、AFが問題になることは少ないだろう。
ハイフレームレート撮影では、解像度がHDに落ちるものの、120pでの撮影が可能だ。注意したいのは、ハイフレームレート撮影を「切」にしても、解像度設定が元に戻らない点である。つまり4Kで撮影中にハイフレームレート撮影を挟んだ場合、ハイフレームレートを切っても解像度がHDのまま、という事である。うっかりするとそれ以降は全部HDでしか撮れてない、ということになりがちだ。
良好なVlog撮影
続いてVlog的な撮影が可能かをテストしていく。今回はカメラに加え、指向性ステレオマイクロフォン「DM-E1D」もお借りしている。ケーブルを介さず、天面のマルチアクセサリーシュー経由で音声伝送できるのがポイントだ。
装着時に背面にある「MENU」ボタンを押すと、音声専用メニューへ一発でアクセスできるのも便利である。このマイクは超指向性、90度、120度に指向性を変更できる。そこで今回は、カメラ内蔵マイクとこのマイク3モードを比較テストしてみた。
内蔵マイクの性能もなかなか高いが、風のフカレなどは多少入ってくる。一方外部マイクはウインドスクリーンもあることで、フカレに対する耐性が強い。マイクの指向性を広げていくと、次第に音声のレベルは下がっていくが、音質的には安定している。
ただ、マイクの向きは正面でしか使えないので、撮影しながら背後から喋るような場合は、カメラ内蔵マイクに頼る事になる。
実際にVlog Camと言われているソニー「ZV-E10」と比較して、使い勝手などが気になるところだ。そこで2台のカメラを使って同時にVlog風動画を撮影してみた。ZV-E10のレンズは、キットレンズの「E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS」である。
どちらも4Kで撮影しているが、AFの動作なども両者ほとんど変わらず、近寄ったり離れたりした撮影にも十分に対応できている。音声の入り具合も、マニュアルでレベルを決めたこともあって若干音量差があるものの、あまり違いは見られなかった。どちらも内蔵マイクで集音している。
映像的には当然ながら、違いがある。ZV-E10のほうが発色やディテールともに良好で、ほぼビデオカメラと言っていい仕上がりなのに対し、R10のほうは若干ディテールに甘さを感じさせる。
昨今はスマートフォンで撮影してそのままネットに上げるという流れになっており、縦位置で動画を撮影する機会も増えた。R10では縦撮りした際に、その情報をメタデータに入れ込むことができる。動画をスマホ等に転送すれば自動的に縦動画として再生されるほか、PCの編集ツールに取り込んだ際も、自動的に縦動画として取り込まれる。スマホの動画と合わせる際にも便利だろう。
夜間撮影もテストしてみた。センサーは裏面照射ではないため、ガンガンに明るく撮れるわけではないが、高感度撮影時のノイズ低減設定があるので、これを強めに設定すれば最高感度でも良好な撮影ができる。シャッタースピード1/30、絞りF3.5でISO感度を2倍ずつ撮影している。後半の雑観はISO 12800での撮影結果である。
総論
小型軽量、そして買いやすい価格帯のモデルとして登場したEOS R10。動画撮影ならこちらのほうが取り回しが良いのではと言われていたが、実際動画カメラとして使っても扱いやすい。
最高で4K/30p止まりにはなるが、AFも手ぶれ補正も強力、マイク性能も良いということで、Vlog的な撮影には向くだろう。ただ手ぶれ補正を入れると画角が狭くなるため、セルフィー撮りではもう少しワイドなレンズが欲しいところだ。
本機のポイントは、HDR動画が簡単に撮影できることだろう。制限は多いが、簡単に見栄えのよい映像が撮影できる。プロセッサパワーが不足しているのだろうが、できれば4Kで撮らせて欲しかった。
HDR PQ撮影も可能だが、編集時にはカラーグレーディングが必要になることから、コンシューマユーザーには難易度が高い。
ソニーZV-E10は完全に動画に振り切った格好での設計だったが、R10は動画にも強いと言いつつも、まだ写真がメインで、これVlog用です! というところまで割り切ってはいない。動画カメラとして比較するのはまだ早いかもしれないが、小型センサー機は動画撮影でメリットが大きい。
キヤノンとしてはまず写真市場を押さえていくことが最重要ではあるだろうが、ぜひコンパクト機での動画強化もお願いしたいところだ。