小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1232回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

AIで答えを出す。Google「Pixel 11 Pro XL」のカメラ進化を探る

左から Pixel 11 Pro XL、11 Pro

期待の新作は?

先週に引き続き、今週もGoogle Pixelの新モデルをチェックする。

今回登場の新モデルは、Pixel 11、11 Pro、Pro XL、11 Pro Foldの4種類だが、カメラ的に強化が図られたのは11 Proと11 Pro XLだ。両者はサイズ違いだがスペックは同じである。

価格はGoogle Pixel 11 Pro 256GBが174,800円、512GB 194,800円、1TB 234,800円。Google Pixel 11 Pro XLは256GBが207,800円、512GB 227,800円、1TB 267,800円となっている。特にXLは全ラインナップが20万を超えてきている高級機となった。256GBモデルは、メモリーも12GBと他の容量モデルより一段引き下げられている。それでも10 Pro XLより3万円ほど値上がりしているが、メモリー価格高騰の影響もかなりあるのだろう。

ちょうど筆者の私物として手元に10 Pro XLがあるので、今回は新旧のPro XLと比較してみることにした。Pixel 10 Proと言えば、昨年100倍のAIズームを搭載したことで大きな話題となったモデルだ。

通常のデジタルズームなら画質が劣化するところだが、それをAIで生成し直すことで画質を向上させるというものである。ただし人間が写ると機能しない。人を生成し直すと全然違う人になったりして、何かとトラブルの原因になるからだろう。

AIで生成し直すなら写真じゃないんじゃないか、という議論もあるところだが、一つ言えるのはこれ以降スマホカメラの望遠インフレが始まったと言えるのではないだろうか。本体だけで光学ズームを頑張るメーカーもあれば、別途テレコンバータを新設計してまで望遠に挑むメーカーもあり、今や「どれぐらい寄れるのか」は、スマホカメラの注目ポイントとなりつつある。

今回のPixel 11 Pro、11 Pro XLは、10 Proシリーズを上回る120倍AIズームを搭載した。スマートフォンのアップデートポイントはどうしてもカメラスペックに集中しがちだが、Googleの強みは、ハードウェアの進化だけでなく、AIでもイノベーションを起こせるところだ。

新しくなった11 Pro XLの撮影機能を、早速テストしてみよう。

スペック的には大きな進化はないように見えるが……

Pixel 11 Pro、11 Pro XLはCanyon、Olive、Fog、Obsidianの4色展開だ。10では青系のMonostoneがあったが、11では青系のカラーがなくなり、その代わりにピンク系のCanyonが加わった。11 Pro XLは512GBのOliveをお借りしている。

背面のバー状のカメラユニット部は、初めて登場した時はあまりカッコよく思えなかったものだが、ここまで続くともはやPixelのアイコン的デザインとなった。

エッジ部分は10シリーズが同系のメタリックカラーだったのに対し、今回エッジ部分はシルバーと色をつけない処理となった。透明のカバーをつけた際にはエッジ部分の光沢がより強調される。

左がPixel 10 Pro XL、右が Pixel 11 Pro XL

カメラは同じ3つで変わらないが、カメラ脇の赤外線温度センサー(温度計)が非搭載となった。温度センサーは対象物に向ければ専用アプリで温度が測れるということで、頻繁に温度をチェックする人には便利だったかもしれないが、キラーソリューションにはならなかったということだろう。

カメラは3つと変わらないが、温度センサーが廃止された

新搭載のLEDライトは、中央に従来通り照明用の白色LEDを配置し、その周囲に通知用の「HiLight」としてRGB LEDが追加されている。この部分まで全部黒で覆うことで、ユニットとしての一体感が感じられる。またカメラ部のエッジも、カラーなしのメタリックとなっている。

搭載ディスプレイは6.8インチで前モデルと解像度も同じだが、最大輝度が2400nitに引き上げられている(前モデルは2200nit)。

気になるカメラ性能だが、メインと望遠のセンサーは世代が新しくなっているものの、スペック的には大きな変更はない。

モデル名11 Pro XL10 Pro XL
広角カメラ50MP、ƒ/1.68、1/1.3型、画角82°50MP、ƒ/1.68、1/1.3型、画角82°
超広角カメラ48MP、ƒ/1.7、1/2.51型、画角123°48MP、ƒ/1.7、1/2.51型、画角123°
望遠カメラ48MP、ƒ/2.8、1/1.95型、画角23°48MP、ƒ/2.8、1/2.51型、画角22°
最大ズームPro Zoom 120倍Pro Zoom 100倍
前面カメラ42MP、ƒ/2.2、AF、画角103°42MP、ƒ/2.2、AF、画角103°

望遠カメラのセンサーは1/2.51型から1/1.95型へ大型化しており、感度も約30%アップしている。このためレンズも新設計となっている。画角が少し違うのはそのせいだろう。

カメラ部の出っ張りはほとんど違いがない

もちろんSoCやセキュリティチップは世代交代しており、パフォーマンスに違いがある。そこはハードウェア性能というよりは、より高度なソフトウェア処理が短時間で可能になったということだろう。

新搭載された機能に、「マジック キャプチャー」がある。これは動画撮影中にベストショットと思われるカットを自動的に選択し、静止画に落としてくれる機能だ。これは後で試してみよう。

動画撮影の最大解像度は8Kで、24p/30pでの撮影が可能。4Kは最大60pだ。動画ブースト機能も引き続き搭載されている。またクリエイター機能として、撮影動画を特定のプロジェクトにまとめて保存できたり、

自撮り撮影時に画面上に読み上げ原稿を表示してくれるテレプロンプターといった機能も搭載されている。これはディスプレイ付きAIグラスでも昨今対応が始まっており、プロンプターもいよいよ一般に広く認知されるようになるかもしれない。

テキストを表示させながらの自撮りが可能なテレプロンプター機能

より発色が向上した動画撮影機能

今回カメラの画角はそれほど変わっていないところではあるが、AI Pro Zoomの100倍から120倍の向上は気になるところだ。

実際に撮影してみたところ、倍率が高くなっているのはもちろんだが、ディテールの表現に違いが見られる。10 Pro XLではわりと細かいところはごまかす傾向が強いが、11 Pro XLではそのあたりも細かく描画できている印象だ。10 Pro XLも最新ファームにアップデートしてあるが、このあたりが11 Pro XLに新搭載の望遠センサーの違いということだろう。

10 Pro XLの100倍ズーム
11 Pro XLの120倍ズーム
10 Pro XLの100倍ズーム AI補正後
10 Pro XLの100倍ズーム AI補正前
11 Pro XLの120倍ズーム AI補正後
11 Pro XLの120倍ズーム AI補正前

夜景モードで月を撮影してみたが、120倍だとほぼ月が全画面に収まるサイズだ。100倍でも手持ちではなかなか撮影が難しいところではあったが、120倍となるとさらに難易度は上がる。三脚の併用は必須だろう。だがAIで補完しているとはいえ、薄いスマートフォンのカメラで撮影できる画角としては驚異的であり、他社の追従を許さないところである。

普通に月がアップで撮影できる

続いて動画撮影を試してみよう。動画撮影時にはAI Pro Zoomは使えず、ノーマルなAI Zoomとなる。10 Proシリーズでは最大20倍だったが、11 Proシリーズも同じだ。しかしディテールはかなりよくなっている。画質的にはAI Pro Zoomに劣るが、それでも一般的なデジタルズームよりは良好な画質だ。将来的には動画でもAI Pro Zoomを使えるようになることを期待したい。

10 Pro XLの動画20倍
11 Pro XLの動画20倍

望遠カメラでは、比較的近距離で撮影するテレマクロ的な使い方をすることもあるが、今回テストした範囲では11 Pro XLでは撮影できても、10 Pro XLではどうしてもフォーカスが合わない範囲があった。望遠カメラの最短撮影距離はスペックにはないが、このあたりの性能も向上しているように感じられる。

10 Pro XLではフォーカスが合わず
同じ位置から 11 Pro XLではフォーカスが合う

またメインカメラでは、背景のボケに関しても10 Pro XLでは輪郭が滲む傾向があるのに対し、11 Pro XLではより自然なボケとなっている。

10 Pro XLのメインカメラ
11 Pro XLのメインカメラ

今回の動画撮影は、双方とも「動画ブースト」で撮影している。一見同じように撮影できるように見えて、比較してみるとメインカメラは11 Pro XLのほうが若干明るめで、発色が強く出る。動画ブーストのアルゴリズムも改善されているようだ。このあたりはファームアップで同じようにできそうなものだが、センサー性能が違うので同じ結果にはならないのだろう。

4K30pの動画ブーストモードでの撮影比較

夜間撮影もテストしてみた。どちらも「夜景モード」で撮影している。こちらはS/Nの面でかなり大きな差が出た。そこそこ光量があるカットではそれほど変わらないが、薄暗い場所ではやはり11 Pro XLの新センサーは感度が上がっているようで、良好に撮影できる。

夜景モードでの撮影比較

静止画であれば多重露光などの手法によってSNを上げることは可能だが、動画ではセンサー性能の違いが大きく出る。10 Proと11 Proシリーズの違いは、暗所の動画撮影性能が大きいと言えそうだ。

そのほか動画の設定では、10 Proシリーズでは「その他」になっていたタブが新たに「クリエイター」タブへ拡張され、クリエイター向けの機能が追加された。前出のプロジェクト保存やテレプロンプター機能もここにある、「オーディオビジュアライザー」は、画面上部にマイクのレベルメーターを表示する機能だ。動画カメラでは当然の機能だが、意外にスマートフォンのカメラには実装されてこなかった。

10 Pro XLの動画設定画面
11 Pro XLの動画設定画面

「ソーシャルメディアのグリッド」は、撮影中にガイドフレームを表示する機能である。公式サイトには具体的な説明はされていないが、Instagramのリール動画などで、アイコンや文字が重なるエリアを避けて撮影できるフレームのようだ。なお撮影される動画には、このフレームは記録されない。

SNSで表示された際のアイコンなどの位置を避けて撮影できる

AIを使った撮影サポート機能

Google Pixelの強みは、自社のAIエンジンを駆使した数々の撮影サポート機能にある。初期段階ではフルサイズカメラへの対抗として背景をぼかす機能が注目を集めたが、「消しゴムマジック」が登場したあたりから、フルサイズカメラとも違う、スマホカメラならではの独自機能の開拓へ進んでいる。

その一つが、写真撮影画面の上部に現れるカメラコーチ機能だ。撮影前にこれをタップすると、現在カメラに写っている被写体やアングルを分析して、より良い写真になるようサポートしてくれる。今年5月にソニーのXperiaの新機能として紹介された「AIカメラアシスタント」に似た機能である。

Pixel 11 Pro XLの場合は、機能をタップすると仮に写真が撮影される。流れとしてはこの写真を補正していくか、それとも新たに撮影する上でのアドバイスを得るか選ぶことになる。ここでは「凛とした眼差しのポートレート」を選択した。

AIが撮影のアイデアを出してくれるカメラコーチ機能

すると次にどうすればいいかをステップごとに指示してくれる。この画面の左下に表示されているサムネイル画像は、AIがサンプルとして生成した画像で、実際にはこのようなポーズの写真は撮影していないが、こういう風になる予定というのが見られるのは心強い。

理想的な撮影のためにアドバイスが表示される
指示に従って撮影した写真

もう一つ新機能として搭載されているのが、「マジックキャプチャー」だ。これは写真・動画ともう一つ別モードになっており、ここで動画を撮影すると、いいシーンをAIが分析して、そのフレームを静止画に出力する機能だ。ラフに撮影した動画で試してみたところ、モデルさんのいい表情の部分だけを自動で抽出して静止画にしてくれた。

マジックキャプチャで抽出された写真
撮影した元の動画

写真を撮るために構えた状態ではなく、雑に回しておいた動画からベストショットを切り出してくれるので、シャッターチャンスが難しいケースや、自然な表情を捉えたいケースで重宝するだろう。この時撮影していた動画も撮り捨てではなく保存されるので、後で動画として編集も可能だ。

総論

スペックだけ比較すると、11 Pro XLと10 Pro XLはそれほど大きな差はないように見える。だが実際に撮影してみると画像処理に大きな差があり、1年分の進化としては十分なように思える。

期待の120倍AI Pro Zoomは、倍率が上がったことよりも、処理がうまくなったことのほうが恩恵が大きい。特に木々の枝などはディテールをぼかしてごまかさず、極力精密に復元しようという傾向が強くなっている。

マジックキャプチャーは、これまでも高解像度動画から静止画を切り出すカメラ等はあったものの、どのフレームを切り出すかはユーザーが指定する必要があった。フレームの選択をAIで自動化し、劇的に作業を軽減したのは、コンシューマー向け機能としては画期的だ。

問題は価格である。11 Pro XLは最低容量でメモリーも少なくなった割に20万超えは、そう簡単に手が出せる価格ではなくなってきた。下取りやクーポーンなどを駆使すれば20万円は切るのだが、もはや高コスパなスマホとは言いづらくなった。

サイズは一回り小さくなるが、機能的には同じで3万円ほど安い11 Proを検討するのも、一つの方法だろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。