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Genelec「新たな境地を切り開く」超弩級モニタースピーカー「8381A」を聴いた

「8381A」

ジェネレックジャパンは、Genelecの「新たな境地を切り開く」というメインモニタースピーカー、The Main Onesシリーズ「8381A」を発表した。カラーはブラックとホワイト。価格はオープンプライスで、実売は1台あたり300万円後半のイメージで、「400万円を切りたいと思っている」という。詳細は後述するが、スピーカー1台あたり、駆動用アンプ×2台がセットになっている。

The Main Onesシリーズ「8381A」

「これまでのメイン・モニターの常識を大きく変える、唯一無二の新製品」という。最大の特徴は、「Adaptive Point Source」デザインによる、「フリースタンディング設計」になっている事。

通常、収録スタジオに設置されるメインモニターは、壁の中に埋め込まれる。しかし、その場合はスピーカーの位置とリスニングポジションが固定されてしまうという難点がある。

それに対して8381Aは、ハイエンドなメインモニターながら、埋め込まずに好きな場所に設置できる、自由度の高いフリースタンディング設計になっている。

これに伴い、スピーカーとの距離が近距離から長距離まで、幅広いリスニング距離に対応可能。最短距離となる1mでは最大音圧レベル>126dB、10mでも>106dBを出力可能。

距離が近くなると、上部に搭載しているツイーターからの音がリスナーにダイレクトに届かなくなるが、8381Aのエンクロージャーは上下、2つの部分に分かれており、上のエンクロージャーを“お辞儀”させるように角度をつけられる。4度と8度に調整するためのウェッジが付属する。

幅広いリスニング距離に対応可能
上のエンクロージャーを“お辞儀”させるように角度をつけられ、調整するためのウェッジが付属する

ミキサー卓の後ろに8381Aを設置すると、機材でユニットが隠れてしまうことになるが、それを防ぐために、8381Aの位置を底上げするための高さ調整ブロック(30cm)もオプションで用意する。

高さ調整ブロックに乗せたところ
ミキサー卓の後ろに設置しても、ユニットが隠れないようにできる

GenelecのR&Dディレクターで、8381Aを手掛けたMäkivirta Aki氏は、「アクティブスピーカー・コンセプトや制御された指向性、統合された信号処理、ルーム・レスポンス補正やGLM、AutoCal、ポイントソースの理論など、我々が基礎として長年進化させてきた技術の結晶として存在するのが8381A」と説明。

さらに「距離が変わっても聴こえる音が変わらないという特徴があるため、部屋の特性を最大限に活かすところに設置できる。また、2台でステレオ使用するだけでなく、Dolby Atmos用など、イマーシブなシステム用に円形配置する時にも設置しやすい」と利点を解説する。

Mäkivirta Aki氏

前述のように、エンクロージャーが上下に分かれ、それぞれを個別のアンプで駆動する。駆動用のアンプ「RAM-81」が2台セットになっており、総出力は5,926W。各アンプはGenelec本社工場にて、組み合わせるキャビネットに合わせて個別に調整される。

右にあるのは駆動用のアンプ「RAM-81」
2台のRAM-81を、上下のエンクロージャーそれぞれに接続する

ユニットの構成は全体で5ウェイ。

上のエンクロージャーの上部には、ポイント・ソース理論を突き詰め、新たに自社工場で開発/設計した同軸ミッドレンジ/ツイーター「MDC(Minimum Diffraction Coaxial)」を搭載。中央に25mm径、スロート長13mmのコンプレッションツイーターを配置。そこに127mm(5インチ)のドライバーを組み合わせた同軸ユニットとなっている。

このMDCユニットの四隅を取り囲むように、4つのドーム型ミッドレンジドライバーを配置。「QMS」(Quad Midrange System)と名付けられたもので、127mm径のドーム型ミッドレンジを4基使用。150-250~500Hzまでを再生する。

ウェーブガイドの中央奥に同軸ミッドレンジ/ツイーター「MDC」が配置されている。その四隅にあるのが4つのドーム型ミッドレンジドライバー
4つのドーム型ミッドレンジドライバーを配置した「QMS」

ユニットを4基搭載している理由は、指向性を調整するため。指向性はドライバーユニットの口径で変化するが、ユニット自体の数が2つになると、その2つを配置する距離でも指向性は変化する。さらに4つになると、水平・垂直方向の指向性が制御できるようになり、四隅に配置した場合は、4機のユニットの中央に音像が作れるようになるという

中央の同軸ユニットを再生した時の音像に、QMSの4ユニットが再生した同軸が組み合わさるような再生となる。

さらに、中央の同軸ユニットと、4つのQMSの指向性をまとめて制御するためのウェーブガイド「DCW(Directivity Control Waveguide)」も装備。広帯域にわたって指向性を制御。音響軸内/外を問わず、フレットなレスポンスを実現。「部屋の残響がサウンドに与える影響を極限まで抑えた」という。

ウェーブガイド「DCW」

下のエンクロージャーの両側面にはダブル・ローウーファーを搭載。口径は381mm。20~50-130Hzまで再生する。2つのユニットを背中合わせに配置する事で、各ユニットの反動を補正。機械的な床振動を低減でき、クリーンな再生ができるという。筐体下部・後方にはバスレフポートを搭載する。

両側面にはダブル・ローウーファーを搭載

全体の外形寸法は500×694×1,458mm(幅×奥行き×高さ)。重量はエンクロージャー1、エンクロージャー2、どちらも75kg。アンプの「RAM-81」は1台あたり11kg。

「Smart Active Monitoring(SAM)」システムを使い、設置環境に合わせてスピーカーを最適化する「GLM」ソフトウェアに対応。何千ものスタジオでの測定データに裏付けられたキャリブレーション・アルゴリズム「AutoCal 2」と「WooferCal」により、「再生環境に依存しない、どこでも一貫したバランスで再生されるミックスを制作できる」という。

「GLM」ソフトウェア

室内音響における反射やモニター・セッティング、リスニング・ポジションの調整、ベース・マネージメントの最適化など、室内音響を分析し改善へ向けたアドバイスを提示する「GRADE(Genelec Roome Acoustic Data Evaluation)」レポートも可能。

設計から製造まで、すべての工程をフィンランド・イーサルミの湖畔にある本社工場で実施している

キングレコードのスタジオでサウンドを体験

発表会は、Genelecのメインモニターを最初に採用したスタジオの1つである、キングレコード関口台スタジオの「STUDIO 2」で実施。ミキサー卓に座り、短時間だが、8381Aのサウンドを体験した。

本格的なスタジオに設置されたメインモニターは、音圧・解像度のどちらも非常にクオリティが高く、1つ1つの音がパワフルに飛び出すと共に、細かな輪郭や情報まで聴き取れるものだが、それらと比べても、8381Aのサウンドはパワフルさ、解像度の面で確かな進化が感じられる。

Mäkivirta Aki氏の言葉通り「距離が変わっても聴こえる音が変わらない」のが特徴で、ミキサー卓から離れた、部屋の後ろの席に座って聴いたり、立って歩きながら聴いても、中高域のダイレクト感が変わらず、音のバランスもあまり変化しない。

また、音像のシャープさも特筆すべきレベルだ。これだけ巨大なスピーカーでは、どうしても音像が巨大になり過ぎる傾向があるが、8381Aは楽器やボーカルのサイズが必要以上に肥大化せず、輪郭も極めてシャープ。それらが前へ前へとパワフルにせり出してくるので、躍動感に溢れている。

これだけ大型のスピーカーにも関わらず、音像のシャープさや音場表現の豊かさは、ミキサー卓の上に設置した小型モニタースピーカーと聴き比べても遜色ないクオリティで驚愕した。

山崎健太郎