小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1044回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ジンバル型Webカメラ2種をテスト。Insta360 Link vs OBSBOT Tiny4K

「OBSBOT Tiny4K」(左)と「Insta360 Link」

Webカメラも次のステップへ

コロナ禍になってまず売り切れたのがマスクと消毒液だったが、PC周辺機器ですぐ売り切れたのがWebカメラだった。ノートPCには大抵ビデオチャット用のカメラが付いているが、やはりそれではダメだという人や、デスクトップ型の人がそれなりにいたということだろう。

やがてリモート会議が当たり前のものになるにつれて、デジタルカメラを会議カメラにすべく、HDMIをUSB Videoに変換するボックスが売れたり、カメラ自身がストリーミングモードを備えたりといった具合に変化していったのが、ここ2年ぐらいの動きである。

そしてWebカメラも、次のステップへ移行しようとしている。ドローンに搭載されているようなジンバル機能を使って、自由なアングルで人物をフォローしたりといった機能を提供しようというわけだ。

これは着座のリモート会議だけでなく、Webカメラをリモート授業やセミナー、プレゼンテーションといった、もっと幅広い用途へ向けていこうという話である。別途カメラマンガ付いて追いかけてくれるならともかく、授業のように毎時間行なうようなものは、ワンマンですべてを動かす必要がある。そうしたニーズに向けて、いくつか製品が出てきている。

今回は8月2日より発売された「Insta360 Link」と、今年3月から発売されている「OBSBOT Tiny4K」を取り上げてみる。

小型ながら3軸、Insta360 Link

Insta360 Linkは、3軸のジンバルと小型カメラヘッドを備えた、USB接続のWebカメラである。公式サイトの価格は45,800円。

同社は360度カメラを使って全周囲を撮影し、特定箇所を切り出すのを得意としてきたが、カメラ自体を可動させる製品は、筆者が知る限りでは初めてのはずである。ジンバルの作りやカメラのサイズ感は「DJI Pocket 2」に近いものがあるが、こうしたジンバル製品がDJIではなく、Insta360から出てきたところが面白い。

起動したところ。台座部分にステータスを示すLEDがある

撮影可能な最大解像度は4K/30pだが、HD以下では60pで撮影できる。レンズの視野角は79.5度で、F1.8。35mm換算では26mmとなる。センサーはメーカーは明らかになっていないが、サイズは1/2インチとなっており、最大4倍のデジタルズームが使用できる。

台座部正面にステレオマイクを装備

ジンバルは3軸だが、可動範囲については公開されていない。ただテストした限りでは、一般的なドローンに搭載されているジンバルと変わらないようである。

撮影モードとしては、通常撮影に加え、縦撮りの「ポートレート」、4隅に識別シールを貼ることで利用できる「ホワイトボード」、机の上を俯瞰で撮影できる「オーバーヘッド」、人物撮影位置から机に向けるとパースを補正してくれる「デスクビュー」といったモードを備えている。これは後で試してみよう。

背面にUSB-C端子を備えており、PCと接続することで電源供給もPCから行なわれる。本体底部に三脚穴があり、脚部としても開閉するので、ノートPCのディスプレイに引っ掛けて固定することもできる。

背面にUSB-C端子
底部に三脚穴
底部が開いてPCモニタに固定できる
引っ掛けるだけの簡単固定

PC向けにユーティリティが提供されており、設定やパン・チルト・ズームのコントロールができる。またAIによるジェスチャー認識に対応しており、人物の自動フォローやズームコントロールなどができる。

PC向けに提供されている「Insta360 Link Controller」

細かい配慮が行き届いた「OBSBOT Tiny4K」

OBSBOT Tiny4Kの開発元であるREMO TECHは、2016年に中国・深センで創業した、AIカメラメーカーである。2019年にCESでAI搭載のオートディレクターカメラとして「OBSBOT Tail」を発表したが、これはジンバルの付いたスタンドアロンカメラであった。

これのバッテリーや記録部分をなくし、USB接続カメラとして小型化したものが、OBSBOT Tiny4Kということになる。日本国内ではInsta360 Linkよりも早く、2022年3月ぐらいから販売されている。

スタンドアロン機からの派生モデル、「OBSBOT Tiny4K」

公式サイトでの価格は43,199円。同名で末尾に「4K」が付かないモデルも併売されており、こちらはHDバージョンとなるので、間違えないようにしていただきたい。

4Kバージョンの最大解像度は4K/30Pだが、HD解像度で使用すれば60Pでも出力できる。解像度としては他に、720pや640×360といったサイズにも対応する。レンズの視野角は86度で、35mm換算で24mm程度となる。センサーはソニー製で、1/2.8インチ。最大4倍のデジタルズームが付いており、ジェスチャーで制御できる。

台座部にマイク

ジンバルは2軸で、パン方向で300度、チルト方向で90度動かせる。カメラ部を手で動かして下に向けるとプライバシーモードとなり、映像と音声がカットされてスリープ状態となる。

カメラが縦方向に回転できないが、縦撮りにも対応している。これはセンサーの読み出し範囲を変えて縦長に切り出すという手法を取っており、切り替えには本体の再起動が必要となる。

背面にUSB-C端子があり、PCとUSB-C同士で接続できるなら、ケーブル1本で済む。PC側がUSB-Type A端子接続の場合、電源供給が不足するケースがあるため、別途電源ケーブルで給電することが推奨されている。

背面にUSB-Type C端子と予備電源端子
予備電源はUSBで供給

本体底部に三脚穴がある。またマグネット式の固定具が付属しており、ノートPCのモニター部分にも固定できる。

底部に三脚穴
底部にマグネットでくっつくスタンドも付属
粘着テープでくっつけるため、しっかり固定される

PC向けにユーティリティが提供されており、設定やコントロールを行なうようになっている。こちらもAIによる追跡モードがあり、ジェスチャーでON・OFFできる。ジェスチャーはInsta360 Linkと同じで、顔の横で手のひらを見せる事で追跡モードの制御、L字を見せる事でズームの制御となる。

PC向けに提供される「OBSBOT TinyCam」

Insta360 Linkに対する強みとしては、別売でリモコンが提供されていることだろう。カメラのパン・チルト・ズームがコントロールできるほか、3箇所のプリセットポジションへのショートカットもある。手元でPCが操作できない演者がカメラをコントロールする際に便利だ。

別売のリモコンでコントロールできる
本体にキャリングケースも付属する

一方弱点は、本体に一応マイクも付いているが、感度が低いために実用度が低いところ。別途マイクの用意は必須なので、その点はご注意いただきたい。

実際の実用度をテスト

では実際に動かしてみよう。まずInsta360 Linkは、106gと非常に軽量なために取り扱いは楽だが、ディスプレイへの装着は単に引っ掛けるだけなので、ケーブルに触るとぐらついたり外れたりする。固定カメラとして使うなら、別途ミニ三脚を使用した方がいいだろう。

今回は動画で見た方が分かりやすいと思うので、サンプルのほうで詳しく解説している。

Insta360 Linkの動作モード解説

逆光に強いHDRモードを備えるが、4K解像度では使えず、HD解像度以下での動作となる。基本はHDのカメラだと考えた方がいいだろう。ただHDRの効果はかなり良好で、全く照明を考慮していない室内でもかなり綺麗なバランスで撮影できる。

ジンバルとズーム位置を記憶できるプリセットポジションは、6箇所記憶できる。動作は非常に早いが、ジンバルが動いたあとにズームが動くといった連続動作になる。

AIによる顔認識と自動追従は、非常に感度が高く、ぐいぐい付いてくるのは小気味よい。ただ人間座っていれば位置が安定するが、立っていると細かい体重移動で常時顔の位置は揺れているので、それに逐一追従するのは絵柄として若干鬱陶しい。

ジェスチャーによるズーム動作は、顔の横にL字を作り、それを上に上げるとズームイン、下に下げるとズームアウトだ。最初の認識位置から上か下かを判断しており、指を出している限りズーム動作が続く。途中でズームを止める場合は、よきところでジェスチャーをやめる必要がある。

特殊撮影モードとして、「デスクビュー」「ホワイトボード」「オーバーヘッド」「ポートレート」の4モードがある。動画内で順にテストしているので、動作等はそちらでご確認いただきたい。

一番有用だと感じたのは、ホワイトボードモードだ。これはホワイトボードに限らず、付属のシールで囲まれた部分をターゲットにするので、ディスプレイや壁などもいける。パースも補正してくれるため、正面から撮影したように見せる事も可能だ。これはプレゼンテーションやリモート授業などで威力を発揮するだろう。

このシールで囲われたエリアをホワイトボードと認識する

ポートレートモードは、アプリ内では「配信者モード」となっている。これは配信アプリ側が縦長の9:16画像をカメラに向かってリクエストした場合に、ジンバルを使ってカメラが縦位置になるというモードで、通常の画面記録アプリではうまく動作しない。

InstagramやTikTokといった、スマホプラットフォームの配信ツールでは動作するようだ。また配信用ソフトウェア「OBS」でも縦解像度がリクエストできる。

続いてOBSBOT Tiny 4Kをテストしてみる。こちらもHDRを搭載しており、逆光に強いが、4K解像度ではHDRが動作するが、HD解像度では動作しない。4Kが基本のカメラだと言えそうだ。

OBSBOT Tiny 4Kのカメラ調整パラメータ
OBSBOT Tiny 4Kの動作モード解説

AIによる顔認識と追従も、Insta360 Linkと同じハンドアクションで動作する。こちらは追従がややゆっくりで、この滑らかな動きが特徴だと言えるだろう。今回ズームをテストするのを忘れてしまったが、顔の横にL字を作ると、ソフトウェアで設定した倍率まで動くという作りになっている。ジェスチャしている限り動き続けるInsta360 Linkとは考え方が違い、基本的には1度のアクションで一種のプリセットを動かしていると言える。

ポジションメモリーは3箇所記憶できる。OBSBOTの強みは、この3つをリモコンで動かせるところだ。カメラやPCから離れた場所でプレゼンしている場合にカメラポジションを切り替える際には、リモコン操作のほうが圧倒的にスマートに見える。

また動作もジンバルとズームが同時に動き出すため、動作がゆっくりのように見えて、実は動きの全体尺からすれば、Insta360 Linkとそれほど変わらない。

画面モードで、「縦向き」という設定がある。これに切り替えると一旦本体が再起動するが、これはセンサーの読み出しエリアを変えて縦動画を出力するモードだ。配信アプリ側から縦横解像度をリクエストしなくても強制的に縦で出てくるので、設定のややこしさはない。ただ実質的にはクロップ画像なので、画角は狭くなる。

縦向きの画面モードが設定できる

総論

今回のテストでは、Insta360 LinkのHDRに合わせて低照度で撮影しているので、画質的にはOBSBOT Tiny 4Kが不利な結果となった。当然だが、どちらもちゃんとした照明の元では、さらに高画質で配信できる。

Insta360は映像クリエイターへの認知度が高いため、すでに多くの人が入手してテストを始めているようだ。従ってノウハウも早く蓄積されていくだろう。ホワイトボードモードやデスクビューモードなど、パース補正まで含めた特徴的な動作モードを備えており、カメラ1台で多くのアングルがこなせるカメラに仕上がっている。HDRがHD解像度までしか効かないというのが惜しいところだ。

一方OBSBOT Tiny 4Kはリリースは早かったものの、ベンチャー故に認知度で苦戦しているところがある。4K解像度をベースに置くカメラなので、HDへの切り出しなどにも対応できる。また動きに滑らかさがあり、映像としては安定感が感じられる。別売にはなるが、リモコンが使えるのも便利だ。カメラやPCから距離があるケースで、ワンマンオペレーションする場合には、必須だろう。

ジンバル型Webカメラは、まだそれほど市場には多くないところだが、逆にDJIやGoProがなぜやらないのか、と思わせる分野でもある。新進気鋭カメラメーカーとも言える彼らがWebカメラをどう考えるのか、その答えもぜひ見て見たいところである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。