小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1101回
一足早く“LE Audio”を体験できる「Creative Zen Hybrid Pro Classic」
2023年11月15日 08:00
期待高まる次世代オーディオ
イヤフォン・ヘッドフォンの世界では、今やBluetoothオーディオは有線よりも標準的に使われているのではないかと思われる。Bluetooth標準コーデックにはSBCがあるが、さらに音質を上げるべくaptX、AAC、LDACといった独自コーデックによって拡張されてきた。
一方でBluetoothの標準化団体でも、Bluetooth LE(Low Energy)をベースに新たな次世代ストリーミング規格を立ち上げた。これがBluetooth LE Audioだ。従来のストリーミング規格は「Classic Audio」というグループになる。Bluetooth LEの標準コーデックとしてはLC3が定義されており、さらにハイエンド規格としてLC3 +というのもある。
LE Audioでストリーミングを行なうには、スマートフォンなど音を出す側と、ヘッドフォンなど音を受ける側の両方がLE Audioに対応する必要がある。以前ソニー「WF-1000XM5」をレビューした際には、再生機に「Xperia 1 IV」をお借りしてLE Audio接続をテストしたことがある。
LE Audio対応イヤフォン・ヘッドフォンは徐々に増えつつあるが、スマートフォン側は高価格化が進み、買い換えるタイミングが伸びていることから、なかなか両方のスペックが揃うタイミングが難しい。
この11月から発売された「Creative Zen Hybrid Pro Classic」は、LE Audio対応ヘッドフォンにLE Auio対応Bluetoothトランスミッタを同梱し、スマホ側が未対応でもLE Audio接続ができるセットとなっている。今回はこれをお借りして、実際にどう動くのか、試してみた。
フィット感の良いこなれた作り
この11月から発売されたヘッドフォンのラインナップとしては、ヘッドフォン単体の「Creative Zen Hybrid Pro」、ヘッドフォンにLE Audioトランスミッタを同梱した「Creative Zen Hybrid Pro Classic」、ヘッドフォンに独自技術SXFI対応トランスミッタを同梱した「Creative Zen Hybrid Pro SXFI」の3つがある。公式ストア価格はそれぞれ14,800円、19,800円、22,800円となっている。
今回お借りしたのは、「Creative Zen Hybrid Pro Classic」と「Creative Zen Hybrid Pro」の2つだ。ヘッドフォン自体は同じモノなので、同型のヘッドフォンが2個という事になる。
Zen Hybrid Proは、Creativeらしくブームマイクの着脱が可能なヘッドセットで、ドライバは40mmのフルレンジチタンコーティングのダイナミック型。イヤーパッドは小ぶりだが、フィット感は良好だ。
ノイズキャンセリングも備えており、4つの内蔵マイクでキャンセリングを行なう。そのほかブームマイク以外にも通話用のマイクを1つ内蔵している。ボタン類としては再生・ポーズ、スキップ、バック、さらに音量ボリューム、マイクミュートを備えており、昨今のヘッドフォンには珍しいフル装備である。
電源ボタンの扱いはやや特殊で、長押し1回でペアリングONとペアリングOFFがトグルする。ペアリングOFFにして放置すると、電源が切れる。頻繁にペアリング先を変更することを前提に設計されているようだ。
エンクロージャの表側には、色が変えられるLEDのリングライトがある。このあたりはゲーミングヘッドフォン的ではあるが、同じヘッドフォンがいっぱいあるような環境では、色で区別できるというメリットもある。
対応コーデックは、Classic Audio側はSBCとAAC、LE Audio側はLC3とLC3+。そのほかLE Audio接続時は、ユニキャストモード、ブロードキャストモード、ULLモードの3種類が使える。
ユニキャストモードは、1対1でペアリングして高音質伝送ができる。ブロードキャストモードは、1台のトランスミッタから音をばら撒いて、対応可能ヘッドフォンやイヤフォンがそれを拾うという方式。複数人が同時に同じ音が聴けるわけだ。ULL(ウルトラローレイテンシー)は、20ms程度の低遅延かつ最大96kHz/24bitで高音質再生ができる。これらの違いはあとで実際にテストしてみよう。
またLE AudioはベースがLow Energyなので、消費電力が少ないのもポイントだ。ヘッドフォン側の連続再生時間は約100時間となっている。ただしこれはNC OFFの場合で、NCを使用した場合は約80時間となる。また急速充電にも対応しており、約5分の充電で5時間程度使用できる。
付属トランスミッタ「BT-L3」も見ておこう。コネクタはUSB-Cで、サイズとしては親指の爪程度とかなり小さい。先端にペアリングボタンがあり、上部にステータスLEDがあるのみとシンプルだ。ペアリングボタンの動作は、マニュアルの日本語部分を読んでも全然意味がわからない。なぜならば本来表組みで説明されている部分を、テキストだけ取りだして貼り付けてあるからである。英語部分の説明を読むと意味がわかる。
ペアリングボタンの2秒押しでペアリングモード、2回押しでユニキャストモードとブロードキャストモードの切り替えだ。3回押しでULLモード(LC3+)とLEモード(LC3)の切り替えになる。
ポテンシャルの高いLC3+
気軽にLE Audioを体験できるのがPro Classicのウリなので、まずはトランスミッタ接続から試してみる。トランスミッタの端子がUSB-Cなので、挿せる端末は多い。Android端末やPC、ゲーム機などが対応するが、今回はAndroid端末のPixel 6aとWindows PC、MacBook Proでテストしてみた。
まずはAndroidだが、端子にトランスミッタと接続すると、スマホ側は「有線ヘッドフォンで接続」という認識になる。ヘッドフォンとスマートフォンを直接ペアリングもできるが、この場合はLE Audio接続にはならないので注意が必要だ。
トランスミッタとヘッドフォンが接続されると、どのモードで接続されたかのアナウンスが流れる。基本的には最後に接続したモードを維持するようだ。トランスミッタのペアリングボタンを押すことで接続モードが変えられるが、一番使い出があるのはULLモードだろう。LC3+は96kHz/24bitで接続できるので、配信によるハイレゾ音源もそのまま伝送できる。
音質的には非常にクリアで、低域の伸びにも無理がない。正直、ヘッドフォンの見た目はプラスチッキーでプアなのだが、音はいい。まさに次世代スタンダードな音質を楽しむことができる。
遅延量の20msがどれぐらいかというと、1/30秒=1フレームがだいたい33msなので、1フレーム以下ということになる。アニメ視聴は当然として、実写動画視聴においてもまずリップシンクのズレは感じられない。再生コントロールは、再生・停止、スキップ、バックは可能だが、ボリューム調整はできなかった。
NCは飛行機の中でテストしたが、飛行中の轟音はかなり抑えられ、低く「ゴー」とした音が漏れ聞こえる程度だ。人の声の音域だけバイパスする製品も多いが、本機は全域を均等にキャンセリングするため、人の声やアナウンスも例外なく小さくなる。
LC3モードに切り替えると、音質的にはかなり極端にガクッと落ちる。また音像も、コーラス効果がかかったようなエフェクティブな音になる。音質が落ちるのは納得出来るが、音像が揺れたようになるのは正直なぜなのかよくわからない。将来的にはファームウェアのアップデートで何らかの調整が行なわれるかもしれないが、現時点では最上位のULLモードが使えるというのが最大のメリットであり、積極的にLC3を使うメリットは見つからない。
Android向けにCreativeアプリが提供されているが、これを使って操作するにはトランスミッタ経由ではダメだ。スマートフォンとヘッドフォンを直接Bluetooth接続する必要がある。直接繋げばAACまたはSBCで伝送という事になるわけだが、アプリで提供されているイコライザ機能も使えるようになるので、音質はかなりいじれるようになる。
できる事が拡がるWindows接続
スマートフォンと接続している場合、再生モードの切替はトランスミッタのボタン操作に頼るのみで、本当にそのモードで繋がっているのか確認できない。よって、Windows PCを使って確認することにした。Windows用アプリの「Creative App」では、ソフトウェア側でモード切替ができる。
同じアプリはMac版も提供されているが、こちらではトランスミッタの「BT-L3」が認識できなかった。aptX Adaptive対応の「BT-W5」といったトランスミッタには対応しているので、そのうち「BT-L3」もアップデート対応するのかもしれない。
「Creative App」では、ULLとLE Audioの切り替えのほか、ブロードキャストモードへの切り替えスイッチもある。基本的にはブロードキャストモードはULL(LC3+)では使えないはずだが、Creative Appの設定ではBluetoothモードは特になにもしなくても、ブロードキャストモードをONにするだけで勝手にLC3に変更され、ブロードキャストモードへ切り替わるようだ。
PC再生でULL(LC3+)とLC3を比較したところ、ULLの音質は同じだが、LC3の音質はそれほど落ちない。ただしコーラスがかかったような定位の飛び散り感は同じだった。スマートフォンで使用する場合、個体差があるのかもしれない。
もう1つの目玉は、ブロードキャストモードである。今回は対応ヘッドフォンが2つあるので、実際にどうなるのか試してみた。
上記のようにアプリで切り替えるか、トランスミッタのペアリングボタンを2回押すと、ブロードキャストモードに切り替える。ヘッドフォン側も、電源ボタンを2回押してブロードキャストモードに切り替える。ボタン脇のLEDが紫に点灯すれば、ブロードキャストモードになっている。しばらくペアリング先をサーチしたのち、接続される。
送信側でのペアリング動作は不要なので、受信側が勝手にぶら下がるというイメージである。当然暗号化もされていないし、ある意味誰でも繋がってしまうので、守秘義務のあるリモート会議等でブロードキャストモードを使わないよう注意すべきだろう。
音質的にはやはり、ユニキャストモードよりも解像感が落ちる。また音量も変わってしまうので、ヘッドフォン側でボリューム調整ができるものでないと、実用上は不便だ。本機にボリュームダイヤルがあるのは、そのためだろう。
再生元としてWindows PCを使う場合、アプリの「Creative App」でかなりの「音変」ができる。単純にEQが使えるだけでなく、Creative独自の「Acoustic Engine」が使えるので、EQによる周波数特性以上の変更ができる。
ただブロードキャストモードで繋がっているヘッドフォン全部に影響を与えるので、種類が違うヘッドフォンを繋いでいる場合は効果が合わないケースも出るだろう。
総論
本製品の目玉は、次世代ストリーミング規格「Bluetooth LE Audio」で定義されるほとんどの機能が体験できることである。ULLは高音質のLC3+と低遅延を両立させたという意味では、高音質=遅延大という常識を打ち破る新技術だ。バッテリー持続時間も長いので、途中で充電もできないおでかけ時の常用として、便利に使えるだろう。
ブロードキャストモードは、一般には公共機関や会員制ジムなどでの利用が想定される、「放送」に近い伝送方式だ。家庭内では、深夜に映画でも見る際に、2人でヘッドフォンで聴くという使い方もできるかもしれない。
ただ通信が暗号化されず誰でも受信できるということで、スピーカーで大音量を流すのと同じという考え方もできる一方、著作権保護されたサブスクコンテンツをこれで伝送するのが妥当なのか、そのあたりがもしかしたら今後、議論があるかもしれない。
ヘッドフォン単体でも普通にSBCやAACで繋がり、NCもあり、ブームマイクもありということで、非常に汎用性の広い製品だ。今後広がりを見せるであろう「Bluetooth LE Audio」のリファレンスとして、1台手元にあってもいいヘッドフォンである。