小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1045回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ミラーレスの必需品!? 小型ガンマイク、ソニー「ECM-G1」vs ゼンハイザー「MKE200」

ミラーレス用マイクがバカ売れ

ゼンハイザー「MKE200」(左)とソニー「ECM-G1」

カメラアクセサリも様々あるが、昨今は三脚やジンバルなど、動画撮影用と思われるアクセサリの注目度が高い。加えてここ最近よく売れているのが、「カメラ用マイク」である。

元々デジタルカメラは静止画を撮影する機器のため、集音機能が弱かった。よってデジタルカメラでの動画撮影を専門にする人たちは、マイクやレコーダを別に用意するのが普通だった。それが昨今は、Vlog向けとして集音機能を強化したミラーレスカメラも登場してきているところだ。

一方リモート会議が一般的になるに従い、“実はマイクって大事”という事が広く認知されていった。その結果として、Vlogやライブ配信としてしゃべりを撮影するなら、当然マイクも用意しないと、という流れになっていったのではないかと想像する。

Vlog向けミラーレスカメラ「ZV-E10」が人気のソニーでは、8月12日よりデジタルカメラ専用ショットガンマイク「ECM-G1」を発売した。ソニーストアでの価格は17,700円。小型で長さも抑えられているが、指向性の鋭いスーパーカーディオイドタイプである。

同様の製品としては、すでに昨年からヒット商品となっているゼンハイザー「MKE200」がある。同社はビデオ用マイクとしてMKEシリーズを展開しているが、その中でも一番小型のモデルである。価格はネットで11,800~14,300円といったところだ。

今回はソニーZV-E10を2台用意して、まったく同じ条件でこの2モデルの性能を比較検証してみたい。

コンセプトが近い両製品

まず先にリリースされているゼンハイザー「MKE200」から見ていこう。マイク部は全長6cm、径は3.5cmで、それを台座部分が支える構造。台座接続部にはダンパー的な機構はなく、ガッシリしている。本体重量は48g。底部がコールドシューマウントになっており、多くのカメラに使用できる。

ゼンハイザー「MKE200」

周波数特性は40Hz~20kHzのコンデンサーマイクで、指向特性はスーパーカーディオイド。台座部前面に3.5mmジャックがあり、専用ケーブルでコネクタ部をネジ留めできる。

マイク側のコネクタはネジ留めできる
背面もすっきりしている

マウント位置から後方へあまり出っ張っておらず、ビューファインダを使ってもマイクがおでこに当たるといったことはなさそうだ。

ビューファインダの邪魔にもならない

ケーブルは3芯と4芯の2種類が付属しており、一般のカメラには3芯ケーブルで接続する。4芯ケーブルはスマートフォンやパソコンなどに採用されている、イヤフォンとの複合端子に使用する。ケーブルはカールコードになっており、20cmぐらいは伸ばせる。

ケーブルは2種類付属。下がスマートフォン用4芯ケーブル

一方ソニーは、昨今カメラ用マイクに力を入れており、昨年もワイヤレスマイクの「ECM-W2BT」をレビューしたところである。これまでカメラ用ガンマイクとしては、比較的全長の長いものを揃えていたが、カメラのコンパクトさに対してバランスが悪いという事もあり、ゼンハイザー「MKE200」に顧客が流れていた部分がある。

今回の「ECM-G1」は小型化に注力し、ZV-E10やZV-1にも合うサイズで登場した。マイク部の全長は約4.8cm、径は2.4cmとなっている。台座部分とホットシューマウントの間はダンパー構造で接続されており、衝撃や振動を吸収する作りになっている。重量は34g。

「MKE200」(左)に比べてだいぶ小型の「ECM-G1」

周波数特性は50Hz〜20kHzのコンデンサーマイクで、指向性は同じくスーパーカーディオイド。シュー部分はソニーオリジナルのマルチインターフェースシューとなっており、ケーブルレスで外部マイクとして認識する。

底部はマルチインターフェースシューになっている
ソニー製カメラならケーブルレスで使用できる

ソニー以外のカメラ用にオーディオケーブルも付属しており、マイク部横の3.5mm端子から出力できる。ケーブル長は約25cm。

他社製カメラ用にマイクケーブルも付属
こちらも背面の出っ張りは少ない

どちらもスーパーカーディオイド(超指向性)マイクとしては小型の部類に入るが、付属ウインドスクリーンを付けるとだいぶ印象が変わる。MKE200はそもそもちょっと大きいわけだが、付属ウィンドスクリーンは毛足が長く、装着するとかなり大型マイクに見える。ZV-E10のような小型ミラーレスと合わせると、若干大仰な感じになる。ECM-G1は見た目のバランスも考えて、ウインドスクリーンも小型に作られている。

MKE200にウインドスクリーンを装着
ECM-G1にウインドスクリーンを装着

注目点が異なる2モデル

では実際に集音してみよう。今回は同じカメラを平行に並べた状態で、同時に収録してみる。

実際の収録状態

MKE200はアナログ入力による外部マイク扱いなので、録音レベルをマニュアルで調整できる。一方マルチインタフェースシュー経由で接続するECM-G1では録音レベルがグレーアウトしてしまい、マニュアルでのレベル調整は不要になる。内蔵マイクでさえマニュアルでの録音レベル設定が必要なのだが、このマイクだとオートでいけるようだ。

しゃべりで比較すると、周波数特性としてはMKE200のほうが下に10Hzほど特性が伸びているが、音質が若干堅く、明瞭感がある。一方ECM-G1のほうは中低域にボリューム感があることから、ナマの肉声感が強い。声の質は人それぞれではあるが、マイク選びの大まかな参考になるだろう。

さらに屋外で、風によるフカレによる影響をテストしてみた。ウインドスクリーンありの状態ではおおむねどちらも良好ではあるが、MKE200のほうは全くフカレがない。やはりでっかく見えても厚手のウインドスクリーンのほうが、効果が大きいということだろう。

ウインドスクリーンの効果をテスト

テストとして両方のウインドスクリーンを外してみたが、やはり屋外ではそれなりにフカレが出る。ただ裸の状態でも、MKE200のほうがフカレが少なく、良好な集音ができている。

続いて指向性の強さをテストしてみた。1mの距離を保ちつつ、カメラの周りを回ってみたところ、MKE200はかなり前方に特性が集中しており、横や後ろの音声はかなり抑えられることがわかった。スーパーカーディオイドは前に特性が伸びる反面、多少真後ろにも特性が伸びてしまう弱点があるのだが、そのあたりも上手く抑えている。

一方ECM-G1は、横方向の音声はかなり抑えられる一方で、真後ろにも少し特性が伸びており、まさに教科書どおりのスーパーカーディオイド特性となっている。

指向性の強さをテスト

音質面として、自然音を収録してみた。自然音の場合は、双方聴き比べてみてもあまり違いがなく、どちらも良好である。ただECM-G1をマルチインタフェースシュー経由で接続すると録音レベル調整ができないので、小さい音を大きく集音するさいにはマイクケーブル入力に切り替えて、レベル調整する必要があるだろう。

自然音、背面からの集音をテスト

また、カメラの背面からしゃべりかける場合の集音特性もテストしてみた。シューに直接マウントするマイクの場合、マイクの方向が一方向に固定にされるという弱点がある。ただMKE200はコールドシューなので、マイクを前後逆向きにも付けられる。背面からのしゃべりを収録したければ、そういう手もある。今度は正面の音があまり入らないことになるが、ある意味コールドシューならではのメリットとも言えるだろう。つまり撮影者が後ろからしゃべりかける場合は、マイクの真後ろからしゃべることになる。

この点では、真後ろにも多少特性が伸びているECM-G1は良好に集音できるが、MKE200は背面からの音はほぼ入らない。マイクと口元との距離は20cmぐらいしかないが、その距離でも入らないというのは、かなり背面の特性を殺しているということだろう。

総論

ある意味似たようなマイク2種ではあるが、実際に集音してみると特性がかなり違うことがわかった。

ゼンハイザーMKE200のポイントは、とにかくフカレに強いという事だろう。屋外使用で、対面撮影がメインの場合には非常に向いているマイクである。音質は若干硬めだが明瞭感があるので、ややこもり気味の男性の声でもOKなのは心強い。

ソニーECM-G1のポイントは、小型でカメラとのバランスがよいことだろう。また後方にも指向性があり、正面からの音を集音しつつ、後ろからしゃべりかける、いわゆるお散歩系Vlogにも対応できる強みがある。またソニー製カメラであればケーブルレス接続で、レベル調整も不要でいけるのは強みである。

今回はシンプルな小型マイク2種をテストしたが、カメラ用マイクには1本で指向性を複数タイプ切り替えできるタイプの製品もいくつかある。価格はちょっと上がるし大型化するが、いろんな撮影シーンが想定される場合は、マイクを複数本買うよりもリーズナブルだ。

今や絵が綺麗に撮れるのは当たり前になってきており、スマホでも全然いける時代である。そこで差別化要因になるのは「音」であり、現場でいかにちゃんとSN比よく集音できるかで、コンテンツの評価が大きく変わってくる。

なかなか購入前にマイクの音質をテストする機会はないと思うが、本連載や藤本健氏の「Digital Audio Laboratory」でもいろんなマイクをテストしているので、ぜひサンプルを聴き比べつつ購入の参考にしていただければと思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。