小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1046回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ディスプレイがついて“本体だけで完結” リコー「THETA X」

7月より発売が開始されたTHETA X

コンシューマからビジネスまで

360度全天球の写真が撮れるコンパクトカメラとして、リコーがTHETAを初めて投入したのは、2013年11月の事であった。同年2月のCP+に参考出展された試作機は、まるでシュモクザメのような形をしており、その形のキモさからあまり注目されなかったが、製品版ではうって変わったスリムなスタイルで、ヒット商品となった。

その後360度撮影は競合他社やベンチャーにも展開が始まり、2014年から16年ごろにかけてアクションカメラと一緒になりながら、発展していった。ただしまだ昨今のようなメタバースブームは到来していない。面白いんだけど、これコンテンツとしてどうするんだよと、各社とも頭を悩ませていたところ、2018年に「Oculus Go」が大ヒットしたところで、ようやく360度カメラは一定の市民権を得た。

そんな中リコーは比較的早い時期に、ビジネス向けソリューションへの展開を始めた。不動産会社で物件の内見をバーチャル化し、店内に居ながらにして部屋の様子が見られるといったバーチャルツアーを展開、歓迎された。

2019年に1インチセンサーモデル「THETA Z1」を登場させているが、これはハイエンドモデルというよりも、業務用モデルといった理解が正しいように思える。当時公式ストア価格126,900円というのも、興味本位で買うというレベルではなかった。

そして今年7月、最新モデルとなる「THETA X」の発売が開始された。元々5月発売とされていたが、発売延期になっていたモデルである。店頭予想価格は109,800円前後。

最大の特徴は、シリーズ初となるタッチ式ディスプレイを搭載したところで、レンズ、センサー、プロセッサも一新されているという。

歴代THETAからすれば新世代となるTHETA Xを、早速テストしてみた。

本体完結型となったボディ

まずボディサイズだが、51.7mm(幅)×136.2mm(高さ)×21.5mm(厚み/レンズ突起を除く)と、1インチセンサー搭載の「THETA Z1」より若干大きめ。レンズはそれほど大きくないが、ディスプレイを搭載する面積を確保したという事だろう。シャッターボタンも全体のデザインに溶け込ませた半月型となっており、真ん中に丸ボタンが一種のアイコンであったTHETAのイメージを一掃している。

新設計のレンズは7群7枚のF2.4。光学絞りは備えていない。センサーサイズは1/2型で、有効画素数は約4,800万画素。これらが2セット裏表に実装されている。

撮影可能な静止画解像度は11,008×5,504ドット(約6,000万画素)の11Kと、5,504×2,752ドット(約1,500万画素)の5.5Kで、横縦のアスペクトはどちらも2:1となる。動画解像度と設定可能なビットレートは以下の通りで、こちらもアスペクトは2:1。本機はPCとUSB接続してライブストリーミングも可能で、その際は3,840×1,920/30fps/100Mbpsとなる。

ライブストリーミング機能も搭載
モード画素数フレームレートビットレート
5.7K5,760×2,88030fps120M/64M/32Mbps
4K3,840×1,92060fps120M/64M/32Mbps
4K3,840×1,92030fps100M/54M/32bps
2K1,920×96030fps32M/16M/8Mbps

なお公式サイトのスペックには記されていないが、本体設定では8K/10fps、2fpsでの撮影にも対応するようだ。ただし8K動画は、本体でのモニターおよび再生ができない。またスマートフォンアプリに転送できるのは4K/30fps以下の動画で、それ以外はPCなどに取り込んで編集作業を行なう事になる。

フレームレートは低いが、8Kでも撮影できる

8Kモードで撮影して実測してみたところ、以下のようなスペックで撮影できるようだ。

モード画素数フレームレートビットレート
8K7,680×3,84010fps123Mbps
8K7,680×3,8402fps30Mbps

注目のディスプレイは2.25型TFTカラーLCDで、解像度は360×640ドットの縦長。静電容量式のタッチパネルとなっている。上から下にスワイプすると本体設定、左から右で再生モード、右から左でプラグイン選択、下から上でカメラ設定となる。

Z1同様、プラグインで機能拡張できる
撮影した動画も本体だけで確認できる

動画と静止画の切り替えは、画面内のカメラアイコンか、本体右側のModeボタンを使用する。側面のボタン類は電源とModeボタンしかなく、基本的な操作は画面操作で完結する。これまでTHETAは、Z1でステータスが分かる程度の小型ディスプレイは備えたことがあるが、基本的にはディスプレイがないため、スマートフォンと接続してモニターや設定変更を行なう必要があった。THETA Xもスマホアプリが対応するが、スマホなしでも一通りの設定変更や撮影確認ができるようになった点は大きな進化だ。

本体右側に電源とModeボタン

本体左サイドにスピーカーがあり、本体での動画再生時に音声も再生される。スピーカー下にはスライドカバーがあり、ここを開けるとバッテリーとmicroSDカードスロットがある。THETAはこれまでバッテリー着脱不可、内蔵メモリーのみという方針だったが、ここに来てようやく普通のデジカメっぽい構造になったと言える。

本体左側にバッテリー、microSDカードスロット

内蔵メモリーも引き続き搭載しており、容量は46GB。内蔵メモリーからmicroSDカードへの転送機能も内蔵しており、PCへの映像取込はmicroSDカード経由で可能になった。前作Z1は初代が19GBで、動画を撮影するには心もとなかったが、昨年アップグレードモデルが出て容量が51GBになっている。

本邸底部には三脚穴のみで、USB-Type C端子は電源ボタン側に移動している

また今回は水中撮影用のハウジングも合わせてお借りしている。底部のフタを開けてカメラ本体を差し込むスタイルで、同キットには反射防止用のシールも同梱されている。ハウジングのドーム状の部分と本体の間で乱反射を防ぐためのものだ。

別売の水中撮影用ハウジング
本体を挿入したところ

ボタン操作は外側から行なえるが、画面タッチでの操作はできなくなるので、設定変更はスマホアプリで行なうことになる。

解像感が高く好印象の画質

では早速撮影してみよう。基本的には360度全方向写るので、撮影時にアングルを確認する必要はないのだが、撮影して切り出した際にどのようなイメージになるのかを掴むことができる。撮影ポイント選びという点では、やはり本体だけですばやく状態が確認できるというのは大きい。

静止画・動画の切り替えもレスポンスがよく、動作自体はスムーズだ。ただし静止画撮影では、撮影ボタンを押すとディスプレイが暗転し、撮影済みの画像が表示されるまで11Kでは6秒、5.5Kでは4秒ほどかかる。

撮影される写真は以下のような2:1の画像だが、本体およびスマホアプリ上では360度グルグル回して確認できるようになっている。またTHETA+という別アプリへ転送すれば、自由にポイントを決めてズームやアングルを変えたアニメーションとして出力できる。

撮影されたオリジナル画像
THETA+でアニメーションが作成できる
THETA+ で作成したアニメーション

写真を拡大して見ると、中央付近の解像感は十分あるが、レンズの端に近づくにつれて解像感が滲むように見える。レンズは超魚眼なので端の方は収差が大きいのだろうが、ソフトウェアで補正しているのだろう。もう少し収差補正は強めでもよかったかもしれない。

インターバル撮影もテストしてみた。通常の静止画撮影ではHDRモードが使えるのだが、インターバル撮影では使えないようだ。日没の映像などは白飛びを抑えるためにHDRで撮りたかったのだが、その点は残念である。

インターバル撮影をテスト

一方動画撮影は、今回せっかく4K以上が撮影できるので、5.7Kで撮影した。ただしリコーからはPC向けの動画編集ツールが提供されていないため、今回はInsta360提供の「Insta360 Studio 2022」を使用している。

撮影した動画を等倍で編集

一方こちらは動画撮影したものを2倍速にしているが、解像感もよく、かなり良好な結果が得られた。

撮影した動画を2倍速再生で編集

動画撮影では、記録時間設定で5分と25分が選択できる。今回は25分に設定して撮影を行なったが、4分ちょっとのところで、内部発熱のために録画が停止していた。気温は30度ぐらいで、夏場としてはそれほど暑くはないと思われるが、やはり高解像度での連続撮影となると、放熱が厳しいようだ。

音声収録にやや難あり?

では音声収録をテストしてみよう。本機のマイクは前方のみの、モノラルマイクである。したがってVlogのようなしゃべりの撮影では、モニターを反対側に向けてしゃべることになる。どのみち360度撮影できるので、見えてなくても問題ないとはいえ、撮影状況は確認したいところである。

裏向きからも撮影してみたが、音量的には若干下がる。それに加え、高域特性が落ちて明瞭感もかなり下がる。Vlog的に撮影するのであれば、正面向きで撮影したほうが良好だろう。

マイクの集音性能をテスト

ただし録画中は正面のLEDも消えてしまい、録画されているのかどうかが分からなくなる。熱でとっくに電源が落ちているのに、気がつかず5分も10分もしゃべってるみたいな事になりがちなのが、困るところである。

ハウジングによる水中撮影もテストしてみたが、あいにく撮影日は波が荒く、水中の様子がほとんど見えなかった。防水性能にはまったく問題ないが、ハウジングのレンズ部周囲には黒い接続部があるので、本体のみの撮影時とは映像の繋ぎ目が変わる。のりしろが少ないせいか、多少接続部がわかってしまうようだ。

今回は自撮り棒の先にストレートに付けただけだが、本格的に撮影する場合は、レンズ正面の方向を意識しながら撮影すべきだろう。また機会があればテストしてみたい。

水中撮影もテスト

総論

これまでTHETAは、どのみち360度撮れるのでディスプレイは不要、という考え方でやってきたわけだが、撮影後の確認もスマホが必要というのは、機動性の面で一歩劣る事になる。その点THETA Xは、本体ディスプレイで設定変更やステータスの確認、撮影後の画像確認ができるので、よりスピード感のある撮影、あるいは撮影する楽しみが拡大したと言えるだろう。

画質的には1インチセンサー搭載のZ1には劣るところだが、この機動性とわかりやすさは、カメラやIT機器に詳しくない業務ユーザーにも、ずいぶん使いやすくなったはずである。

問題は、夏場の動画撮影である。発熱のために撮影が停止してしまうというのは本機に限ったことではなく、スマートフォンや他社カメラでも時折見られる現象である。各社とも社内の放熱基準はクリアした上で製品が製造されているのだろうが、もはやその基準では昨今の夏の暑さに対応できなくなっているのではないだろうか。今後は基準の見直しや、冷却手段の提供なども期待したいところである。

価格が10万円を超えてくるとなかなか趣味では手が出しにくいところではあるが、THETAが次の世代へ向けて一歩踏み出したのは事実だ。今後はメタバース界隈の動きを睨みつつ、360度カメラはもう1回ブレイクしそうな気配である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。