■ 誰も届かないところへ
3D技術の発達スピードには、驚くべきところがある。ご存じのように3Dブームは幾度となく繰り返して現われてきているわけだが、今回のように大手家電メーカーが優秀な技術者を大量投入して「立体視とは何か」を研究した例は初めてである。
コンシューマでは3Dテレビをメインに据えて、Blu-rayや放送などからコンテンツを供給する、従来型のモデルを試行していたが、思ったように3Dコンテンツが増えないこともあって、昨年夏過ぎから大きくシフトチェンジすることになった。コンテンツもコンシューマに作らせる、という方向に転換したわけである。
パナソニックが3Dコンバージョンレンズでの3D撮影を実現し、いよいよカムコーダの3D参入が見えてきたところに、JVC、ソニーが二眼3Dカメラを投入する。先に発売されるのがJVCのGS-TD1(以下TD1)で、2月上旬にはもう発売されるというから、間もなく店頭に並ぶことになる。店頭予想価格は20万円前後となっているが、ネットでは早くも18万円台で売るところもあるようだ。
GR-HD1 |
Everioは今ではコンサバな商品というイメージだが、JVCは新フォーマットが立ち上がる時にはかなり早い段階で参入してくる。HDVフォーマットの原型を作ったのは'03年5月の「GR-HD1」であったし、HDDに記録するというトレンドを定着させたのは'04年暮れの「GZ-MC200/100」だった。
今回のコンシューマ向け二眼3Dカムコーダ一番乗りで、業界の流れを作るのだろうか。さっそくチェックしてみよう。
■ 想像以上にスリムなボディ
横型ながら平たいデザイン |
本体はすでにCESで現物を見ていたのだが、いざ手元に来ると機能がコンパクトにまとまっているのがよくわかる。いわゆる横型のカメラであるが、全体的に平たく、高さがあまりないので持ちやすいボディだ。
まずはレンズだが、焦点距離は35mm判換算で、3D時に44.8mm~224mmの光学5倍、2Dで37.3mm~373mmの光学10倍ズーム。開放でF1.2とかなり明るいレンズだ。昨今のトレンドからすると画角が狭いのが気になるが、実レンズ撮影で自然な3D感というと、だいたいこれぐらいとなるようだ。
2レンズ間の距離は資料がないが、実測で33mm程度。レンズの後ろにレンズカバーを開閉するレバーがあり、手動で開閉する。
小型ながらF1.2と明るいレンズ。六角形の虹彩絞りも搭載 | レンズ後ろのレバーでカバーを開閉する | 手に持ったところ |
撮像素子は1/4.1型322万画素の裏面照射CMOSを2つ使用する。有効画素数は3Dが207万画素で、2D時は298~207万画素に可変する。この可変範囲をどのように使用しているのかは資料がない。
手ぶれ補正は電子式で、3Dの場合はOFF、通常モード、アクティブモードで段階的に画角が変わり、2DではOFFと通常モードが同じ、アクティブモードで画角が変わるという設計になっている。
方式 | 手ぶれ補正 | ワイド端 | テレ端 | ||
---|---|---|---|---|---|
3D動画 | なし | ||||
通常 | |||||
アクティブ | |||||
2D動画 | なし | ||||
通常 | |||||
アクティブ | |||||
3D静止画 | - | ||||
2D静止画 | - |
記録方式だが、3Dの場合は独自のMP4/MVCと、サイドバイサイドのAVCHD方式が選べる。2Dの場合はAVCHDのみだ。画質モードは3Dが各2段階、2Dモードは4段階となっている。画像処理エンジンは昨年末発表のFALCONBRIDで、左右の2ストリームを1チップで処理するのが特徴だ。今回はFALCONBRIDの画像処理も初披露ということになる。内蔵メモリは64GB。
液晶モニタは3.5型92万ドットのタッチパネルで、ボディから液晶がはみ出す感じのデザインとなっている。2Dモードのほか、パララックスバリア方式による裸眼3D表示モードも備える。3Dでの撮影中でも、モニターだけ2Dに切り換えることも可能。液晶内側にはSDXCカードスロットが1つ、USBとAV端子、電源ボタンがある。
モニタの大きさを強調するデザイン | 液晶内側は比較的シンプル |
個性的な背面デザイン |
背面はなかなか面白いデザインだ。中央に3D/2D切り換えボタンがあり、3D撮影中は青く光る。そこから時計回りで、いくつかのパラメータを呼び出して変更できるADJボタンとダイヤル、メモリー残量を示すINFO、機能を割り付けてショートカットとして利用できるUSER、動画・静止画モード切り換え、マニュアル・オート切り換えとなっている。その次の小さい穴はリモコン受光部だ。リモコン受光部は前面にもあり、どちらからでもコントロールを受け付ける。底部に近いところにminiHDMI端子と電源がある。
面白いのはグリップ部で、ここを開けるとバッテリ格納スペースとなる。内部はかなり大きくえぐれており、付属バッテリー以外にも大型のものも付けられるようになっている。従来のEverioは、本体を小さく作ったがために、バッテリが後ろに大きく飛び出すイメージだったが、真ん中にバッテリがあるとハンディで持ったときに重心が変わらないので、メリットがある。
グリップ内部にバッテリを格納する | 前方に外部マイク入力端子 | 三脚穴は光軸センターで、ほぼ撮像面の位置 |
■ 3D撮影は簡単
3Dだと引ききれず寄りきれずな画角になりがち |
ではさっそく撮影だ。まず画角だが、さすがに昨今のワイド化が進んだカメラからすると、3D撮影時には狭い。人物撮影ではポートレート的な画角は撮りやすいが、風景などと一緒に撮るというのは厳しいだろう。ズーム倍率も5倍なので、かなり足を使って前後に移動する必要がある。
一番とまどうのはモニターの3D表示だ。2Dではかなり解像感が高いのだが、3Dにすると解像感がかなり落ち、かつ暗くなる。3D感の確認はこのモニタ表示を使うしかないわけだが、日中の日当たりのいい場所ではよく見えないこともあった。3Dカメラの場合、撮影性能もさることながら、モニタの質が大きく問われそうだ。
3Dの視差調整はマニュアルモードのみ可能で、iAモードではカメラまかせになる。被写体や撮影アングルが変わった時にうまく再調整しないこともあるが、いったんマニュアルに切り換えてiAに戻すとすぐに再調整するようだ。
2D表示の場合(モニター再撮)。解像感は高い | 3D表示の場合(モニター再撮)。輝度と解像感がかなり下がる |
マニュアルモードでの視差調整は、ADJボタンの長押しでモードを選択し、下のダイヤルか画面上の+/-ボタンを使って調整する。このとき、3D表示は解除され、左右の映像が二重になった映像が表示される。つまりコンバージェンスポイントを探すための表示ということになるだろう。このあたりは富士フィルムの「FinePix REAL 3D W3」と同じ方式である。
手動での視差調整も可能 |
3Dと2Dの切り換えは背面ボタンで行なうが、1プッシュというよりちょっと押し続ける必要がある。まあ今回のようにテスト撮影するなら別だが、普段はそう頻繁に切り換えるものでもないので、そのあたりの感覚は問題ないだろう。
なお2Dと3Dを切り換えると、レンズのコンバージェンスをリセットする必要があるのか、ズームがいったんワイド端まで戻る。同じ画角で2Dと3Dを撮り比べたいというニーズもあるかもしれないが、そもそもレンズ画角やズーム倍率が違うので、自動で合わせるのは無理だったのだろう。
操作性としては、ADJボタンとUSERボタンが離れているのが気になった。どちらも頻繁に使用するパラメータを操作するので、隣り合っていたほうが便利だったろう。そもそも残量表示を示すINFOボタンが、ハードウェアである必要性があるのかという問題もある。それならUSERボタンをもう一つ付けて貰った方が使いやすかっただろう。
絵作りは3Dと2Dで微妙に違うようだ。3Dは割と色が強めで高コントラスト、2Dはやや色が浅めで広ダイナミックレンジで撮る傾向がある。
3Dで撮影。発色はやや強めに出る | 2Dで撮影。発色が微妙に違う |
フォーカスの追従は、顔追尾、色追尾、タッチエリアの3種類が使える。顔追尾では、常時顔が写っていれば問題ないが、途中から急に顔が入ってくるとフォーカスを取り直すため、せっかくそれまでフォーカスが合っていたのに一時的に外れる傾向がある。また露出の追従がゆっくりなので、パンするとパン尻で映像が落ち着くまで少し時間がかかる。
iAの出来としては他社のほうが一歩上を行くが、マニュアルと組み合わせればカバーできるだろう。ただ、じっくり調整しているヒマがあればの話で、やはりコンシューマ機ではどこまでカメラに任せておけるかは一つのポイントになるだろう。ただでさえ視差というパラメータが一つ増えているわけだから、マニュアルでの撮影はそれなりに設定に時間がかかる。
音に関しては、撮影日は結構風がある寒い日だったので多少マイクが吹かれてはいるが、かなり立体的な音が録れている。なかなかここまでのステレオセパレーションで撮影できるカムコーダはない。このあたりはマイクレイアウトも上手い。
■ 再生・編集環境はまだまだ
撮影したものは見たくなるのが人情というか普通見られるものなのだが、本機の場合はなかなか難しい。まずウリとなっているフルHD解像度で3Dを記録するMP4/MVCは、今のところ3Dで再生できるのが本体のみである。しかし本体の液晶モニタの3D表示は解像感が低いので、せっかくフルHDで撮影していても、その成果を確認する事ができない。
ファイル再生時は2Dと3Dでモードが分かれている | 再生時も視差調整ができる |
3D対応のテレビを用意して、HDMI経由で再生するというのが、現状で唯一の視聴環境ということになるだろう。再生時にも視差調整ができるので、立体感の調整も可能だ。
付属ソフトのEverio MediaBrowser3Dでは、MP4/MVCとAVCHDの3D映像を読み込むことはできるが、2Dで動画再生ができるのみで、3Dで表示できない。ただ、以前ご紹介したようにPC側で3D環境を整えれば、AVCHDのサイドバイサイドは表示できる。
付属のEverio MediaBrowser3D。3D動画も2D状態なら再生できる |
今回はサイドバイサイドによる3D表示をPC上で確認してみたが、横の解像度は半分とはいえ、縦方向はフルサイズあるので、十分満足できる画質である。左右の映像も色味などがしっかり揃っており、レベルの高い3D表示を実現している。ただ3Dメガネの影響で色味が寒色に転ぶほか、光量も1/4ぐらいに落ちるので、色調の正しい評価は難しい。3Dの画質評価は、やはり裸眼立体視のモニタが出てきてからの話になるだろう。
立体感に関しては、前後に配置された被写体が多少カキワリっぽいレイヤー感を感じる。やはりこのあたりは、左右レンズ間の距離の短さゆえの課題かもしれない。
続いて編集環境だが、AVCHDに関しては、基本的には似たような絵が2つ映ってるだけのただのシングルストリームなので、編集はなんでもできる。ただカットの繋がりを見ながら視差調整などは難しい。
MP4/MVCの編集だが、本体でカット編集ができるとは言うが、単に1個のクリップのトリミングができるだけである。複数のカットを繋いでコンテンツが作れるわけではない。こう言うのを普通、「カット編集ができる」とは言わない。ビデオの世界での編集とは、複数のカットを接続してコンテンツを生成する作業を指すからである。
本体では各クリップのトリミングのみ対応 | Everio MediaBrowser3Dも、ストーリーボード内で1つのクリップしか扱えない |
付属のEverio MediaBrowser3Dも同様で、ストーリーボードは用意されてはいるものの、クリップが一つしか登録できない。そういうのはストーリーとは言わないんじゃないかという話もあるわけだが、とにかくトリミングまではなんとか出来るものの、複数のクリップを繋げることが出来ないというのが現状のようである。
BDドライブを接続すると、専用のバックアップメニューが起動する |
プロのコンテンツが少ないからCGMで、というシナリオは理解するところだが、それではあかちゃんの失敗シーンみたいなアマチュア投稿ビデオのレベルに逆戻りである。3Dという技術をちょっと目新しいオモチャで終わらせることがないよう、みんなでもう少し高いレベルに行くべきであろう。
なお、PC用ソフトは7月予定のアップデートにより、MP4/MVCファイルの編集機能の強化や、PCモニタでのMP4/MVCファイルの3D再生、同ファイルのYouTubeへの3D映像アップロードなども追加されるという。MP4/MVCの3D映像から、AVCHDのサイドバイサイド3D映像に変換する機能も加えられるそうだ。
MP4/MVCの保存に関しては、本機にBlu-rayドライブを直結してのバックアップが可能だ。メーカー推奨はアイ・オー・データのドライブだが、手持ちのBuffaro BR-816U2でも書き込みできた。再生は本機を接続して、そこからHDMI出力を出すという方式になる。
■ 総論
3D撮影のアプローチとしては、同じカメラを2台繋げるところから始まって、富士フィルムW3のような2レンズスタイルのデジカメ、パナソニックのコンバージョンレンズ方式、そしてJVCの2レンズスタイルのカムコーダというところまで来た。実際にいろいろ撮影してきたが、3D撮影に関するハードルは次第に低くなってきている。
今後の課題は、撮影時の3Dモニター環境だろう。現場で3D感の確認が十分にできるモニタを装備していたのは今のところW3しかなく、そこにかかるコストと、光学系が2倍必要とするコストのバランスが難しいところだ。本機も撮影機能や画質、本体の作りなどは一定水準をクリアしているが、3Dモニタの出来に課題が残る。
MP4/MVCの3D動画に関しては、再生・編集環境ともにこれからの整備が待たれるところである。ただ保存としてはBD直結でバックアップできるので、環境が整うまではそれで繋いでおくということもできそうだ。もちろん、サイドバイサイドでも撮影できるという点で、当面はそちらで運用するという考え方もあるだろう。
いずれにしても、簡易ではなくちゃんとした3D撮影ができるカムコーダがコンシューマにようやく登場したことで、3Dに対する風向きが変わってくるかもしれない。4月に発売されるソニー機と並んで、今年はかなり3D撮影に対するノウハウも共有されることだろう。そもそもどれぐらい3D撮影が定着するのかはまだわからないが、日本メーカーはとうとうその第一歩を踏み出したようだ。