小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1241回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

いまレトロ風ヘッドフォンが熱い? final「PORTA」とアシダ音響「ST-90-05」聴いてみた

レトロスタイルヘッドフォンブーム到来

ヘッドフォンに詳しい方なら薄々はお気づきだろうが、今レトロスタイルなヘッドフォンがブームとなっている。本連載でもこれまでもKOSS「Porta Pro Wireless 2.0」、マーシャル「Milton A.N.C.」、KOSS「KPH40」などをご紹介してきたところだ。

こうしたヘッドフォンは当初ファッションアイテムとして注目されていたことから、アパレルブランドからのアプローチが先行してきたところだが、昨年あたりからちゃんとしたオーディオメーカーも参入してきた。

例えば昨年、FIIOが「Snowsky WIND」、今年はワイヤレス型の「FIIO EH11」を発売した。ハイエンド製品が人気の水月雨でも、今年「MOONDROP Old Fashioned」というレトロタイプのヘッドフォンを発売している。

今回ご紹介するのは、final「PORTA」とASHIDAVOX「ST-90-05」の2つだ。final「PORTA」は10月23日発売で、市場想定価格は12,800円前後。ASHIDAVOX「ST-90-05」は2020年発売で、直販価格は6,600円となっている。

どちらもレトロスタイルだが、出自がちょっと異なる。今回はこの2モデルを聴き比べてみる。

レトロブームとスタイルの系譜

レトロスタイルのヘッドフォンには、いくつか共通する特徴がある。

小型・軽量のオンイヤー型であること、ヘッドバンドなどのパーツにメタリックな金属が用いられること、そしてイヤーパッドにオレンジが採用されがちなことだ。いくつか例外もあるが、おおむねこうした条件が揃えばレトロスタイル、ということになっているようだ。

今回のブームの発端は、どうも2021年頃に遡るらしい。当時、古着に合わせるファッションアイテムとして、トラディショナルなデザインのヘッドフォンが雑誌やSNS等に登場してきた。2023年頃には日本でも「ヘッドフォンコーデ」がファッションとして取り入れられ、音楽を聴くだけでなく、首に掛けてアクセサリーとして使うことが評価され始めた。

最初はレトロ感を表現するための小物だったわけだが、2023年頃から登場した「Y2Kファッション」が、少し流れを変えた。

2000年頃に若い女性の間で流行したファッションがリバイバルしたものだが、短いトップスと腰位置の低いボトム、厚底靴、光沢や装飾のある素材、そして近未来的な要素を混ぜる着こなしが特徴となっている。

ここでヘッドフォンと繋がるのは、2000年頃に想定された“近未来的な要素”である。金属感のあるパーツや目立つオレンジのイヤーパッドといったデザインキーワードが、“来なかった未来”を象徴した。実際には今この現在が2000年頃からすれば未来なわけだが、そことは違った平行世界線の未来を象徴するのが、そうしたヘッドフォンということになる。

そもそもこのイメージを構築したのは、1979年に発売された初代ウォークマン「TPS-L2」に付属していたヘッドフォン「MDR-3L2」である。

ウォークマンのヒットとともに、屋外でアクティブに音楽を聴く象徴として、オレンジ色のイヤーパッドが人々の目に焼き付いた。逆に言えば、オレンジ色のイヤーパッドを付ければなんでも「TPS-L2」に見えてしまうので、これが昨今のレトロデザインのヘッドフォンの主流となっている。

そんなソニーは現在、「耳元に、あの日のミライ。」という予告ページを公開し、「MDR-3L2」あるいは「MDR-3」のようなシルエットを提示している。2026年11月6日午前9時に製品が発表されるようだが、順当に考えれば、あのデザインの復刻モデルと見ていいだろう。

昔のデザインで復刻したのが、アシダ音響の「ASHIDAVOX ST-90-05」だ。元になったのは1973年頃の発売とみられる初代「ST-90」である。これは業務用モニターヘッドフォンで、80年代にはテレビやラジオのスタジオや副調整室でよく見かけた。放送中に他の音が出せない中で、音効さんが6mmオーディオテープの効果音の頭出しや音ネタの確認に使っていたものだ。

これの構造やデザインを踏襲し、2020年に今風に音楽リスニング用として復刻したのが、ST-90-05ということになる。また2022年には、無酸素銅ケーブルへの変更とチューニングで音質を向上させたST-90-07も発売されている。

一方で、昔の製品そのものが今も販売され続けている例は非常に少ない。筆者が知る限り、KOSSの「Porta Pro」ぐらいしかないのではないか。1984年に発売されたヘッドフォンだが、金属製の細いヘッドバンド、小型ハウジングによるオンイヤー型で、スタイルとしてはTPS-L2に近いが、コンパクトに折りたたみできるのが特徴である。

ただ売れ続けた理由はデザインではなく、数千円で買える価格設定と、見た目からは想像できない重低音にある。ファッションとして生き残ってきたのではなく、個性的な音質で生き残ってきたものだ。

左右独立がユニークなfinal「PORTA」

ではワイヤレスのfinal「PORTA」の方から聴いてみよう。

ネーミングはKOSSの「Porta Pro」を連想させるが、オレンジ色のイヤーパッドはソニー「MDR-3L2」を連想させる製品だ。なおカラーバリエーションとしては、オレンジとブラックの2色展開となっている。

オレンジのイヤーパッドがアクセントのfinal「PORTA」

ヘッドバンドは金属の細いワイヤーで、重量は約40g。金属板を使った他の製品と違ったユニークさがある。

さらに面白いのは、左右のドライバは物理的に繋がっているだけで、電気的には独立しているということである。つまり完全ワイヤレスイヤフォンみたいな設計でありながら、左右繋がったヘッドフォンであるという構造なのだ。

左右は物理的に繋がっているだけ

したがって充電は左右それぞれに対して行なう必要があり、左右2股に分かれた充電ケーブルが付属する。エンクロージャ部分がタッチセンサーになっており、電源ONは左右を同時に5秒以上タッチする。電源OFFは、どちらか片方を3秒押すカタチだ。

左右それぞれを充電する必要がある
付属の2股充電ケーブル
3つの点がある部分がタッチセンサーになっている

対応コーデックはSBCとAACで、周波数特性は20Hz〜20kHz。連続再生時間は最大8時間、充電時間は1.5時間となっている。防水性能はIPX4。

最大のポイントは、装着感の軽さだろう。本体重量が40gしかないのに加え、左右の締め付けが弱いので、イヤーパッドが両耳にモフッと当たる感覚だ。長時間装着したままでも耳が痛くならず、快適である。

ノイズキャンセリングもなくオープン型なので、周囲の音も聞こえる。音漏れも相当あるので、電車内での使用には向いていない。専用アプリは特になく、EQなど音質の変更機能もない、シンプルな製品だ。

今回の音質評価だが、80年代を代表するサウンドとして、カーズの「Heartbeat City」を聴いてみる。1984年リリースのアルバムで、日本でも「Magic」や「Drive」といった曲がヒットした。

もともと左右の分離感の強いサウンドだが、PORTAではその独特の空間の広さがよく表現できている。低音の押し出しも強めで、立ち上がりが早い。全体的に音の素性がよく、スッキリした聴きやすい音質だ。EQがなくても、ほとんどの人は満足できるだろう。

レトロスタイルヘッドフォンは、数千円で買える低価格商品がほとんどなので、本機の12,800円前後という市場想定価格は若干高く感じる。ただ見た目がレトロなだけで中身は完全に今のfinalサウンドだ。音質的なことを考えれば、この価格は妥当なところである。

持ち歩き用に折りたためるような機構を搭載しないのは、首にかけてファッションアイテムとして使うという用途もあるからだろう。レトロブームをよく研究して、いいとこどりで作られた製品のように感じる。レトロという文脈を外したとしても、よくできたヘッドフォンだ。

本物のレトロだが音は今風の「ST-90-05」

続いてASHIDAVOX「ST-90-05」だ。左からケーブルが伸びる、ワイヤード接続ヘッドフォンだ。デザインは70年代のオリジナルモデルそのままで、エンクロージャの右側には「ST-90」の文字も見える。

ASHIDAVOX「ST-90-05」グレーモデル

逆に言えば、外見からは90-05であるということは分からない。ちなみに「ST-90-07」の型番表記も「ST-90」だが、右側に「HISAGO DENZAI OFC Cable」とあり、ケーブルの材質でも区別できる。

ちなみにカラーはどちらもグレーとブラックがあるので、これから両方買う人は色違いで買うのがいいだろう。

型番表記は「ST-90」のまま

筆者も2022年にST-90-05を購入しているが、今年4月の転居の際にどこかへ梱包してわからなくなってしまった。現在手元にあるのは本誌山崎編集長の私物である。

オリジナルの「ST-90」は、いつ終売になったのかは定かではない。ただST-90-05の復刻は2020年なので、今のレトロスタイルブームとは関係なく発売されたことになる。2022年頃にはすでに、低価格ながら音の良いヘッドフォンとして、ネットで話題になっていた。

筆者も80年代に何度かNHK内のスタジオ据え置きのST-90を聞いたことがあるが、どんな音だったか記憶に残っていない。モニターとはいっても音楽モニターとは違い、主にカメラ集音でどんな音が入っているのか確認するためのものだった。

オリジナルのST-90はフォーン(標準)ジャックだったと記憶しているが、ST-90-05はステレオミニジャックである。

ドライバは40mmのダイナミック型だが、音楽用に再設計したということで、再生周波数帯域は5Hz〜40kHzとなっている。70年代当時はここまで広帯域で再生できる音源が存在していないので、ドライバユニットはオリジナルと同一ではないと思われる。

端子は今風のステレオミニジャック

ヘッドバンドは太い金属ワイヤーだと思われるが、周囲にグレーの樹脂カバーが付けられており、机の上に置いたときにガシャガシャ音がしないように工夫されている。

重量は約110g(コード含まず)。イヤーパッドはクッション性のある合皮製で、交換品も販売されている。組み立ては、同社宮城県石巻市の国内工場だ。

中にワイヤーが入っていると思われるヘッドバンド部
バンド内側は平らになっている
イヤーパッドはやや硬めの合皮製

構造としては密閉型となっており、イヤーパッドをぴったり塞ぐと、ほとんど音漏れがしない。ただしオンイヤー型なので、どうしても耳たぶのくぼみから多少は音が漏れる。

音質的にはやや中音域寄りで、骨太のサウンドだ。ヒップホップやEDMなどを好む人に高く評価されているのも、わかる気がする。逆に言えば分離感や明瞭感には欠けるところだが、芯の太いサウンドが心地よい。

要するにモニターっぽい音ではないということである。ハイレゾも聴けるので、ハイレゾ対応ポータブルアンプやDACがあれば、楽しく聴けるだろう。

総論

レトロスタイルなヘッドフォンは、デザインに共通キーワードがあるので、あまりバリエーションが多くないというところもある。また構造がシンプルなだけに、技術力がかなり高くないと、いい音が出せないという難しさがある。

そんな中、final「PORTA」は同社のチューニング力をうまく発揮し、見た目とは違って今風のサウンドを表現している。またBluetoothで繋がるため、スマートフォンとの相性もいい。見た目と音質の両方を満足させたい人には最良の選択肢である。

ASHIDAVOX「ST-90-05」は、アナログ技術だけで音を作り上げるという高い技術力の結晶だ。レトロデザインにしたというよりは、70年代のオリジナルデザインそのままなので、ある意味レトロの生き証人的な存在である。

今回のレトロブームとは関係ないところで、安くて高音質ということから2022~23年ごろは品切れも続出、長くて数カ月待ちとかだった人気商品だ。それがさらにレトロブームに乗って加速している。

ファッションが中心のブームというのは、どうしてもいずれ沈静化してしまう運命にあるが、音の良さというのは陳腐化しない。オーディオ製品デザインのひとつとして、定着してほしい流れである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。