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いまの4Kテレビでは新しいBS 4K/8K放送が見られない?

チューナ別売と総務省。ユーザー側の注意点

いまの4Kテレビで新しいBS 4K/8K放送が見られない?

 6月30日、総務省が「現在市販されている4Kテレビ・4K対応テレビによるBS等4K・8K放送の視聴に関するお知らせ」という発表を行なった。その要旨は、「現在市販されている4Kテレビで、'18年に実用放送開始する4K/8K放送を見るためには、別途チューナーが必要。その周知のためにリーフレットを作りました」というものだ。

2018年、BS等を使った4K/8K実用化放送開始予定だが……
(出展:JEITA)

 この発表をうけ、「いまの4Kテレビでは、4K/8K放送が見られない」という懸念が広がっているようだ。「40型以上のテレビでは、4Kが主流になっているのに。なぜ?」と思う人もいるかもしれない」。しかし、まず確認しておきたいのは、今回の告知は「'18年にスタートするBS/110度CS衛星を使った4K/8K実用放送」(以下BS 4K/8K実用放送)についてのものだ。このBS 4K/8K実用放送については、まだ規格もビジネスモデルも固まっていないので、テレビメーカーも製品化に着手できていないし、どんな番組編成になるのかもまだ不透明だ。

 一方、今年の8月からはBSを使った4K/8K“試験”放送がスタート。NHKがリオ五輪のパブリックビューイングを行なうのもこの8K試験放送で、目的は「(BS 4K/8K実用放送に向けた)放送設備や受信機器の開発、環境整備」だ。現行の方式とは異なる伝送方式を採用するため、その準備として試験放送が行なわれるのだ。

 つまり、BS 4K/8Kはまだ試験段階。試験放送の結果を踏まえ、放送、制作、受信機などの環境整備を進め、2年後の18年にBS 4K/8K実用放送開始を目指す。だから、いまの4Kテレビに対応チューナは入れられないので、チューナーは別売になる。ただ、試験放送がスタートして誤解を招く可能性があるので、その旨を周知します、というのが今回の発表だ。

いまの4Kテレビで新BS 4K/8K実用化放送を見るためには、別売チューナが必要
(出展:JEITA)

いまも4K放送あるけど…… 新4K/8K放送の課題はチューナ以外に

 若干わかりにくいのは、すでに「4K実用放送」は始まっており、対応製品も発売されているということ。2015年から124/128度CS放送を用いて「スカパー! プレミアムサービス」上で、スカパー! 4K 総合、4K映画、4K体験の3チャンネルが展開されており、ケーブルテレビにおいてもケーブル4Kが開始されている。これは、先ほどの“BS" 4K/8K実用放送とは違うものだ。

 124/128度CS放送の4Kチューナ搭載テレビは、ソニーのBRAVIA X9350D/X9300D/X8500Dシリーズ、東芝のREGZA Z20Xシリーズなどが販売中だ。

BRAVIA X9300D

 さらに、4Kチューナ(124/128 CS)としては、ソニー「FMP-X7」やシャープ「TU-UD1000」が発売されているほか、スカパーではチューナのレンタルも行なわれている。4Kレビ側に必要なのはHDMI入力端子(著作権保護技術HDCP 2.2と4K/60p対応)とHDMIケーブルのみで、これらのチューナを接続すればすぐに4K放送を楽しめる。

FMP-X7

 例えば、(4Kチューナ非搭載の)パナソニックやシャープの4Kテレビも、こうしたチューナを追加すれば4K放送を視聴可能となる。

 '18年以降のBS 4K/8K実用放送においても、同様に対応チューナを追加すれば、4K放送視聴が行なえる予定。今のスカパー! プレミアムの4K放送と、なにかが大きく変わるわけではない。

 むしろ、BS 4K/8K実用放送普及の課題と思われるのは、アンテナや配線、分配器などの環境整備だ。というのも、BS 4K/8K実用放送では、既存のBS(右旋)だけでなく、110度CS左旋、BS左旋という新しい伝送路を用いる計画で、そのためにはBS/110度CSアンテナも右旋左旋両対応のものが必要となるほか、分配器や分波器、ブースター、ケーブルなどの対応が必要な場合がある。アンテナの交換や共同住宅での共用設備更新などを考慮すると、チューナよりも、こちらのほうが大きな問題といえるだろう。

左旋4K/8K衛星放送も受信できるマスプロのアンテナ「BC paRabo」

新たな伝送路の一つ。いま悩む必要はさほどない

 重要なのは、4K/8K放送は「高精細・高機能な放送サービスや、対応受信機を求める視聴者層のニーズに応えるもの」で、地上デジタル放送を置き換えるものではない、ということ。つまり、「国民全員の対応が求められる」ものではないし、基幹放送の地デジでは4K/8K化の計画は現時点ではない。BS 4K/8K実用放送は、プレミアムなコンテンツを求める人のもので、ユーザーが必要無いと思えば対応する必要のないサービスだ。

 また、テレビの位置づけも変わり続けている。YouTubeや、Netflix、dTV、ひかりTV、Huluといったインターネット経由の映像配信サービスも広がりを見せており、BS/CSやCATVなどと同様、あるいはそれ以上の情報やコンテンツの伝送路として存在感を示している。テレビは、すでに“放送だけ”を見るものではなく、コンテンツを映すための大きなスクリーンになりつつある。

 BS 4K/8K実用放送は、官民協働で推進する重要なサービスではあるが、あくまで伝送路の一つの選択肢。もちろんBS 4K/8K実用放送が魅力的なサービスになることが期待されるし、東京オリンピックをマイルストーンに定めていることから、特にオリンピックやスポーツ関連の番組には強い伝送路になる可能性は高そうだ。ただ個人的には、2年先のまだ不明点が多いサービスに、あまり頭を悩ませてもしようがないと感じている。HDMI入力端子が、HDCP 2.2、4K/60pに対応していることだけが必須で、それ以上の対応策はなさそうだし、'16年現在流通している大手メーカー製4Kテレビはいずれも対応済みだ。

 NHKによる8Kパブリックビューイングなど、8K放送に触れる機会も今後増えそうだが、いまテレビを選ぶのであれば、BS 4K/8K実用放送対応より、好きな番組やコンテンツを楽しむための画質や操作性、配信サービス対応、そして価格のほうが重要な要素だろう。

臼田勤哉