■ JVCブランド第一弾
ビクターという会社は元々は蓄音器(機)の製造や販売を行なっていたオーディオメーカーだったわけだが、ビデオ産業への進出は早かった。かつてはVHSを世に出し、「ビデオはビクター」というCMで一斉を風靡したものである。
カムコーダにしても、エポックメイキングな製品が多い。DVカメラを最初にポケットから取り出せるサイズにしたり、HDVフォーマットの原型となったハイビジョンカムコーダをいち早くリリースした。もちろんEverioシリーズは、記録媒体にHDDを使った草分け的な存在である。
今年はSDカードスロットを2つ搭載するという方向性を打ち出したが、実は'08年のCEATECからすでにSDカードのみのカムコーダを出展していた。それが今回のEverio Xこと「GZ-X900」(以下X900)である。
メモリー記録型製品としては後発の「HM200」が発売時期で追い越してしまった格好だが、ファミリーユースではないスタイリッシュモデルとして、じっくり練られた製品である。また今回のX900で初めて、ビクターではなくJVCブランドのみを冠した。
JVCはビクターの国外ブランドとして1959年から使用されているが、'82年からは日本でもVictor/JVCという並列表記となっているため、ご存じの方も多いだろう。心機一転JVCブランドで登場したX900を、早速テストしてみよう。
■ 横幅を抑えたシンプルな外観
まずデザインだが、従来のビデオカメラ同様横型ではあるものの、液晶モニターを折りたたんでもボディから出っ張らず、前方から後方に向かってストッとした筒状になっている。
この液晶モニター部とボディのラインが秀逸で、ズームレバーとシャッターボタンが乗っている「島」の部分を巧妙に避け、その手前の余裕部分にマイクを仕込むという構造だ。またこの「島」部分が上に出っ張っている余裕分でバッテリをギリギリ縦に詰め込んでいる。この一連の詰め込みが完了した時点で、デザイン的にはほぼ「見えた」のだろう。
ストレートなボディデザインが光る | ボディと液晶モニタのかみ合わせデザインが見事 | マイクは液晶モニタの上部 |
鏡筒部がほぼボディいっぱい |
では正面から見ていこう。レンズの鏡筒部がほぼボディのはギリギリまで迫っており、それがスリム感を強調している。レンズ下にもJVCロゴがあるのは、デザイン的なバランスを取ったということなのだろうが、ただのシルク印刷なのが残念だ。
レンズはコニカ・ミノルタ製の光学5倍ズームレンズ。ただ、撮像素子の有効画素数を動的に変えるダイナミックズームを併用すれば、8倍ズームとなる。一方、静止画モードでは、ダイナミックズームは使用できないため、光学5倍が標準となる。なおレンズ枠にはフィルタ用のネジが切られていないため、コンバージョンレンズなどは取り付けられない。
撮影モードと画角サンプル(35mm判換算) | |||
撮影モード | ワイド端 | 光学テレ端 | ダイナミックズームテレ端 |
動画(16:9) |
撮影モードと画角サンプル(35mm判換算) | ||
撮影モード | ワイド端 | 光学テレ端 |
静止画(4:3) |
おもしろいのは光学手ぶれ補正の方式だ。通常補正用のシフトレンズは、レンズユニット内に収まるのが普通だが、X900ではなんと補正レンズが前玉よりもさらに前にある。したがって補正中にレンズを覗き込むと、2枚のレンズがわしゃわしゃわしゃと一生懸命動いて補正しているのがわかるという、珍しい作りである。手前のレンズが横方向の補正、奥のレンズが縦方向の補正を行なっているようだ。
奥のほうにシフトレンズを動かすための駆動部などを入れるスペースがなかっただけなのかもしれないが、考えてみればズームレンズユニットとは別に光学手ぶれ補正が存在できるわけだ。この方式が汎用的に使えるのであれば、採用するレンズユニットのバリエーションが増えるというメリットも出てくるだろう。
撮像素子は1,029万画素、1/2.33 型のCMOSセンサーで、有効画素数は動画498万画素、静止画896万画素。ダイナミックズーム時は、498万画素から207万画素までの可変となる。サイズや画素数から見ても、HM200などで採用のものとは別物だ。画質モードは、HM200など今年の春モデルと同じになっている。
動画サンプル | ||||
モード | 解像度 | ビットレート | 16GB | サンプル |
UXP | 1,920×1,080 | 約24Mbps/VBR | 約1時間20分 |
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XP | 約17Mbps/VBR | 約2時間 |
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SP | 約12Mbps/VBR | 約2時間56分 |
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EP | 約5Mbps/VBR | 約7時間20分 |
液晶モニターは2.8型20.7万ドットで、HM200よりもハイスペック。モニター脇にはスライダーも装備しており、操作体系はHM200など今春モデルと同じだ。液晶内側には、録画・再生モード切替や、再生時の動画・静止画切り替えボタンがある。またYouTubeアップロード、iTunes転送用のボタンがある点も同じだ。
タッチ式センサーなどはこの春モデルで共通 | YouTube、iTunes対応撮影機能も踏襲 |
背面には、撮影モード切替ダイヤルほか、DC入力、フラッシュモード、Infoボタンなどがある。底部の穴はスピーカーだ。USBコネクタ、SDカードスロットは背面のカバー内にある。
シンプルかつシンメトリックな背面 | HDMI以外の端子類は背面に | ズームレバーは真横にスライドするタイプ |
グリップ部は特徴的な市松模様のディンプル地となっており、ホールド感を高めている。またX900ではグリップベルトではなく、リストストラップが付属している。そのほか付属品としては、充電やUSB接続、アナログAV接続が可能なエブリオドックが付属する。
グリップ部はディンプル加工され、肌触りがいい | 同梱のエブリオドッグで充電とバックアップが可能 |
■ しゃっきりした絵作りの動画
ではさっそく撮影してみよう。まず動画モードだが、前回のHM200がかなり甘めの絵だったのに対し、かなりしゃっきりした絵作りとなっている。レンズや撮像素子など色々違いがあるわけだが、あきらかにあのレンジの画質とは別物だ。
高コントラストでパキッとした絵が得意のようだ | マクロでは雰囲気のある映像も撮れる |
モニター上では飽和していたが、実際にはちゃんと飛ばずに映っていた |
ラティチュードは、CMOS特有の白飛びをギリギリ堪えながら、よく健闘している。ただ今回はレンズがF3.4と、暗いのが残念だ。従来のEverioはF1.9など明るいレンズ設計をしてきたのだが、夕景や夜間ではAGCの影響で若干S/Nが悪くなっている。AGCは切ることができるが、切るとほとんど適正露出では映らなくなるので、やはり暗所は厳しい。
マニュアルモードでは絞り優先などで撮ることは可能だが、いったんオートに戻してしまうと、次にマニュアルモードに戻ったときにはF値が固定されている。変更するためには再びマニュアル設定に入って、絞り優先AE→マニュアル→決定と、ここまでやる必要がある。もっとも、一番絞ってもF8までしかないので、被写界深度はあまり変化しない。
絞りを変えても被写界深度はほとんど変わらない。左から順に、F3.4、F5.6、F8 |
一時的にならマニュアルでも撮れるが、オートモードと行き来することはほとんど考えられていないため、使いづらい点は春モデルから変わっていない。逆光補正やホワイトバランス、マクロモードなども、マニュアル設定内にある。オートは本当にフルオートで撮るのみという割り切りだが、そこまでマニュアルモードに集約するのであれば、もう少しマニュアルモードの使い勝手を上げるべきだろう。
刷新された手ぶれ補正は、従来方式とほぼ同等か、やや弱い程度ではないかと思う。手ぶれ補正の効果は定量的な測定ができないので、あくまでも感覚的なものでしかないが、それほど悪い感じも受けなかった。ただこのサイズのカメラだと、プライベートでの利用では、ほぼハンディで撮影することになるはずだ。もう少し強く効いたほうが、評価は上がったかもしれない。
AFは、風景ではちょっと迷うこともあるが、人物に対しては顔認識があるため、外すことはない。AFの追従も速く、向かってくる人物などにも十分対応できる。
手ぶれ補正ONでハンディ撮影 | 顔認識と組み合わせてのAFの |
編集部注:掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。 |
ワイド端に関しては、動画で48.5mmはもはや狭いほうであろう。またワイコンも付けられないので、イベント撮影などは結構厳しいと思われる。ある意味、ズーム倍率が5倍とまで割り切るのであれば、もう少しワイドに振ったレンズで特徴を出して欲しかった。
動画サンプル | 室内サンプル |
編集部注:掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。 |
■ ハイスピード撮影にJVCも参入
動画モードでは、120、300、600fpsと3段階のハイスピード撮影モードを備えた。コンシューマではソニーがHDV時代に搭載したのを筆頭に、カシオ、三洋らが一部の機種で搭載している。
操作方法は、撮影したいモードに切り替えて、録画ボタンを押すだけである。録画可能時間いっぱいになったら、撮影が停止して記録モードになる。実際に撮影された映像は、中央部に映像があり、周りが黒い枠で囲われ、全体で1,920×1,080ピクセルのAVCHD画像となる。ビクターのサイトには、画像サイズとして下記のような資料があるが、これはどうやら撮影時に使用する撮像素子ピクセルのことではないかと思われる。実サイズを計測した結果も表記しておく。
ハイスピード撮影 動画サンプル | ||||||
画像サイズ | 実映像サイズ | 録画時間 | 再生時間 | サンプル | ||
120fps | 480×270 | 1,440×808 | 4秒 | 8秒(2倍) | ||
300fps | 480×116 | 1,280×716 | 4秒 | 20秒(5倍) | ||
600fps | 640×72 | 960×534 | 4秒 | 24秒(10倍) | - |
AVCHD記録のため、保存には再生時間と同じ時間がかかる。蝶のサンプルも撮影してみたが、残念ながら300fpsで保存している間にどこかへ飛んで行ってしまったので、600fpsで撮影できなかった。保存に時間がかかるのが難点である。
これまでのカメラでは、ハイスピード映像はMPEG-2やmovなど別フォーマットになるのが普通だったが、周りを黒で囲ってAVCHDの規格に通してしまうというやり方は珍しい。これはHDMI経由でテレビに出すときには解像度の事を気にする必要がなくていいが、ビデオ編集で使おうとすると、サイズ的に無駄なようにも思える。また保存時間を含め、どういうやり方がベストなのか、今後も各社いろいろな模索が行なわれるだろう。
またこれらのモードは、ダイヤルに3モードとも入れるほど使用頻度があるだろうか。新モードを訴求したいのはわかるが、このダイヤルという位置は、言わば土地単価が高い場所である。1モードにまとめて、フレームレートを3段階タッチボタンから選ぶぐらいでも良かったのではないだろうか。
その代わり、ダイヤルに動画のシーンモードを入れてくれた方が良かった。静止画にはシーンモードがあるが、動画にはシーンモードそのものがない。まあ、なんでもオートで撮れますという事かもしれないが、これはビデオカメラとしてはちょっと機能バランスが悪いのではないかと思う。
■ 実用的な静止画機能
HM200の静止画機能は、画素数云々以前に絵作りやS/Nの面でかなり厳しい結果だったため、評価しなかった。一方今回のX900の静止画は、今どきのビデオカメラの静止画としては標準的な仕上がりとなっている。
ディテール感の高い静止画撮影が可能 | 人物以外では時々AFが後ろに抜けるクセが |
動画と同時撮影では最大3,072×1,728ドットの672万画素、静止画モードでは3,456×2,592ドットの896万画素となる。動画の状態ではあまり気にならないが、同時撮影の静止画でACGが働いてしまうケースでは、S/Nの悪さが目立つ。一方静止画モードではS/Nも良く、解像感の高い静止画撮影が楽しめる。
光量は少ないが、S/Nも良く肌色の発色も好ましい | 動画同時撮影では、S/Nの悪さが気になる |
動画と静止画を切り替えて交互に使う場合は、そもそも光学での画角が違う上に、ズーム倍率にも差が出るため、静止画では全然寄り足りないという印象が高まる。一般的な感覚だと、動画で全体の流れをざっくり撮っておき、静止画で細部を押さえるみたいな事だと思うが、このスペックでは静止画で広い絵を撮っておき、動画で細部を攻めるみたいな使い勝手になる。
動画でのテレ端 | 静止画でのテレ端 |
静止画のセルフタイマーでは、顔検出を使った面白い機能を搭載している。いわゆる記念写真用なのだが、撮影者が画面内に収まったとき、つまり現在の顔の数よりも一人増えてから3秒後に撮影されるというものだ。顔検知は16人まで認識できるようなので、かなりのグループ撮影ができるようだ。
もちろん、シャッターを押す前に全員がきちんと正面を向いて、顔検知できている状態でなければならないので、かなりきっちりした記念撮影ということになるだろう。ソニーのスマイルシャッターのような感じで、人数が増えたり減ったりした時点で勝手に写真を撮ってくれるような作りにしても、面白かったかもしれない。
■ 総論
ボディのスタイルが変わる、ということは、購入者層が変わるという事である。購入者が変われば利用シーンも変わってくるわけだから、それを計算に入れたスペックが必要になってくる。
スタイリッシュモデルとしては、ソニーのTGシリーズが先行しているが、これは同時期のフルスペックを丸ごとあのサイズに凝縮するといった方法論だ。つまり形から入ってくる人が、何を撮るのかまだよくわからないから何でもアリにしている、というアプローチである。
X900もスタイル的にはなかなかイイ感じだし、画質的にも十分だ。しかしここまでスタイル重視で行くならば、もう少し狙いがはっきりすると良かった。特に「ビジネス向け」を改めて謳ったビデオカメラは少ないだけに、そこへ特化したスペックが欲しかったところだ。ただ、ビクターの懐事情からすると、なかなかそういった博打っぽい製品を打つのは難しい、ギリギリのせめぎ合いで落とし込んだところがここ、という感じになっているのが、ちょっと物足りなさを感じる原因かもしれない。
今ビデオカメラ業界最大のテーマは、いかにパパママ以外の購入者層にマーケットを広げるかということである。形が変わればユーザー層も変わる。ユーザー層が変われば撮るものが変わる。小さくしたために「○○を諦めました」という引き算なのか、一つのスペシャルな機能のために「他を捨てました」という割り切りなのか。
この2つは同じように見えて、実は違うものである。今パパママ以外の潜在的消費者は、そういうスペシャルな何かを待っている。