小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1223回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

デザインも人気のマーシャル、ノイキャンも搭載した「Milton A.N.C.」を聴く

6月より発売開始の 「Milton A.N.C.」

ファッションアイテムとしてのMarshall

Marshallと言えば言わずと知れた英国ギターアンプメーカーである。創業は1962年で、すでに60年以上の歴史がある。

ギターアンプとしてはとにかく頑丈で、でかい音を出しても壊れないという電気的頑丈さと、上に積み上げても潰れない物理的頑丈さを兼ね備えている。

またツマミやスイッチの形状も長年統一されており、そのコンセプトはギターアンプ以外にも受け継がれているところだ。

そうした歴史のある、変わらないデザインがいつの間にかファッションとして捉えられるようになった。きっかけは2021年頃、地元英国で古着とマーシャルヘッドフォンを合わせるといったトラッドなファッションが流行。

日本の公式もファッションアイテムとしてSNSや女性誌等で発信を始めたところ、ファッションに敏感な女性層から支持されるようになった。2023年頃にはファッション系ブログやInstagramなどで取り上げられ始め、急速に広がった。

現在東京でも電車の中でMarshallヘッドフォンを首からかけている女子を多く見かけるところだが、筆者が以前住んでいた宮崎市のバスの中でも見かけるほど、地方にまで浸透したようだ。

主に見かけるのは2020年発売の「MAJOR IV」か、2024年発売の「MAJOR V」だが、MAJORシリーズでもノイズキャンセリングへのリクエストが多かった。

そこで2026年6月に発売された新モデルの「Milton A.N.C.」は、MAJORシリーズ同様オンイヤータイプながら、アクティブノイキャンを導入。既発売の「Monitor III A.N.C.」より下、MAJOR Vより上というポジションで登場した。公式サイト価格は32,980円。

皮目のエンボス、金色のロゴ、頑丈な設計など、Marshall特有のデザインを継承している。ファッションアイテムとしても注目される新モデルを、早速試してみよう。

質感の高い作り

エントリーモデルのMAJOR Vは、ブラック、ブラウン、クリーム、ミッドナイトブルーの4色展開だった。上位モデルのMonitor III A.N.C.も、ブラックとクリームの2色。サイトには掲載されていないが、ミッドナイトブルーもあるようだ。

一方Milton A.N.C.は、現在のところブラックのみだが、この秋にはブラウンとクリームも発売予定となっている。

発表会上で展示されていた Monitor III A.N.C.は3色

エンクロージャはMAJORシリーズとほぼ同サイズだが、MAJORシリーズが表面がくぼんだデザインだったのに対し、Milton A.N.C.は表面が出っ張っている。またロゴのカラーも上位モデルMonitorシリーズ同様、ゴールドになっている。ブラックとゴールドのコントラストが、いわゆるMarshallトーンである。

ロゴもゴールドになった

表面はオーバーモルディング加工されており、頑丈で簡単には傷がつかない設計となっている。また製品全体のうち、約42%に再生由来原料を使用している。

エンクロージャ右側には操作用のジョイスティックとUSB-C端子がある。また左側にはカスタマイズ可能なMボタンを搭載する。表面と側面に、ANC用のマイクがある。

右側にジョイスティックとUSB-C端子
左側にはカスタマイズ可能なMボタン

イヤーパッドは回転することで簡単に着脱できる、バヨネットロックを採用。傷んできたらユーザーが自分で交換できる。

イヤーパッドはひねれば簡単に着脱できる

ドライバーは新開発の32mmダイナミック型。エンクロージャを内側に折りたたむことでコンパクトに収納可能だ。収納用のオリジナルポーチも付属する。

新開発の32mmダイナミックドライバー搭載
エンクロージャを内側に折りたためる
ロゴ入りのキャリングポーチも付属

Bluetooth接続コーデックは、SBC、AAC、LC3、LDACとなっている。MarshallヘッドフォンでLDAC対応は本機が初。周波数特性は20Hz~20kHzだが、LDAC 96kHz接続の場合は20Hz~40kHzとなる。

そのほかUSBオーディオモードでも動作する。この場合も24bit/96kHzまで対応し、ハイレゾ音源を聴くことができる。

さらにアナログイヤフォンジャックからUSB-C端子への変換ケーブルも付属する。中間がカールコードになっており、ギターのシールドのようなイメージだ。端子先端にもギターシールドっぽいギザギザがある。

付属ケーブルもギターシールドっぽい

ノイズキャンセリングはON・OFFのほか、外音取り込みにも対応する。また調整型ラウドネス機能もある。これは再生音量や周囲のノイズに合わせて、聞き取りにくくなる周波数帯を自動補正するものだ。環境に左右されず、常に最適なトーンバランスで聴けるという。

ノイズキャンセリングは3モード

面白い機能として、サウンドステージ空間オーディオ機能がある。これはMarshallで開発したトゥルー・ステレオフォニックス機能から着想を得た、空間オーディオ化アルゴリズムだ。ステレオ音源をよりリッチに聴かせてくれる機能だという。

EQは3つプリセットできる。このうちオリジナルのMarshallサウンドが1番に固定となっており、残りの2つはカスタム、バスブースト、ミッドブースト、トレブルブースト、ミッドリダクションの5種類から選んでプリセットできる。

EQは オリジナルMarshallサウンドが標準

またベータ版の機能として、近くにMarshallの対応製品ユーザーがいれば、オーディオを共有できる機能がある。実質的にはAURACASTを使用するため、対応のスマートフォンも必要になる。

加えてAppleの「探す」とGoogleの「Find Hub」機能に対応。ヘッドフォンがある場所を簡単に特定できる。

再生時間はANC OFFで最大80時間。ANC ONでは50時間となっている。充電時間は約2.5時間。

ドライバーは小型ながら低音重視

では実際に音を聴いてみよう。まずはANC OFF、サウンドステージ OFF、EQはMarshallサウンドに設定している。これがデフォルト状態だ。

今回はピーター・ガブリエルのシングル「Won't Stand Down」Bright-Side Mixを聴いてみる。

今年ピーター・ガブリエルは1年かけて満月ごとに新曲をリリースする企画を進行しており、この曲は5月の満月に公開されたものだ。また同じ曲で必ずBright-SideとDark-Sideの2つのミックスが公開される。全て公開が終わると、「oi」というアルバムにまとめられることになっている。

ベースの深い沈み込みが印象的なスローナンバーだが、本機はノーマル状態でもかなりの低音を吐き出す。左右に大きく振られたキーボードの分離感も良好だ。

ドライバーはオンイヤータイプということもあり、32mmと多少小さい。多くのオーバーヘッド型ヘッドフォンでは40mmが標準だが、それでも低域の張り出しは十分だ。

EQを切り替えてみたが、最低が160Hz、最高6.25kHzまでの5バンドで、それほどレンジは広くない。また上下はdB表示がないので、可変範囲は不明である。かなり激しくいじってもそれほど劇的に音が変わるわけではないので、おそらく±3dB程度ではないかと思われる。

EQの可変範囲はそれほど大きくない

音が大きく変わるのは、ANCをONにした時だ。密閉感が増すかのように低音がドカンと出るようになる。EQより激しい変化だ。低音が出すぎと感じる場合は、カスタムEQで低音を下げた設定を作っておくといいだろう。

ANCレベルはアプリのスライダーで低・中・高・アダプティブの4段階で選択できる。今回はアダプティブでテストしているが、ANCの効き具合は今どきのANCからすればやや抑え気味だ。オンイヤー型なので、物理的な密閉性がそれほど良くないこともあるだろう。ただ電車の走行音などはかなり下がるので、音楽のボリュームを下げてもよく聞こえる。

サウンドステージは、「居間」というパラメータで小・中・大・特大の4つが選べる。要するにルームサイズという意味だろう。もう一つ「音量」というパラメータで、効果量を設定する。デフォルトは「居間」が中、「音量」80%となっている。

サウンドステージ設定画面

サウンドステージをONにすると、空間的な広がりがバッと増すのが感じられる。その一方で若干音がオフ気味になり、エコー感が増すため、音の解像感は若干下がる。モニターっぽく聞きたければOFFに、普段使いならONのほうが楽しいだろう。

ジョイスティックの操作は快適。押し込みで電源ON、長押しでBTペアリング、前に倒すと音量ダウン、後ろに倒すと音量アップ、外側に倒すと次の曲、内側に倒すと曲の先頭に戻る。

カスタムできるMボタンは、ダブルプレスすると「SPOTIFY TAP」が使える。好みの音楽を自動再生してくれる機能だ。

MボタンのダブルプレスでSpotifyに自動アクセス

装着感は、イヤカップの押し付けはそれほど強くない。またイヤーパッドもソフトなので、当たりは柔らかい。ただ筆者のようにメガネをかけていると、耳たぶが押されてメガネのツルに押し付けられるので、長時間の使用時には耳たぶに痛みを感じる。メガネをかけていない人なら快適だろう。

総論

MAJOR Vは2万円弱の価格だったが、ノイキャンがついて3万円強と、Milton A.N.C.は1万円以上の開きがある。ただこれまでノイキャン付きはMONITORシリーズしかなかったので、こちらは5万円弱である。

ファッションアイテムとしては若干高いが、ファッション性+実用性が欲しいという人にフィットするだろう。これまでデザイン性で売れる、特に女子ウケするヘッドフォンはそれほどなかったので、女性へのプレゼントとしてもウケるだろう。

もちろん男性ユーザーにも、一種のアイコンとして人気が出そうだ。ロック系ファッションには、これ以上フィットするブランドはない。

音質や操作性も十分で、普通に聴いて楽しいヘッドフォンである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。