小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1038回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

上手いこと考えたな、6,480円の小型サウンドバー「Creative Stage Air V2」

Bluetoothスピーカーの次

USB直結で使えるサウンドバー「Creative Stage Air V2」

Bluetoothスピーカーが盛り上がったのは、2015年以降のことだったろう。同年に沢山の音楽サブスクサービスがローンチし、それをスマホ経由で聴く手段として、Bluetoothスピーカーが大いに注目された。イヤフォンとの違いは、かつてはどの家庭にもあったホームオーディオの代わりであったことだ。

スマートスピーカーが米国で2017年に盛り上がり、翌年には日本でも発売されたが、音質的にはまだBluetoothスピーカーのほうが有利であった。ただ、どちらのスピーカーもモノラルが主力であったことから、2019年ごろからはホームオーディオの主力は、サウンドバーに変わり始めた。

テレビの音声を充実させるために誕生した薄型スピーカーだが、Bluetoothを搭載することでスマホから音楽を鳴らせるようになった。昔ならAVアンプに繋いで切り替えしなければならないような操作が、本体だけでできるようになっていったのも良かった。

そんなわけでBluetoothスピーカーは次第にその新規性を失っていくわけだが、ではBluetoothスピーカーの文脈でサウンドバーを作ったらどうだろう。そんなところへ攻め込んでいったのが、「Creative Stage Air V2」である。6月末からすでに販売されており、直販価格は6,480円。

最近の方はパソコンの自作もしないと思われるので、Creativeというメーカーのことをご存じない方も増えているかもしれない。簡単に説明しておくと、CreativeはPCサウンドカードのメーカーとして長い歴史のある会社だ。その後もPC周辺機器として5.1chスピーカーやUSB DACなどのオーディオ製品で支持を集めている。

テレビではなく、スマホやPCと組み合わせるコンパクトなサウンドバーというのは、なかなか面白い発想だ。早速試してみよう。

長さ約40cmのサウンドバー

サウンドバーと言えば、通常は50インチぐらいの大型テレビと組み合わせるものなので、長さは短いもので80cmぐらい、長いものだと1.3mぐらいになる。だがPCモニターとの組み合わせで考えると、その長さではどう考えても画面からはみ出すことになる。

Creative Stage Air V2は全長が410mmで、サウンドバーというよりは、“ちょっと長いBluetoothスピーカー”である。V2というからには、V1があったわけだが、初代Creative Stage Airも全長410mmであった。ただ初代は単純な箱型だったが、V2は奥に行くほど細くなっており、スピーカーがやや上向きになるように設計変更されている。

全長41cmのコンパクトサイズ
設置イメージ

初代からの進化点は、入力方法だ。初代はBluetoothとアナログ、USBメモリーからのダイレクト再生機能があったが、V2ではUSBメモリーからの再生を廃止し、その代わりUSB-C直結によるUSBオーディオ機能を搭載した。標準USBオーディオドライバをサポートするノートPCなどとケーブル直結で、音が出る。確かにUSBメモリーに音楽を入れて再生というのはちょっと前時代的であり、USBオーディオ機器として使えた方がメリットが大きい。

底面には2本のゴム足

前面は金属製パンチンググリルで覆われており、グリルは着脱できない。ボディ部は光沢の強い樹脂製だが、意外に指紋などの汚れには強いようだ。

スピーカー構成としては、楕円形フルレンジスピーカー×2と、真ん中に低音用パッシブラジエータ×1を備える。したがってバスレフポートはなく、エンクロージャとしては密閉型だ。周波数特性は80〜20kHz。

背面にバスレフポートなどはない

スピーカー出力は5W×2で、ピーク出力は20W。家庭内で聞くなら音量的には十分だ。右側に回路がある関係で、スピーカーのセンターはボディの真ん中ではなく、3cmほど左に寄っている。

右側面に電源とボリュームボタン、Bluetoothペアリングボタンがある。背面端子はシンプルで、アナログステレオミニ入力、USB-C端子があるのみ。オーディオソースとしては、端子入力2つとBluetoothの3つで、電源ボタンで入力がローテーションするが、端子に何も繋がっていないとBluetoothへ自動切換になる。

右側側面に電源、ボリューム、ペアリングボタン
右側背面に入力端子
どの入力で鳴っているかはLEDの色で判別する

Bluetoothのバージョンは5.3。低消費電力や通信の信頼性が向上しているが、製品としてはまだ出始めたばかりで、ホスト側の対応も待たれる。なおオーディオコーデックはSBCのみの対応となる。

従来のサウンドバーにない特徴としては、バッテリー内蔵というところである。電源なしでも6時間の動作が可能で、このあたりはBluetoothスピーカー的な思想がある。

ボディサイズに見合わない十分な量感

では早速音だしである。普通のサウンドバーならテレビが相手なので、テレビ相手ならHDMIや光デジタルになるところだ。一方本機最大の特徴は、USBオーディオスピーカーとしてパソコンと直結できるところだろう。

筆者は4KテレビをPCモニター代わりにしているので、テレビの画面と脚部の間に差し込むようにして固定した。一般のPCディスプレイなら脚部とディスプレイの間に隙間があるので、うまくそこに収まるだろう。

高さは7.5cmしかなく、画面の邪魔にならない

M1 MacBook AirとUSB-C端子で直結してみたところ、USBオーディオインターフェースとして認識した。オーディオ装置としての素性を見てみると、フォーマットは48kHz/16bit固定となっている。周波数特性からもハイレゾには非対応であることがわかっていたが、デジタルインターフェースとしてもハイレゾは非対応であることがわかる。

USB接続でのフォーマットは48kHz/16bit固定

Amazon Music HDをソースに再生してみた。全体的に輪郭がカッチリした、キレのいいサウンドである。元々ニアフィールドで聞くことを想定したスピーカーであり、全長40cmとは思えない音の広がりがある。よくLR間の狭いBluetoothスピーカーでは、モノラルと大して変わらない音像のものもあるが、本機は1万円もしない低価格機でありながら、オーディオ的な設計がよくできている。高さ的にも邪魔にならないため、PC作業中でも正面に設置できる点は大きい。

小型故に低音の出が気になるところかと思う。周波数特性としては下が80Hzなので、震えるような重低音は元々期待できないが、音楽再生においては十分な低音の量感が得られる。ただし、ある程度音量を上げた場合に限る。パッシブラジエータが駆動するほどの音圧が得られない小音量では、急に低音が出なくなる点は要注意だ。

映像ソースでも試してみた。「円谷イマジネーション」から「シン・ウルトラファイト」をいくつか視聴してみたが、サウンドの明瞭感や迫力は、PCやテレビ内蔵スピーカーとは比較にならない。やはり小さくてもそこは「サウンドバー」である。PCでの動画視聴は「本気じゃないモード」であることが多いが、音が強化されるだけでずいぶん満足度が変わってくる。

PCとUSB接続している場合、背面のUSB端子に赤いLEDが点灯する。これは内蔵バッテリー充電中のサインだ。PCと繋いでいれば勝手にバッテリーも充電されていくわけである。

多彩な再生サポート

Bluetoothスピーカーは、スマートフォン向け音楽サービスとの組み合わせで多用された経緯がある。もちろん本機もBluetooth搭載なので、スマートフォンと接続することができる。

だが本機のポイントは、標準USBオーディオドライバをサポートするところである。そこで手持ちのGoogleの「Pixel 4a(5G)」をUSB-Cケーブルで直結してみたところ、外部スピーカーとして使用することができた。またソニーウォークマン「NW-A105」からでも直結で再生できた。もちろん機種によってはうまく動作しないものもあるだろうが、USB-C端子があるスマートフォンやタブレットがあるなら、試してみる価値はあるだろう。

スマートフォン直結でも再生可能

スマートフォンとのUSB接続では、本機のバッテリーは充電モードにはならない。おそらくこの場合は、本機内蔵バッテリーで駆動しているのだろう。逆にスマートフォン側が充電されるかというとそういうこともなく、どちらも内蔵バッテリーで動いているということになる。

わざわざスマートフォンを有線で繋ぐ意味は何かと言えば、SBCで接続するよりUSB接続の方が、音質面で高域の抜けが良く、明瞭度の高い再生が見込めるという点が挙げられる。

また近くに電子レンジがあるなど2.4GHz帯にノイズが多い環境や、電波を出せない状況、例えばライブ配信中でマイクにノイズが乗ってくるような時に、機内モードにしていても音楽再生できるというメリットがある。ただその際には、音楽ファイルを事前にダウンロードしておく必要がある。

また同じ機器で再生しても、USB接続とBluetooth間で音質に違いがある。USBでは明瞭感が高い代わりに、低域の出力が「シュッとしてる」が、Bluetooth接続ではこの印象が逆になり、明瞭感は減退するものの、ドカドカと量感のある低音が楽しめる。

重量は1.23kgで片手で楽に持てるので、電源を気にすることなく、場所を移動するときに一緒に持って行けるのもポイントだ。サウンドバーながらどこにでも持って行けるという発想自体、これまでになかったものである。ただ防水防滴仕様ではないので、お風呂場や水辺での使用は控えるべきだろう。

総論

Bluetoothスピーカーは、パーソナルオーディオとしてスタートしたが、バッテリー駆動を活かしてのちにアウトドアでもよく使われるようになった。一方サウンドバーは、テレビの付属物で、どちらかというとインドアな製品であり、場所を動かすということはあまり想定していなかった。

Creative Stage Air V2が面白いのは、Bluetoothスピーカーの技術でサウンドバーを作ることで、結果的に双方のいいとこ取りをした製品になったところだ。Bluetoothのコーデックはあまり奮わないが、USBスピーカーとしていろんなものに直結できる。

本来は外付けPCディスプレイの下に設置する事を想定しているのだろうが、ノートPCに直接くっつけるだけで、映像や音楽の視聴体験が大きく拡大するのは面白い。バッテリーも内蔵しており、場所を移動するのにいちいち電源がOFFになることもない。

ハイレゾには対応しないが、“安価だけどちゃんと鳴るPCスピーカーが欲しい”という方にとって、悪くない選択肢だろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。