小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1102回
ソニー超小型フルサイズからバルーン型照明まで。今年も大漁! InterBEE2023
2023年11月22日 08:00
2年ぶりのInterBEE参戦
11月15日から17日の3日間、千葉幕張メッセにて毎年恒例のInterBEE2023が開催された。国内では最大規模となる映像・音響機器の展示会である。最初は放送機材の展示会だったのだが、次第にネット動画の登場ですそ野が広がり、今では放送に限らず、ネット中継向けも含め多くの映像・音響機器が展示されるようになった。
筆者は例年InterBEEを取材しているが、昨年はなんと会期直前に新型コロナウイルスに感染してしまい、取材を断念したという経緯がある。昨年のトレンドが抑えられていないので、これ去年からあったよというものもあるかもしれないが、2年ぶりの取材で出会った新しい機材やソリューションをご紹介したい。
リモート、クラウド、ワイヤレスに展開するソニー
ソニーブースでは例年多くのソリューションを展示しているが、個人的に大きな目玉だと思っているのが、ソフトウェアスイッチャーの「M2L-X」である。今年9月にヨーロッパの機材イベント「IBC」で初公開された。
ソニーには以前からクラウド型スイッチャーに「M2 Live」があったが、M2L-Xはソフトウェアなので、クラウドでもオンプレミスでもどちらでも動く。また入力数も最大24となり、M2 Liveの6入力 + 2クリッププレイヤーに比べても中規模クラスのスイッチャーだ。
画面による操作だけでなく、既存のハードウェアスイッチャーのコントロールパネルが使用できるのに加え、ハードウェアスイッチャー「MLS-X1」も合わせて1つのコントロールパネルで制御できるなど、ハードソフト両軸で使えるシステムとなっている。
同じく今年9月に発表されたものの、業務用機ゆえになかなか実機を見る事ができなかった「ILX-LR1」が数台展示されていた。フルサイズセンサーのEマウントカメラで、ビューファインダやモニタ、電源部などを全て省いて小型・軽量化した、「組み込み専用α」とも言えるカメラである。ドローンへの搭載が想定されているが、リモート動作が可能なためジンバル等に載せて狭い場所での撮影に使う、工場での検査に使うなど、多くの展開が期待できる。
同じカメラ系の話題として、以前もレビューでお伝えした「FR7」が映像業界で大ヒットとなっている。フルサイズセンサーを搭載したリモートカメラだが、レンズ交換式ゆえに、パンとチルトは操作できるものの、ズームが操作できなかった。これを実現するものとして、CHROSZIEL社が開発したズームモーターユニット「CDM-SFR 」が展示されていた。1つのカメラコントローラから、パン・チルト・ズームが捜査できるようになる。FR7用のファームウェア2.0のリリースに合わせて発売される。同じものが「銀一」ブースにも展示されていたので、そちらをご覧になった方もあるだろう。
集音関係では、マイクに直接差し込んでワイヤレス伝送を可能にする「DWT-P30/B」が登場した。以前同様の製品に「UTX-P40」があったが、DWT-P30は伝送をUHF帯域(B帯)のデジタル方式とし、15チャンネル同時運用やアナログワイヤレスとの混在も可能にした。人数の多いアイドルグループにも、ある程度の数には対応できる。ただし完全プロ用なので、価格も税込み40万7千円に跳ね上がった。
クラウドスイッチャーに新参入「WRIDGE LIVE」
クラウドスイッチャーは、欧米では運用実績が積み上がってはいるものの、日本ではなかなか具体的な実例が出てこない分野である。放送業界はクラウドに行く前にまずシステムをIP化するかどうかの瀬戸際であり、部分的にライブ映像をクラウドに通すことはあっても、放送システム全体をクラウドに載せるにはまだ躊躇がある。
そんな中、コンシューマから業務クラスで利用できるオンラインスイッチングサービス「WRIDGE LIVE」が登場した。開発しているTOMODYは、配信スタジオやオンラインレッスンなどを事業化してきた経験から、現在のオンライン配信の現場には多くのプロが出張する必要があるが、人材不足で思うように手配できない、かといって配信機材は複雑すぎて素人には手が追えないといった問題を解消すべく、オンライン上ですべて管理・運用が可能なWRIDGE LIVEを開発したという。
カメラは現場にPTZカメラを配置、遠隔でカメラ操作を行なう。プロトコルはNDIほか、キヤノンとも協働し、同社が推進するXC Protocolにも対応する。キヤノンブースにもWRIDGE LIVEが展示されていた。
また、カメラアプリ「WRIDGE CAM」も開発し、スマートフォンから映像・音声を直接クラウドにアップロード、WRIDGE LIVEでスイッチングできる。今年12月1日よりフリートライアル版を公開し、来年2月1日以降は有償版となる。価格は4ソース使用できるベーシックプランで月額9,800円と、かなり安い。InterBEE会場の各所を繋いだデモも安定しており、遅延も少なかった。正直ここまで完成度の高いクラウド配信システムが日本から登場するとは、意外であった。いずれ機会を見つけてテストしてみたい。
ユニークな製品が集まる「銀一」ブース
海外からの製品を多く取り扱う銀一では、TIFFENがARRIと共同開発したリアマウント用のフィルターを出展した。ARRIのプライムレンズやズームレンズのPLマウント部に磁気リングを装着し、そこにフィルターを装着できる。
一般的にシネマ撮影ではレンズ前にマットボックスを取り付け、そこに板状のフィルターを挿入するものだが、このフィルターは大型なので、かなり高価である。またレンズ前面にねじ込みで直接フィルターを取り付ける場合は、レンズの径ごとにいろんなサイズを用意しなければならない。
一方マウント側はどんなレンズでもサイズは同じなので、ワンサイズのフィルターで全部対応できるというメリットがある。複数枚は取り付けられないが、このシーンは全編ブラックプロミストで撮影するとなれば、リアフィルターを1発入れておけばいい。またリアフィルターなら小径で済むので、価格が安いというのもポイントである。
NDのようにしょっちゅう変更するようなものはラインナップされておらず、そのシーンでずっと取り付けておく(逆に付け忘れると痛い目に合う)エフェクト系のフィルターを中心に展開されている。
銀一はオーストラリアのマイクメーカー「RODE」の正規代理店でもある。10月27日発売の新作、「Wireless Pro」も展示されていたが、気になったのはその隣にあったもの。RODEのWirelessシリーズのトランスミッタを先端に取り付け、ワイヤレスのインタビューマイクとして活用しようというものだ。マイク部にウインドスクリーンをかぶせれば、一般のインタビューマイクと見分けが付かない。
「Interview Go」と名付けられたこの製品、棒部分には全く何の機能もなく、本当にただの棒である。これはむしろ「Interview Bo」なのではないか。価格は4,000円。
バルーン型など新アイデアの照明ブランド「APARO」
沖縄を拠点に撮影機材等の通販で知られるプロ機材ドッドコムは、新たに新ブランド「APARO」の取り扱いを開始した。APAROは、シートLEDライトなどで知られる香港「FalconEyes」の別ブランドである。
空気を入れて膨らませる「RADI エア」シリーズは、内部にシートLEDライトが内蔵されており、持ち運びはコンパクトに、展開すれば軽量ながら大型ディフューズライトとして使用できる。光る面が立体的なので、非常にソフトな拡散光が得られるのが特徴。
Meteor Pixel Tubeは、約30cm、60cm、120cm、240cmをラインナップする、チューブ型のLEDライト。線光源は照明では重宝するので昨今は多くのメーカーが出しているが、色むらがあったり指定通りの色温度が出なかったりと、割と適当な製品が多いのだが、そこはさすがFalcon Eyesのクオリティでまったく問題ない。バッテリーも内蔵しており、単体で使用できる。
総論
InterBEEはコロナ禍前から次第に会場規模が縮小されてきたが、今年は少し盛り返し、幕張メッセの1ホールから6ホールまでを使った展示となった。来場者数も増加し、昨年26,901名のところ、今年は31,702人と大幅に増えている。
ただ今年は日程が妙に他のイベントと被った。会期中の15日~16日には東京ビッグサイトにて「Google Cloud Next Tokyo ’23」が、16日には同じくビッグサイトにて「Adobe MAX Japan 2023」が開催されており、クラウドやAIで存在感を見せたのはAWSだけという状態だった。まあAdobeやGoogleぐらいの企業規模になれば自社イベントを盛大に盛り上げた方がメリットがあるのだろうが、行く方は大変だ。
とはいえ、すでに映像業界もクラウド利用は待ったなしであり、ライブ映像伝送も次第にIPか5Gへシフトし始めていることが確認できたのは大きな収穫であった。あとはバジェットの大きい放送システムと、すそ野が広いコンシューマ領域がいつこれに変わるのかが注目される。IP化だけでなく、AIも取り入れたDXが当たり前に検討され始めたというのが、今年のポイントだろう。