小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1082回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

激しく進化するInsta360 GO、“3”がもたらした正解

ドッキング状態のInsta360 GO 3

「親指カメラ」の紆余曲折

Insta360は名前の通り、最初はiPhone用360度カメラで起業した。360度カメラはその後も製品が続くが、業務用カメラとして市場を広げ、コンシューマではアクションカメラとして多くのバリエーションを展開しているのはご承知の通り。

そんなInsta360が2019年、ティザー広告を打って派手に売り出したのが、「Insta360 GO」だった。アクションカメラを極限まで小型化し、親指サイズに収めると同時に、カメラ本体には多くの機能を積まず、スマートフォン側のアプリで処理を行なうという方法論だった。

2021年には「Insta360 GO 2」をリリース。充電ケースが撮影スタンドとコントローラを兼用するという作りで、初代の弱点であった撮影時間の短さをカバーした。

そして今年6月下旬に発表された「Insta360 GO 3」では、さらにケースを拡張し、合体しているときはほぼGoPro的なアクションカメラ同等の機能を搭載するに至った。Insta360 ONE RSともまた違うアプローチのGO 3を、さっそく試してみよう。

豊富な用途に対応できる設計

カメラ部分が超小型なのは初代からの特徴として変わらないところだが、GO 2まではディスプレイがなく、モニターはスマートフォンを使う必要があった。

だがGO 3では従来充電ケース的な存在であった部分が、新たに「アクションポッド」として生まれ変わった。

カメラユニットが分離できる。左がアクションポッドだ

まずカメラユニットのスペックを確認していこう。レンズは35mm換算11.24mm/F2.2の単焦点レンズ。センサーは公開情報がなく、サイズや画素数は不明だが、スペック上の最大解像度が2,720×1,536ドットで、これは横長だけでなく縦長にも変更できる。したがって縦横ともに最低でも2,720ドット以上の有効画素数を持つセンサーのようだ。

表面のロゴ部分がアクションボタンになっている

ストレージメモリはカメラユニットに内蔵されており、バリエーションとして32GB、64GB、128GBの3モデルがある。価格は公式サイトでそれぞれ57,500円、60,500円、64,800円となっている。バッテリーも内蔵で、カメラユニット単体の駆動時間は、1080/30pで45分。前作GO2は動画モードで15分しか動かなかったので、かなり電力設計を見直したようだ。

ユニットの変更点としては、マイクが1つから2つに増設されている。レンズ下に1つ、レンズ頂点にもう1つだ。スピーカーは底部に移動している。従ってステレオ録音も可能になったほか、方向性強調モードも新設されている。

頂点とレンズ下の穴がマイク

動画撮影の解像度およびフレームレートは以下の通り。

モード解像度フレームレート
2.7K2,720×1,53630fps, 25fps, 24fps
1440P2,560×1,44050fps, 30fps, 25fps, 24fps
1080P1,920×1,08050fps, 30fps, 25fps, 24fps

フレームレートの最高が50fpsというのは奇妙な気がするが、旧PAL・SECAM放送圏では50fpsがデフォルトなので、ある意味仕方がないところではある。ただ日本やアメリカ市場を意識するのであれば、60fpsにも対応して欲しかった。

アクションポッドのほうも見ておこう。前面の凹みにカメラをはめ込むわけだが、マグネットで引き込むため、逆向きには填まらないようになっている。きちんとはめ込まれると、奧のツメでロックされるので、多少の衝撃では外れることはない。

接点同士がくっついて充電される仕組み
横のロックボタンを押してカメラを外す

カメラユニットとアクションポッド間は端子接続されるが、背面のモニターの映像伝送は常にワイヤレスで行なっているようだ。このため、ディスプレイには常時少しのディレイがあるが、撮影中にカメラを取り外すことも可能だし、取り外しによるモニター映像の切断もない。

ディスプレイがフリップして自撮りもできる

また背面のタッチ液晶を使った設定変更は、取り付け時だけでなく、取り外していても常時可能である。カメラ制御は音声コマンドでも可能だが、現在手元にあるサンプル機では英語と中国語のみの対応となっている。液晶モニターの解像度等は資料がないが、上面に180度フリップし、セルフ撮影にも対応できる。アクションポッドを併用した場合、連続撮影時間は170分となる。

Insta360は、アクセサリが豊富で出来がいいのも特徴だ。前回同様、帽子やヘルメットに付けられるクリップマウントも同梱されているが、今回マイクが増設されたことで、切り欠きの位置が1箇所増えている。

同梱のクリップマウント

ペンダント型磁気ストラップも改良されている。円盤形の固定部の周囲に溝がつくられ、紐部分が巻き取れるようになっている。

ペンダント型固定具も改良されている

固定スタンドは、マグネットとツメによるホールドの2重構造になっている。同じマウントでカメラユニットも固定できるし、アクションポッドも固定できる。底部の粘着シールにより、平たい場所に固定することもできる。

底部にマグネットとツメで固定するマウント
同じマウントがカメラユニットにも使用できる

別売アクセサリとして、「Mini 2-in-1 Tripod」がある。先端がGoProマウントのミニ三脚で、主軸部分が4段に伸びるため、自撮り棒としても使用できる。またマウント部は、オリジナルのGoProはネジ式だが、こちらはレバーアクションだけで固定できる治具が付属している。こうした細かいところもいちいちちゃんと手が入っている。

小型三脚「Mini 2-in-1 Tripod」
主軸部分が4段に伸びる
差し込んでひねってレバーを倒せば固定できる

「Monkey Tail Mount」は全長50cmの棒だが、フレキシブルに曲げて固定することができる。手すり等に巻き付けて固定するときに便利だ。

自由に曲げて固定できる「Monkey Tail Mount」

多彩なモードを搭載

Insta360 GO 3は超広角レンズを使用しており、切り出し範囲を変えることで画角を4段階に調整できる。

Ultra
Action
Linear
Narrow

また以下のような多彩な撮影モードが使える。

  • スターラプス
  • インターバル
  • HDR写真
  • 写真
  • 動画
  • FreeFrame動画
  • タイムラプス
  • タイムシフト
  • スローモーション
  • ループ録画

「FreeFrame動画」は、以前プロモードと呼んでいたモードだ。カメラ内で画像処理せずに撮影し、スマホアプリや編集ソフトで手ブレ補正、水平維持、色補正などを行なう。ナマのファイルを見てみると、2,688×2,688の正方形で記録されており、手ブレのジャイロ情報といったメタデータを元に、16:9にも9:16にも切り出せるようになっている。

「FreeFrame動画」で撮影した動画ファイル

動画とFreeFrame動画では、プリ録画機能が使える。これは録画ボタンを押す10秒、15秒、30秒前の映像が保存できる機能で、常時ループレコーディングしている状態である。

3パターンから選択できる「プリ録画」

また動画系やタイムラプスといった機能では、予約録画機能が使える。これは撮影開始時刻を設定しておくと、その時間に自動的に録画を開始する機能だ。日の出を撮りたいけど早起きしたくないといった時に使える。

指定した時間から録画をスタートしてくれる「予約録画」

以下は日の出前の早朝5時から15分間撮影したタイムラプスだ。フルオートながら輝度変化にうまく対応しており、日が陰ってもホワイトバランスのズレが少なく、絵柄が安定している。

タイムラプスで予約録画した結果

GO 3のポイントとしては、カメラユニット側で集音性能を強化した点が注目である。そもそもアクションカメラでは、防塵放水性能を上げるために音声収録は二の次とされてきた経緯があるが、昨今はスポーツ撮りよりもVlogなどの大人しい撮影のほうが市場が大きくなっている。

今回はマイクユニットが2つになり、「風切り音低減」、「方向性強調」、「ステレオ」の3モードとなっている。順にテストしてみた。

音声設定は3パターン
音声収録のテスト

「風切り音低減」は、一応ステレオ録音ではあるのだが、若干音がこもる傾向がある。風切り音低減効果はあるだろうが、しゃべりの集音よりは自然音収録の際に役に立つだろう。「方向性強調」では、前方への特性がよくなるほか、低域も増強されて、しゃべりの集音にはなかなかいい特性となっている。これはモノラル集音となる。「ステレオ」はバランスのいい音質ではあるが、正面のしゃべりの集音では若干定位が右に寄る傾向がある。カメラユニットを胸に付けて集音してみたが、カメラが正面とは逆向きになるので、こちらは若干定位が左に寄る傾向がある。

動画撮影では、多彩なカラーモードが使える。デフォルトは「鮮やか」になっているが、おそらくセンサーの元の性能は「通常版」ぐらいだろう。1や2といった区別はあるが、色の傾向は全然違う。ネーミングにはあまりこだわらず使うほうがいいだろう。

カラーモードはアイコンで選択
鮮やか
通常版
Flat
Biking-1
Biking-2
Urban-1
Urban-2
Snow-1
Snow-2
Night-1
Night-2
Ocean-1
Ocean-2

しっかりした絵柄と強力な手ブレ補正

元々は防水機能も充実したアクション系のカメラではあるが、前作までは手ブレ補正はそれほど強力なものではなかった。一方本作では、本体内で設定できる手ブレ補正はレベル1~3となり、さらに後からアプリで補正を行なう「FlowState 手ブレ補正」を搭載した。FlowState 手ブレ補正を使いたい場合は、「FreeFrame動画」モードで撮影する必要がある。

手ブレ補正選択時に表示される説明画面
手ブレ補正のレベルをテスト

OFFから順に試してみたが、カメラ内手ブレ補正はレベルごとに徐々に強くなるのがわかる。「FlowState 手ブレ補正」は、今回はパソコン用ソフトウェアで処理した。設定には「FlowState」と「FPVブレ補正」が選択できるが、FlowStateではブレ補正と水平維持とがセットになる。一方FPVブレ補正は手ブレ補正のみを行ない、水平維持はしないようだ。補正の限界値が来るとグーッとセンターに戻る動作が気になるところではあるが、補正力はかなり強い。

PC用書き出しツール「Insta360 Studio 2023」

今回のサンプルは、手ブレ補正レベル3を使い、手持ちのみで撮影してみた。手ブレ補正レベルを強くする際のデメリットは、補正が強くなるほど、モニターへの遅延が大きくなることである。ノールックで撮影するなら関係ないが、モニターを見ながら被写体を追いかけたり、パンやチルトを撮影する際には、モニター映像がかなり遅れるので、思ったところで止めようとすると行き過ぎているという事になる。

手ブレ補正レベル3にて手持ち撮影

とはいえ手持ち撮影でも非常に安定しており、超広角お散歩系Vlogカメラとしてもなかなか使いやすい。液晶がチルトするので、アイレベルだけでなく、ローアングルも撮りやすい。

総論

Insta360 GOシリーズは、どこにでも取り付けられる超小型カメラというコンセプトであった。元々アクション系のカメラは、ディスプレイが付いていても固定するとモニターなど見てないということもあり、基本はアングル確認だけで撮影時はノールックである。だからといって、モニターはいらないよね、とはなかなかならない。今どのモードで撮ってるのか、ちゃんと撮れているのかといった確認ができないと、やはり不安になる。

GO 3はこのコンセプトを延長し、カメラユニットだけでも撮影でき、アクションポッドと合体すれば通常のアクションカメラ同様の使い勝手となる。さらにはカメラユニット単体で撮影する際にも、アクションポッドがワイヤレスモニター兼ワイヤレスコントローラとして利用できる。これは、「飛ばないドローン」と同じような使い勝手である。

ポッド側にモニターとフルの設定機能が搭載されたことで、逆に「カメラ部が取り外せるアクションカメラ」という立ち位置に変わってきた。合体しているほうが全然便利なので、むしろこの状態がデフォルトである。

GO 2の時に感じた、「うーん、コンセプトは面白いけど使い勝手としてどうなんだろう」と思っていた部分が払拭された。ここまで進化してきて、ようやくGOシリーズは正解を見つけたという気がする。これは久々に、面白いと言えるカメラだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。