小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1081回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

初代の弱点を駆逐! 超広角ズーム搭載、ソニーVLOGCAM「ZV-1 II」

ボディは初代とほぼ同じ、ZV-1 II

いよいよMark II世代へ

ソニーが「VLOGCAM」のラインナップを登場させたのが2020年6月で、ちょうど3年前という事になる。初号機は「ZV-1」で、当時店頭予想価格は91,000円前後であった。

しかしVLOGCAMを強烈に印象づけたのは、翌年発売の「ZV-E10」であった。APS-Cサイズのレンズ交換式ながら、初代のZV-1より安いということで、デジカメタイプの動画カメラの道筋を作った。

その後エントリーモデルの「ZV-1F」、ハイエンドの「ZV-E1」をリリースし、一通りのラインナップが出そろったということか、初代モデルから順にリファインが始まったようだ。今回は初代ZV-1の後継機とも言える「ZV-1 II」をお借りしている。店頭予想価格は12万円前後と、なかなか高額のカメラとなっている。

改めてコンパクトデジカメ型の仕切り直しとなる本機の実力を、テストしてみよう。

ボディは同じで中身違いのMarkII戦略

まずボディだが、同社RX100シリーズもそうだったように、マーク2、マーク3と世代を重ねてもボディの基本構造は変わらず、という方法論はZVシリーズでも踏襲されるようだ。ただ型番やロゴなどのラベリングは多少違っており、液晶上にはモデル名だけが書かれたシンプル表示になっている。

型番は液晶部にシンプルに書かれている

また鏡筒部上にも「Vario Sonnar T*」というロゴがあったが、これも無くなっている。もっともここのロゴは、ウインドスクリーンを取り付けてしまうとモフモフのために見えなくなってしまうため、意味ないじゃんという事かも知れない。

上面のモード切り替えボタンは、初号機では単に「Mode」と書いてあっただけだったが、カメラ、動画、S&Qの3アイコンで表示されている。

大きな変更点は、レンズである。ZEISS Vario-Sonnar T* 18-50mm F1.8-4.0 は、初代の24-70mm F1.8-2.8と比べると一段ワイド側へシフトしている。18mmもワイド端がいるのか、という話もあるだろうが、電子手ブレ補正を使うと一段画角が狭くなるので、そのマージンと考えればつじつまがあう。

広角側へシフトしたズームレンズ

最短撮影距離もだいぶ短くなっており、ワイド端では近接5cmまで、テレ端でも15cmまで接写できる。

またNDフィルターも内蔵しており、最大1/8に光量を絞ることができる。日中の明るいシーンでも、シャッタースピードが速くなりすぎないというメリットがある。

手ブレ補正は、光学式補正は搭載されておらず、電子補正のみとなった。レンズが広角ゆえに、それほど強力な補正は不要という判断だろう。

端子類では、充電端子がMicroUSBからUSB-Cに変更されている。2020年初代のころでさえ「ええ今どき?!」という驚きがあったが、ようやく「今」に追いついた。ただ、USB-PDには非対応。

充電端子はUSB-Cへ変更

底部の三脚穴は、左側に大きく寄せられている。これはシューティンググリップを使って自撮りした場合に、横に展開した液晶ディスプレイとボディ全体で真ん中に来るようにレイアウトしたという。

大きく左寄せになった三脚穴

通常三脚穴は、三脚に乗せてパンした際に光軸がずれないよう、光軸上に設けるのがセオリーだが、Vlogではそういった撮影はほぼやらないという判断である。同時にシューティンググリップを付けた状態でもバッテリーやメモリーカード交換ができるようになった。こうした考え方も、従来のビデオカメラとは用途が違うものであるという、先鋭化が行なわれている。

液晶を展開すると三脚穴がセンター位置になる

バッテリーはRX100シリーズでもお馴染みのXバッテリー。このバッテリーが導入されたのは2012年の「HDR-AS15」の時だったと思うが、当時は高集積タイプと言えたものの、もう11年前のモデルである。もうそろそろ互換性のある新型「X Type II」が欲しいところだ。

バッテリーはお馴染みXタイプ

メニューも初期モデルからかなり変更されている。動画などの詳細メニューの上に「メイン」というページが2つ用意され、Fnメニューのように、よく使う機能へ直接アクセスできるようになっている。

メイン1メニュー
メイン2メニュー

使える超解像と充実の集音機能

ワイド端18mmとなった新レンズだが、手ブレ補正が電子式しかないため、手持ち撮影ではどうしても電子手ブレ補正が入れっぱなしになる。そうなると画角が1段狭くなるわけだが、ズーム領域はだいたい20-70mmぐらいになると考えればいいだろう。

またテレ端以降では1.5倍の超解像ズームも使用できる。手ブレ補正の有り無しでズーム領域を比較してみた。サンプル動画のうち、ズーム最後の部分が、超解像ズーム領域である。

電子手ブレ補正有り無しのズーム領域

超解像ズームは画質劣化も少ないので、かなりの領域が使える事になる。ただズーム途中は、かなり動きがガクガクだ。動き始めでも1回ショックがあるし、光学ズーム途中と、超解像ズームに切り替わるときにもショックがある。

Vlogではビデオカメラのようなズームのアクションはあまり使用されないかもしれないが、これでは動画の中では使えない。12万円もするカメラならば、もう少し滑らかな光学ズームレンズが欲しかった。

音声収録機能は、大幅に機能アップした部分である。ハイエンドモデルのZV-E1では、3マイクカプセルを使い、集音の指向性が変えられるという機能を搭載したが、あの機能がそのまま搭載されている。前方、後方に加え、全方位、オートの4モードがある。オートでは、カメラが顔認識している場合は前方への指向性となり、顔認識ができなくなると全方位となる。

まず屋外で、オートモードで音の指向性が自動で前から全方位、そして前に戻る様子を収録した。また室内では、指向性切り替えがないZV-E10と同時に集音し、音質の違いを調べてみた。

集音性能をテスト

屋外集音では、ウインドスクリーンも装着しているが、同時に「風音低減」もONにしているため、フカレはほぼ感じない。ただ「風音低減」がONでは声質が硬くなる傾向がある。

室内ではウインドスクリーンを外し、「風音低減」をOFFにしている。ZV-1 IIは指向性があるので、集音のSNはいいが、それでも若干音が硬い感じがする。ZV-E10では指向性は変えられないが、前方への集音性能はそれほど悪くもなく、音質も肉声の感じに近い。

多彩な「トーン」が使えるが……

ソニーαシリーズでは、色をいじる機能として「ピクチャープロファイル」という機能を搭載してきた。簡易的にトーンが変えられるだけでなく、HDRのためにS-Log2やS-Log3、あるいはHDRで収録する際も、ピクチャープロファイルを切り替えることで対応してきた。

さらにはカメラ内にLUTをロードしてフィルターとして利用する「PPLUT」や、SDRながらも本格的なシネマトーンが得られるS-Cinetoneといった機能も、すべてピクチャープロファイルを拡張することで対応してきた。

2021年発売のα1では、カラーをトーンバランスという格好で調整できる「クリエイティブルック」を搭載した。そしてZV-E1では、簡単にシネマ風の撮影ができる「シネマティックVlog設定」が搭載された。

ZV-1 IIでは、上記のピクチャープロファイルも、クリエイティブルックも、シネマティックVlog設定も、全部搭載されている。色味やトーンを変更できる機能がこれでもかと搭載されているわけだが、エントリーモデルで正直そんなに機能がいるのかなという気がする。

ピクチャープロファイルは上位のカメラのサブ機として同じS-Logで撮影できるよう、いわゆる上位互換のために搭載されているのだろう。ただし、中上位機種で人気の高かったS-Cinetoneの搭載は見送られた。レンズやセンサーのクオリティが足りず、中上位モデルと同じ絵にならなかったという事だろう。

クリエイティブルックは「おまかせオート」のときのみ使えるという制限があり、おまかせなんだけど色味はいじりたいというニーズに応えたものだろう。ただ、おまかせで撮影するエントリーユーザーが、トーンをいじるところまで意識が行くのかなという気もする。

おまかせモード時のUI。左一番下が「クリエイティブルック」
「明るさ」と「色合い」の2軸でトーン調整ができる

シネマティックVlog設定は、このモードに入るだけで自動的に画角が2.35:1のシネスコサイズになり、フレームレートが23.98fpsに設定される。5×4のマトリックスでトーンを選んでいくが、ZV-E1に搭載された時は、33万円のハイエンドカメラにこうした「なんちゃってシネマ」機能がいるのかなという気がした。だがZV-1 IIぐらいのエントリー機に乗るのなら、まあわからなくもない。ただLookとMoodの組み合わせが多すぎて、結局選べない気がする。

本機ではLookに「S-Cinetone」が搭載されず、その代わり「Classic」が追加されている。組み合わせとしては同じく5×4になっている。

Look:Classic/Mood:Auto
Look:Classic/Mood:Gold
Look:Classic/Mood:Ocean
Look:Classic/Mood:Forest
Look:Crean/Mood:Auto
Look:Crean/Mood:Gold
Look:Crean/Mood:Ocean
Look:Crean/Mood:Forest
Look:Chic/Mood:Auto
Look:Chic/Mood:Gold
Look:Chic/Mood:Ocean
Look:Chic/Mood:Forest
Look:Fresh/Mood:Auto
Look:Fresh/Mood:Gold
Look:Fresh/Mood:Ocean
Look:Fresh/Mood:Forest
Look:Mono/Mood:Auto

むしろ気の利いた名前のLUTにして、オンラインからダウンロードする格好のほうが良かったのではないか。

以下のサンプルは、LookをFresh、MoodをGoldに設定して撮影した。すべて手持ち撮影である。手ブレ補正はONだが、フィックスを撮影するならもうちょっと強力な補正が欲しいところである。

Fresh × Goldで撮影したサンプル

総論

ZVシリーズは、初めてカメラというものを買う層に大きく支持されているシリーズだ。だがエントリーモデルとはいえ、12万円というのはなかなかの思い切りが必要であろう。

自撮りにフォーカスし、ワイドレンズ側へシフトしたのは妥当なところだが、手ブレ補正が電子式しかなく、やはり光学式との組み合わせほどの威力はないということで、手持ちフィックスの動画撮影にはなかなか苦しいものがある。

また光学ズームもガクガクで、単に「画角が変えられる」だけのレンズになっているのが残念なところだ。

カラーをいじる機能は、これまでαやZVシリーズに乗せてきた機能のほとんどが搭載されており、まさにてんこ盛り状態になっている。いわゆる「バエ」が撮れるカメラとしての立ち位置ではあるのだが、どの機能がどういった撮影に向いているといった組み合わせは、自分で開拓していかなければならないわけで、機能の見せ方としてこれでいいのかなという疑問も残る。

バッテリーは、RX100シリーズ同様のXタイプを使用するが、静止画メインと動画専用機では消費電力が全然違う。USB-Cから外部給電もできるが、単体で動画作品1本分の撮影はちょっと厳しい。筆者もサンプル撮影中にバッテリー切れ警告が出て久しぶりに焦った。

集音性能に関しては、ハイエンドZV-E1とほぼ同等の性能を乗せてきた。今後のZVシリーズでは標準スペックになっていくものと思われる。もっとも昨今はワイヤレスマイクも安価で購入できるようになってきており、どれぐらい音声に力を入れるのか、ユーザーごとに選択が分かれていく事になるだろう。

上位モデルの機能をふんだんに盛り込んだ意欲作ではあるが、エントリー機としては機能が多すぎの感もある。ハイエンドと同様という点では値頃感はあるが、ややこしく見えてしまうところを、購入検討者がどう思うかではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。