小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第705回:三脚要らずは本当? カメラなのにハイレゾ、オリンパス「OM-D E-M5 Mark II」
第705回:三脚要らずは本当? カメラなのにハイレゾ、オリンパス「OM-D E-M5 Mark II」
(2015/4/1 09:45)
OM-D初号機が大幅リニューアル
フォーサーズではなく、マイクロフォーサーズのハイエンド機として2012年にデビューしたOM-Dシリーズ。その最初がE-M5だった。そのレトロなルックスは、まさにデジタル時代のOM-1と呼ぶにふさわしい。翌年には上位モデルのE-M1が発売、マイクロフォーサーズながら、フォーサーズの最上位E-5の後継機と位置付けられ、名実共にフォーサーズ時代からマイクロフォーサーズ時代へとバトンタッチしたのも記憶に新しいところだ。
そのE-M5がMark IIになって帰ってきた。最近のデジタルカメラは型番を増やさずMark IIやMark IIIと刻んでいくのが流行っているようだが、ボディデザインはあまり変わらないものが多い。同じ金型で中身だけ最新、といった手法が流行っているからだろう。
E-M5 Mark IIもそんなことかと思ったら、ボタンレイアウトを始め、作りが全然違う。ここまで前モデルと違う「Mark II」も珍しいだろう。本来ならば僚誌デジカメWatchの領分のカメラだが、今回は動画機能も大幅に充実させたということで、動画中心のレビューを行なってみたい。
すでに2月20日から発売が開始されており、ボディの店頭予想価格は11万円前後。ネットの通販サイトでは、10万円を切り始めたところもある。
静止画ではボディ内5軸手ぶれ補正の評価が高いようだが、動画ではどうだろうか。そのあたりを中心にテストしてみよう。
メカメカしいルックスがイカス
E-M5 Mark IIには、ブラックとシルバーの2色がある。今回はシルバーのほうをお借りしている。前作E-M5は、当時のマイクロフォーサーズへの期待を反映してか、ボタン類は少なめでシンプルな印象があった。だがMark IIではFnキーが4つ、マニュアルダイヤルが2つ、さらにそれらの設定がレバー切換で2パターン切り換えられるという、フラッグシップE-M1と同等かそれを超えるレベルの操作性を持つ。
軍艦部右肩にはマニュアルダイヤル2つを隣接させ、2つのパラメータを同時に動かせるようになった。シャッターボタンは前方のダイヤル内にあり、後方のダイヤル中央部はボタンにはなっていない。モードダイヤルは左肩に移動し、操作を左右に分散させている。
親指のかかりは大きく、高さもあるため、非常に持ちやすい。グリップ(握り)部はそれほど出っ張っていないので、この親指のかかりの高さがより効いてくるわけだ。
ポイントのセンサー部は、4/3型Live MOSセンサーで、総画素数1,720万画素、静止画での有効画素数は1,605万画素となっている。動画ではアスペクト比が16:9になるので、有効画素数はもう少し減るだろう。
肝心のボディ内手ぶれ補正は、「5軸VCM手ぶれ補正」という。センサーを動かし、角度ぶれ補正(ヨー、ピッチ)、シフトぶれ補正(上下、左右)、回転ぶれ補正の、5軸である。静止画では補正効果で露出5段分稼げるというのがポイントになっているが、動画撮影ではこれに加えて電子手ぶれ補正も加えることで、手持ち撮影でも大きな補正力を発揮するところがポイントだ。これはあとでテストしてみよう。
動画はH.264のMOVか、Motion JPEGのAVIで記録可能。また今回はフルHD Intraフレームで、最高77Mbpsでの録画が可能になっている。従来機はフラッグシップのE-M1でさえ24Mbps止まりで、光学系の良さの割には圧縮で損しているところがあった。その点が解消されたのは大きい。
記録フォーマット | 解像度 | fps | 画質モード | ビットレート |
MOV | 1,920×1,080 | 30/24 | All-I | 約77Mbps |
60/30/24 | SF | 約52Mbps | ||
F | 約30Mbs | |||
N | 約18Mbs | |||
1,280×720 | 60/30/24 | All-I | 約77Mbps | |
SF | 約52Mbps | |||
F | 約30Mbs | |||
N | 約18Mbs | |||
AVI | 1,280×720 | 30 | - | 約32Mbps |
640×480 | 30 | - | 約16Mbps |
ファインダーは約236万画素で、視野角100%。液晶モニターは3型104万画素で、タッチパネルとなっている。ヒンジは横に開いて上下に回転する、バリアングル方式となった。
端子類は左側に集中しており、マイク入力、micro HDMI出力、USB兼用のAV出力がある。HDMIはスルー出力にも対応しており、INFOボタンの長押しで情報表示を消すこともできる。HDMI出力は非圧縮4:2:2だが、内部的には4:2:0からのアップサンプリングとなる。
ただ本体のフレームレートは、厳密には60p=59.97p、30p=29.97p、24p=23.98pなので、HDMI規格との誤差が吸収できない場合、コマ飛びが発生する。このため、メーカーではHDMI出力を使った外部レコーダでの記録は推奨していないという。
ヘッドフォン出力は内蔵していないが、別途パワーバッテリホルダー「HLD-8G」を使えば、端子がある。また外部電源端子も本体にないが、これも「HLD-8G」を繋げば使用できるようになる。
フラッシュは内蔵していないが、小型だが縦横にアングルが変えられる「FL-LM3」が同梱されている。
これは楽しい! 強力手ぶれ補正
ではさっそく撮影してみよう。関東地方では今週に入って早いところではもう桜も7分咲きぐらいまで来ている。いつもの公園も花見客でごった返しているため、今回はあまりワイドで撮影できなかった。上とか下とかのアングルばかりだが、ご容赦願いたい。
まずはハイエンドズームレーンズの「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」を使って、フルHD 30p/All-Intraで、三脚をまったく使わずに撮影してみた。たしかにテレ端でも強烈に補正するが、まるで三脚に乗せたように、とまではいかない。だが補正の変な動きもなく、ゆるい手持ち感がでている。ショルダータイプの大型カムコーダで撮影したかのような安定感だ。
画質に関しても30pでIntra Frame、さらに70Mbpsあるので、ギスギスした感じもなく余裕がある。トーンとしてはあまり写真的というかシネマ的でもなく、ビデオガンマに近い絵づくりのようだ。
5軸VCM手ぶれ補正のポイントとして、なまじ中途半端にカメラを固定しない方が上手くいく。例えばカメラの底部を手すりに載せて手持ちで固定するといった小細工をすると、かえって手ぶれ補正がうまくはまらない。むしろ完全に手持ちのほうが、映像が安定するというのは面白い。
なお動画の手ぶれ補正には、センサーシフト+電子補正の「M-IS1」と、センサーシフトのみの「M-IS2」の2モードがある。手持ちによる歩きで双方比較してみた。画質的な違いは見られないが、やはり電子補正があったほうが、体の左右のブレを吸収できるようだ。
この強力な手ぶれ補正は、マウントアダプタを経由した別メーカーのレンズでも動作する。この場合は、手ぶれ補正モードの表示中にInfoボタンを押し、レンズの焦点距離を入力する。焦点距離は、フォーサーズ用に計算しなおす必要はなく、フルサイズ用レンズでもそのままのミリ数を入力すればいい。
試しに手元にあったExactaマウントの「Zeiss Jena Tessar 50mm/F2.8」と、OMマウントの「COSINA 28mm/F2.8」をそれぞれマウントアダプタを介して装着、手持ちで撮影してみたが、きちんと強力な手ぶれ補正が働く。フォーカスはマニュアルになってしまうが、ここまで強力な手ぶれ補正が効くと、いろんなオールドレンズで動画を撮ってみたくなる。マイクロフォーサーズはマウントアダプタも充実しているので、ほとんどのレンズが装着できるだろう。
動画で利用できるエフェクトはいくつかあるが、「ムービーテレコン」は簡単ながら使い出がある機能だ。画面内の機能をタッチすると、動画撮影中でも中央部分を拡大できる。多少画質は荒れるものの、写真用のズームレンズではどうしても倍率が足りない時に使うといいだろう。
画面全体にかかる特殊エフェクトとしては、「オールドフィルム効果」がなぜか画面の一等地ともいえる部分にフィーチャーされている。まあ面白い効果ではあるのだが、そうそう連発して使う機能でもない。なぜこれだけこんなにいいポジションに配置されているか謎である。
ムービーエフェクトは初代から数多く搭載されているが、単純に切り換えるだけでなく、エフェクトからエフェクトへ乗り換えられる。効果エフェクトを撮影時に使うのはアマチュアだけだが、学生が演出論を学ぶ教材としてはいい機能だろう。
カメラ内で動画作品完成?
動画関連の後処理機能としては、「クリップス」という機能が搭載された。これは指定した秒数のクリップをいくつか撮影する事で、カメラ内で音楽などを足し、1つのムービー作品にしてくれる機能だ。おそらくこの手の機能を一番最初に搭載したのはキヤノンのビデオカメラ・iVISだったと思うが、ここに来て他社も追従してきている。Vine(6秒動画サービス)のようなサービスによって、ショートムービーが徐々に市民権を得ているという流れもあり、コンシューマでのショートムービーは、もしかしたら芽が出つつあるのかもしれない。
クリップスを使うには、画質モード設定でクリップス用のモードを選択し、撮影する。このモードで撮影されたクリップは「マイクリップス」という特定のエリアに登録される。途中で画質モードを変えて、通常撮影を挟んでもOKだ。クリップス用の画質モードに戻して撮影すれば、またマイクリップスに登録される。
マイクリップスでは、カットの並び順や不要なカットを外すといった編集はできるが、トリミングなどの編集はできない。撮ったままの一発勝負である。書き出し時にはアート系のエフェクトをかけて、BGMを付けることもできる。
エフェクトをかければそこそこ見られる感じにはなるが、撮影時にわざわざこのモードに入らないといけないのは煩わしい。カメラ内で簡易編集はアリだとしても、撮るときから“すでにそれ用で撮っておけ”というところに無理がある。おそらく多くの人が望んでいる機能は、これじゃないだろう。映像の編集に関しては、各メーカーとも技術的に可能になってはいるが、どう使わせるかのアプリケーション面がまだ付いて来ていない感がある。
AV的にちょっと面白い機能に、「40Mハイレゾショット」という機能がある。ハイレゾとは最近オーディオで使われるようになったが、元々はレゾシューション(解像度)が高いという意味なので、映像でも音声でも使われる。
本機のハイレゾとは、センサーの画素数以上の高画素画像を得る仕組みだ。アップコンバートという意味では、超解像技術などがあるが、そうではない。これは16Mピクセルのセンサーを0.5ピクセル単位で動かしながら瞬時に8回撮影し、40Mピクセルの写真を撮る技術だ。
8回撮影する間隔はシャッタースピードに依存するので、暗い場所ではゆっくり8枚撮影する事になる。明るい場所なら手持ちでもなんとかいけるかもしれないが、暗い場所では三脚は必須だ。今回はかなり明るめのロケーションで、三脚に乗せて撮影してみた。
拡大すると、葉っぱなどが風に揺れた部分はこの仕組み特有のブレが見えるが、7,296×5,472という高解像度静止画が撮影可能だ。動かない資料の複写がローコストで実現できるなど、専門性の高い仕事にもフィットするだろう。
総論
E-M5 Mark IIは、操作ボタンが結構多いので最初は戸惑うが、色々試してみるとよく考えられたいいカメラだということがわかる。小型のボディに“機能を凝縮した感”が、いかにもオリンパスらしい作りだ。
2つのマニュアルダイヤルも、人差し指と親指で挟むようにして2つを同時に操作できる。手に馴染みやすい配置だ。
その一方で、動画の録画ボタンは妙に手前にあるため、ファインダを覗いた状態では手探りで場所がわかりづらい。間違えてFn2キーを押してしまうことが何度もあった。動画派としては、もう少し押しやすい位置に配置して欲しかった。
話題の5軸VCM手ぶれ補正は、かなり強力だ。何よりもボディ内補正なので、どんなレンズに対しても強力な補正が効くのが嬉しい。フルサイズ用の単焦点レンズも、マニュアル設定で補正対応できるのもナイスだ。
動画機能としては、この機能でこのタイミングで4K撮影に対応しないのが残念だ。パナソニックがすべてのカメラを4K対応にする勢いで邁進しているのに比べると、同じマイクロフォーサーズ勢としては違う方向性を出したいという事かもしれない。
今回はほとんど動画しか撮ってないが、ハンディでも指がかりが良く、マニュアル時の操作性もいいので、撮影が楽しいカメラだ。いかにもカメラらしいルックスと相まって、飽きの来ない長く使えるカメラに仕上がっている。もう少し時間があったら、旅にでも持っていってじっくり写真を楽しみたい機種である。
OLYMPUS OM-D E-M5 MarkII ボディー ブラック |
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