小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第974回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニー、VLOGCAM「ZV-1」が進化。目的が変わってきた“コンデジ”のゆくえ

「VLOGCAM」として導入された「ZV-1」。昨年11月には「ホワイト」モデルも追加された

多分初めての「アップデート」ネタ

本コラムにおいては、アップデート後こうなったという話はほとんど扱かっていないはずだ。いや自分でバックナンバー調べろやと言われるかもしれないが、もう連載974回目なのでそれはちょっと……。だが今回は色々実験したいこともあったので、アップデートネタを扱う事にした。

昨年6月に発売された「ZV-1」(オープンプライス/実売91,000円前後)は、Vlogger向けの「VLOGCAM」として導入された。YouTuberのように「ネタ」を仕込んで作品を作るのではなく、日常をドキュメンタリー風に切り取って面白いところを報告していくVlogは、2016年頃からアメリカで流行しはじめたが、日本では2018年頃から注目されるようになったようだ。

YouTuberにしてもVloggerにしても、収録して編集で作っていくコンテンツであることには変わりない。ZV-1もYouTuberによって取り上げられ、YouTube向けとして売れている部分もあるだろう。

話変わって昨年4月からの第1回緊急事態宣言後、急速にテレワークが導入され、多くの人がリモート会議を利用するようになった。それ以前からすでに支社や開発センターが遠方にある企業では、オフィス内に拠点間を結んでリモート会議が出来るシステムを常設していたところもあっただろう。

だが個人が自分の手持ちの機材を使って、自宅から個々にリモート会議に参加するというスタイルは、これまでなかったものだ。こうしたリモート会議は、仕事だけではなくリモート飲み会といった個人的なコミュニケーションにも使われるようになり、広がりを見せているところである。

こうした動きの中でカメラメーカー各社は、自社カメラをリモート会議に使うためのユーティリティを早くから提供してきた。ソニーでは昨年8月より「Imaging Edge Webcam」を公開し、ZV-1をはじめいくつかのカメラをWebカメラとして利用できるようにしている。

そんな中、この2月に公開されたソニー「ZV-1」のアップデートは、専用ユーティリティを経由せず、UVC(USB Video Class)でカメラを直接Zoomなどのミーティングアプリで使えるようにするというものになる。

そうなると、もうカメラの目的自体が変わる。録画するだけではなく、“超高画質高機能USBライブカメラ”としての利用法もあるわけだ。今回は、リモート会議やウェビナーでデジタルカメラを使うメリットについて、考えてみたい。

「デジカメ」でリモート会議する?

そもそもリモート会議にデジカメを使ってなにがいいのか、という話をしておく必要があるだろう。筆者はこれまでリモート会議になると、数年前に購入したロジクール製Webカメラを使ってきた。パソコンはLIDクローズで外部モニターに繋いで使っているので、パソコン内蔵カメラが使えないからである。WebカメラはUSBポートに挿すだけで簡単に使えるし、マイクも付いているので、あとはパソコンにイヤフォンを突っ込むだけで準備完了だ。

ただかなり広い範囲が写ってしまい、ズームが効くわけでもないので、背景の余計な物が見えてしまう。片付けるのも面倒なので、毎回グリーンバック張って背面を隠し、バーチャル背景を合成している。ただホワイトバランスがグリーンに引っぱられてしまうので、専用ユーティリティを使って色味を調整してやる必要があった。そこまでやると、トータルで言えば簡単なのか面倒なのかよくわからない。USBに挿すだけで使えるデジタルカメラがあるなら、それはかなりセットアップが楽になりそうだ。

2月9日に公開されたVer.2.00の目玉は、ZV-1をWebカメラとして扱える機能の追加である。Windows・Macはもちろんのこと、Android 11に対応したXperia 1 II、あるいはXperia 5 IIとZV-1を繋ぐ事で、USBライブカメラとして映像配信やリモート会議に利用できるようになる。なおこのアップデータは、Windows・MacOS両対応だが、MacOS版は最新のBig Surには対応しておらずアップデートできないので、ご注意願いたい。

もちろんこうした接続が一番簡単なのはわかるが、では従来のユーティリティ「Imaging Edge Webcam」を使った接続と一体何が違うのか、気になるところである。さらにこうしたユーティリティが公開されていないカメラ向けソリューションとして、HDMIをUSBでキャプチャできるキャプチャボックスを使って配信するテクニックがある。これを使っても、リモート会議はできるのだ。

じゃあこの3つの方法は実際何が違うのか。今回はリモート会議でよく使われるZoomを使って、実際に検証してみようというわけである。

3つの方法、それぞれのメリット・デメリット

まず「Imaging Edge Webcam」を使った接続だ。このユーティリティ自体はWindows 10 64bitとmacOS 10.13~10.15、11で動作するが、Appleシリコン搭載Mac、いわゆるM1搭載Macでは動かないところが弱点となる。これはソニーに限らず他社でもM1対応まではなかなか難しい状況だ。

この手のユーティリティでは、動作できるカメラが限られている。現時点でソニーのαカメラでは、Eマウント機で18モデル、Aマウントで2モデル、サイバーショットシリーズで15モデルと、比較的新しいカメラならだいたい対応できるようだ。

カメラ設定としては、動画撮影モードにしておき、「ネットワーク1」の機能の中にある「PCリモート機能」を「入」にしておく。あとはPCとUSB接続するだけである。

PCリモートを「入」にすると、「Imaging Edge Webcam」経由でストリーミングできる

ただImaging Edge Webcam経由では、映像は使えるが、カメラマイクの音声が選択できない。したがってマイクは別途パソコンに繋ぐか、パソコン内蔵マイクを使う事になる。これは他社の同様のユーティリティでも事情は同じなので、どうもリモートで写真撮影をするテザー撮影用の機能を使って実装しているのではないかという気がする。画質面の違いについては、後段をご覧いただきたい。

ビデオ設定ではSony Camera(Imaging Edge)と表示される
オーディオ設定にはSony Camera(Imaging Edge)は出てこない

続いてUSBキャプチャボックスを使った接続である。筆者がものは試しと買ってみたのは、Amazonで6,000円ぐらいで売られていた「ZasLuke キャプチャーボード」という製品だ。類似品が山のように出ており、中を開けたら基板がみんな同じだったという笑い話もある。4Kと書いてあるが、4Kでキャプチャできるわけではない。4Kの入力が可能というだけで、USB側はダウンコンバートされて最大解像度1,980×1,080で出力する。

昨年購入したZasLukeのHDMI - USBキャプチャーボックス

この方法は、カメラのHDMI出力をこのボックスに通し、USB経由でPCに繋ぐと、あたかもUSBカメラのように利用できるわけである。別途電源が必要になるわけでもなく、間にボックスを噛ますだけなので簡単ではある。またカメラ側のマイク音声も一緒に流れてくるので、別途マイクが不要というメリットもある。

ビデオは「USB3.0 HD Video Caputure」を選択
オーディオ設定ではマイクもキャプチャーボックスが選択できる

ただカメラのHDMI出力は、情報をオーバーレイしない設定に変更する必要がある。外部モニターを使っての撮影と兼用しているカメラを利用する場合は、その都度設定変更が必要になり、そこが面倒だ。

最後にUVCで接続する方法だ。ファームウェアVer.2.00では、「動画4」メニューの一番下に「USBストリーミング」という項目が現れる。これを選択したのちUSBケーブルでPCと接続すると、特にドライバのインストールなども不要で、リモート会議ツールからZV-1が選択できるようになる。

「USBストリーミング」を選択するとUVCで接続できる

マイクも同じくZV-1が選択でき、カメラマイクがそのまま使える。カメラ型番がそのまま出てくるので、複数の機材を繋いでいる時に迷いがない。

カメラ設定ではZV-1がそのまま出てくる
マイクもカメラ名で選択できる

そもそも「Imaging Edge Webcam」のようなユーティリティをつかわないので 、M1搭載Macでも利用できるのは大きなメリットだ。今後発売されるカメラでは、UVC対応の有無が新たなチェック項目となっていくだろう。

画質、音質の違い

では実際に3つの接続方法を使ってZoomでリモート会議してみた際の画質や音質について評価してみよう。

まずImaging Edge Webcam経由の接続だが、この場合カメラからの解像度は1,024×576ドットとなる。フレームレートは30もしくは20fpsだ。ズームレンズや背景ボケなどは使えるので、一般的なWebカメラやPC内蔵カメラよりはクオリティは高い。ただ、ソフトというか映像全体のディテールが甘い感じで、解像度の面ではカメラの性能を十分に引き出せているとは言いがたい。

Imaging Edge Webcam経由の画質

続いてUSBキャプチャボックスを使った接続だ。スペック上は1,980×1,080で出ている事になっているが、Zoomが実際にその解像度でストリーミングしている保証はない。ただ、解像感は悪くない気がする。気になるのは、色味が若干浅くなっているところだ。これはキャプチャーボックス自体のクセが出ているという事だろう。

USBキャプチャボックスの画質(ズーム倍率が変わっているのは一度カメラの電源を落としたため)

最後にUVC接続を試してみる。ストリームは1,280×720ドットで出ており、Imaging Edge Webcamよりも解像感は良好だ。また色乗りもよく、映像にリアリティがある。PC内蔵カメラやWebカメラとはその解像感や色味に歴然とした違いがあり、たかだかリモート会議で画質云々言っても仕方がないみたいな思いをぶっ飛ばすインパクトがある。

UVC接続の画質
同条件でMacBook Pro内蔵カメラの画質

続いての実験は、カメラ内蔵の美肌モードだ。本機にはLow、Mid、Hi3段階の美肌モードがある。これはライブ映像でも使える。実際にOFFと3モードを試してみたところ、スマホのカメラアプリのように全然違うレベルにまで加工するわけではないが、自然な感じで肌の凹凸やシワを滑らかにしてくれる。

美肌モードOFF
美肌モード Low
美肌モード Mid
美肌モード High

また顔の細かいディテールがなくなることでデータ量が少なくなるので、通信速度の一時的な低下によるブロックノイズも軽減される効果があるようだ。これは女性に限らず、リモート会議においては男性でも使うメリットが大きいだろう。

UVC接続ではカメラ内蔵マイクが使用できるが、さらにカメラのマイク端子を使えば、ラベリアマイク(ピンマイク)やカメラ用のマイクも使用できる。今回は本誌山崎編集長を相手に、手持ちのマイクの中から、audio-technica 「AT9904」、RODE「VideoMic GO」、AZDEN「SMX-30」をテストした。

audio-technica 「AT9904」
RODE「VideoMic GO」
AZDEN「SMX-30」
内蔵マイクと3種類の外部マイクをテスト

それぞれの特徴は動画内の山崎編集長のコメントでおわかりと思うが、ピンマイクは付けないまでも、指向性の高いマイクを使うだけで音質的にかなり効果が高いことがわかった。ZV-1はRM100シリーズをベースにしたボディながら、アクセサリーシューとマイク端子があるので、別途固定アクセサリなしで外部マイクを利用できる。クリアな音質を狙うなら、デジタル一眼用の指向性マイクを1つ買っておくのもいいだろう。

なお今回ご紹介した中でAZDEN「SMX-30」のみ販売終了となっているが、流通在庫はまだあるようだ。後継モデルは「SMX-30II」である。

総論

同じリモート会議でも、頻度の高い身内だけの会議なら、画質や音質よりもいかに簡単にセットアップできるかのほうが重要になるだろう。その点では、PC内蔵カメラとマイクでやってしまうというのも考え方としてはアリかと思う。

しかし他社を相手にする営業的なプレゼンや、有料のウェビナーといったお客様対応のリモート会議では、映像は明るく見栄えがいい方が印象がいいし、音声が聞き取りやすいことも重要になってくる。

そうしたときに、これまではスイッチャー入れてカメラ3台でやりましょうみたいに急にハードルがあがり、あまり簡単な解決策がなかったように思う。だがZV-1を使えば、自分1人で簡単にレベルが上げられる。

さらに本機には独自の「商品レビュー用設定」もあり、急なフォーカスの変化にも問題なく追従できるので、カメラ前に商品を出したり、後ろにある商品を見せたりしたときも、フォーカスが自分に戻ってくるの待ちみたいな妙な間ができる事もなく、クオリティの高いストリーミングが可能になる。

最後にUSB給電についても言及しておこう。UVC接続ではPCとUSBで繋ぐので、ZV-1にUSB給電が可能になる。バッテリーだけでは1時間を超える会議にはとても耐えられないので、USB給電は必須だ。ただライブカメラとして使用している場合は、USBから給電を受けていても、バッテリーが充電できるほどでもなく、内部バッテリーを徐々に消費する。給電量よりも消費電力の方が高いわけだ。

バッテリーが空になるとカメラがシャットダウンしてしまうので、リモート会議利用前にはバッテリーはフル充電しておいたほうがいいだろう。充電時間がないときに備えて、予備バッテリーも1個ぐらい欲しいところである。ライブカメラとしての利用時は、USB給電は「バッテリーの延命」ぐらいに考えておいた方がいい。

コンパクトデジカメの市場崩壊が始まって長いが、こうした会議用ハイエンドUSBカメラのニーズというのは、コンパクトデジカメを救う市場になりうるのではないだろうか。ZV-1の方向転換は、そうした流れを作っていくような気がする。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。